恋する麻帆良学園生の日常   作:プラム2

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忘れられた頃に更新を再開。
続きを期待していてくれた方がいたら、大変お待たせいたしましたと一言粗品とともに送りたいです。


07「出席番号19番 超鈴音の場合」

 

 

 師弟関係。

 そんな関係は愛に生きる俺にとって縁の無いものだと思っていた。

 

「くっ!」

 

 けれどある日、俺は自身の無力さに気付いた。

 何が近衛さんに相応しい男になるだ。

 必要最低限の力すら持たない俺が何をほざいていたのか。

 

 なんて惨めで。

 なんて情けないことだろう。

 

 救いがあるとすれば、その事実に気付けたことだろう。

 

 体力や知力などは一人でもどうとでも身に付けられる。

 けれど、ことこの分野に関しては一人では無理だと考えた。

 そこで必要になったのは優秀な師の存在。

 そう判断してからの俺の行動は実に迅速であった。

 

 日頃の活動のおかげで、麻帆良については人一倍詳しい自信がある。

 師の存在に心当たりのあった俺はその人物の元を訪ねた。

 そしてあの諸葛亮すらも八度目には頷いてくれたらいいなという我ながら見事な頼み方で、相手も俺の頼みを受け入れてくれた。

 そう、俺は仰ぐべき師を得たのだ。

 

 その日から俺の特訓の日々が始まった。

 

 その世界に足を踏み入れたからこそわかる。

 自分がどれほど矮小な存在であったことを。

 目指すべき師の背中がどれほど遠くにあるかを。

 

「う、うおおおおおおおっ!!」

 

 けれど、立ち止まるわけにはいかない。

 思い出せ。

 自分は何のためにここにいる。

 脳裏に彼女の顔が思い浮かべる。

 それだけで挫けかけた俺の心が光を取り戻す。

 さあ、腕を振るえーー!

 

「燃えろおおおおおおおっ!!」

 ーーもう少し静かにお願いしますね?

「あっ、はい」

 

 師匠に注意されたぁ…まじぃつらぃょぉ……。

 

 と、まあ、ふざけるのは程々にしておいて真面目に取り掛かる。

 俺のモチベーションは上がるが確かに馬鹿みたいに騒がしい奴が隣にいたらいい迷惑だろう。

 師匠に迷惑をかけるわけにはいかないので、ここは大人しく従っておく。

 弟子として師匠の言うことは絶体なのだ。

 そう、俺の師匠ーー四葉五月の言うことは。

 

「三番テーブル注文ネー!」

「はいはーい!」

ーー作ってみますか?

「ウッス!」

 

 麻帆良学園の名物の一つとして誰もが知る中華屋台 超包子。

 学園に住む人々から絶大の人気を誇り、特に学園祭期間においては遊園地顔負けの賑わいを見せる。

 その人気店の厨房を任されている人物こそ我が師匠、四葉五月なのだ。

 ちなみに俺と同じ中学生。すごい。

 周囲からは「さっちゃん」という愛称で親しまれている。

 その知名度から、当然俺も以前から師匠のことは知っており、超包子に訪れたことも少なくない。

 師と仰ぐべき人はこの人しかいない。

 誰に師事するか考えたときに迷わずそう考えた。

 

ーーはい。これなら問題ないですね。

「あざまーす!」

「オオ、エーイチは飲み込みが早いアルネ」

 

 料理上手な男はモテる。

 逆に捉えれば料理の出来ない男はモテない。

 明日菜から近衛さんはかなり料理が得意と聞いている。

 それならきっと料理が得意な男性というのはポイントが高いはずだ。

 それに仲良くなれれば料理の話題で盛り上がることもあるだろうし、なんだったら一緒に料理をするという夢のような展開が待っているやもしれん。

 

「バイト君。そろそろ休憩ネ」

「はいよオーナー」

 

 注文の品を仕上げ一息つくと店の奥から三つ編みのお団子ヘアーとほっぺの丸印が特徴の中華娘その一が現れた。

 俺と同じ中学生でありながら、天才的な頭脳と手腕でこの店を経営している。

 呼び方だが互いにきちんと自己紹介はしたが、なんとなくこの呼び方に落ち着いた。

 

 ちなみに中華娘その二は外でウエイトレスをしている褐色イエローの古菲。  

 属性が被っている二人のように思えるが、片や麻帆良の最強頭脳と呼ばれ、片や麻帆良武道大会ウルティマホラにおける絶対王者。

 被っている属性なんてものともしない凄まじい肩書きを持つ二人だ。

 この超包子。すごいのはこの二人だけでなく、師匠に加えて謎のマッドサイエンティストにロボット娘まで働いている。

 これだけでちょっとしたギャルゲーでも作れそうな面子だ。

 

 最初に紹介された時はどこの人外魔境だとも思ったが全員あの2-Aの所属と聞いて納得した。

 明日菜?

