バカな筋肉と優等生   作:にと‪ ꪔ̤

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第七問

 

明久side

 

A〜Fクラスの男子の皆の協力。それから、秀吉、雄二、ムッツリーニ達の尽力。

皆のおかげで僕は今、脱衣所の扉前まで来ることが出来た。そこに立っている一人の教師こそが最難関にして最後の砦ーー西村教諭だ。

 

「待っていたぞ。吉井」

「……よく僕がここまで辿り着くと思いましたね。他の先生は皆楽観視していたのに」

「フン!貴様は根っからの馬鹿だがその行動力だけは並ではないからな」

「お褒めいただきどうもーー試験召喚(サモン)っ!」

 

僕の足元に幾何学的模様が広がり召喚獣が姿を現す。

 

『補習教師 西村宗一 VS Fクラス 吉井明久

 総合科目 NONE  VS 1020点      』

 

相変わらず鉄人は召喚獣を呼ばず、ぐっと重心を下げて構えを取る。

召喚獣と生身で対抗しようなんて無茶にもほどがあるが、その強さは身を持って実感している。今度はもう油断しないっ!

 

「だがその行動力はもっと他の事に活かすべきだ!これでは貴様らはただの性犯罪者だ、停学や退学が怖くないのか!」

 

繰り出される拳を木刀でいなす。

ついでにガラ空きな脇腹に蹴りを入れようとしたが、反対の手がもうガードの構えをしているのが見えたので諦めて引き下がるだけに止めた。

召喚獣はその強大な力に見合わず小さい。無闇矢鱈に突っ込んで攻撃したら身体を掴まれて投げ飛ばされてしまう。

 

「脅そうったってそうはいきませんよ!これだけの人数がいれば全生徒の特定は出来ないはず!一部の生徒だけ処分なんて、できるわけがない!」

 

一度開けた間合いはまた詰められ、今度は蹴りが放たれる。空を切る音が聞こえた鋭いローキックは屈んでやり過ごし、反撃に横腹目掛けて木刀を振るった。

しかし横凪ぎの一閃はあっさり左腕にガードされてしまった。怯んでいる様子もないので恐らく効いていないだろう。

チィッ!その筋肉は鋼鉄の鎧ってわけか!

 

「それは言葉を変えれば特定されたら処分が下される危険な状態なのだと、何故理解出来んのだ!」

「それなら覗きに加担した全ての生徒をリストアップしてみせるんですね!」

 

弾かれた反動を利用して太腿に回し蹴りを入れる。今度はガードなしでヒットしたが効いた様子はなく、むしろよろけたのは僕の召喚獣の方だった。

 

「言うじゃないか!ならば貴様らを全員打ちのめし、ゆっくりと名前を記録してやるとしよう!」

「ぐっ…!」

 

体制を崩した僕の召喚獣に鉄人の拳がヒットし、壁際まで吹き飛ばされる。それに伴って僕の身体にも痛みが走った。

 

「まず貴様がその一人目だ!」

 

追撃の為に召喚獣に駆け寄る鉄人。今から起き上がらせてその追撃を躱す余裕はないがーー受けたら終わりだ!

どうする?今からでも降参して覗きは諦める?戻って皆に土下座するのか?ーーいいや、それはありえない!

 

二重召喚(ダブル)っ!!」

 

ここまで来たなら石に齧り付いてでも勝利をもぎ取ってやる!絶対に負けるもんか!!

 

「ちぃっ!白金の腕輪か…!学園長も余計な事をしてくれたものだ」

 

現れた副獣が召喚獣と鉄人の間に割って入りその拳を木刀で弾き返す。

前の召喚大会で手に入れた商品、白金の腕輪。雄二が持っている方は召喚フィールドを展開することができ、僕の方は召喚獣をもう一体喚ぶことができるという効果を持つ。

上手く使えば鉄人だって倒すことができるはずだ!

 

「先生、勝負はこれからです」

 

二体の召喚獣に構えを取らせ、挟み込むように移動させる。それぞれ主獣は右から、副獣は左から木刀を振るった。

 

「むぅっ…!」

 

まったく逆方向から訪れる攻撃に流石の鉄人も体制を崩す。その隙を逃さずガラ空きの膝にローを放った。しかし鉄人はそれを膝を曲げ太腿で受け止める。その太腿もあまりにも固く、帰ってきた衝撃はまるでタイヤを蹴ったような感覚だった。

 

「っ、まだまだっ…!!」

 

すかさず体制を戻し頭を目掛けて木刀を振るったがこれはガードされてしまう。ならばと脇腹を双方向から殴ったが鉄人は少しよろけただけで、逆にガードしていた手で捕まえられ二体の召喚獣を叩き付けられてしまう。二体分の反動は流石に重く、悲鳴をあげそうになったが歯を固く食いしばり何とか耐えた。

 

「ぐぅっ…!!」

「…やはり、二体召喚は本来メリットしかないはずだがーーフィードバックがある貴様に大きなデメリットになるようだな」

 

叩き付けられて動けない召喚獣に向かって鉄人が手を伸ばす。

まずい、これ以上はダメージを受けるのは危うい…!!

