皆に生温かい目で見られながら、夏目に背負われた状態で窓から部屋を出る。人目に付きにくいからの一点張りで窓から出入りしたいと譲らなかったけど……どうしてそんなに人目に付きたくないんだろう。
……人目に付きたくない用事の呼び出しってまさか……告白?
意識した途端心臓の鼓動が早まる。
い、いや、告白なんてしょっちゅうされてるようなもんだけど…!なんかこう、呼び出されて改めて告白されるのは初めてで…!
でも無くはない、のかな。修学旅行とか、旅行先のイベントでカップルって出来やすいし、浮かれて告白しちゃう、みたいなのが夏目にもあるんだろうか……。
急速に体が熱を持ち始める。初夏とは言えまだ肌寒い夜風が心地いいと感じてしまうほど頬が火照る。
「着いた」
ドキ、と心音が跳ね上がる。
夏目はまた慣れた手付きでからからから……と窓を開けた。
一体どこの部屋で告白するつもりなんだ。なんかそれっぽい空き部屋を事前に押さえとくなんて、コイツ浮かれすぎなんじゃないだろうか。でも告白ってやっぱり一大イベントだから張り切るのも当然なのかな、なんてーー
「待たせたな」
「ううん、全然待ってないよ!」
……ん?
「木下姉をおぶってきたのか?よくそれで壁伝いに移動できるな……」
「……………………一般技能」
「ムッツリーニよ。それが出来るのはお主らだけだと思うぞ?」
部屋には吉井君、坂本君、土屋君、秀吉の姿。口振りから察するに夏目を待っていた様子だ。
「……夏目。改めて…話って何?」
「実はだな。吉井達が受けている誤解を晴らす為、お前にも協力して欲しいんだ」
自分の勘違いを理解するより先に、左ストレートで殴ってしまった。
⭐︎
「ふぅん、なるほどね。今噂されている覗き騒ぎは吉井君達が原因ではないと」
「うん。それどころかその犯人に脅迫されてる被害者なんだ」
「うーん……まあ本当だったら可哀想だけど……」
「優子。吉井達に同情するなら腕十字固めから俺を解放してくれないか?」
「それとこれとは話が別よ馬鹿」
大体吉井君達の話だって鵜呑みには出来ないし。
同情するのはあくまで本当だったら、って話だ。実際盗撮やら盗聴に長けている土屋君がいるわけだし、それを除いても吉井君達は普段から問題を起こしている問題児なのも本当なわけで。
しかし顰め面のアタシを見ても、坂本君は気を悪くするどころか不敵な笑みを浮かべていた。
「別に信じて欲しいとは言わねえよ。お前の協力が得られないなら俺達は俺達のやり方で解決するさ。……なあ、夏目?」
夏目に送る意味深な視線でーー全てを察した。要するにもう手遅れだということも。
「俺に出来ることであれば全面的に協力しよう」
……はぁ。
「……アンタねぇ、本気で吉井君や坂本君達がやってないって信じてるの?」
「ああ」
夏目は鷹揚に頷くとーーその眼差しを土屋君へと向けた。
「俺は康太を信じているからな」
その言葉を受けて、土屋君はフッと口元に笑みを浮かべると小さく頷く。当然だと言わんばかりのその態度が二人が築き上げてきた信頼関係を表していた。
「康太がーー見つかるようなヘマをするわけがないと」
嫌な信頼関係ね。
「ま、俺達に協力するしないに関わらず尻に火傷がある女生徒を探すか脱衣所でカメラを探すかのどちらかはやっといた方がいいぞ。多分まだカメラがあるはずだからな」
「今回見つけられたカメラはダミーってこと?」
「そういうこった。じゃなきゃわざわざカメラを見つけられる場所に設置しないだろ」
「……」
「だが脱衣所でカメラを探すような素振りを見せれば犯人は都度隠し場所を移すだろうな。そうなればカメラの捜索はかなり大変だろうなぁ。相手もムッツリーニ同様盗撮盗聴で商売しているみたいだから、その手のプロだろうし」
坂本君は大袈裟に肩を竦めて見せる。
その大仰な仕草は言葉巧みに商品を売りつけようとするセールスマンを連想させた。
「楽しそうじゃのう」
「色々と鬱憤が溜まってたんだろうね」
だからといってアタシで晴らすのは辞めて欲しいんだけど。
……とはいえ、坂本君の言ってることは実際正しいし、カメラがまだあるのなら一人で探すより坂本君達と協力して探す方がやりやすいのも事実だ。坂本君達が派手に動いてくれれば犯人はそっちを意識せざるおえないのだから。
「んで?どうなんだ木下姉。手伝ってくれるのか?」
坂本君、吉井君、土屋君、秀吉、夏目の視線がアタシに刺さる。
坂本君達に協力して尻に火傷跡がある女生徒を探すか、自分一人で尻に火傷跡がある女生徒を探すか、アタシが選べるのはこの二択しかない。正直関わりたくもないが協力しなければ坂本君達のことだから手段を選ばずに解決に走るだろう。……それこそ、直接自分達で確かめる為に女子風呂を覗くとか。
坂本君達だけならいい。だけど夏目がコイツらと一緒に覗きの主犯格になったら?
(不本意ながら)夏目の世話係にされてるアタシの評価まで下がってしまうおそれがある。だったらーーまだアタシの目の届く範囲でやらかしてくれる方がまだフォローが効く!
溜め息を吐く。面倒な事に巻き込んでくれたわね、という皮肉も込めて。それから、渋々口を開いた。
「……本当に覗き魔だったら容赦なく突き出すから」
「交渉成立だな」
差し出された手のひらを乱暴に叩く。
こうして、平穏だったはずの学力強化合宿はいきなり波乱だらけの学力強化合宿へと変貌したのだった。