結果から言うと、ジェシカ提案の女装メイド喫茶は大成功だった。
女装のわりにメイドのレベルは低くくなく、前日と違うメイドさんがいる!と昨日の客もまた訪れに来ていたり、女子の手作りが食べたいと訪れる客も数知れず。
そして何よりーー
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
「「「キャァアアーーッッ!!!!!」」」
夏目と久保君の執事コンビが大盛況だった。
二人はホールにいるはずなのに、その女子達の悲鳴にも似た歓声はこちらの厨房にまでよく響く。
久保君はわかるけど…全くあの馬鹿の何が良いんだか。顔?顔が良いの??
「ぶすっとした顔してる」
「き、霧島さん!?」
若干イラつきながらお皿を洗っていると、昨日のメイド服とはうって変わって愛らしいエプロンを着た霧島素人さんが顔をのぞき込んできた。…び、びっくりした…。
「そんなに夏目がモテるのが気にくわない?」
「……そんなわけないでしょ。何であの馬鹿がモテるのか不思議なだけよ」
「知らないの?夏目って、結構人気だよ?」
「……………へ?」
アイツが??????
「下級生とか、上級生とかがかっこいい~って。…流石に二年生では聞かないけど」
「そ、そうなの?」
「(こくり)……告白されたりもしてるし」
「……告白ぅ?夏目が??」
「おやぁ??お二人にしては珍しく、何やら楽しそうな話をしているではありませんか!」
「……………岡田さん」
「………そんなに露骨に嫌そうな顔されたら、流石の私でも傷つきますよ?」
えーん、えーんと泣き真似をする岡田さんだが、顔はにんまりと笑っていた。…最悪だ、よりにもよってこの手の話題を岡田さんに聞かれるなんて…!!
「で?何です??告白、なんて聞こえましたが??」
「……何でもなーー「夏目がモテるって話」「ほほぅ」霧島さん!!!」
「……それを聞いて木下さんは夏目さんへの告白を踏み切った、と」
「違うからね!?!?誰があんな馬鹿のことをーー「えっ!?木下さん、ついに告白するんですかっ!?」菊池さん!?しないって!しないから!!」
色めき立った話題が厨房中を駆け回る。
って言うかついって何よついって!!まるで私に気があるみたいな言い方しちゃって…!!!
「今大丈夫か?」
「ぎゃああーーっ!?!!?!」
そんな中、燕尾服を身に纏った夏目がひょっこりと姿を現した。
何でこのタイミングなのほんと空気読めないわねコイツ!!!!どうしてくれんのよこのソワソワとした厨房の空気は!!!!そんなにキラキラとした目で見つめられても告白なんてしないからねそこの岡田さんと菊池さん!!!!!!
「どうしたの?」
口をはくはくとさせ、何も言えない私に代わり、霧島さんが夏目に用件を尋ねる。た、助かったぁ…!
