恋する麻帆良学園生の日常   作:プラム2

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03「出席番号26番 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの場合」

 

 ーー英雄。

 その定義に関しては色々とあると思うが、一般的には常人では出来なかった事柄を成し遂げ、偉業を残した者を指す言葉である。

 

 近年の魔法界において、英雄と訊かれれば大半の人間が『紅き翼』のメンバーの名を挙げるのではないだろうか。

 

 では逆に、魔法界においての英雄とは逆の存在。

 反英雄。

 所謂悪人と訊かれればどうだろうか。

 歴史を語る上で英雄以上に悪人の存在は絶えない。

 その中で一人を挙げろと言われても答えに困るだろう。

 それでも悪人を挙げる上で、かの名前が外れることはない。

 

 真祖の吸血鬼(ハイ・デイライトウォーカー)、闇の福音(ダークエヴァンジェル)、人形遣い(ドールマスター)……。

 呼び方は様々だが、これらは全てある一人の人間ーー否。化け物を表す。

 

 その化け物こそ、史上最恐最悪の魔法使い、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルーー!!

 

 

 

「毎日毎日騒がしい連中だ…!」

 

 が、西洋人形のように愛くるしい姿の金髪美少女で、それが女子中学生に混じって学校に通っている等誰が信じようか。

 

 エヴァンジェリンといえば、表の世界でいうナマハゲ的存在。

 我が儘をいう子供に「エヴァンジェリンがくるぞ」と親が躾をする光景は魔法界ではよく見る光景だ。

 それがこんな容姿だとすれば「はんっ」と子供に鼻で笑われ躾にならないだろう。せいぜい大きな子供が歓喜するぐらいである。マンセー!

 

 悪評高いエヴァンジェリンが、何故女子中学生に混じって学校に通っているかというと勿論やもを得ない理由がある。

 それは『登校地獄』という呪い。

 呪いのくせに肩透かしな名前をしているが、内容はかなりエグいものになっている。

 なにせ『麻帆良学園中等部に永遠に登校しなければならない』というものなのだから。

 吸血鬼であり、悠久の時を過ごすエヴァンジェリンにとっては終わりのない呪い。

 それこそ呪いを解呪しなければどうにもならないものだ。

 しかも、その呪いは表裏含めて世界最高峰に立つ魔法使いがバカみたいな力技でかけた強固なもの。

 並大抵な魔法使いでは解くことは叶わないうえ、そもそもで極悪人であるエヴァンジェリンが呪いにより見た目相応の力しか出せない無力な状態から解き放つ者がどこにいるというのだろうか。あえて余計な一言を言うとなれば「なんだこの詰みゲー(人生」と言うしかないだろう。

 

 どうにもならない現実。

 だからこそエヴァンジェリンは恥辱に堪え、呪いをかけられてから今まで学園に通い続けているが、それも我慢の限界であった。

 

「なぜっ!私がっ!闇の福音と怖れられたこの私が!毎日毎日毎日ぃあんな馬鹿共に付き合って生活しなければならないのだ!この呪いさえなければ今すぐに邪魔者共を蹴散らしてこんなところから出ていくというのにっ!!」

 

 人気がなかったということもあり、エヴァンジェリンは地団駄を踏み周囲に当たるようにわめき散らす。

 今は彼女を宥める従者もおらず、怒りが収まるのを待つしかない。

 ただ、このような姿を普段の彼女なら人気がないからといって決して見せることはないのだ。

 今日はたまたま、そう、たまたまどうしても気持ちが押さえきれなかっただけなのだ。

 むしろ魔法界に名を残す彼女が不満や鬱憤を爆発させるだけで済むのだから安いものだろう。

 

 だが、いつだってそういう時に限って不足の事態(イレギュラー)というものは起きるものだ。

 

「お前は……」

「ーーっ!」

 

 誰もいない。そう思っていた場所で聞こえてきた男の声。

 その声の発生源へと慌てたように振り替えると、そこにはエヴァンジェリンと同じ麻帆良学園の制服に身を包んだ一人の男子生徒がいた。

 

「(……ちっ、面倒な)」

 

 顔をこれでもかと嫌そうに歪め、内心舌打ちを打つ。

 どうやら先程までの自分はどうやら情けないまでに取り乱していたようだ。

 弱体化しているとはいえ、ここまで相手の接近に気づかないとは。

 

「(どうやら聞いてたみたいだな。茶々丸がいれば問答無用で捕らえてそのままジジイに押し付けたのだが)」

 

 従者である茶々丸だが、今日はよりによって定期メンテナンスのためここにはいない。

 呼んだとしてもここに来るまでいくらかの時間がかかるだろう。

 つまりエヴァンジェリンは一人でこの状況を打破しなければならないということだ。

 

