ソードマンと呼ばれた者について   作:諸葛ナイト

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帝都陥落(上)

【1998年 8月10日 京都】

 

 その日、京都は再び戦場と化した。

 

 これまで通り、京都の前面で防衛線を張っていたがその防衛線の後方からBETA群が姿を現したのだ。

 それもそれが本隊と言うべきほどの数だった。

 当初は空爆を敢行しようとしていたが後方に光線属種を確認できたため中止、光線級吶喊の部隊を選別している頃だろう。

 

 ともかくとしてそんな数を不意打ちで食らってしまっては当然ながらまともな連携など取れるわけもなく防衛線は瓦解、文字通りBETAに食い破られた。

 

 ほとんどの部隊は東進していたBETA群と後方から現れたその本隊との挟み撃ちで壊滅。

 かろうじて残った部隊同士が合流、急遽連携体制をとってはいるが焼け石に水状態だ。

 

 そして、それは彼らアーリードッグ中隊もだ。

 元々数が少なかった中隊は不意打ちで1機が落とされ、6機となり最低限の連携すら取れなくなった。

 

 たまたま近くにいた8機編成の国連部隊と合流し、BETAの迎撃を行なってはいるがこのままではいつ潰されるか分かったものではない。

 

 ナフトはレーダーを一瞥すると奥歯を噛み締め、レバーを握る手に力を入れる。

 

(このままだと、いつ破られるか……!)

 

「ドッグ1!このままだと俺たちも食われる!」

 

「ドッグ6の言う通りだ。火力を一点に集中して包囲を突破。その後再び陣形を組み直しての迎撃を進言する!」

 

 部隊員は簡単に言うがレーダーを見ればわかるがBETAの包囲はかなりの数でされている。

 これを突破するのは容易ではないことなど誰にでもわかる。

 

 少なくとも最初に突入した者には特に相当な負担を与える。下手をすれば死ぬ可能性もあった。

 しかし、このままここで迎撃していても火力を集中させることが出来ず、いずれ全員が仲良くBETAに食われることだろう。

 

 ならば、取る行動は一つだ。

 

「こちらドッグ11。私も彼らの作戦に賛同します」

 

「……貴官が先頭を行くことになってもか?」

 

「はい。ドッグ1もわかっているはずです。このままではいずれ全員が死ぬ。ならば、動くべきです」

 

「何か案がある、と?」

 

 その問いにナフト頷いた。すぐにレーダーの表示範囲を広げ、それをデータリンクで全機に流す。

 

 青い光点が味方、緑は自分、そしてその周りを取り囲むように赤い光点が無数にあった。

 しかしどこも包囲は厚く突破は難しいだろう。

 

 そんな者たちの考えや思いを読んでナフトは言う。

 

「当然突破は容易ではありません。ですが包囲が厚いのならば薄くすれば良いだけです。

 そこで、まずは私の機体から見て5時と7時方向にいる大型種の足を撃ちます。そうすれば小型種は抜けてくるでしょうが自ずと大型種は分散します。

 その分散したBETA群を迎撃、タイミングを合わせ、6時方向から一気に抜けます。その時に優先するのは小型種です」

 

 そこまで言ったところで国連軍衛士が手を挙げた。ナフトが視線でそれを許すと質問が飛んだ。

 

「待て、なぜだ?ここは大型種ではないのか?」

 

「いえ、大型種を倒してしまえばBETA群全体の進行自体が鈍ります。可能な限りBETAの広がりを横ではなく縦にしたいのでそれは避けます。小型種はある程度ふさがれても跳んでくるなどの行動をして戦術機機動の邪魔が入る可能性がありますので、優先して殲滅します」

 

「……了解した。質問を挟んですまない」

 

「では、続けます。このプランの注意点はBETA群が早く横に広がり出した場合です。この時は6時方向に近い大型種のみを倒してください」

 

 中隊衛士と国連衛士たち全員がナフトの計画を察し、息を飲んだ。

 そのことを彼は各々の表情から読み取り、肯定する幼稚頷く。

 

「はい。BETAを壁にした道を作ります」

 

 6時方向にいるBETA群を足止めすれば自ずとその集団は分散する。特にそれに近い5時と7時方向は密度が高くなることだろう。

 そしてそれは6時方向のBETA集団の密度が他の場所よりも低くなることを意味する。

 そうすれば少なくとも今すぐに突入するよりは被害は減らせるかもしれない。

 

 それは集団の密度が低いところがないのならば自分たちで作ってしまえばいいという発想から生まれたものだった。

 

 だが、それにはある問題がある。

 

 その問題点も当然ナフトは考えていた。

 

「その際、先頭は光線級吶喊時のように安全なルートを選べる判断力が必要となります。そして可能であればこれは2機。後方は最低3機必要です。この3機で後方から追ってくるBETA集団の大多数を足止めします。私の作戦は以上です」

