「ここにいたのか、木下さん」
アタシ達がゆっくり談笑していると、がらりと障子が開けられて、大柄でしゃくれた長い顎が特徴的な男子生徒ーー大森漠君が息を切らせて入って来た。
「…もしかして、何か問題?」
「…ああ。うちの学園の生徒が、大声でFクラスが汚いだのと話している。それも何度もだ」
「「何だって!?」」
苦々しい顔で告げる大森君に詰め寄る吉井君と坂本君。
…うちの生徒が営業妨害?嫌がらせにしては少しやり過ぎなような気がする。それに、それに対する吉井君と坂本君の食いつきも少し異様だ。…何かワケありだったりするのかしら…。
「チッ、道理で客が来ねえはずだ…!」
「雄二、早く行こう!このまま閑古鳥じゃ困るよ!」
「わかってる!…だが、Aクラスか……」
「そんなこと言ってる場合じゃないって!」
「木下さん、」
「いいわよ。吉井君と坂本君で解決してくれるならそれに越したことはないわ。…それと大森君、代表に会場に直接向かう、と伝えておいてもらえる?」
「了解した!行くぞ、吉井、坂本!」
「「おう!」」
ばたばたと去って行く三人。それを、ひらひらと手を振りながら見送った。
「さて、アタシもそろそろ行かないと…ご馳走様」
食器類を一カ所にまとめ、紙ナプキンで軽く口元を拭い立ち上がる。
「お代はいくらかしら」
「妹を連れて来てもらったんだし、ウチが奢るわ」
「…わざわざ気にしなくて良いのに」
「ウチが勝手にしたいだけだし、気にしないで」
「そう?…それならお言葉に甘えるわ」
島田さんに礼を伝え、Fクラスを後にする。
…それにしても…島田さんは良いお姉さんなのね。
アタシにはとても真似出来ない所業に感心する。アタシも秀吉あれくらい優しく…いや無理ね、普通にイライラするもの。色々なことで。
そんなことを考えてながら歩いて会場に向かうと、まだ誰もいないようだった。
しばらくぼーっとしていれば、パタパタとメイド服のスカートを揺らしながら代表が駆けてくる。
「…………遅くなった」
「大丈夫よ、まだ先生も相手も来ていないし」
「…………そう、よかった」
ほっ、とため息をつく代表。
余程ペアチケットが取りたいのか、かなり張り詰めているみたいだった。
ほぐしてあげたいけど…何かないものかしら…。
なんてウンウン唸っていれば、いつの間にか対戦相手も今回の担当の遠藤先生も来ていた。
「両者共、準備は宜しいですか?」
アタシは短く返事をし、代表が小さく頷く。
相手のカップルらしき男女の対戦相手もこくりと頷いた。
「では、試合開始です!」
「「「「
『Aクラス 霧島翔子 & Aクラス 木下優子
英語W 334点 & 318点 』
VS
『Bクラス 加西真一 & Bクラス 入江真美
英語W 179点 & 166点 』
前回よりも相手の点数は高いけど、それでも問題無さそうだ。
「流石Aクラス…どうしよう、真一君…」
「大丈夫!俺達二人ならAクラスだって目じゃないさ!ペアチケット、絶対とってデートしよう、真美」
「…真一君…!」
二人の熱々なやり取りを冷めた目で見る。
…なんか、こう…見ているこっち恥ずかしいわね…。
「……ア……ト……たさ…い」
ちらりと横目で代表を見ると、俯いてブツブツと何か呟いていた。さらさらと長い黒髪が揺れてだいぶ怖い。まるで貞子みたいだ。
「……ペアチケットは、渡さない…!!」
「えっ、きゃあああ!!!」
ブォンッ!勢いよく振り下ろされた日本刀を慌てて避ける相手の召喚獣。
「真美!」
慌てて庇おうとする男子の召喚獣をランスで牽制する。
「アタシのこと…忘れちゃ嫌よ、イロ男君?」
「くっ…!」
突き立てたランスを引き抜き、間髪入れずに振るう。
