恋する麻帆良学園生の日常   作:プラム2

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世界樹の加護(笑)を獲た主人


01「茂みに美少女がいると思うか?」

 

「…………はぁ」

 

 俺の一世一代の大失敗イベント、将来黒歴史間違いなしの出来事から早数日が経過した。

 中学生という身分に属している俺は、その義務として今日も普段通り学校に登校しているわけだが……いかんせん、何もする気になれない。

 これが失恋の副作用か。

 

 現在、教室の自分の席で一切顔を上げることなく俺落ち込んでますよオーラを醸し出している。

 それを察したのか、周りのクラスメイトは俺の近くに寄ろうとしない…………ただ二人を除いては。

 

「おい……風間の奴、そーとー気に病んでるぞ」

「触れてやるな。今アイツに必要なのは俺達じゃない。必要なのは己を見つめ直す時間だ」

 

 俺の席の前で、向き合うようにして座る二人。

 やたら格好いい台詞を吐いたのが鈴木という眼鏡男子。

 そして、もう一人が金髪で見た目ヤンキーなのに、性格のせいでヤンキーになりきれない残念な男である田中。

 二人とも小学校からの友人で、中学に上がってからも馬鹿なことばかりする仲だ。

 

「そうか……」

「ああ……」

 

 二人には昨日、俺が告白する事を伝えてある。

 今の俺の様子から結果が分かったのだろう。

 二人とも黙り、俺を心配してくれてーー

 

「ところで、道端にパンツ落ちてたらどうする?」

(なんでだよ!?)

 

 全く心配してくれてなかった。

 それどころか男子校だからこそ出来る類の話をし出した。

 

 違うじゃん。

 そこは触れてやらないのが一番だと分かりつつも、優しさから俺の肩を優しく叩いて『また次があるさ』とか『お前ならもっといい女を見つけられるさ』とか慰めるところじゃん! 

 それが何で急にパンツの話をし始めた!?

 

「ないな」

「えー、なんでだよ?」

 

 ここで鈴木が静かな声で言った。

 いいぞ、そのままこのくだらない話を終わらせてくれ。

 

「道端にパンツが落ちていたとしても、お前が見つけるよりも早くに俺が回収するからな。お前が道端でパンツを拝める可能性は0だ」

「な、なんだと!」

「お前もか!?」

 

 思わず勢いよく椅子から飛び上がってしまった。

 

「なんで失恋した友人の目の前でパンツ拾う話してんの!?しかも拾うのかよ!?とんだ変態じゃねーか!」 

「なるほど。つまりはこう言いたいんだな。相手の素性が分からないパンツを拾うのはリスクが高い、と」

「ちげぇよ!?今の俺の言葉のどこを読み取ったらそんな答えが導き出されんだよ!?」

「落ち着け!もし俺が鈴木より先に見つけたらお前にも貸してやるから!」

「おう、サンキュ……って、違う!借りるか!」

 

 数分にも満たない時間で息を乱した俺を、椅子に座ったまま何故か冷めた目で見上げる二人。

 えっ、なんで俺がそんな目で見られんの?

 

「フられて我らが麻帆良学園男子中等部の誇りを忘れたか」

「おい、さりげなくお前らの変態性を中等部全体に拡散すんな」

「あい、わかった。ならば、風間の失われた誇りを取り戻すために一肌脱いでやろうじゃないか」

「会話のキャッチボールぐらい成立させろや」

「カキーン!……おおっと、風間投手が投げた球はミットに届くことなく非情にもバックスクリーンに叩きつけられたー!」

「やかましい」 

 

 俺のツッコミを無視して鈴木は田中に耳打ちをする。

 フムフム、と話を聞く田中が次の瞬間、目を見開いた。

 

「お、おまっ……本気か?」

「ああ。あやつの失われた誇りを取り戻すには、もうこれしかあるまい」

 

 本人の意志を無視して話がどんどん進んでいるんだけど、これいかに。

 