「注文を伝えに来たんだが…何やら騒がしいから何かあったのかと」
「実は木下がむぐっ「何でもないわよ!!で、注文は何かしら!?」」
「そうか。注文はオムライス一つだ。ケチャップはこちらでかける」
「了解。オムライス一つ!」
「「「はーい」」」
「はい、ケチャップ」
「ありがとう」
「いいえ」
とりあえず、近くの冷蔵庫からケチャップを取り出して渡す。
「木下さん、そろそろ休憩に入ってくれ」
すると、昨日に引き続き厨房で指揮をとってくれていた大森君に声をかけられた。
言われてみれば、今日は最初からずっと居たかもしれない…。意識し始めると、ちょっと腰が痛くなってきた。
「わかった。お言葉に甘えるわ」
少し離れたところでエプロンと三角巾を外していると、夏目がじっとこちらを見ていた。
「……何よ」
「大森、俺も休憩とれないか?」
「は?」
「すまん、ホールの奴に聞いてくれ」
「わかった」
そう言うと素早く踵を返し、ホールに戻っていく夏目。すると、すぐに戻ってきた。
「久保に許可もらってきた、オムライスだけ運んでくるからそこで待っててくれ」
「わ、わかった…」
言われるがまま近くのパイプ椅子に座る。 と、またすぐに戻ってきた。
「行くか」
「…その格好で?」
「集客の為だそうだ。飲食も禁止された」
「あ、そ」
出入り口は全てホールにあるため、一旦ホールに出なければならない。
パイプ椅子から立ち上がり、スカートの埃を払ってから厨房スペースから出ると、ガヤガヤと賑やかなホールに出た。
「お疲れさん」
「霧島君も、お疲れ様」
声をかけてきたのは死んだ目で給仕をしている霧島玄人君だ。素人さんとお揃いのロングスカートのメイド服をひらひらと揺らしている。スカートの裾から見える脚はかなり艶めかしい感じに仕上がっていた。
「夏目君、ごめん。夏目君の写真を撮らせて欲しいってお客さんがいて」
「わかった」
オレンジ髪の上にフリルドレスを乗せ、膝丈スカートのメイド服を着こなしているのは本田君。執事服の夏目と並んでも特に違和感が無いのが末恐ろしい限りである。
「「お待たせ致しました」」
なんてその女性客に頭を下げれば、甲高い悲鳴がたちまち上がる。うーん…凄まじいわね…。
「すまん」
「別にいいわよ。客を優先させるのは当然のことだし」
「そうか。それで、どこに行く?」
「私、お腹が空いたの。飲食店に行きましょう?」
「やっぱり怒ってるだろう」
「そんなことないわよ」
ただ気にくわないだけであって。
「…さて。飲食店なんて何処にあったか」
「…行くの??」
「お前が行きたいって言っただろう」
「いや、まぁ、言ったけど…まぁいっか。それなら校庭の出店を回らない?召喚大会も見たいし」
「わかった」
校庭に出ると、ずらりと出店が立ち上る。香ばしい匂いから甘い匂いまで漂っていて、お祭り独特の雰囲気がもうここだけでも形成されていた。売りこみの声をBGMに、一軒一軒じっくり見て回る。
「焼きそばは美味しかったぞ」
「…食べたの?」
「ああ、召喚大会の前にな」
心の中でそっと久保君に手を合わせた。
この馬鹿が何をしたのかなんて知らないけど、もうわりと長い付き合いだ。何があったかおおよその見当はつく。
「…あんまり久保君に迷惑かけちゃダメよ」
「わかっている」
たこ焼きの屋台をじぃっと見ながら夏目が答える。
………全く、聞いてるんだか聞いてないんだか。
「たこ焼きください」
「毎度あり!」
頭に鉢巻きを巻いた男子生徒からたこ焼きを受け取り、そのまま夏目に渡した。それから焼きそば、綿菓子も買って持たせる。
腕時計で時間を確認すると、召喚大会の決勝戦まであまり時間は残っていなかった。…座って食べたかったけど、仕方ない。
「このまま会場まで向かうわよ」
「?食べないのか?」
「立って食べるわ」
「そうか」
会場に着くと、もうとんでもない人の多さだった。後ろの方にはなるが、食べ物が潰れたりしても困るし…と少し空いたスペースを位置どる。ほとんど見えないけど…まぁ勝ち負けくらいならわかるはずだ。
「あれ…?木下さんに夏目君?」
しばらくそこにいると、ふと声をかけられる。
そこに立っていたのは、赤色のチャイナドレスを着た姫路さんと、青色のチャイナドレスを着た島田さんだった。………………比べてしまうのは悪いとは思うけど…凄い………。
「姫路に島田か。昨日は大丈夫だったか?」
「はい!昨日は本当にありがとうございました!」
「おかげ様でピンピンよ。ありがとね、夏目」
眩しい二人の姿を気にもせず、普通の調子で呼びかけに答える。本当にこういう時は羨ましいわね、コイツ。
「優子と夏目も観戦?」
「え、ええ、まあ…。島田さんと姫路さんも?」
「はい。土屋君と木下君にせっかくだから行って来い、と」
「にしてもこんな遠くからで見えるの?」
「全く見えないな」
「でしょうね。…これ、使う?」
「双眼鏡?いいの??」
「もう一つあるのよ。二人で一つ使うことになるけど…いいわよね、瑞希?」
「はい、もちろんです!」
小さいけれどずっしりとした双眼鏡を手渡される。…何だかぴかぴかだし、これってもしかして結構高いやつじゃ…??