相手も剣で受け止めたが勢いに負け、そのまま後ろに倒れ込んだ。相手を馬乗りで押さえ込み、首へ向け全力でランスを突き立てる。
『Aクラス 木下優子 VS Bクラス 加西真一
英語W 318点 VS 0点 』
跡形もなく消える相手の召喚獣。
「真一君!」
「油断は禁物よ、よく覚えておきなさい」
「きゃあああっ!」
相手が動揺した隙に、代表の召喚獣が素早く肉薄する。
二体の召喚獣が消えたことを確認し、遠藤先生が高らかに宣言した。
「勝者、霧島翔子、木下優子ペア!」
ふぅ…二回戦も無事に終えられてよかった。
…悪いけど、代表のためにデートは諦めて頂戴、と心の中で謝りながら会場を後にした。
「次はもうすぐなんだっけ?」
「………うん。B会場で現代社会」
試験召喚大会は、出場者の多さから二つの会場を臨機応変に使いつつ行われていた。先程いたのはA会場だったが、時間の都合でアタシ達はB会場に移動しての試合だ。
時間ギリギリではないものの、対戦相手はもう来ていたようだ。
「…出来れば…貴方達とは当たりたくなかったです」
そこに立っていたのは、クラスメイトの佐藤さんとーーもう一人は知らない女生徒だった。
「そうね、アタシも当たりたくなかった…。でも、クラスメイトといえど勝負は勝負。容赦はしないわ」
「是非、そうしてください。全力の貴方達に勝ってみせます」
「あら、言うじゃない」
「すまない、遅くなったな」
バチバチと火花を飛ばしあっていると、西村先生が小走りでやってきた。あれ?現代社会は氏家先生じゃ…?
「担当の氏家先生なんだが、今日は外せない用事で休んでいてな。代わりに俺が務める」
なんだ、それなら納得だ。
西村先生がアタシ達を交互に見て、うむ、と頷く。
「お互い気合は十分なようだな。ーーでは始め!」
「「「「
『Aクラス 霧島翔子 & Aクラス 木下優子
現代社会 312点 & 315点 』
VS
『Aクラス 佐藤美穂 & Bクラス 里井真由子
現代社会 328点 & 196点 』
全体的な点数は勝っているけれど、個々の点数は劣っている。
前は点差があったからあまり考えずに振るえたけど…この点差での力技は厳しそうだ。さてどうしたものか…。
「やあーっ!」
そんなことを考えていれば、里井さんの召喚獣がこちらへ向かい、剣を振り下ろしていた。咄嗟に横っ跳びをさせて避けさせる。
「はぁッ!」
間髪入れずに佐藤さんの召喚獣がこちらへ剣を振るう。だけど剣は掠めていたのか、アタシの召喚獣の頬からツー…と血が垂れた。
「やってくれるじゃない…!」
乾いた唇をぺろりと舐め、集中する。
…そうだ、今まで1対1が二つの形式でやってきたから忘れてたけど…1対1で敵わないなら、2対1に持ち込めば良い!
「真由子ちゃん、危ない!」
里井さんの召喚獣に向けてランスをと振るうと、里井さんの召喚獣は消えていった。けれどそれと同時に、佐藤さんの召喚獣がアタシの召喚獣の腕を切り落としていた。
「代表!」
「…………(こくり)」
佐藤さんの召喚獣の後ろから、代表の召喚獣が胸元を剣で刺す。アタシの召喚獣も落としたランスを拾い上げ、とどめと言わんばかりに胸元を突いた。
佐藤さんの召喚獣も、粒子となり消えていく。
「勝者、霧島翔子、木下優子ペア!」
西村先生の宣言を聞き、ふぅ…とため息をついた。
「今回は負けちゃいましたけど…次の時は負けません!」
「今度も、アタシ達が勝つわよ。…ねえ代表?」
「……………勿論」
互いに不敵な笑みを浮かべつつ、会場のステージから降りる。
次に戦う時が楽しみ……なんてね。
そんなことを思っている自分に、密に苦笑いを零した。
出演キャラクター【()内は作者様】
・大森漠(kitto‐様)