バカな筋肉と優等生   作:諦。

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ウルトラムーンのプレイがとても楽しく、更新を怠らないように気を張る今日この頃です。


第九問

久保side

 

「あれ、誰か木下さん知らない?」

 

一日目の文化祭が終了に近付き、もう客も居なくなってきた頃。

ノートを片手に本田君がクラス全体にそう尋ねた。

 

「木下さんは召喚大会に出ているのでは?」

 

と、返答したのはミニスカートにニーハイソックスという本場(秋葉原)のメイド服を着た岡田さんだ。

 

「俺もそう思ったんだけど、もう流石に終わってるんじゃないかな?」

 

言われてみればそうだ。いくら出場者が多いと言えど、僕らと木下さんが戦ったのは二時間も前。いくら長引いたって何時間もかかるようなことはないだろう。

 

「優子といえばだけどさ、代表も帰って来てないんだよねえ…どうしたんだろ?」

 

と、辺りをキョロキョロと見回すのは、こちらもミニスカートのメイド服が眩しい工藤さん。

言われてクラス中を見回してみれば、 確かに美麗な容姿と召喚大会の実績でメイド喫茶を賑わせた代表こと霧島さんも不在だ。一体二人揃って何処に行ってしまったんだろう?

 

「まだ屋台とか見てるんじゃないか?二人とも、出し物と大会で忙しくてロクに見れてないだろうし」 

 

そう控えめに発言したのは、キッチンで大活躍をしていた大森君。それもあるかもしれない。そうなら無理に邪魔せずゆっくり回らせてあげたいけどーー

 

「いや、二人とも見なかったぞ」

 

キッパリとそう言い切ったのは、中で仕事をさせるのが怖い、と満場一致で宣伝係に回された夏目君だ。

 

「「「………」」」

 

その一言で静まりかえるAクラス。

教室にも居なくて、校内にも居ないってそれ、かなりヤバいんじゃ…

 

「代表と木下さんに限って校外に出てサボり、の線はないよね」

 

誰もが一瞬よぎった考えをばっさりと否定したのは、落ち着いた雰囲気の漂うロングスカートのメイド服姿の霧島素人さんだ。

そうであれば良いけどーー素人さんの言う通り、真面目な霧島さんと木下さんに限ってそんなことはしないだろう。

 

「探してくる」

「待った」

 

駆け出そうとする夏目君の腕を掴んだのは樋野君だ。この状況下で夏目君一人に行動させるのは危ないと思ったんだろう、ナイス判断だ。

 

「何故」

「むやみやたらに探し回るより、ウチの学校にはプロがいるんだからさ、そっちに頼もうよ」

 

不服そうな夏目君にそう告げたのは工藤さん。

…プロ?そんな迷い犬を探し当てるようなことが得意な人がこの学校にーー居るな、一人。

 

「わかった、急ぐぞ工藤」

「へ?ちょっとま、」

 

工藤さんが言い終わる前に、工藤さんを担いで走り出す夏目君。

……工藤さんだけで大丈夫…ではないだろう。それこそ夏目君の手綱を握れるのは木下さんしか居ないのだから。

 

「…ちょっと僕も行ってくるね」

 

そう告げて、まだ文化祭特有の浮ついた雰囲気で賑わう廊下を走る。

…あまり良くないことだけれど、今日だけは許して欲しい。霧島さんと木下さんに何かあっては困るしね。

多少息を切らしたけれど、Fクラスにはすぐに辿り着いた。

立て付けの悪そうな障子をおそるおそる開けてみるも、中は酷くがらんとしている。

 

「ーーそうか、ありがとう」

 

誰も居ないのか、と辺りを見回していると、奥の方から夏目君と酔いからか若干青ざめている工藤さんが出てきた。

 

「どう?土屋君は何か知ってたかい?」

 

工藤さんの言っていたプロ、というのは恐らく土屋君だ。校内中にカメラを仕掛けている土屋君であれば、霧島さんや木下さんの居場所ーーとまではいかなくとも、何か情報を掴める可能性は高い。

 

