バカな筋肉と優等生   作:諦。

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たーーまやーー!!!!

私のところではつい昨日、近所のお祭りで花火の打ち上げをしていました。花火ってテンション上がりますよね!いいですよね!
ここまでアピールすればお察しの方はお察し出来ると思います。という訳で芸術は爆発だ!波乱の第十三問目、よろしくお願いします。


第十三問

明久side

 

『ただいまを持って、清涼祭の一般公開を終了致します。生徒は速やかに撤収作業をしてください。繰り返しますーー』

 

「お、終わッッ……た」

「うむ、流石に疲れたのう………」

「……(コクコク)」

 

終了を告げるアナウンスが流れ、派手に寝っ転がった。

あの召喚大会の後、お客さんはそりゃあもう増えに増えた。今までいなかった分働かなくちゃ、というのと自分達がいれば人が入る、というのでずっとウェイトレスをやってたわけだけど……あ、足がもう、ぱんぱんでやばい……。

 

「お疲れ」

「お疲れさまでした」

 

姫路さんと美波はこの一日二日程で慣れたのか、涼しい顔をしている。…すごいなぁ、二人とも…。僕ら以上に動き回ってたと思うんだけど…。

 

「……さて、終わったし着替えましょうか」

「そうですね。私も早く着替えて、お父さんとお母さんのところに行かなくちゃ…」

「ちょ、ちょっと待って!!!」

「?どうかしましたか?」

「何よ、アキ」

「着替えちゃうの!?!?!?」

「さ、流石にこのまま両親に会いに行くのは恥ずかしいですし……」

「終わってまで着てる理由がないじゃない」

「ま、待って二人とも!!カムバァァーーックチャイナドレスーー!!!!!」

 

無情にも去って行ってしまう二人。あ、ああ………僕の癒しが…目の保養が………!!!

 

「…………(ギリッ)」

 

撮影会の準備を進めていたムッツリーニも、目から血を流さんばかりの勢いで悔しがっている。

 

「…さて、ワシもそろそろ」

「!させるかぁっ」

「……(ガシッ)」

「な、何するんじゃお主ら!」

 

踵を返そうとする秀吉の足を掴んで阻止する。せ、せめて秀吉だけでも……!!!

逆の足はムッツリーニが掴んでいた。おお、流石同好の志よ…!

 

「おいお前ら。遊んでないでとっとと支度しろ、学園長室行くぞ」

 

そんな僕らを雄二が呆れたように見ていた。終わって早々に倒れ込んだ僕とは違って、コイツもまた涼しい顔をしている。…本当にタフな奴だなぁ…。

 

「って学園長室?」

「阿呆、俺達の目的は腕輪でもペアチケットでもねえだろ」

「!そうだ、設備の話!」

「うむ?設備?」

「…………何の話だ」

「ちょっと色々あってな。お前らも来るか?」

「いや、ワシはその間に着替えを」

「よぉし皆で行こうか!!」

 

素早く起き上がって秀吉の手を取る。させない…!あの二人が着替えてしまった以上、秀吉のチャイナだけは絶対死守してみせる!

 

「やれやれ、ワシのチャイナなぞ誰の得にもならぬというのに…」

 

絶対そんなことないと思う。

 

            ☆

 

「お邪魔しまーす!」

「邪魔するぞ」

「やれやれ。そんな気楽に入ってもらわれても困るんだけどねえ…。何だか知らないけど、まぁたぞろぞろ連れてきて」

 

ドアを開けると醜悪な妖怪、もとい学園長が顔をしかめた。そのいかしぶげな視線は僕らではなく、秀吉とムッツリーニに向けられている。

 

「いいだろ別に。こいつらも被害者なんだから話を聞く権利はあるはずだが?」

「………………ふぅん、そいつは悪かったね。」

「それで?腕輪は返せばいいのか?」

「いや。どうせすぐには直せないんだから後でいいさね」

「不具合、とな?」

「うん。この腕輪、欠陥品らしくて点数が高いと暴走しちゃうんだよ」

「そうじゃったのか。……………うむ?どうしたのじゃ、雄二よ」

 

