ソードマンと呼ばれた者について   作:諸葛ナイト

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帝都防衛

【1998年 8月5日 京都】

 

「よし……タイミング合わせろよ……」

 

 エヴァリスの声に合わせ“7機”のF-15Eストライクイーグルが両手に突撃砲を構え、前を見据える。

 その先にはBETA群の尖兵である突撃(デストロイヤー)級の群れが猛然と進んでいた。

 

「3……2……1……0!!」

 

 0のタイミングと同時に全ての突撃砲から120㎜滑腔砲が放たれた。数発は突撃級の甲殻に弾かれたがほとんどは足に命中している。

 かなりの速度で走っていたため足を吹き飛ばされた突撃級は勢いはそのままに地面をえぐりながら止まった。

 それにより後続の突撃級、さらに要撃(グラップラー)級や小型種も動きを止め、進行が鈍る。

 

 BETAの群れを止めたアーリードッグ中隊の上空を12機のF-14トムキャットが飛ぶ。

 光線属種はすでに日本帝国軍が行った光線級吶喊により殲滅済みであるため撃ち落とされることはない。

 

 そのF-14の両肩にはミサイルコンテナが積まれている。

 全機ほぼ同じタイミングでそのコンテナからフェニックスミサイルと呼ばれるものを放った。

 

 フェニックスミサイルは大型のクラスターミサイルだ。放たれたミサイルはその名の通り爆散しBETAへと降り注ぎ、その大半を潰した。

 それを確認するとトムキャットの部隊はそのまま戦線を離脱、ミサイルの補給へと戻る。

 

 さらにここからは彼らアーリードッグ中隊や国連軍部隊と連携して叩く。

 

「ドッグ3、11は私に続き前衛で残党を狩る。残りは援護を!ドッグ2指示は任せる」

 

「「「了解」」」

 

 名を挙げられたものたちはそれぞれ答え行動を始めた。

 

 ナフトの駆るF-15Eは右手の突撃砲を捨て、背中の兵装担架から長刀を装備、一気に跳躍ユニットを吹かし前に出る。

 

 彼の前にいるのは2体の要撃級、1体は36㎜チェーンガンで足止め、その間に別の1体へ一息に近づく。

 

(要撃級の特徴は両腕の甲殻を使った広範囲の攻撃、だが!!)

 

 要撃級の腕が振られる前に斬りかかった。それは的確に胴を捉え、血が吹き上がる。しかしそれでは殺すまではできていない。

 すぐさま切った部分に銃口を突きつけ36㎜を叩き込みトドメを刺した。

 

 しかしその間に別の1体はナフトへと迫っていた。その要撃級は攻撃を加えようと腕を振るう。

 その瞬間、F-15Eは地面を蹴ると同時に跳躍ユニットをほんのわずかに吹かし攻撃をかわした。

 

 そのまま要撃級の上を通過しながら体を捻らせ長刀を振るう。

 空中であるためバランスが悪く力も上手く加わっていないため傷は浅い。

 

 それをすぐに判断するとその要撃級の背後に着地と同時に滑腔砲を2発叩き込んだ。

 

 今度こそ息が耐えたのを横目で確認しながらリロード、別のBETAへと迫る。

 

「……あんな動きが、できるのか。こいつ(ストライクイーグル)は」

 

 エヴァリスは突撃砲をリロードしながらナフトの機体の動きを見ていた。

 

 京都付近が主戦場になってから10日。

 人類側は一時的に兵庫県まで前線を押し上げることに成功したが突発的な増援により再び京都付近へと押されることになった。

 

 全ての軍は少しずつ戦力の消耗が増え続けている。だが、彼らのその防衛戦のおかげでどうにかBETAの進行を京都で押しとどめていた。

 

 そして、その間にアーリードッグ中隊の隊員が1人死んだ。

 

 他の中隊の戦力もかなり損耗しているため部隊員の増員はない。7機でどうにか連携を回して維持できている。

 それを維持できていることに一躍買っているのがナフトだった。

 

 彼は1人で前衛2人分と同じ働きをしている。

 ナフトだけに多大な負担を背負わせることに気後れするが今はただ任せるしかない。

 

「チッ、またあいつがトップかよ……」

 

「俺たちが撃ったやつだけ狙いやがって……」

 

 そんな状況であってもナフトへの侮蔑の言葉は消えていなかった。だが、それを止めることはエヴァリスには出来ない。

 

 他の者たちも不安なのだ。

 死の恐怖を何かで紛らわせなければ壊れてしまうかもしれない。それを無意識下に感じるほどに。

 

 ナフトのF-15Eへと戦車級5体が飛びかかる。

 2体は突撃砲で撃ち、2体は長刀を一振り、剣を振り抜いた勢いそのままで機体をそらせ、残りの1体の攻撃をかわす。

 その戦車級が地面に着地した瞬間、長刀で突き刺した。

 

 ナフトはさらに別の個体へとターゲットを変え切り裂いていく。

 

 

 戦闘エリアのBETAが殲滅されたのは10分後だった。

 その間ナフトはアーリードッグ中隊へと向かうBETA群を途中から短刀と長刀のみで大半を潰していた。

 

◇◇◇

 

【同年 同月同日 滋賀県】

 

 滋賀県、琵琶湖近くの仮設在日米軍基地。その滑走路へとアーリードッグ中隊のF-15Eたちが着地していく。

 

 2機のF-15Eは片腕を失ってはいたが目立った損傷はその程度だ。

 