 

 ナフトは一息に言い切ると肩の力を抜いた。

 

 中隊長であるエヴァリスと国連部隊の中隊長は悩んでいたが互いに目を合わせて頷いた。

 

「そのプランで行こう」

 

「ああ、私も反対しない」

 

 2人とも反対意見、代替え案はないようだ。

 となればこの作戦でBETAの包囲網から抜けることになる。あと決めることは先頭を行く2機と後方に残り足止めをする3機。

 

 連携を考えるのならばそれぞれ同じ部隊員で揃えるべきだ。

 

「……では、私とドッグ6、ドッグ11が後方を担当しよう」

 

「了解した。では、先頭は我々が努めよう」

 

 役割はすぐに決められた。ならばあとは動くだけだ。

 

 バラバラに撃っていた機体たちが一斉に6時の方向を向いた。

 タイミングを合わせるようにカウントダウンを開始、0になったタイミングでエヴァリスと国連部隊中隊長の2人が叫んだ。

 

「「撃てぇええ!!!」」

 

 その咆哮と同時に辺りに滑腔砲が発射された音が響き渡る。

 放たれた120㎜弾は大型種に穴を開け、集団の動きを封じ込めた。

 

 その直後にレーダへと視線を移し、赤い光点たちを見つめる。

 

(……きたッ)

 

 その光点たちはナフトが狙った通りの動きを始めた。

 突撃級、要撃級の大型種は進む方向を変え、5時か7時の方向へと流れ始めたのだ。

 

 その新たに入ってきたBETAに押されるように元々そこにいた集団は広く広がり出した。

 足止めをしたBETA集団の前に新たな壁が生まれる。その前に6時方向に近い大型種の足を打ち抜き、動きを止めた。

 

 広がるその動きは予想よりも早く壁を完全に作る余裕はない。

 

「時間はない。このまま進め!」

 

「了解した。全機!俺のケツを追ってこい!!」

 

 言うと国連部隊中隊長の青いF-15Eは匍匐飛行を始めた。

 その後を追うように他の機体たちも匍匐飛行を開始、多少は密度が低くBETA集団の中に突入していく。

 

 そして、残ったのはアーリードッグ中隊のF-15E3機。

 

「ドッグ11。彼らが戻ってくるのはどれほどの時間を要するかわかるか?」

 

「……10分前後でしょう。増援が出されたようですので少し減るかもしれませんが、少なくともそれぐらいはかかると思います」

 

「3機で10分……この数を、か」

 

 ドッグ6が苦言を漏らす。

 それはそうだ。これから約十分という長い間、3000を超えるBETA相手に耐え続ける必要があるのだ。

 

 どう頑張ろうとも弱音の一つや二つはどうしても漏れてしまう。

 

 そんな絶体絶命な状況だというのにナフトの声はいつも通りだった。

 なんの変化もない、いつもの声で彼は2人に言う。

 

「私が6時方向のBETA集団に突っ込みます。2人は12時方向を、余裕があれば援護をお願いします」

 

「は、はぁ!?お前何言ってんだ!その方向だけでも1,000を超えてる!それをたった1機で抑えるなんて、不可能だ!」

 

「やります。そうでなければ生き残れません」

 

 淡々ときっぱりと言い切った。

 そして、その「生き残れない」と言う言葉に2人は息を飲んだ。

 

 彼らは元々ここに残る時点で死ぬ覚悟だった。しんがりを務め、残るとはつまりはその者たちを切り捨てることだ。

 エヴァリスが先行を国連軍部隊にしたのは米国への責任を問われないようにするためだった。

 

 そのはずなのにナフトはまだ生きることを諦めてはいない。

 彼の声はいつもどおりの冷静そのものだがその目はまだ諦めは写っていない。

 

(すまない。君と彼は同じではない。君はおそらく……)

 

 彼のあることにようやく合点がいった彼は一瞬表情を緩めたがすぐに真剣なものへと戻し言う。

 

「了解した。しかし、私たちでは君を援護することはできないかもしれないが、構わないな?」

 

「はい。構いません」

 

「……ドッグ6行くぞ。一人頭1,000だ。3割は減らすぞ」

 

「は、え?りょ、了解」

 

 2機のF-15Eは方向転換、両手の突撃砲をリロード、背中にある兵装担架のサブアームも展開し、さらに突撃砲2門を構える。

 

 反対にナフトのF-15Eは右手の突撃砲を放り捨てると同時に右側の兵装担架を展開、そこに保持されていた長刀を握り取った。

 

 それぞれの前にはBETA集団が猛然と突き進んでいる。それぞれが相手にするのは最低でも1,000という膨大な数。

 

 エヴァリスとドッグ6の機体は4門の突撃砲による射撃を開始、ナフトの機体は跳躍ユニットを吹かした。

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