バカな筋肉と優等生   作:にと‪ ꪔ̤

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いつもの倍の字数になっていて戦慄しています。書いていてとても楽しかったので後悔はしていません。


第二問

「頼む!優子!!」

「絶対イヤ!」

 

そろそろ文化祭の日取りも近くなってきたこの頃。

Aクラスも勿論準備の真っ最中なんだけどーー皆手を止めてアタシ達の方を見ている。理由は簡単、

 

夏目がメイド服を片手にアタシに詰め寄ってるから。

 

事の発端はつい10分前。

アタシはクラスを指揮していて、主に全体の管理なんかを中心に動き回っていた。だから、当日にホールに入るのかキッチンに入るのかをまだ決めていなかったのだ。

それでどちらにつくかという話になったんだけどーー当然アタシはメイド服なんて来たくなかったのでキッチンを希望。そしたら夏目がアタシのメイド服姿が見たいと駄々をこね、この状況である。

 

「確かにアタシなら悪くないとは思うけど、そんなの着てお帰りなさいませぇ~とか絶対イヤよ!アタシの沽券に関わるわ!」

「優子の沽券なぞ知らん!俺はお前のメイド服が見たい、それだけだ!!」

「知らんって何よアンタ!アタシがどんだけ頑張って優等生のふりして内申上げてると思ってるの!!こんな格好してたら秀吉(馬鹿)と同類の女にされるじゃない!!」

「いや、文化祭に全力で取り組む優等生に見えるかもしれん!」

 

ああ言えばこう返してくる夏目。何でこんなことに関しては凄い食いついてくるのよコイツ…!この熱量を勉強に向けなさいっての!

 

「大体、ウェディングドレスは嫌で何でメイド服は見たいのよ…!!」

「それはそれ、これはこれ、だ」

「開き直ってんじゃないわよ!」

 

…もう、こうなったら…!!

 

「…………………はぁ、もういいわ、着ましょう、着れば良いんでしょう?」

「優子…!」

 

「但し、アンタもメイド服を着るのよーー夏目」

 

肉を切らせて骨を断つ。

流石にこの条件ならコイツも断るでしょ!女装なんてコイツがやるわけ「わかった!」

 

な ん で よ !!!

 

「いや何でよ!?!?何でそんな速攻で着る選択が出来るの!?!?何!?アンタに男としてのプライドはないの!?!?!?」

「目的のためならプライドなど安いもの!」

「鳥肌たってるじゃない!体は思いっきり抵抗してるじゃない!!」

「武者震いだ!!」

「絶対違う!!!」

 

「でも、夏目みたいな大柄な男が着れるメイド服なんてないんじゃないかな?」

 

アタシ達の会話を遮るように発言したのは、橙色の髪に同色の瞳を携えた不健康そうな男子生徒ーー本田樹君。

 

「そ、そうよ!アンタ用のサイズのメイド服なんてないわ!残念だけど大人しく諦めてーー「大丈夫だ、ツテはある!」え、って何処行くのよ夏目ーー!!!!」

 

夏目はそう言うなり勢い良く教室のドアを開き、そのまま走って何処かへ行ってしまった。

 

 

 

明久side

 

「ねえ雄二、机ってほんとにこれでいいの?」

「ああ、あとは秀吉が来ればーーっと、来たな」

「雄二、これで良いかのう」

「十分だ」

 

雑多に重ねられたみかん箱の上に、上質そうなテーブルクロスがひかれる。そうすると、それまでは見た目最悪なみかん箱の机は、何とも可愛らしい机に変化していた。

 

「素敵ですね!」

「へえ…ものは考えようね」

 

その変わり身に美波と姫路さん(女性陣二人)も感嘆の声をあげる。

うん、確かにこれは凄い。本当にこういう知恵は働くなぁ、雄二の奴…。

と、感心しているとーー

 

「たのもーー!!!!!」

 

スパァン!と教室のドア…ドア(?)というより障子が勢い良く開かれた。

 

「夏目じゃない、どうかしたの?」

 

近くにいた美波がその障子を開けた人物、夏目惣司郎君に声をかける。

 

「ああ。…康太はいるか?」

「?コウタ??」

 

と美波が首をかしげる。

あれ?このクラスにコウタ、なんていたっけーーってああ、そういえば!