 ーーどうするか。

 そう思った矢先、以外にも先に口を開いたのは男の方からだった。

 

「ーーなるほど。お前があの『闇の福音』だったか」

「……なに?」

「そう警戒するな」

 

 そう言い近づいてくる少年に対して、エヴァンジェリンは、突如目の前に現れた少年に対する警戒を一層高めた。

 

 自身がかつて魔法界において伝説級の怪物として君臨していたことを知る者はこの学園に少なからずいる。

 学園長を始め、教師に生徒までこの学園には魔法関係者が集まっている。

 その中にエヴァンジェリンが顔を知らぬ者も当然いる。

 だが、エヴァンジェリンには目の前の男がただの魔法生徒には見えなかった。

 

 エヴァンジェリンの正体を知る者は彼女を見れば大抵怯えた表情を見せる。

 あるいは馬鹿な正義感を抱いている奴ならば封印されていることをいいことに侮蔑の視線を向ける者もいる。

 少なくとも自分から関わるような真似はしないだろう。

 中には友好的な反応を示す者もいるが、それは学園長やタカミチ・T・高畑といった者といった極僅かな者だけだ。

 しかし、目の前の少年はどうだ。

 少年からは怯えた様子どころか、侮蔑してくる様子も見られない。

 むしろ、どことなく友好的な雰囲気を感じる。

 

「……貴様、一体何者だ?」

 

 少年から感じるものは特にない。

 見れば見るほど一般の生徒にしか見えないのだ。

 だが、一般生徒がエヴァンジェリンの正体を知るわけがない。

 つまり、それは必然的に少年が何らかの関係者であることを示している。

 

「(見たところ触媒を装備している様子はない。つまりは魔法ではなく気を扱うタイプか?ーーちっ。奴が何か行動を起こさん限りわかりようがないか)」

 

 何も感じさせないからこそエヴァンジェリンは少年に対する警戒を高める。

 中途半端に力を持つ者なら力を無駄に見せびらかすなりして実力を把握できるが、真の強者になるほど己の力を完全に隠せるものだ。

 もし、少年がその強者であるならエヴァンジェリンの学園での生活はより窮屈なものになるかもしれない。

 

「…………」

 

 少年はエヴァンジェリンの問いに少し迷いを見せた後、どこか遠くーーエヴァンジェリンより遥か後方にそびえ立つ世界樹を見据え、こういった。

 

「ーーユグドラシル」

「……なに?」

 

 その名を聞いてエヴァンジェリンが思い浮かべるのは、北欧神話に語られる世界を体現する巨木。それこそがユグドラシルと呼ばれていたはずだ。

 日本名では世界樹と呼ばれ、奇しくもこの麻帆良学園にも世界樹と呼ばれているものがある。

 他にかつてそういった名の組織がなかったか記憶を辿るが、エヴァンジェリンの記憶に該当するものはない。

 

 詳しく話せ。そういった念を込めてエヴァンジェリンは少年を睨むが、少年の口から出た言葉はエヴァンジェリンの望むものではなかった。

 

「この名を聞いて悟る者なら、語る必要はない。この名を聞き悟らぬ者なら、語るに値しない」

「ちっ。話すつもりはないということか」

 

 少年の態度もあって、これ以上追求するのは無駄だろう。

 今は得たいの知れない相手の名前を知れただけで良しとする。

 名が分かれば調べようなど幾らでもあるのだから。

 

「『闇の福音』よ」

「なんだ。ろくに自分の素性を明かそうとしない奴と話すことなどないぞ」

「まあ、聞け」

 

 突き放した言い方をすると、先程までの重苦しい雰囲気から一転変わって、穏やかさを感じる声で語りかけてきた。

 

「ーーいつか、お前に刻まれし呪いが解ける時がくる。その時こそ、お前は光に生きられるだろう」

「なにをっ……!お前は一体何の話をしている!?」

「ただの独り言だ。忘れてくれて構わない」

 

 一方的に話を切り上げ、少年は背を向け歩き出す。

 これ以上語ることはないといわんばかりの態度だ。

 待てーー少年を引き留めようとした瞬間、別方向からの気配に気付いた。

 

「マスター」

「っ!?……茶々丸か」

「はい。普段よりも帰りが遅かったため不要かとは思いましたが、お迎えにあがりました」

 

 気配の先にいたのは自身の従者たる茶々丸であった。

 茶々丸は最先端の科学と魔法の技術を持ってして作られたカラクリ。所謂ロボットだ。

 生憎、エヴァンジェリンはロボットというか科学に関しては便利なものだなーという認識ぐらいしかしておらず、どういった原理で茶々丸が作られているか等全く興味がない。

 重要なのは自身にとって茶々丸が有用であるということだ。

 今回も大方内蔵されたセンサーとかなにかで私を探しだしたのだろうとエヴァンジェリンは考える。

 

