ソードマンと呼ばれた者について   作:諸葛ナイト

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明星見える前(下)

【1999年 2月11日 カリフォルニア州】

 

 荒野の戦場を2機のF-15Eストライクイーグルが飛ぶ。

 どちらの機体も両手に突撃砲を持ち、2つの兵装担架にはそれぞれ長刀が装備されている。

 

『アーリスト中尉!止まってください!』

 

「そう言って素直に止まる奴があるか。まずは追いついてみせろ。エルヴィア少尉」

 

 ナフトの駆るF-15Eが狙いを定めさせないように蛇行しながら飛び、その後ろをシルヴィが駆る機体が追う。

 

 先頭を行くナフトのF-15Eは蛇行をやめ、すぐさま跳躍ユニットを前方に向けると一気に吹かし、バックしてきた。

 当然その進路にはシルヴィ機がある。

 

『え?きゃッ!?』

 

 反射的にシルヴィは機体を下降させ、ぶつかることを防ぐ。

 それによりナフトはなんの苦労もなくシルヴィ機の上を取ることに成功した。

 

『な、なんですかぁ!それぇ!!』

 

「これで、終わりだな」

 

 ナフト機が突撃砲の砲門を構える。そのままトリガーが引かれる直前だった。

 

『ッッ!!まだぁ!!』

 

 先程降下したシルヴィ機が跳躍ユニットを吹かし急上昇、そのままナフト機へと向かう。完全に激突コースだ。

 

「なっ!!?」

 

 あまりにも無謀すぎるその行動にナフトは驚きながらもすぐさま後退、すれすれのところで激突をかわす。

 シルヴィ機がそのままナフト機の上空をとった。

 

「……エルヴィア少尉!」

 

『中尉も言ってたじゃないですか。重要なことは真似ることだって』

 

 言いながらシルヴィは口をつり上げる。

 先ほどの動きはついさっきしたナフトの動きを真似、応用したものだ。

 

 彼女が中隊に配属されて3ヶ月。ナフトが本格的に彼女に戦術機の動きを教え始めて今日で1ヶ月。

 ナフトはシルヴィの強みを実感していた。

 

 いつもの抜けたところが嘘かのように衛士としての腕は一流だった。特に技術の吸収能力が普通の衛士の桁違いだ。

 先ほどのように少し前に見た動きを平気で真似る。その度胸、そしてそれを成し遂げられる天賦の技術。

 

 ここまで教え甲斐があるとナフトも教えることに身が入り、自ずと教えるつもりがなかったことまで教えるようになっている。

 そしてそれを簡単に覚え、さらにそれを越えるためにナフトも新たな動きを行う。

 

 それの繰り返しが特にこの一週間は続いていた。

 

(もしかしたら……少尉なら俺の、本当のエレメントに……)

 

 ナフトは無意識にニヤリと口をつり上げる。

 彼とまともに組めた者はいない。エレメントを組むときは必ずと言っていいほどナフトが相手に合わせていた。

 

 理由は単純にナフトの機動を誰も予測できないからだ。

 長刀をメインとした戦い方に米国の衛士がまともに対応できない、というのは彼自身もわかってはいる。そのために彼の方から動きをわかりやすくしていた。

 

 しかしシルヴィはどうだろうか?

 ナフトの教えたことを難なく吸収し、応用までもしてみせる彼女となら本当に自分の力をフルに使ってもついてこれるかもしれない。

 いや、確実について来る。

 

 ナフトが部下の成長を喜び、期待を込める中でシルヴィ機が降下しながら突撃砲を構えた。

 

『今度こそ!』

 

「悪いが、まだやらせるわけにはいかない!」

 

 ナフト機はそのまま直進、その後をシルヴィ機が追いかける。

 

『くっ!』

 

 焦りからかシルヴィは狙いを付けられていないというのにもかかわらず36㎜を放つ。

 しかし当然ながら1発も当たることはなく、ナフト機は一気に距離を離した。

 