「…さっき、吉井君とか坂本君と一緒にどっか行っちゃったみたい」

「そっか…。あ、そうだ、土屋君と仲の良い人に連絡とってもらうとか」

「康太は携帯電話を持っていないぞ」

「うーん…それじゃあどうしようもないね…。…とりあえず、クラスに戻って報告しよっか」

「…この人数の少なさ、吉井と坂本、康太が出て行った…あまり良い予感がしないな、急ぐぞ」

 

夏目君の言う通りだ。浮ついた空気の漂う廊下を突っ切るように走る。嫌な予感や不安、心配がない交ぜになって脂汗が出てきた。

教室のドアを開くなり、声高らかに夏目君が告げる。

 

「康太は居なかった。吉井と坂本と何処か出ているらしい。ーー皆、探しに」

「待ってください、夏目さん」

 

夏目君の言葉を遮ったのは、膝丈のメイド服を着た菊池さん。菊池さんは何やら弄っているみたいだけど、手元はよく見えなかった。

 

「夏目さん、これを」

 

少し待てば、菊池さんは夏目君の前に立ち、携帯電話を渡した。携帯電話は通話画面になっており、表示されている名前はーー吉井明久。

 

「ありがとう」

 

フッ、と微笑み、夏目君は即刻携帯電話を耳に当てた。幾度かのコールの後に、プツッと音がする。

 

「もしもし!康太は一緒か!?」

『康太ーーってその呼び方は夏目君!?ってちょっとムッツリーニ!』

『……………霧島と木下は誘拐されている、場所は坂を下りてすぐのカラオケボックス』

「わかった、すぐ行く!」

 

そう夏目君が言うと、プツリ、と音と共に電話が切れた。

 

「吉井君はなんて?」

「誘拐されているらしい、場所は坂を下りてすぐのカラオケボックスだそうだ」

「「「なっ!?」」」

 

誘拐!?……もしかして、今日やたらと多く見かけたチンピラの誰かに攫われたとか…!?霧島さんも木下さんも整った顔立ちをしているし、誘拐されて強姦なんて十分ありえる!

Fクラスの人数が少なかったのも、もしかしたら姫路さんらまで攫われていたから…?それなら吉井君や坂本君らが出て行ったのも納得が出来る。

だけど幸い中の幸い、姫路さんらと霧島さん達を攫った人達は同じみたいだ。

 

「行って来る!」

 

そう言うなり夏目君が教室から飛び出して行った。

意中の木下さんが攫われた、とあれば…彼のことだ、黙って見過ごすわけにもいかないだろう。

納得は出来るけどーーどうしよう、いくら吉井君達が居るとは言え夏目君一人行かせるのは色々な意味で不安だ。

僕が追いかけるのが一番良いけど、短距離ならともかく長距離で走るのはキツいものがある。追いついても最悪の事態であれば、チンピラの相手をしなくちゃいけない。自分で言ってしまうのは悲しいけれど、僕は非力だから荒事にはあまり向かないだろう。

 

「惣司郎だけじゃ不安だし、俺も行ってくる」

 

そう悶々と考えていると、樋野君が走って出て行った。

樋野君は去年から同じクラスだったみたいだし、彼なら安心だ。

そう思う反面、自分も飛び出して行ければ格好いいのに、とも思ってしまう。こういう場面になると自分のための逃げ道ばかり探してしまうから、頭が良いのも少し考えものだ。

…そんな無駄なことを考えずに飛び出せる吉井君や夏目君は、たまに羨ましくなる。

 

「それで、俺達はどうする」

 

静まりかえる教室の中、面倒臭そうにそう呟いたのは霧島玄人君だ。

 

「…とりあえず、夏目君と樋野君が戻ってくるまで教室で待機かな。それから笂さんは樋野君からいつ連絡が来ても良いように、携帯電話を出しておいて欲しい」

「わかった」

 

ピリピリと緊張感の解けない中、僕達は四人が戻って来るまで待機することにした。

霧島さんと木下さんに何もありませんように、と切に願いながら。

 

 

久保side out




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