「では行くぞ、オペレーションJ・K・Aだ!」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「……で、なんだコレは」

「馬鹿っ!頭を伏せてろ、死にたいのか!」

 

 授業が終わり放課後。

 俺達三人は寮に帰ることなく、むしろ寮とは別方向のある場所に来ていた。

 

 夕暮れ時、ということだけあり人が多く、それなりに賑わっている。

 そんな中、オレたちは人通りを避け茂みの中に伏せて潜んでいる…………なんでや。

 

「ちぃ……相変わらず厳重な警備だ」

「ふっ、しかし壁というのは高ければ高いほど燃えるものだ」

 

 当人置いて楽しそうだなオイ。

 いい加減オペレーションについての説明が欲しいところなんだが。

 

「察しが悪いな。オペレーションJ・K・Aとはつまり!J(女子)K(校に)A(アタック)だ!」

「帰る」

「マイフレンド!?」

 

 何故に英語。

 

 俺達が今いる場所は女子中等部の敷地内。 

 付け加えるなら、その校舎の前の茂みの中。

 確かに男子である俺達が女子中等部の敷地内にいるのは良い目では見られないが、それでも用事などのために訪れる男子はいる。

 だから、ここまで必要以上に隠れる必要はないと思うのだが。  

 

「……幾たびの潜入のためか、俺達は学園側からマークされているからな。前回捕まった時に二度と敷地内に入ることを禁止された」

「馬鹿かお前ら」

 

 だから、わざわざ制服から着替えて迷彩服、しかも顔にはペイントに草を身体に付けて匍匐前進なんて自衛隊顔負けの行動をしていたのか。 

 その行動力をもっと他のところで活かせばいいと切実に思う。

 

「前回のオペレーションは校内に侵入する前にデスメガネによって確保されたが、今回は風間がいる!」

「偉い人は言いました。一本の矢は容易く折れても、三本集まれば折れることはないと!」

「お前らもう一回折られてんじゃねーか!」

 

 ちなみにデスメガネというのは女子中等部の担任と同時に、ここ麻帆良学園の広域指導員という役職に就いている教員。

 捕まったら最後、突然意識を奪われ、気が付いたら指導室に連行される。 

 実際にそれを体験した生徒は『何をされたか分からなかったが、意識を失う瞬間に俺は見たんだ……アイツのメガネが怪しく光るのを!』と証言。

 その話から付けられた二つ名がデスメガネ。

 本人からしたら風紀を乱す生徒を取り締まっただけなのに、いい迷惑だろう。

 

「とにかく俺は帰るからな。普段ならともかく、今はそんな気分じゃないんだ」

「待って、見捨てないで!」

「頼む、俺達にはお前の力が必要なんだ!一度でいい……一度でいいから俺と田中に理想郷に入るチャンスを!」

「俺のためとか言ってもう完全に私利私欲のためなのな!?分かってたけど、もう少しでいいから体裁を保ってほしかったよ!」

 

 涙を流しながら俺の身体にしがみつく二人。

 必死に引き剥がそうとするが一向に離れない。

 しかも、これ以上騒いだら確実に周囲にばれ、冤罪にも関わらず俺までしょっぴかれそうだ。

 

 ……仕方ない。

 

「分かった、分かったから!協力してやるから離せお前ら!」

「おお、さすが同士風間!」

「もう!風間ちゃんも男の子なんだから!」

「帰る」

「嘘ウソうそぉっ!ごめんなさい!謝るからカムバック!」

 

 何でこんな奴らと友達なんだろうと疑問に思わずにはいられないが、ここで悩んでも仕方ない。

 鈴木と田中が話を切り出す前が勝負だ。

 

「それでは作戦の説明だが……」

「いや、その必要はない。今、完璧な作戦を思いついた」

「ダニィ!?」

 

 俺の言葉に驚愕する二人。

 まあ、先程まで全く乗り気じゃなかった奴が突然に完璧な作戦を思いついたとか言い出したら俺だって驚くわ。

 