二体とも大きく下がらせ木刀を構え直させる。しかし二体纏めて叩きのめされてしまった為、どちらが主獣でどちらが副獣なのかがわからなくなってしまった。

えぇと、指示を出す為にとりあえずどっちがどっちなのかの把握からーー

 

「遅い!」

「っ!」

 

している暇がないっ!

鉄人は一気に間合いを詰めてきて左側の召喚獣へと拳を振るった。どちらなのかわからずとっさに二体を下がらせてしまい、ちぃ、と舌打ちが漏れる。

今、背中が空いていたからもう片方が奇襲出来たかもしれないのに…!!

 

「どうした吉井?焦りが顔に出ているぞ?」

 

ニヤ、と鉄人が口の端を持ち上げる。

そんなこと言われなくても自分が一番わかっているーーそう苛立って、慌てて振り払う為に頭を振るう。その苛立ちが焦りを生むのだ、それをわかって鉄人は敢えて挑発して来ている。

 

「…」

「ほう、いいのか?大事な武器を捨てて」

 

動きで見分ける事は諦めて、副獣に木刀を捨てさせた。これで二体の違いは明らかになったから問題ない。

 

「いくぞ鉄人っ!!」

 

主獣の木刀を振るわせ、副獣は右拳を突き出す。木刀を避け、拳を受けた鉄人は膝蹴りを放った。その目標は副獣ーーではなく主獣かっ!両腕を交差させてガード、その間に副獣は左肘を鉄人の脇腹へ。肘でブロックされてしまったので今度はローキックを主獣がいや体制は整えられた副獣の方がーー

 

「動きが鈍っているぞ吉井!」

「くっ!」

 

右腕に鈍い衝撃が走る。

今のダメージは主獣と副獣どっちが食らった?どっちを退避させたらいい?いやそれより攻めの姿勢を崩さず木刀を振るうべきかーーいや、木刀はもう間に合わない!追撃の拳がもう副獣に迫ってーー違う、主獣!?やばい、フェイクか!

 

「ぐぅ、ふっ…!!」

 

鳩尾に鈍い痛みが突き刺さった。

強い痛みに耐えかねて膝から崩れ落ちる。やばい、やばい、意識を持ってかれる!

 

「……どうやら決着はついたようだな」

 

勝ち誇った鉄人の声が頭上から聞こえる。

何とか立とうとするが足が震えて上手く立ち上がれず、ひゅう、ひゅう、と呼吸を整える事で精一杯だった。

 

「所詮、下心の集中力なんてそんなものだ」

 

集中力……。

そうだ、鉄人の言う通り僕には集中力が足りなかった。だから余計な感情に振り回されたし、主獣と副獣も上手く扱いきれなかった。

けど、そんな事がわかったところで二体同時に操れるような集中力なんて今すぐに身につくわけがない。この場は僕の負けだ。覗きは諦めて、明日からは集中力を鍛えるような特訓でも始めようかな。この二重召喚(ダブル)の力は今後の試召戦争でも使うかもしれないし……。……待てよ?集中、集中ーー?

 

「そうかぁっ!!」

 

がばっ、と顔をあげると驚いた鉄人と目が合った。鉄人は眉根を顰めて一歩下がる。まるで不気味なものを見るような、不可解そうな目で僕を見ていた。

そんな鉄人に、不敵に笑ってみせる。

 

「感謝するよ、鉄人。今アンタは僕にヒントをくれた」

 

足の震えはもう止まった。鳩尾も痛むけど、今はそれ以上に高揚感があって気にならない。

ふらふらと立ち上がる。伸びていた召喚獣達も僕に呼応するようにゆっくりと立ち上がっていた。

 

「……ヒントだと?」

「今言ったじゃないか。『集中』って」

 

二体の召喚獣でそれぞれに指示を出すから頭が混乱する。攻撃を別々の箇所に分散させるから相手の防御を貫く程の威力が出ない。それが今の僕にとっての問題だ。けど、その二つの問題はたった一つの方法で解決することができる。

 

「そう。集中だ。狙いを絞るんだ。拳、蹴り、木刀。主獣も副獣も、今から放つ全ての攻撃をただ一点ーー」

 

 

「ーーアンタの股間に、集中させる……!!」

 

 

「き、貴様!なんて恐ろしい事を考えるんだ!?」

「よぉしいくぞっ!」

 

ローと見せかけて金的狙いに変化するキック。足元を狙ったと見せかけて股間を突きに行く木刀。鳩尾狙いから下腹部狙いに軌道を修正した拳。これら全ては、たった一度の急所攻撃の為に…!