 あいつもなんかあれじゃん。

 近衛さんも天使や女神という意味で人外だし。

 

 俺は料理を教わりたい。超包子は来る学園祭に向けて人員を補強したいという利害の一致での雇用。

 学園祭までに果たして戦力になるのかとも思ったが、俺にとったら渡りに船である以上このチャンスに飛び込むしかなかった。

 

 一旦エプロン等を外し、屋台の外に出て、そのまま空いている席に座り注文をする。

 

 師匠の腕に追い付くためには、ただ教わるだけでなく、こうして実際に食べて味を盗むしかない。

 勿論腹が減っているのもあるが。

 

 今日の料理もさぞ絶品なんだろうなと考えていると、突然何の断りもなく何者かが正面の席に座った。

 

「…………」

「え、えっと?」

 

 噂をすればなんとやら。

 座ってきたのは明日菜だった。

 しかも俺の勘違いでなければ何故か相当お怒りな様子。

 

「あー…明日菜、さん?急にどした。何か用でも?」

「……アンタ、私に謝ることない?」

 

 ……なんだろうか。

 まるで心当たりがない。

 あるとしてもせいぜいクラスの奴に『なあ…神楽坂さんっていいよな。よかったら紹介してくれよ』

 『アイツはオジコン趣味で下の毛も生え揃ってないガキには興味ないから諦めろ。まあ生えてないのはアイツなんだけどなHAHA!』

 なんて話をしたぐらいだ。

 

 ……殺されてもおかしくないかもしれない。

 

「心当たりないって顔してるわね?」

「あ、う、うん?ソウダネ、心当タリナンテナイネ?」

「なに?ここで働くと喋り方までそれっぽくなるの?」

 

 明日菜が馬鹿でよかった。

  

 で?と俺が視線で会話の続きをと促すと、明日菜は「はぁー…」と一息ついて一旦気持ちを落ち着かせる。

 そしてゆっくりと口を開いた。

 

「……アンタと私が付き合ってる噂が流れてんのよ」

「えっ、そんなこと?」

 

 身構えたわりには少し拍子抜けだ。

 

 俺と明日菜は何かと二人きりで会う機会が多い。

 自分で言うのもなんだが、俺にとって明日菜は男女という仲を考慮してもかなり気心知れた仲である。

 それこそ端から見たら付き合ってるように見えるかもしれない。

 それをただでさえ男子校・女子校と異性との接点が少ないクラスの奴らに見られたら付き合ってる噂が流れても不思議じゃない。

 

 誰かに言及されたとしても否定すればいいだけの話だし、何をそんな怒る必要があるのだろうか。

 

「そんなこと?」

「お、おう」

「ならアンタに好きな人から『そうか、明日菜君もそういう相手が出来る年頃か。……うん、どこか寂しく思うところもあるけど、それでも嬉しいよ。おめでとう明日菜君』って言われた気持ちがわかる!?!?」

「うわぁ……」

 

 言われたんだな高畑先生に。

 それはキツい。

 なんせ遠回しにフラれたようなもんだ。

 まあ、寂しいと思ってくれたあたり全くの脈なしではないのではないだろうか。

 

「他人事じゃないわよ」

「え゛っ?」

「噂が流れた日、『風間君と付きあっとるってほんま?それならそうと言うてくれればええのに』ってしっかりこのかも噂を信じていたわよ」

「うわあああああああっ!?!?」

「……わかってたけど、その反応はそれはそれでムカつくわね」

 

 なんてことだ……!

 なんてことなんだ……!!

 

 少し考えれば分かることだった。

 明日菜と付き合ってる噂が流れたらクラスメイトであることに加えてルームメイトである近衛さんの耳にも入るに決まっている。

 例え明日菜が俺との交際を否定しても、近衛さんの中で俺が明日菜に好意を抱いているという誤解が生まれるかもしれん。

 そうなると俺自身が近衛さんの誤解を解くのが一番なのだが、それはつまり近衛さんとの会話を試みないといけないわけでああああああああっ!!