秀吉の視線の先にはいつの間にか、考え事に没頭している雄二の姿が。…何だか前もブツブツ言ってたけど…雄二はここで考え事をするのが好きなんだろうか。

 

「……まぁいいや。それで、教室を改修してもらう代わりに僕と雄二が腕輪をゲットするって取引を学園長とーー」

「待て明久!その話はマズい!」

「へ?」

「………………………盗聴の気配」

 

ムッツリーニがぼそりと呟く。

慌てて学園長のドアを開ければ、バタバタと複数人が去って行く音。

 

「…ッ、やられた!追いかけるぞ!」

「ま、待ってよ雄二!どういうことなの!?」

「盗聴だ!アイツらこの部屋に盗聴器を仕掛けてたんだよ!」

「何だって!?」

「今の会話も全部聞かれてたはずだ。もし録音なんてされてたら相当マズいことになる!」

「ろ、録音!?冗談じゃない!」

 

そんなものが公開されたら、学園の信用はガタ落ちして姫路さんどころか僕達まで転校騒ぎだ!何としても証拠を隠滅しないと…!!

 

「秀吉、ムッツリーニ!二人も協力してくれないかな!?」

「元よりそのつもりじゃ!して、相手は妨害をしておった坊主頭とモヒカン頭で良いのか!?」

「ああ!ちらっとだが見えたから間違いない!」

「ってことは二人組だよね!?こっちも二手に別れよう!!」

 

本当は四人でばらけた方が良いんだろうけど、返り討ちに遭うのはマズい。ここは二手に分かれるのが得策だろう。

 

「じゃあ、僕らは放送室を抑えるから秀吉とムッツリーニは別の放送出来る場所を、」

「……………外を回る。持ち帰られてコピーをとられたら面倒」

「それは一番困る!頼むぞ二人とも!!」

「……あと、これを」

 

走りながらムッツリーニが何かを寄越す。……これは、

 

「双眼鏡?良いの?」

「…………それは予備だから問題ない」

 

予備どころか学校で双眼鏡が必要な時なんて無いとは思うんだけど…まぁいいや!有り難く借りておこう!

 

「ありがと、ムッツリーニ!」

「…………………この学校は気に入っている」

 

それは女の子のレベルが高くて制服も可愛いからだろうか。なんにせよ、学校が潰れて欲しくない気持ちは一緒だ。

 

「見つけたら連絡してくれ!」

「うむ!」

 

屋内組と屋外組に分かれて校内を走り回る。ああもう!走り回るのは慣れているけど、ここ二日間はずっと走ってばかりだ!

 

            ☆

 

~ 放送室 ~

 

「邪魔するぞ!」

「な、何だお前ら!?」

「ダメだ雄二!ここにいるのは煙草吸ってる馬鹿だけだし、置いてあるのは学園祭で密かに取引されていたアダルトDVDくらいしかないよ!」

「そうか!とりあえず煙草とDVDを押収してさっさと行くぞ!」

「そうだね!校則違反だもんね!」

「お、おい待て泥棒!」

 

 

~ 廊下 ~

 

「そんなに何を急いでるのよ、アンタ達」

「美波!坊主頭とモヒカン頭見なかった!?」

「へ?えーと、見てないわね」

「そっか、ありがとう!ちょっと色々あって急いでるからまた後で!」

「あ、ちょっと!何か落としてーー『女子高生緊縛物語』?」

「は、早く逃げよう雄二!美波からドス黒い何かが見えるんだ!!」

「待ちなさいアキ?アンタ何でこんなもの持ってるのかしら?」

「うわっっ追ってきた!!」

 

 

~ 二-A教室前 ~

 

「…………雄二」

「翔子!悪いが今はお前に構ってられない!」

「…………大丈夫。市役所くらい一人で行ける。婚姻届を出すだけだから」

「何を言ってーーってちょっと待て!俺はそんなものに判を押した覚えねえぞ!?!?」

「霧島さん!坊主頭とモヒカン頭、見てないかな!?」

「………見てない」

「そっか!ありがとう!それじゃこの辺には居ないから急ぐよ雄二!」

「おい待て明久!こっちはこっちで大変なことに」

「じゃあまたね、霧島さん!」

「待て!頼むから待ってくれ!!!」

 