『さて皆様。長らくお待たせ致しました!これより試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行います!』
そうこうしていると、そんなアナウンスが辺りに響き渡った。今までのアナウンスは先生方の声の声だったけど、今回は知らない人の声だ。もしかしたらプロでも呼んだのかもしれない。
『出場選手の登場です!』
ワァァ、と湧き上がる歓声に降り注ぐような拍手。そんな熱気に包まれながら、真剣な顔をした吉井君と坂本君が舞台袖から現れた。
『二年Fクラス所属・坂本雄二君と、同じく二年Fクラス所属・吉井明久君です!』
その紹介に更に色めき立ち、歓声と拍手が増す。頑張れ、などの声もいたるところから聞こえてきた。
『なんと、最高成績のAクラスを抑えて決勝戦に進んだのは、二年生の最下級クラスであるFクラスの生徒コンビです!これはFクラスが最下級という認識を改める必要があるかもしれません!』
「……卑怯な手で、だけどね」
「あはは…」
アタシがそうぼそり、と呟くと、姫路さんが隣で苦笑いを浮かべていた。おおかた、アタシと同じく被害に遭ったんだろう。
『そして対する選手は、三年Aクラス所属・夏川俊平君と、同じくAクラス所属・常村勇作君です!』
こちらにもまた、盛大な歓声と拍手が贈られる。
舞台袖から出てきたのは、おおよそAクラス所属の人物とは思えない坊主頭とモヒカン頭の男子生徒二人だ。
『出場選手が少ない三年生ですが、それでもきっちりと決勝戦に食い込んできました。さてさて、最年長の意地を見せることができるでしょうか!』
「吉井君と坂本君…大丈夫でしょうか…」
「大丈夫よ瑞希!アイツらならやってくれるわ!」
そのアナウンスを聞いた姫路さんが顔を曇らせ、島田さんが励ます。…何だかやたら切羽詰まっているように見えるけど…何かあるのかしら?
「それでは、ルールを説明しますーー」
と、司会の人が簡潔に試験召喚システム諸々の説明を始める。
「…どっちが勝つと思う?」
「さあ?あの三年生らもAクラスだから頭は悪くないだろう」
「気持ち的には勝ってもらいたいけど…」
「……どうだろうな」
会場の熱気に呑まれ、熱のこもった目線をステージに向けた。そんなアタシとは対照的に、夏目はどこか退屈そうだ。…少し不機嫌そうな感じさえする。こいつ、こういうのは苦手だったり…?むしろ好きそうなイメージがあるんだけど。
「…ほら、もう始まるぞ」
「へっ」
そう言われてステージに目を向けると、もう両ペアとも召喚獣を出して待機していた。
何だか言い合いをしているみたいだけど、ここからじゃよく聞こえない。何を話しているのか、というかそんな話す仲なのかと小首をかしげていると、司会のマイクが『ジ…ジジ……』と少しだけ音を、その会話を拾う。
『ーーぇに、ク……の子が……ってた』
『……んだ?晒…に…れた時の………方でも……えてく……のか?』
『………き……為な……頑…れ……って』
『……ハァ?……ツ、何…って』
『ーー僕も最近、心からそう思った』
何の話をしていたのかはわからない。わからないけど、きっと……吉井君にとって、とても大切なことだったんだろう。双眼鏡に彼の真剣な眼差しはよく映った。
『Fクラス 坂本雄二 & Fクラス 吉井明久
日本史 215点 & 166点 』
『『なっ!?』』
そのFクラスらしからぬ高い点数に、相手の生徒はおろか近くにいた姫路さんと島田さんも目を見開いて吉井君を見つめている。
『アンタらは、小細工なしの実力勝負でぶっ倒してやる!!!』
吉井君の力強い叫び声は、会場中に響き渡った。
☆
真っ正面から突っ込む坊主頭の先輩の攻撃を、吉井君はひょいひょいと軽く躱して隙を突いて攻撃を叩き込んでいく。その立ち回りの鮮やかさといったら!少し、見直してしまった程だ。………………………まあ、本当に少しだけど。
「上手いな」
「そうね。ただの馬鹿だと思ってたけど…戦争になったら要注意人物だわ」
つい一ヶ月前程の、試召戦争。結果的にFクラスは負けたわけだし、坂本君の性格からして戦争はまた仕掛けられるはず…。対戦相手の勝負が見れる機会なんてそうそうない。これはよく見て、真似できそうなところは真似していかないと…!