「ただ、その作戦には高いリスクがある。それでもやるというなら構わないが……止めるなら今だぞ?」

「……見くびるなよ。リスクがあってこその挑戦。そのリスクの先に桃源郷があるというなら止めるわけにはいかない」

「今ほどお前とい友人を持った自分を恐ろしく思ったことはないぜ」

「どうでもいいけど理想郷なのか桃源郷なのかはっきりしろよ」

 

 とにかく俺の指示に従ってくれそうなので、俺はまず校舎を指差す。

 

「いいか?まず田中と鈴木には正面から突撃してもらう。それも出来る限り周囲の注意を引くようにだ」 

「なっ!?だが、それでは!」

「誰かに情報が漏れる危険性があるから詳細は言えないが、俺の作戦を成功させるにはそれを行うことが大前提なんだ。だから頼む。俺のことを信じてくれ……!」

 

 頭を下げる。

 俺の真剣な雰囲気に呑まれたのか、二人から息をのむ音が聞こえた。

 そしてーー

 

「ーー友を信じずに、何を信じろと言うんだ」

「言われなくても俺は、俺達はお前を信じてるさ」

「お前ら……」

 

 次の瞬間、今まで潜んでいた茂みから二人が勢いよく立ち上がった。

 突然現れた二人に周囲は驚いているが、二人はその集まる視線に臆することなく前に進む。

 

「行くぜ、田中?」

「背中は預けたぜ鈴木?」

 

 二人はもう互いに視線を向けることすらしない。

 ただ前に進むのみ。

 

 俺はその背中をただ見つめることしか出来ない。

 

「「うおおおおおおおおおおっっ!!」」

 

 作戦通りに周囲の注意を引くような、荒々しい雄叫びをあげて校舎に向かって進む二人。

 そしてタイミングを見計らって俺はーー

 

「帰るか」

 

 後ろに向かって前進した。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「迷った」

 

 鈴木と田中の儚い犠牲を出してから数分、俺は見たこともない土地で一人迷子になっていた。

 

 この事実だけしか言わないと、俺に方向音痴のレッテルが貼られるから弁明させてもらうが、これはしょうがないんだ。

 ただでさえ見知らぬ場所なのに、今頃男子が侵入したという噂が流れてるだろうから怪しまれないように人通りが多い道を避けたから迷ってしまったんだ。

 

 こんなことなら鈴木か田中のどちらか残しておくべきだったかもしれない。

 

「んっ?」

 

 どうしていいか分からず途方に暮れていると、前方から誰かがぎこちない走り方で近づいてくるのが見えた…………あれは、着物?

 

 まあ、着物で走ればぎこちなくもなるわな。

 

 そんなどうでもいい感想を抱いているうちに、顔がハッキリとわかる距離まで相手が近づいてきた。

 

 どんな奴かと気になり相手の顔を確かめた瞬間、俺の時は止まった。

 

 腰まで届きそうな黒髪。

 前髪は精巧な造りの何かの花を模した髪留めで分けられている。

 そこから見える素顔はーーーー絶句してしまうほど可愛かった。

 

「えっ……あっ……えっ?」

 

 年齢は俺と同じぐらいか。

 中等部の敷地内にいるってことは、おそらく中学生なのだろうが、着物のせいかとても大人びて見える。

 

 ぼーっと思わず見惚れていると、その着物の女性は減速することなく更に俺に向かって走ってきて……………そのまま俺の後ろの茂みに飛び込んだ。  

 

「………………なぬ?」

 

 えっ、何で茂みに?

 あれか、最近は茂みの中に入るのが流行ってるのか?

 かくいう俺もさっきまで茂みにいたし。

 なら、ここはいっそのこと『はぁい、奇遇だね!僕もその茂みは中々の茂みだと思ってんだよ!茂り方が違うよね!』とトレンディな会話を試みるか? 