~ 職員室前 ~

 

「理恵ちゃーーじゃなくて!菊池さん!坊主頭とモヒカン頭見てない!?」

「え?えぇと…見かけてませんわ」

「ありがとう!ーー雄二!ここまで見て居ないんだからもう新校舎には居ないじゃないかな!?」

「そうだな、一通り回ったからな!よし、他の場所探すぞ!」

「あ、ちょっと!あの、明久君、坂本さん!霧島さんと木下さんの件はありがとうございました!それから、夏目さんが明久君のことを探してたので、用事が済んだら行ってあげてください!」

「夏目君が…?よくわかんないけどわかった!ありがとう!!」

 

            ☆

 

「ハァ、ハァ……い、一体、何処に…」

「クソッ……時間を…ハァ、だいぶロスした……」

 

校舎には居なそうだったので、僕と雄二は一度外に出てグラウンドの隅など人目につかなそうな場所を探していた。しかし、辺りを見渡しても一向に見つからなーー

 

「…?何だろ、あれ」

 

校庭の隅に、ビニールシートが敷かれていて、その上に布に包まれた丸い玉が置かれていた。

 

「何だ、何か見つけたか?」

「…あれ、あの、ビニールシートのとこ」

「……あぁ、あれか。……二尺玉じゃねえの?ほら、毎回後夜祭で花火あげてるだろ」

「ああ、締めのやつね。へえ~、こんなとこに保管してたんだーーあれ?でも打ち上げるやつがないね?」

「そっちは打ち上げ場所に保管してるんだろ。一応花火は火薬の塊だしな。直前まで火の気のないところに保存しておくのが鉄則だ」

 

火薬の塊か。そう考えると爆弾やダイナマイトとあまり変わりないのかも。見た目が綺麗かどうかの違いがあるだけって感じだ。

 

「吉井!」

「ーー夏目君?」

 

流石試験校、お金があるなぁなんて関心してると、夏目君がこちらにやってきた。……そういえば、菊池さんが探してたとか…言ってたような…。

 

「ごめん、ちょっと急いでて。用事なら後でーーそうだ、坊主頭とモヒカン頭、見てない?」

「……見たぞ。確かあっちだ」

 

少し思案した後、夏目君が新校舎を指差した。目撃情報は有り難いけど、確か新校舎はくまなく探したはずじゃ、

 

prrrr!!

 

雄二と二人で首をかしげていると、突然雄二の携帯が鳴り出した。着信はーー秀吉から!

 

「もしもし!見つかったか!?!?」

『うむ!見つけたぞい!流石ムッツリーニじゃ、遠くまでよく見ておる!』

「よくやった!そんで何処だ!?」

『新校舎の屋上じゃ!』

「し、新校舎の屋上!?」

 

しまった!屋上までは行ってない!!

慌てて双眼鏡で見ると、新校舎の屋上であの二人が放送機材を準備しているのが見えた。

 

「マズいよ雄二!放送しようとしてる!」

「何だと!?おい秀吉、お前らは今どこに居る!?」

『部室棟じゃ!』

「チッ、どっちにしろ今からじゃ間に合わねえな…!!」

「どうする雄二!」

「ーーッ!クソ!だがどうしたら、」

 

「…………よくわからんが、放送されたら困るのか?」

 

「う、うん!何か、何かない!?ここからでも放送を邪魔出来るようなやつ!」

 

すると夏目君はおもむろに二尺玉を持ち上げ、そのままそれをーー投げた。

 

「……は、」

「……飛距離が足らん。当たれば絶対いけると思うんだが」

 

夏目君の投げた二尺玉は、重たかったからかすぐ近くに落ちてしまった。それを見て目を細める夏目君。

確かに当たれば確実に放送はやめさせられる。だけど二尺玉は重いし、そもそも新校舎の屋上までは遠すぎて僕達じゃ届かない。

 

 

そう、僕達じゃ無理だ。

 

 

「雄二!」

「わかってらぁ!!ーー起動(アウェイクン)!」

「試獣召喚(サモン)!!!」

「夏目君!指示お願い!」

「わかった、任せろ!」

 