「そうだ!アイツはーー」

 

 エヴァンジェリンが少年のいた方向に視線を向けるが、既に少年の姿は見当たらなかった。

 

「まさか、奴め。茶々丸の接近に気づいて……?」

 

 だとしたら相手は機械である茶々丸の気配すらも事前に察知できるということか。

 ーー面白い。

 近頃ずっとつまらなさそうな顔をしていたエヴァンジェリンが、新しい獲物を見つけた狩人のような獰猛な笑みを浮かべた。

 

「帰るぞ茶々丸。調べたいことがある」

「はい、マスター」

 

 ーーユグドラシル。必ず貴様の正体を暴いてやるぞ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 歩いていたら可哀想な女の子に遭遇した。

 

 可愛いではなく、可哀想。ここ重要である。

 

 さんぽ部の活動と銘打って近衛さんととばったり出会えないか今日も学園内を探索していのだが、見つけたのは西洋人形のような金髪の幼女だった。

 真帆良学園の中等部の制服を着ている以上、近い年代であることは間違いないのだろうが、どう見てその少女は自分より遥か年下の子にしか見えない。

 そして同時に悟っていた。

 

 コイツはやばい、と。

 

 人気のいない場所に一人で闇やら呪いやらと普通に過ごしていれば決して言葉にしないであろう単語を狂乱気味に喚き散らしているのだ。

 

 これは関わるべきではない。

 気づかれぬうちに立ち去るべきだ。

 そう思った瞬間、ふと疑問が浮かんだ。

 

「(なんでこの子はこんは場所に一人で…)」

 

 お前がいうなという話ではあるが、俺には近衛さんと偶然に出会うためという目的があってこそだ。

 何の目的もなく放課後にわざわざこんなところに。

 理由があるのか。そう考えた瞬間、ある仮説が思い浮かんだ。

 

「(そうか…この女の子……)」

 

 友達がいないんだ。

 

 男子校であるが故に実際のJCがどうなのかは分からないが、学生の放課後というのは男女関係なく遊びに行ったり、部活動に精を出すといったものではないだろうか。

 だからと言って放課後一人なのがおかしいわけではない。

 当然、放課後に予定が合わず一人なんてことはありえるだろうし、部活に所属していなければ学校外の何かに精を出す者だっている。

 中にはロンリ―ウルフ気質な子もいるだろうが、目の前の少女は違う。

 考えるに、この少女は思春期特有の病気が故に友達が出来ないのではないかと推測する。

 その病気は俺にも心当たりはあるが、俺の場合その病気の深みにはまる前に恋愛という別ベクトルに意識が向けられたおかげで軽度なもので、少女ほど拗らせたものではない。

 しかし、少女の病気は先程の言動から察するに相当重いモノに分類されるだろう。

 といっても、この病気は思春期限定の一時的なものだ。

 多くの若者が発症するが、ほとんどが大人に近づくにつれ完治していく。

 そして、いづれ過去を振り替えって皆例外なく身を悶える思いをし、思い出話の中で「あの頃は痛かったな」と笑い話にでもなるのではないだろうか。

 

 だが

 

 だが、もし、目の前の少女に友達がいないと仮定した場合どうなるのだろうか。

 思春期という時期は、自身の今後の人格を形成する上において重要な時期だ。

 多くの人と関わることで感情を豊かにしていき、様々な事を無意識の内に学んでいく。

 しかし、少女が周囲との関わりから拒絶、あるいは自身から拒絶しているのならそれは叶わない。

 ただ孤独を感じるだけの日々になってしまう。

 ここで俺が何もせず立ち去っても、少女はいづれ多くの若者と変わらず病気を完治させるはすだ。

 ただ、それが長引くほど少女の心の傷は深いものになってしまうのではないだろうか。

 

 葛藤する。

 今、自分が考えていることは全くの的はずれで、少女にとっては余計なお世話になるかもしれない。

 だが、俺の行動で少しでも彼女が救われるのならば。

 何より、目の前で将来傷つくかもしれない女の子を見捨てるような奴が近衛さんに相応しい男かーー否!