 ねぇな。

 

「ごめん、ごまかしといて」

「はい?」

 

 一瞬だけ茂みから頭を覗かせた彼女は、それだけを俺に伝えると、再び茂みの中に隠れた。

 聞き慣れないイントネーションだったこともあり、全く状況が把握出来ないのだが、どうやら何かを誤魔化してほしいらしい。 

 

 どうするべきかと悩むうちに、彼女が来た方向から今度は黒づくめの男たちが走ってきた。

 黒づくめと言ったが、決してコードネームに酒の名前が使われていそうな組織の方々ではなく、どちらかというとSPとかボディガードのような雰囲気。

 

 その黒づくめの方々は焦った様子で俺に近づいてきた。

 

「おい、君!この辺りでこのk……いや、着物を着た少女を見なかったか?」

「え、えー……っと」

 

 果たしてここはどうするべきか。

 正直にそこの茂みに隠れている少女の存在を告発するか、それとも適当にはぐらかすか。

 

 前方に屈強そうな男性たち。

 後方には着物姿の美少女。

 どっちの味方をするかなんて迷うまでもない。

 

「ええ、見ました。その子なら見ました」

「本当かい!?」

「はい。ただその子なら西の空に浮かぶ雲を見て『あの雲の中にラ〇ュタが……!』って言って駆け出していきましたよ」

「「「何ぃっ!?」」」

 

 ががんっ!と、何やら謎の衝撃を受けたかのようなリアクションを取る男性達。

 

「お、おい、どうするんだ!?」

「とりあえずは学園長に連絡だ!お嬢様が単身で西に向かわれたと!それと何人かは今からでもお嬢様を追うんだ!」

「そ、そうなると我々もラピュ〇に……!?」

「ひ、飛行石だっ!飛行石を探すんだああああああああああああああっ!!」

「う、うわああああああああああっ!」

 

 あまりの慌てように少し悪い事をしてしまった気がする。

 二組に分かれて走り去る男性達。

 おそらく今言っていたように連絡組とラ〇ュタ組とに分かれたのだろう。

 連絡組はともかく、叫んで走り去っていったラ〇ュタ組には俺の責任ながら同情する。

 俺には彼らが無事に飛行石を見つけられるように祈ることしか出来ないが。

 

「……このあとウチ、どんな顔して帰ればいいん?」

「あれだよ、若気の至りって言えば全部解けーー」

「どうしたん?」

 

 がさがさと茂みの中から這い上がってくる着物の少女。

 これは先程茂みの中に隠れる時にも思ったが、こうして正面からマジマジと見るとーーーー是非もない。

 大和撫子という言葉をそのまま具現化したかのような美少女だ。

 

 この麻帆良学園は共学ではない。

 男子校、女子校と分かれており、学校生活において異性と関わるような事は極稀である。

 しかしながら、我々は思春期真っ盛りの華の十代。

 特に男子校という汗臭い空間に閉じ込められた男子生徒達は制服女子が歩いているだけで目で追ってしまうような悲しい生き物だ。

 

 それが目の前に美少女がいるとどうなる?

 

 見惚れるに決まっている。

 

「えっ、あ、いや」

 

 何を言っていいか分からなくなる。

 たとえ分かったとしても今の俺がまともに何かを言えるとは思えないが。

 

「うん、それじゃあウチは行くわ」

「えっ、でもそっちは黒服の人達が……」

「……早く帰らんとラ○ュタ組が可哀想やし」

「……思いつきで発言してごめんなさい」

 

 良かれと思って言ったのだが、どうやら逆に気を遣わせてしまう結果になってしまった。

 

「ええよ。ウチのために誤魔化してくれたんやし」

 

 そういって彼女は笑う。

 

 その笑みを目の前で見た俺は理解した。

 

「それじゃあ」

 

 

 

 ーーそう、俺は彼女に恋したんだ。

 




この作品は純愛もの(予定)です
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