僕が投げた双眼鏡を、夏目君がキャッチする。

空いた手で先程煙草とセットで押収したライターを出し、二尺玉の導火線に火をつけた。

 

「それじゃ一回試しにーーどりゃあっ!!」

 

新校舎の屋上目がけて、召喚獣に投げさせる。

 

 

ドォン!!!パラパラ……

 

 

うんうん、流石召喚獣。問題なく新校舎の屋上まで飛んでいき、炸裂する。

 

「スピーカーに当たったな、壊れたぞ」

「うーん、花火って怖いな!」

 

夏目君の発想に僕らが一手間加えた、これが僕と雄二が編み出した最終手段。名付けて二尺玉アタックだ!(良い子は真似しちゃダメだそう!)

 

「念のため放送機材も壊しとくか。一発かましてやれ、明久!」

「ほいほーい!」

「機材ならさっきよりも右だな」

 

言われた通り、今度は右に方向を修正する。

何故教師も居ないのに召喚獣を使えるのか?それは雄二の持つ白金の腕輪のおかげだ。この腕輪は召喚獣自体には何の能力も与えないけれど、代わりに所有者の傍に召喚獣を呼び出せる場を作ることができる。要するに先生の代わりに立会人になれる力だ。

 

「オッケー!着火!!」

「よしいけ明久!」

 

「「「たーーまやーー!!!」」」

 

二尺玉を拾いあげ、導火線に火を付けて思い切り投げる。まさか花火の打ち上げを体験できるなんて思いもしなかったなぁ…。

 

「機材の破壊を確認!」

「よし!それじゃ、いい加減ここにいるのも危ないし」

「そうだな。あいつらに一発ブチ込んだら逃げるか」

「そうだね!」

 

やっぱり悪は徹底的に滅ぼさなきゃいけないよね、うん。

 

「今度はさっきより左だな。…あ、いや、もう少し右に。動き回ってる」

「チッ、往生際の悪い奴らめ」

「……えーと……こっちかな?それじゃ、とどめの一発!ファイヤーー」 

 

「貴様らぁっ!!!何をやっとるかぁっ!!!!」

「うわぁっ!?!!」

 

突然背後からドスの利いた怒鳴り声が。ヤバい、召喚獣の制御が!

 

ヒュ~~……… ドォン!!!

 

「おい馬鹿!校舎にブチ当たったぞ!?!?」

「校舎がゴミのようだな」

 

狙いがずれた花火は校舎の一角に激突。壁や扉を破壊し、瓦礫の一山を築き上げた。まるで映画でも見ているような気分だ。

 

「き、君達!よりによって教頭室になんてことをしてくれたんだ!」

 

先生のあわてふためく声が聞こえる。これほどの事件は文月学園創立以来初めてだろう。

 

「吉井に坂本!!それに夏目!!貴様ら無事に帰れると思うなよ!!!」

 

そして聞きたくなかったなじみ深い低い声。

 

「鉄人だ!逃げるぞお前ら!!」

「「おうっ!」」

「逃がすか!!今日は帰らせん!!!」

「違うんです先生!僕らは学園の存続のために」 

「その存続すべき学園をたった今お前らが破壊したんだろうが!!!」

「そ、それには山よりも深く海よりも高いわけが!!」

「それを言うなら山よりも高く海よりも深いだ馬鹿者!!!!」

 

というか、原因の一つは確実に鉄人だ。

 

「恩に着るぞ明久!そのまま鉄人を頼む!」

「しまった!こうなったらーー先生!元凶の夏目君があっちに!!」

「何を言う吉井。言いだしっぺはお前だろう?」

「やはり貴様か吉井ぃっ!!」

「夏目君の裏切り者ぉっ!!!だ、誰か助けて!変態教師に犯されそうですーっ!!!!」

「貴様よりによってなんて悲鳴を上げるんだ!!」

 

こうして鉄人との校内マラソンが幕を上げ、僕の学園祭の思い出は恐怖と筋肉痛に上塗りされ、埋め尽くされてていった。




多機能フォームが使えなくなってしまい、ルビの振り方を変えさせていただきました。こう変えたら見やすい、などありましたら言っていただけると…有り難いです…。

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