「おい!すぐに洗浄準備だ!11番機はすぐにやれ。いつもどおりかなり時間がかかるはずだからな!!」

 

 戻ってきた機体たち、特にナフトのBETAの返り血で赤黒く汚れた機体を見るや否や整備班長が叫んだ。

 

 米軍所属の衛士は基本的にBETAとの近接戦闘はしない。そのためここまで汚れることは珍しいが今では全ての整備兵が慣れてしまっている。

 

 

 

「はぁ……」

 

 自分のF-15Eを着陸させるとナフトは今回も生きていることを確認すると重く息を吐いた。

 そのあとウィンドウを開き、中隊全機とのデータリンクができていることを確認した。

 

(今回は……誰も死ななかったな……)

 

 そんなことをどこか他人事のように思いながらそれを閉じ、別のウインドウを開く。

 

 そこにはBETAの殲滅数が表示されている。表示されている数字は273。他の部隊員と比べると2倍から3倍の数だが彼にとってはいつもとあまり変わらない数字だ。

 

 そのウインドウも閉じたタイミングで通信が入ってきた。

 機体の洗浄を行うため専用の格納庫へ行けという指示だった。

 

 いつも機体の損傷はほとんどない代わりにかなり汚してくるため整備兵たちに少し申し訳なく思いながらナフトは自機を歩かせ指定された場所へ向かう。

 

◇◇◇

 

 ナフトは強化装備姿のまま洗浄されているF-15Eを意識半ばで見ていた。

 渡された紙コップに入れられたコーヒーを飲む。

 

 本物のコーヒーを飲んだことがある者は口を揃えて「まずい」と言うが彼にとってコーヒーといえばこの味だ。

 例えそれが合成された擬きであるとしても。

 

「お疲れ様だな。ナフト少尉」

 

 そんな彼に声をかけたのは40代後半の男性だった。ガタイが良く声も大きくよく響く。

 

「……整備班長」

 

「あいかわらずのトップキルだな。さすがはジャップマニアと言うべきか……」

 

 整備班長が言うジャップマニアは侮蔑の色を感じない。本当に賞賛の意味で使っているのだろう。

 そう言う呼ばれ方をされればこそばゆくはあるが悪くは思わない。

 

「ありがとうございます」

 

 そのため、少し気恥ずかしくはあるが素直に礼を言える。

 

 その後は少しの間があいた。

 横目で見るとどうやら彼は何かを言おうとしているらしい。だが何かが邪魔をしているようだった。

 しかし意を決したように少し表情をきつくさせて聞く。

 

「……そんでよ。少し気になったんだが、お前さんなんでBETAと戦ってるんだ?」

 

 その質問にナフトは少し拍子抜けしてしまった。まさかそんな事を聞くことに躊躇っていたとは思ってもいなかった。

 

「なんでって、そりゃ……」

 

 即答しようと口を開いたがすぐに言葉に詰まってしまった。

 

「……あ、れ?」

 

 よく思い出してみるがこれと言った理由が浮かばない。

 軍に志願した時に「国のため、家族のため」とは言ったがあんなものは方便だ。少しも、とは言わないがそれが第一の理由ではない。それは確信して言える。

 

 では、なんのためだろうか。

 

 家族のためだろうか。

 両親はまだ生きている。ある時から疎遠になってしまっている。だが死んだと言う話は聞いていない。

 

 大切な友人のためだろうか。

 いや、大切と呼べるほどの者はいない。友人はいたがほとんどは実戦に出て死んだ。何人かはテストパイロットをしているが彼らのためではない。

 そもそもそんな者たちは自分で自分を守れる。そこで死ねばそれまでだ。

 

 彼女のため?

 論外だ。そもそも彼女などいない。

 付き合ったことはありはするが今はフリーだ。

 

(なら、なら俺は……なんで戦っているんだ?)

 

 ナフトには確かに軍に進む以外の道もあった。だと言うのに彼は今その道全てを蹴って軍にいる。

 それには理由があるはずだ。なのに、何も浮かんでこない。

 

 そんなナフトを見て整備班長は「やはりな」とでも言いたげな視線で彼を見ていた。そこには慈悲のようなそんなものを感じる。

 

「お前さんの動きは確かにすごい。正直、なんでこんなところにいるんだ?本当に18か?って聴きたくなるレベルでな」

 

 そうやって褒めていたが一転、どこか物悲しげな表情へと変え、言葉を続ける。

 

「だが、時々焦りみたいなのを感じるんだよ……お前さんは戦闘のセンスは抜群だ。それに加えて頭も良いときた。正に戦うために産まれたって言っても良いぐらいの才能がある……しかしな、なにも戦うことだけが生き方じゃない」

 

 整備班長の言葉をコーヒーを眺めながら静かに聞く。

 

「焦るな。もう少し周りを見てみろ。そうすれば何か分かるかもしれん……」

 

 ちょうどその話が終わった頃だった。

 彼らの目の前のF-15Eに付いていたBETAの血は綺麗に洗い流されており残ったのは浅い傷が様々なところになる機体だった。

 

「迷った時には気分転換をお勧めするぜ」

 

 班長は言うと整備作業に戻るためにナフトの元から去った。

 

「……焦り、か」

 

 ナフトは残ったコーヒーを一気に飲み干すと着替えるためにロッカールームへと向かう。

 

 戦う理由、軍に入った理由。それを自分自身に問いながら彼は基地通路を歩き始めた。

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