 少し進みナフト機は四肢を広げ、跳躍ユニットの噴射口を前に向けて急ブレーキ。

 

『ッッ!!?』

 

 先ほどのこともありシルヴィ機は一瞬動きを止めた。

 しかし、それをすぐに失策と悟る。

 

 そんな姿を見るやいなやナフト機は真後ろを向き、突撃砲をシルヴィ機へと向け、ロックオン。

 

『しまっ!』

 

「相手の動作で見切れと言ったはずだ!少尉!!」

 

 36㎜を容赦なく放った。

 シルヴィはすぐさま持っていた突撃砲を投げ捨て、急後進。

 投げ捨てられた二丁の突撃砲は爆発。機体の装甲にも弾丸がわずかにかするがどうにか戦闘機動に支障はないレベルで抑えられた。

 

『はぁ、はぁ、はぁ……ず、ずるくないですか?中尉……』

 

「手加減をしては少尉に失礼だろ?それに、かわせたじゃないか」

 

『かわせたからいいって問題じゃ––––』

 

 シルヴィ機は長刀を装備しながら前進、狙いを定めさせないように蛇行しながら近づくと両手でそれを掲げる。

 

『––––ないです!!』

 

 ナフトが狙いを付けるよりも早く、シルヴィ機は長刀を振り下ろした。

 ナフト機が右手に持っていた突撃砲はその一太刀を受け爆発、それに巻き込まれないようにそれぞれが間を開け、そこに爆煙が広がる。

 

(ここで下がっても撃たれるだけ……なら!!)

 

 シルヴィ機は迷わず爆煙の中に突っ込んだ。

 

「やはり肝は座ってる。だが!!」

 

 爆煙の中へと入ったシルヴィ機へと一閃が走る。

 

『ッッ!!』

 

 とっさに長刀で防ぐが反射的な動きだったためか姿勢が悪く吹き飛ばされてしまった。

 

「だが、せめて外から回り込んで来るべきだったな」

 

 爆煙が晴れたそこには左手に突撃砲を持ち、右手に長刀を装備したナフト機があった。

 それを見てシルヴィは奥歯を噛みしめる。

 

 まだ長刀を使った近接戦闘ではナフトに及ばない。

 しかも彼の機体の左手にはまだ突撃砲が残っている。あれをどうにかしなければ一方的にやられる。

 

「さぁ、行くぞ」

 

『ッッ!!』

 

 ナフト機がまず行ったのは36㎜による牽制。

 防ぐ手立てがないシルヴィ機がはそれをかわすように上昇、しかし当然ながらその動きはナフトの予測通りだ。

 

 シルヴィ機を追うようにナフト機は急上昇、下から長刀で切り上げる。

 それを長刀の横薙ぎで防ぐ。

 

 両手でしっかりと握っている分同じ機体でもわずかにシルヴィ機が押せている。だが、ナフト機は左手に突撃砲を持っている。

 その銃口が管制ユニットへと向けられた。

 

「ッッ!!?」

 

(このままじゃ負ける……いや、まだ!!」

 

 一瞬息を飲むがすぐに判断を下す。一か八かの賭けだ。

 

 長刀を翻すように扱いナフト機が持っていた長刀を弾き飛ばした。成功はしたが完全とは言えず自機が持っていた長刀も一緒に飛んでいったが構う必要はない。

 

「何ッ!?」

 

 まだ突撃砲は自機の方を向いたままだ。

 トリガーを引かれる前に膝装甲ブロックから短刀を取り出し突き出した。

 それは狙い通り突撃砲に突き刺さる。爆発こそしなかったが砲門が完全にひしゃげもはや使い物にはならないだろう。

 

 しかしナフトもされるがままではない。

 すぐさま同じように短刀を装備するとシルヴィ機との短刀による格闘戦を始めた。

 

 互いの短刀は管制ユニットや跳躍ユニット、腕に集中して向かう。時々フェイントで足を狙うがメインはその3つだ。

 

