【2000年 5月9日 アラスカ州】
早朝、日がようやく登り始めた頃。
ユーコン基地にある荒野のような試験場に1機の戦術機が立っていた。
全身を白と灰色で彩り、大きさは通常の戦術機よりも一回りほど大きい。
付け加えるとこの機体は至る所にブレードを持つ。
膝装甲ブロック内には大型マチェット、前腕には隠し短刀、ナイフシース内に短刀。胴体脇にもナイフシース。
それに加えて全身のエッジ部分はその全てがスーパーカーボン製ブレードだ。
基本装備だけでもこのブレードの数。
しかしそれは駆る者の異名、ソードマンにはちょうどいい数も言える。
ナフトは高揚する気分を押さえつけるように操縦桿を握りしめた。
管制ユニットにいるとどうしてもあの日のこと、明星作戦の記憶が蘇る。
ひしめくBETA、天へと伸びる光線、崩れる戦術機、最後に言われた言葉。
あれから前線に立ち続けようとしていた。しかし米国に使い潰されるのは嫌だった。
だから国連へと移ったというのに結局はこんなところでテストパイロットをしている。
それが良いのか悪いのかは彼にはよくわからない。ただ、そのことを考えたくなかったからテストパイロットの仕事に集中していた。
人類のため、などと言われても彼には実感できない。できるほど彼は多くのことを知っているわけでも経験しているわけでもないからだ。
何のために軍に入り、なぜ戦うのか。それをもう一度己に問う。
しかし答えは出ない。だが、だからといってそのまま放っておいて良い問題ではない。
『大尉、機体の方は問題ありませんか?』
「ああ、問題ない」
『了解。現在機器の調整中です。少し手こずっていますのでもうしばらくお待ち下さい』
「了解。待機を継続する」
ウルジアとの会話を終えて思考の海へとナフトは戻る。
なぜ軍に入ったのか。それはよくわからない。
同じ訓練校に通っていたあの日系アメリカ人。彼には明確な目的があったようだが。
(確か……テストパイロットになって認めさせる、だったか……)
彼はかなりの実力を持っていた。理由は不明だがかなりの反日家ではあったが技術は本物。
性格はどうであれ彼ほどの実力者であればテストパイロットになれているだろう。
ナフトは息を吐き、ゆっくりとシートに体重をかけて自問を続ける。
なぜ戦うのか。それもよくわからない。
少なくとも何かを守りたいから戦っているのではない。助けたいものがあるから戦っているのではない。
(シルヴィ……)
いや、ないのではない。失ったのだ。あの日、あの場所で、目の前で、自分の手で。
操縦桿に巻きつけてあるドッグタグを見つめる。少し汚れてきてはいるがまだまだ掘られている文字ははっきりと読める。
もし、とどうしても考えてしまう。
もし彼女が今も隣にいたら自分はこの自問の答えを出せていたのではないか?と、今のように悩んでいたわずかな期間を笑いながら彼女に話していたのではないかと。
そして、その話を聞いて彼女はどんな反応を返してくれるのだろうか、と……。
(女々しいな……私らしくもない)
ナフトはフッと自虐の笑みを浮かべる。
静寂だといつもこうだ。ずっと考え込んでしまう。
その静寂は一つの通信によって終わりを告げた。
『大尉。お待たせしました。機材の準備終わりました』
「了解した」
『今回は
その通信とともにその飛行エリアが表示される。
普通ならそこそこの広さだなと感じられるがこの天剣には少し狭いような気がする。
こいつはそんなエリアだけでは足りないと確信できる。
少々不服ではあったが素直に了解と言葉を返す。
(さぁ……行こうか)
ゆっくりと息を吐き少し前のめりして前方を見据える。
「Type-XM3-00T
その言葉ともに天剣の跳躍ユニットに火が付く。
それは次第に大きくなりロケットエンジンの音を辺りに響かせる。
(さぁ、行こうか!)
轟音を響かせてその名の通りに体のいたるところに
––––彼は答えを求めて戦場に立ち続ける。
それは償いではない。誰かのためなどではない。
しかし、自分のためだからこそ彼は自分が満足できるものにたどり着くまで答えを探し続ける。
その過程で彼は自ずと様々な人に出会うことになる。
それによって彼が答えを見つけられるのかはまだ誰にもわからない。
〜fin〜