【2000年 4月10日 アラスカ州】
ナフトはメンテナンスを受けているすっかりと乗り慣れた
最初こそ戸惑ったが慣れてしまった今ではF-15Eの機動の方が違和感を感じるようになった。
ちなみにナフトは先ほど計画偽装用の戦術機であるF-15を動かしていたのだが、体に違和感が残っており、どこか気持ちが悪い。
追記だが偽装している計画はフェニックス計画と呼ばれるF-15の改修計画だ。
「あ、大尉お疲れ様でした」
話しかけてきたのはウルジアだった。ナフトは「いや」と答えながら視線を真上へと向ける。
今頃はこの計画を知らない一般の整備兵たちが機体の確認をきちんとしているところだろう。
「私も久々にF-15を動かせて改めて実感したよ」
ナフトは肩をすくめるとウルジアへと視線を向けて続ける。
「日本機の機動特性はピーキーだ」
断言して言った。
主機出力と機体特性との兼ね合いだけを見れば最悪の機体だ。全くと言っていいほど釣り合ってはいない。
しかしそこをカバーするのはナイフシースや頭部モジュールのセンサーマスト、四肢だ。
これらを動かすことによりわざわざ跳躍ユニットを動かさなくとも機動制御を行い、不釣り合いな主機出力と機体特性を違和感なく融合させる。
「……ちなみにF-15の方は?」
「あれは……いい機体だ。訓練校から上がったやつでもすぐに使えるぐらい衛士に素直に従う。しかし、だ。そうであるがゆえに特徴がない」
無理に言うのであれば特徴がないことが特徴、と言える。
尖った性能を持たずにバランス良く性能が纏まっている。だがそれは裏を返せば器用貧乏になっていると言える。
空力特性を日本機ほど重視しておらず跳躍ユニットでの力押しで機動制御を行う。
「直感的にあんな動きを簡単にして見せるんだ……日本人は化け物だよ……」
「ですが、大尉はF-15Eの頃から似たようなことはしていましたよね?」
「しては……いたが所詮は、そう、たしかサルマネと言ったか。そんなものさ。日本機はまさに日本人が乗るための機体だよ」
「その言い方では〜あなたはこの計画から降りるとい言う風にきこえますよ〜」
間延びした声に反射的に振り返るとそこには冬夜がいた。
ウルジアとナフトは敬礼しようとしたが彼の手で制す。
「あなたはアメリカ人でありながら〜、YF-23PWを使いこなしている。そんなあなたに今降りられては困りますね〜」
「降りませんよ。私の修正案に目を通していただけましたでしょう?」
降りる気はない、という証明がそれだとでも言うようなナフトの問いに冬夜は嬉しそうな表情を浮かべながら頷いた。
「ええ!もちろん見ましたよ〜。アレは良い案です。早速取り入れてみますよ〜。今回のメンテナンスではその改修も含めてますから〜」
「それは良かった」
「大尉、いつのまに……」
そう言うウルジアに「あなたも見ますか〜?」と言いながら冬夜はナフトの修正案が描かれた資料を渡す。
それを受け取り中を読み始め、しばらくすると唸り声をあげた。
「……すごいですね。これなら10%は機動力を上げられますよ」
確かにこんなものを提出する者が降りるわけがない。
ウルジアは礼を言いながら冬夜へと資料を返す。
受け取った冬夜は資料を楽しそうに捲りながら呟く。
「いや〜、楽しみですね〜」
「ですね……私も早く見て見たいです」
冬夜とウルジアは2人揃ってプレゼントに心を躍らせるように表情を明るくさせながらウンウンと頷いた。
「ああ、そうそう、新型機の組み上げは来年の5月になる予定です〜」
「来年の5月……」
「随分と時間を開けますね……」
ナフトとウルジアの言葉に冬夜はどこか申し訳なさそうに言う。
「日本の方でXFJ計画という日米共同の戦術機開発計画が決まりまして……今の計画はそれの第2計画として進めることになったんですよ」