 

「落ち着け!」

「もぐっ!?」

 

 テーブルにあった肉まんを口に突っ込まれた。美味い。

 

「いい?とりあえず英一も周りにちゃんと私達の関係を否定しなさい。特に!特に高畑先生には早急に!」

「お、おう」

 

 高畑先生とは接点がないのだが、同じ学園の生徒と教師だ。

 会いに行っても扱われることはないだろう。

 突然会いに来た生徒が教え子である生徒との交際を否定するとか高畑先生にとっては戸惑いしかないだろが。

 

「私もこのかには誤解を解くよう言っておくけど、やっぱり英一本人がはっきりと否定した方がいいと思うの」

「でもそれじゃ」

「でもじゃない。アンタったらいつまでたってもこのかと仲良くなるどころか話しかけることすらしないんだもん。なのに何で周囲の外堀は順調に埋めてんのよ」

「俺だって出来るなら一気に本陣に攻め込みた」

「黙らっしゃい。応援してる私もいい加減痺れを切らしたわ」

 

 先程から俺の言葉をバッサリと切り捨てる明日菜。

 全くもってその通りのため反論出来ないのだが、お前だって似たようなもんだろ。

 せめてもの抵抗にそう言い返そうとするが、それより先に明日菜が思いもよらぬ一言を放った。

 

「だからもうアンタを紹介することにしたわ」

「………………えっ?」

 

 紹介?

 俺を?

 誰に?

 

「このかに決まってるでしょ。そろそろ来るはずだからこの機会に連絡先ぐらい交換しなさいよ」

「明日菜ー?」

「ほら、噂をすれば」

「えっ、えっ、ちょっまっ」

 

 すると、前方からこちらに近付いてくる人物が。

 その人物を俺が見間違えるわけがない。

 

 近衛さんだ。

 

 一気に頭の中が真っ白になる。

 ちくしょう、明日菜め。

 余計な事を……いや。明日菜は悪くない。

 明日菜だって俺のためによかれと思ってやってくれたのだ。

 明日菜の言う通り、このままではいつまでたっても俺の中で決心がつかなかっただろう。

 ならば、今日今ここでこそ一歩を踏み出すべきだ。

 

 話したい事。

 伝えたい事。

 訊きたい事。

 やりたい事までたくさんある。

 

 それでも最初はしっかりと俺を知ってもらいたい。

 さあ、いけ。

 いって男を見せろ俺ーー!

 

「あっ、風間…くんやよね?ウチの事わかる?今まで何度か会ったことあるんやけど……」

「………」

「(英一!口をパクパクさせてないで何か言いなさい!)」

「し、ししししししし」

「「し?」」

「仕事に戻りまあああああすっ!!」

「あっ」

「ちょっぉ!?」

 

 おわった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

「フム」

 

 超鈴音は超包子の屋台の裏で一人落ち込む少年の姿を黙って見ていた。

 

「……貝になりたい」

「貝?貝は美味しいから好きアルヨ?」

「生きててごめんなさい……」

 

 風間英一。

 

 この時代の歴史に加え、未来の知識を有する超にとっても風間英一という男は得体の知れないイレギュラーな存在であった。

 

 超の記憶・知識の中に風間英一という名は存在しない。

 だからこそ今まで無関係な一般人と判断し、特に関わりを持つことはなかった。

 それがどうだ。

 超の知る歴史において重要な役割を担う神楽坂明日菜を始めとし、桜咲刹那や長瀬楓、古菲といった実力者と差はあれど関係を築いている。

 果てにはあのエヴァンジェリンとも接触があったとのこと。

 何人か例外はいるが、風間英一はこの一年で急激に2-Aの者との関係を築いている。

 偶然?