 

「ムッツリーニ、客が来てるぞ!」

 

僕が思い出したところで、雄二が良く通る声で奥に声をかける。

そうだ、ムッツリーニの名前は土屋康太だったよね…土屋、ならともかく康太って呼ぶ人は全然いないからなぁ、美波が首をかしげるのも仕方ない気がする。…僕もわからなかったし。

 

「…………なんだ、惣司か」

 

雄二に呼ばれて、ムッツリーニもこちらにやってきた。

…そうし?って、ああ、惣司郎で惣司か。下の名前で呼び合ってるなんて仲が良いんだろうか。何だか意外な組み合わせだなぁ…。

 

「…………………何の用だ」

「頼みがある」

「…………………何だ」

「メイド服を作ってくれ」

 

「「「ぶふぉっ!!」」」

 

予想の遥か上過ぎる頼み事で、思わず吹き出してしまう。

確かにムッツリーニならその手の話は適任だけども!何でメイド服!?

 

「そ、そういえば姉上がAクラスはメイド喫茶をやると言っておったのう!もしかして、服の数が足らんかったのかの?」

 

と秀吉が慌てて夏目君に尋ねていた。

ああ、なるほど!それなら夏目君がメイド服を頼むのも納得だ。それにしても数が足りないなんて、Aクラスも案外抜けてるところがあるんだなぁ。

 

「いや、数は足りている。何なら予備があるくらいだ」

「え?じゃあ何で」

 

「俺の着れるサイズがないんだ」

 

 

度肝を抜かれた。

 

 

「…………………断る」

「後生だ、頼む」

「…………………何を言われても作らない。俺には俺のプライドがある」

「優子のメイド服がかかってるんだ」

「三秒待て」

 

プライドって何だったんだろう。

 

驚きの変わり身の早さでメイド服を縫い始めるムッツリーニ。その速度はかなり神がかっていた。

 

「…何がどうしてそんな話になったんだ」

 

と、ムッツリーニが縫っている合間に呆れた素振りの雄二が夏目君に尋ねた。

あ、それは僕も気になる。

 

「優子がキッチンかホールに入るかで揉めてな。俺がメイド服を着て欲しいと嘆願したら、着ても良いけど夏目も着ろ、と」

「それで着ちゃうんだ…」

「アンタに男としてのプライドはないの?」

「着たくはないが、背に腹はかえられん」

「………………ナイス判断」

 

器用に片手で縫いながら、片手で親指を立てるムッツリーニ。夏目君も同じく、親指を立てて応えていた。

 

「…あの、夏目君に聞きたいことがあるんですけど…」

 

と、それまでずっと話していなかった姫路さんが、おそるおそるといった風に夏目君に声をかけた。

 

「?なんだ?」

 

そんな態度も気にならないのか、それとも気にしないのか、夏目君は変わらない様子で聞き返す。

 

 

「夏目君と木下さんって…付き合っているんですか?」

 

 

ドスドスドスっ(畳にカッターが突き刺さる音)

 

 

「発言に気をつけなきゃダメじゃない、瑞希。ただでさえウチらのクラスはこういうことにうるさいんだから」

「ごめんなさい、でもどうしても気になってしまって…」

「…でも、ウチも気になるわね。どうなのよ、夏目」

 

「付き合ってないぞ」

 

ふう、よかった…。もしも夏目君が木下さんと付き合ってる、なんて羨ましいことになってたら処刑しなきゃだもんね。流石に僕も知り合いには手をかけたくないし。

 

「まあまあ、そう他人の恋路に首を突っ込むでないぞ、お主ら」

「あれ?珍しいね、秀吉がFFF団の活動(こういうこと)に口を出すなんて」

「…身内の色恋沙汰というのは何だか気恥ずかしくてのう……。それに、」

「「「それに?」」」

 

 

「夏目の頑張りはワシもよく知っておる。…姉上と同じクラスになりたいがため、苦手な勉強を姉上に教わったりの。じゃから、夏目の努力をあまり邪魔しないでもらいたーー」

 

 

「「「殺せぇっ!!!」」」

 

 

「お主らワシの話を聞いておったか!?!?」

 

 

すかんっ!と強い音と共に廊下の壁にカッターやシャーペンが突き刺さる。

ちぃっ!教室に気を回さなきゃいけないのがもどかしい!姫路さんの転校さえなければこんなボロ教室、いくら傷がついたって気にしないのに!