確かにこの新型機開発も日米が関わっているため偽装する計画には丁度いい。
組み上げはそのXFJ計画始動後にすれば怪しまれることも少なく済むだろうという考えからその時期に合わせて本体の組み上げを行うようだ。
「それまでは
「そうなりますね〜。そういうわけでハリボテではなくナイフシース等の設置も検討中です〜。どうなるかはまだわかりませんけど〜」
「フレームや主機の方はどうするんですか?」
聞いたナフトにウルジアも同じ疑問を持っていたらしく頷く。
外装は流用が多いため構わないだろうが内部はほとんどが別物となっている。
特に跳躍ユニットの方は可変翼機構などを取り入れていたりと複雑化している。
そんな2人の疑問に冬夜は肩をすくめながら答えた。
「来年の5月までは無理ですね〜。その辺は第1計画の機材に紛れ込ませて運びますから〜」
それは2人が予想していた通りだった。
相当に厳重な情報規制が敷かれているこの計画でバレバレの機材搬入などするわけがない。
今ある物も全てフェニックス計画の物と一緒に運んできてきたものだ。時間はかかるがそれほどまで慎重に進めたいのだろう。
「了解。可能な限りこいつでデータを取れと言うことですよね?」
頷く冬夜から視線をYF-23PWへと変える。
思い描き重ねるのは新たな姿、圧倒的な性能を持つ新たな戦術機だ。
◇◇◇
【2001年 5月7日 アラスカ州】
ナフトは声を上げることすらも忘れてハンガーに固定されている戦術機を見つめる。
「ふっふっふ〜、これが世界最強の戦術機。Type-XM3-00T
ただ一言美しいと思った。それでいながらどこか力強さも感じる。
所々にベースとなった機体の面影は残っている。
頭部や足先、手先は武御雷に、腕や脚部は不知火、胴と跳躍ユニットはYF-23PWとパーツ単位で見るとまるでバラバラだが全体的にみてしまえば気にならない。
むしろその微妙なデザインのズレはこの機体にとっては美しい調和の形としてなっている。
「……すごい、な」
「君が〜作ったんですよ〜」
冬夜のそれはいつものように間延びしたおっとりゆったりとした言い方だ。
しかしいつものその言い方だからこそ彼が自分を賞賛しているのだとわかる。
「こいつ……アマツルギの試験はいつ?」
視線を天剣へと向けたまま急かすようにナフトは聞いた。
それに答えたのはウルジアだった。
「現在最終チェック中です。予定では明日までかかりますので……明後日ですね」
「明後日……か」
ナフトは起動試験を待ちわびるように呟いた。その言葉は当然ながら2人にも聞こえている。
「シミュレータにはデータを入れてるから〜、いつでもできるよ〜」
その冬夜の言葉にハッと我に帰ったナフトは2人の方を向いた。
2人はナフトの反応を楽しんでいたらしくニヤニヤと笑みを浮かべている。
「ッッ!わ、私はシミュレータを使う。こいつの機動特性を確認しておきたい」
言うとナフトは顔を赤くしながら歩き格納庫から去った。
ハンガーに固定されている天剣へとチラチラと視線が向かっているのが尚更微笑ましく彼らには見えたがナフトにはその自覚はないだろう。
「嬉しそうでしたね……大尉」
「ええ〜それはそうでしょう〜。なにせ自分が丹精込めて作り上げたのですから〜、嬉しさもひとしおと言ったところでしょうね〜」
2人は視線をナフトの背中から天剣へと変える。
(はてさて、彼女主導のこの機体で世界がどう変わるのか……)
冬夜は人知れず口を釣り上げたがすぐにいつもの表情へと変えて言う。
「いや〜、楽しみですね〜」
「ええ!明後日の試験のために私たちもセッティングを終わらせてみせますよ」
ウルジアは言うと駆け足で天剣の方へと戻って行った。
「さて……と、私も報告を入れてきますかね〜」
そう呟くと冬夜もハンガーから出て自室へと向かった。