 こんな狙ったかのような偶然があるものだろうか。

 まだ例の少年が学園に訪れていない以上、確定は出来ないが、この様子では彼とも接触を図るに違いない。

 そうなると余計に風間英一という名が自身の知る歴史に登場していないのがおかしい。

 考えられる理由としては、自身が過去に跳んだ事による歴史のズレ。

 あるいは彼自身も同様に異なる軸から……そこまでで一旦超は考えを止めた。

 これ以上は確証がない以上推測の域を出ないからだ。

 それに、超が英一を警戒している一番の理由はそこではないからだ。

 

 世界樹の異常発光。

 

 超の計画の要である世界樹。

 その観測を一日たりとて怠ったことはない。

 だからこそ気付けた。

 

 学園祭期間中でもないのに、何の予兆もなく突然発光した世界樹。

 一瞬の反応ではあったが、学園祭期間中を上回る魔力の高まりをも見せた。

 恐らく学園の人間も世界樹の異常に何人かは気付いただろう。

 だが、何もわかっておるまい。

 

 風間英一こそ、その原因であり、高まった魔力の中心にいた人物であることに。

 

「ちょっといいかネ、バイト君?」

「……なんすかオーナー。クビっすか。どうせなら物理的に切ってください」

「……何があったらそんなネガティブになれるヨ」

 

 超は何も風間英一を排除すべきとまでは現段階では考えていない。

 極端な話、彼が何者であろうと何をしようと自身の計画の邪魔にならなければいいのだ。

 そのため風間英一について徹底的に調べたが、意味はなかった。

 

 だからこそ、彼が自身の店で働きたいと申し出た事は願ってもいないことだった。

 なにせ自身の情報網を持ってしても彼の正体については何も分からなかった。

 正確には、素性などある程度は分かったのだが、それは超から見てあまりに不自然なほどに普通すぎるものだった。

 

「バイト君」

「はい?」

「世界に大きな危機が訪れた時、君は何を思い、何をする?」

「…………はい?」

 

 唐突な超の問い掛けに英一は呆気に取られた表情を浮かべる。

 当然だろう。

 超だって何の脈絡もなく唐突にこんな訳の分からない質問をされたら同じ反応をする。

 だが、それでも英一が敵か味方か分からず、自身の計画を話すわけにはいかない以上、そういった曖昧な聞き方しか出来なかった。

 

「えー……っと。心理テストかなんかっすか?」

「まあ、そんなとこネ」

 

 そう言うと律儀なことに「うーん」と首を捻りながら真剣に悩みだした。

 その姿からはとても彼が何か企てているようには見えず、見かけ通りの普通の少年に見えた。

 

 だが、この質問の答え次第である程度英一の本性を探ることが出来る。

 敵か味方か。

 善か悪か。

 

「何もしないっすかね」

 

 だからこそ、この返答は超にとってあまりに想定外であった。

 

「…………いやいやいや。もっとこう男らしく危機に立ち向かう~とか何としてでも自分は生き残る~とか何らかしらあるはず」

「ただの中坊に何を求めてるんすか」

 

 ただの中坊じゃないと思ったから訊いたんだという言葉をなんとか飲み込む。

 しかし、そうなると本人の言う通り風間英一は本当にただの一般人なのか?

 自分の考え過ぎで今迄の出来事は全て偶然?

 いや、しかしそうなると説明がつかないものがある。

 

「まあ、もし許されるなら」

「ん?」

「危機だろうと何だろうと好きな人の側にいたいっすかね」 

「…………」

「ただ俺はその好きな人から無視した上に逃げてきてしまったわけで……うん、これは絶対嫌われた。これで嫌われなかったらどんな女神だよ。いや女神だったか。その女神から逃げた俺は背信者だなこれは許されない死のう」

 

 思考の渦に呑まれかけた超だが、その一言で我に返った。

 そして、再び目から光を消した英一を見て感情が抑えきれなくなった。

 

「は、はは。はははははっ!なにかねそれは!うん、面白い。面白いヨバイト君!」

 

 あれこれ色々考えた自分が馬鹿らしくなった。

 結局、風間英一が何者かは分からないままだ。

 それでも分かったことがある。

 この男は、ただただ真っ直ぐで馬鹿なのだ。

 いずれ目の前の男は計画の障害になるかもしれない。

 だが、構わない。

 

 何故なら、超は気に入ってしまったのだ。

 風間英一を。

 世界の危機であろうと迷わず自分の意思を優先させると言った男を。

 

「うん、その答えは実に私好みヨ。褒美に時給アップヨ」

「でもどうせ死ぬなら告白してから死ぬ………って、え?時給アップ?」

 

 超はそう一言残して屋台の中に戻っていく。

 残された英一はただ呆けることしかできなかった。

 

 

「……結局なんの話だったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

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