 向かう短刀の切っ先を弾き、時には腕で攻撃を逸らし、ほとんど0に近い近接戦闘が繰り広げられる。

 

 そんなこう着状態の中でチャンスが先に訪れたのはナフトだ。

 

 逆手で持たれた短刀の刃がシルヴィ機が持つ短刀の刃によって受け止められた。その瞬間、ナフトは口をつり上げ、シルヴィは失敗を悟り奥歯を噛み締めた。

 

 ナフト機は互いに止まっている中で左の兵装担架から長刀を装備、そのまま振り下ろした。

 シルヴィ機はそれを後退することでかわしたが形勢は完全にナフトの方へと傾いた。

 

 当然逃すわけがなくナフト機は跳躍ユニットを一気に吹かし近づく。

 リーチは当然ながら長刀の方が長い。シルヴィが一方的に押され出す。

 

 長刀による斬撃を短刀で上手にそらすがそれと一緒にわずかに機体もそれた。

 振りかぶった長刀を逆手に持ち替えそのまま突き刺した。

 

 それはたしかにシルヴィ機の管制ユニットに直撃した。

 

◇◇◇

 

「あぁーもう!また負けたぁ!!」

 

「まだまだだなシルヴィ少尉」

 

 シュミレータからそれぞれ現れ、言葉をかわす。

 

「今回の敗因は?」

 

「短刀での勝負で読み負けました……」

 

「ああ、そうだ。長刀での切り返しは見事なものだったが、そのまま自分の長刀まで投げ捨てたのも敗因だな」

 

 痛いところを突かれシルヴィは肩を下ろし、明らかにしょんぼりとする。

 そんな様子を見てナフトは肩をすくめるとその少女の肩を励ますように軽く叩き言葉をかけた。

 

「そんな顔をするな。動きはどんどん良くなっている。この調子で技術を身につければそれでいい」

 

 そう言いシルヴィに背を向けてロッカーに向けて歩き出す。少し先を行ったところで思い出したように振り向いた。

 

「ま、私も技術を磨かせてもらうがね」

 

 不敵に笑うナフトに対しシルヴィは頬を膨らませながら早足でナフトの隣に並ぶ。

 

「むぅ〜!それじゃ私追いつけないじゃないですか!!」

 

「当然だ。追いつくよりも追い越すことを目指すべきだな」

 

「そうですけど……!そうですけど、それじゃあ私、中尉との賭けに勝てないじゃないですか……」

 

「賭け?」

 

 ふとそんなことをしたっけ?という顔を浮かべた。

 記憶を探るがそんなことをした覚えは彼にはない。

 

 そんなナフトに対しシルヴィは怒りを露わにし、声を荒げる。

 

「し・ま・し・た!!なんで忘れてるんですかぁ!私がシュミレータで中尉に勝てたら中尉にできる範囲でなんでもしてくれるって言ったじゃないですか!!」

 

「……言ったのか?私は?」

 

 やはり覚えがなく聞き返したがシルヴィは「うんうん」と強くうなずく。

 なんとなく覚えているようないないような。曖昧な記憶があるような気がしないでもない。

 

「別に変なことでなければ言ってくれれば私ができる範囲でどうにかするが……?」

 

「……言えるわけないじゃないですか」

 

 ボソリと言われたそれは当然ながらナフトに聞こえるわけもなく、彼は疑問符を浮かべた。

 

「……どうかし––––」

 

「なんでもないです!!」

 

 シルヴィは語気を強くさせてずんずんとナフトを追い越し、ロッカールームへと向かった。

 そんな背中を見てあることを思い出し、今の彼女の状態を顧みて言おうか少し悩んだがやはり言うことにした。

 

「少尉。夕食一緒に食べないか?」

 

「食べます!少し待っててください!!」

 

 言葉は少し刺々しかったが一緒に食べるらしい。

 

 他人の気持ちはわからないというがそれが異性になればさらにわからないな。とナフトは息を吐くとロッカールームがある方向へと向かった。

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