 

「顔はやめてくれ、傷がついたら接客に悪影響だろ」

「気にするのはそこなんですね…」

 

「黙れ邪教徒…!誰もが踏み入れることの許されぬ、遙か遠き桃源郷(木下姉妹の家)を汚す異端者め…!!その罪、死を持って贖うべし。 それがーー」

 

 

「「「我ら異端審問会の掟」」」

 

 

「………………落ち着け、お前ら」

 

とりあえず教室から出ないと動きにくいなとか、どう皆に指示を出したらいいか等頭を回していると、ムッツリーニが縫い終えたメイド服を広げながら静かに告げた。

 

ムッツリーニが処刑を止めるなんて、明日は血の雨でも降るのだろうか。

それともまさか、旧友の処刑は出来ないなんて甘っちょろいことでもーー

 

「………………処刑は、木下姉のメイド服を見終えてからでも遅くないはず」

 

「「「異議無し」」」

 

よかった、明日はきっと良い天気になるだろう。

 

「……………首を洗って待っていろ」

「受けて立つ!」

 

ムッツリーニが乱雑にメイド服を投げると、夏目君もそれを握るように受け取り、堂々と去って行った。

…それにしても、木下さんのメイド服ということはつまり秀吉のメイド服も見られるってことだよねっ!ねっ!?

 

まだ来ぬ文化祭当日に、僕は密かに期待を抱き始めていた。

 

「…何かアキから邪な気配を感じるんだけど?」

「変なことは考えちゃダメですよ?吉井君」

 

 

ーー背中に悪寒を感じながら。

 

 

明久side out

 

 

 

「ただいま!」

「……随分と遅かったじゃない」

「色々あってな」

 

と言いつつ、夏目は持って、というより握っていた布をばさりと広げた。

 

しっとりと重たそうな黒い生地で縫われたロングスカートがふわりと宙を舞う。上に付けられている落ち着いた白色のエプロンドレスは、下の重厚そうなスカートに合わせてか控えめにフリルが付けられているだけのシンプルな作りだ。ワインレッドの大きなリボンは絶妙なアクセントとなっている。

外見は格好良いのに中身は残念ーーそんな夏目のちぐはぐさがよく表現されているな、と思った。

 

「へえ…すっごいねえ、これ。どうしたの?」

 

愛子がぺたぺたとメイド服を触りながら尋ねる。

遅かった、とは言っても夏目が出て行ったのは30分前だ。そんな短時間でこんなメイド服をこしらえてくるなんて…。これを見せられてしまうと、アタシ達のメイド服の方が何だか陳腐に感じてしまう。

 

「ああ、これはーー」

 

「………惣司」

 

がらり、と突然Aクラスのドアが開かれ、入ってきたのは土屋君だった。意外な乱入者にどよめくAクラス。そんな様子も気にせず、夏目は土屋君に声をかけた。

 

「どうした、康太」

「…………生地が余った」

 

と、土屋君が何かーーあれはフリルドレス?を手渡した。

さっそくかぽっ、と被る夏目。

 

「「「ぶふっ……!」」」

 

ガタイの良い夏目と()()はあまりにもアンバランスで浮いていて、笑いが込み上げてきて止まらない。

 

「どうだ」

「…………吐き気を催す」

 

と言いつつ、土屋君も下を向いて笑いを堪えていた。

 

「ねえ、せっかくだしさ、」

 

愛子が化粧品をばらっと広げ、にんまりとあくどい笑みを浮かべる。

土屋君が抵抗出来ないように夏目の腕をがっちりつかみ、代表は夏目を近場の椅子に座らせると、ぐるぐると椅子ごと縛り付けた。

 

「…………康太」

「…………俺は言ったはずだ、『首を洗って待っていろ』と」

 

と、普段無表情な彼からは想像がつかないほどにこやかな笑みを浮かべる土屋君。

 

 

「ーーさて、可愛くなりましょ、惣子ちゃん」

 

 

アタシが化粧品を抱えてそう言うと、夏目は珍しく顔を引きつらせた。




出演キャラクター【()内は作者様】
・本田樹(羽の生えた巻物様)

活動報告の方でも報告させていただきましたが、一度クラスメイト募集の方を締切とさせていただきます、ご了承ください。
落ち着きましたらまたやりたいと思っておりますので、その時はまたよろしくお願い致します…!
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