そう意気込んで試合を観戦していると、突然坊主頭の先輩の召喚獣が大きく飛び退った。
「……どういうことかしら…?」
「?どうした、何かあったか?」
「……あの、坊主頭の先輩の召喚獣。急に大きく飛び退ったのよ。吉井君の召喚獣から離れるならともかく、自分からも離すなんておかしいと思わない?」
「そうだな」
「……………………気になった?代わる?」
「いや、ギリギリ見えなくもない。大丈夫だ」
と言って目を細め、ステージを見る夏目。
アタシも双眼鏡に目を戻すと、いつの間にか優勢だったはずの吉井君の召喚獣に次々と攻撃が叩き込まれていた。一体何が、と吉井君に目を向けると当の本人は目元を抑えながらふらふらしている。
もしかして…さっきの大きな動きは目くらましで、吉井君に何かしら危害を加えていた、とか…!?
そ、そんな、本人に危害を加えるなんて反則じゃない!!でもそれを伝えるすべも、証拠もない。どうしよう、このままじゃ吉井君が、
ダンッ!
大きな音が響いた。力強く、叩きつけるような音が。
その音が合図だったかのように、満身創痍な吉井君の召喚獣に、坊主頭の先輩の召喚獣が突っ込んでいく。吉井君の召喚獣はそれをするりと抜け、その背中を大きく蹴った。坊主頭の先輩の召喚獣がよろめく。
それを見て坂本君の召喚獣がモヒカン頭の先輩の召喚獣に突っ込んでいった。…けど、相手の先輩だってそれを見過ごす程馬鹿じゃない。迎え撃つように、剣を振り下ろしていた。
その剣が坂本君の召喚獣の首を両断するーーその直前!
ギィンッ
吉井君の召喚獣が投げた木刀が当たり、その軌道が逸れる。
「吹き飛べやぁあっ!!!!」
坂本君の怒鳴り声と歓声は重なり、派手なパンチをくらうモヒカン頭の先輩の召喚獣。
決着がついた一方で、吉井君の召喚獣の方に坊主頭の先輩の召喚獣が迫る。先程木刀を投げたせいで吉井君は丸腰のまま。誰かのごくり、と生唾を飲む音が聞こえた。
しかし、吹き飛ばされたモヒカン頭の先輩の召喚獣が坊主頭の先輩の視界を遮り、坊主頭の先輩の召喚獣の動きが一瞬鈍る。
その隙をついて吉井君は召喚獣を前に出し、坊主頭の先輩の召喚獣は空振りに終わった。だけど素早く剣を戻し、再び攻撃を加えようとする。その攻撃の前に、吉井君の召喚獣は坊主頭の先輩の召喚獣に頭突きをした。
相手が怯んでいる合間に、坂本君の召喚獣が吉井君の召喚獣へ向けて木刀を蹴飛ばし、吉井君の召喚獣はその木刀を拾い上げる。
「くたばれえぇっ!!!!!」
吉井君の召喚獣の左腕は切り落とされ、その痛みか吉井君は顔を歪める。ーーけど、けれど!!
『坂本・吉井ペアの勝利です!』
「ぃぃぃよっしゃぁああーー!!!!!!!」
坊主頭の先輩の召喚獣の喉元には深々と、吉井君の召喚獣の木刀が突き立っていた。