 

「お前は…」

「ーーっ!」

 

 と、少女を見つけ、現実においては僅か数秒でありながら脳内で長々と完全には的はずれとは言い切れない考えに至った俺は、舞台に立つ決意を固めた。

 

「ーーなるほど。お前があの『闇の福音』だったか」

「……なに?」

「そう警戒するな」

 

 俺の言葉とは裏腹に、身構えておもくそ警戒する少女。

 初っぱなから話しかけたことを後悔しかけたが、既に話かけた以上もう引けない。

 さて、どう会話を続けるべきか。

 そう考えていると、先に少女が口を開いた。

 

「……貴様、一体何者だ?」

 

 麻帆良学園男子中等部所属の風間英一です。

 本来ならそう答えただろう。

 だが、恐らく彼女が求めている答えはそんな普通の答えじゃない。

 自分もそっち側の者だと彼女に認識してもらわなければならない。

 先程彼女は自身を『闇の福音(笑)』と名乗っていた。

 つまり俺にも彼女に認識してもらうほどの『名』が必要だ。

 

 どうするか。

 早速コミュニケーション失敗かと諦めかけ、遠くを見た瞬間、彼女の遥か後方にそびえ立つ因縁深き世界樹の姿が目に入った。

 これだ。

 

「ーーユグドラシル」

 

 気付いた時にはそう名乗っていた。

 

「……なに?」

 

 聞いたことがないといった顔を浮かべる少女。

 そりゃそうだと英一も内心頷く。

 世界樹を見て、たった今思い付いた名なのだから。

 まあ、俺として「そうか、貴様があのユグドラシルか」「そう、俺がユグドラシルだ」という展開を期待していたのだが、彼女は俺が言葉を続けるのを待っている。

 恐らく結局ユグドラシルか何者か聞きたいのだろう。

 さて、どうしたものか。

 本格的に設定を作り込んでいる彼女と違って、俺はその場凌ぎで名乗っただけで、設定なんて何もない。

 むしろ俺が何者か知りたいぐらいだ。

 とりあえず勢いに任せて誤魔化すしかない。

 

「この名を聞いて悟る者なら、語る必要はない。この名を聞き悟らぬ者なら、語るに値しない」

 

 中々いいんじゃないか?

 台詞的にも格好よく、彼女的にはポイント高いのでは?

 

「ちっ。話すつもりはないということか」

 

 舌打ちされた。

 なんだ、こういう会話がしたかったんじゃないのか……?

 

 思ったより彼女の闇が深かった。

 これ以上、下手に会話を続けようとすると泥沼にはまっていきそうな気がする。

 何も解決していないが、ここはとりあえず適当に話を切り上げて、一旦出直そう。

 そんでちゃんと設定を作り上げてから再び彼女と話そう。

 そうと決まればさっさとこの場から立ち去ろう。

 

「『闇の福音』よ」

「なんだ。ろくに自分の素性を明かそうとしない奴と話すことなどないぞ」

「まあ、聞け」

 

 とりあえずこれだけは言っておこう。

 

「ーーいつか、お前に刻まれし呪いが解ける時がくる。その時こそ、お前は光に生きられるだろう」

「なにをっ……!お前は一体何の話をしている!?」

「ただの助言だ。忘れてくれて構わない」

 

 抽象的に言ってみたが、ようは「厨二病はいつか卒業するもんだから。そしたらきっと友達もできるさ」と伝えたかったのだが、彼女の様子から見るに俺の言葉の意味は何一つ伝わらなかったようだ。

 

 もういい。

 とにかくここから去ろう。

 これ以上は堪えられない。主に俺の心が。

 彼女に背を向ける。

 もう何を言われても絶対に振り返るつもりはないが、このままだと引き留められるなり通報されるなりされそうだ。

 どうするか。

 そう思い、絶対と思いつつもチラリと後ろを振り返ってみると、何故か彼女はあらぬ方向に視線を向けていた。

 

「(チャンス!!)」

 

 その瞬間、俺は近くの茂みに猛スピードで隠れる。

 ここ最近、茂みとやたら縁があるような気がするが、とにかく彼女がここを去るまで息を潜めて隠れていよう。

 

 そうしていると、今度は緑色の髪をした長身のーーこれまた、女子中等部の制服を来た子が現れた。

 幸いなことに金髪の方の彼女は俺を見失ってくれたようなので、このまま話を盗み聞きすると、なんだか「マスター」やら「茶々丸」等と聞こえてくる。

 茶々丸ってのは恐らく緑色の髪の子の名前だろう。

 二人からは親しげとまではいかないが、それなりの仲なんだろうと思わせる雰囲気がある。

 ……あれ?それじゃ、二人はもしかしてご友人?

 そうなると俺のしたことって本当に余計なお世話どころか、ただの赤っ恥行為だったのでは…………うん。

 

 

 彼女と関わるのはもうやめよう。

 俺はそう心に決めた。

 

 




申し訳ない程度の勘違い要素。
このかと英一を絡ませることのできる日がいつしか来るのだろうか…
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