 

「こ、これほどまで執拗に金的を狙って攻撃をしてくるヤツは初めてだ…!」

 

鉄人の表情から先程まで浮かべていた余裕が消え去る。まだまだぁっ!

脇腹狙いからの金的蹴り、肘を取ると見せかけて股間に肘鉄、ストレートに急所突き、とにかく股間に狙いを定めて攻撃を仕掛けていく。

気がつけば向こうはもう防御に手一杯になっていた。

 

「悶絶しろ、鉄人!!」

 

攻撃が来ないのなら、と副獣が力を溜めて大きく拳を振るう。

 

「くっ……!!」

 

鉄人はその動きを見て股間のガードを固めた。

 

「ーーなんて、ウソです」

 

その瞬間、主獣を動かして副獣を踏み台に鉄人の背後へと跳ばせる。今の予備動作はフェイク。本命はこっちの主獣だ!

 

「しまっーー」

「もらったぁぁーっ!!」

 

下段防御に回した腕は頭部に至るまでに時間がかかり間に合わない。僕の召喚獣の手刀が鉄人の無防備な首へと吸い込まれ、鉄人は倒れるーー()()()()()

 

「ぐふぁっ!?」

 

地に伏したのは鉄人ではなくーー弾丸のように飛んできた召喚獣にキックで吹き飛ばされた主獣の反動を受けた僕のほうだった。

だ、誰だっ!?鉄人以外に今の僕を阻む壁は無かったはずーー

 

 

「そこまでよ」

 

 

『Aクラス 夏目惣司郎 VS Fクラス 吉井明久

 総合科目 2459点  VS 152点      』

 

甲高い上履きの音を辺りに響かせながら現れたのは、木下さんと夏目君だった。木下さんがぎろりと僕を睨む。

 

「吉井君?アタシ言ったわよね?覗き魔だったら突き出すって」

「でも、」

「ーーまあ、別に吉井君が学園長の裸を観たいなら止めないけど」

 

……へ?

 

「男子生徒が全員覗き騒ぎに参加したら女生徒も全員参加しないと人数差で押し切られるからな。もし女生徒が一人でも風呂に入っていたら今の均衡状態にはなるまい」

「全く、そんな事にも気付いていなかったのか…」

 

…………。

 

「ごめん木下さん。僕が間違っていたよ」

「目が覚めてくれて何よりよ」

 

覗きなんてやっぱり人として最低な行為だよね、うん。

 

「…木下姉、夏目。危ないところを助けてもらったな。感謝する。が、何か訳ありのようだな?」

「ええ。単刀直入に言います。ーーこの覗き騒動の犯人は吉井君達ではありません。別の、真犯人がいます」

「……ほう?」

 

じろ、と木下さんを鉄人が睨む。少し怯んだ表情を見せる木下さんを庇うように夏目君が前に出た。それに呼応するように召喚獣も鉄人と対峙させるように構えをとる。

しかし、その当の木下さんは大丈夫、と夏目君の肩を叩き、自ら鉄人と対峙した。

 

「この事件は、女子生徒が脱衣所から一台の小型カメラを見つけたことから始まりました。……でも、この時点でおかしいと思いませんか?」

「……何がだ」

「土屋君は盗撮のプロであり、日々自分で撮った写真を売り捌いています。そんな盗撮のプロが、素人の女子にもわかるような場所にカメラを仕掛けますかね?」

 

確かに、そう言えばそうだ。

ムッツリーニが売っている写真は9割が盗撮だ。実際僕が持っている秀吉の写真は殆どカメラとは全く違う方を見ている。

……それに、その写真を見た秀吉も、こんな写真いつ撮ったのじゃと呆れていた。そのくらい、ムッツリーニの仕掛けるカメラの位置は巧妙に隠されていてわからないということだ。

 

「土屋君が盗撮のプロというのはこの学年の生徒なら全員が知っているはず。そんな土屋君が、わざわざ見つかるような場所にカメラを仕掛けるとは思えません」

「それなら何故カメラは見つかってしまったのか。簡単な話です、犯人はーー土屋君、いや、土屋君、吉井くん、坂本君の仕業に仕立てあげたかった。だからわざと見つかる場所にカメラを仕掛けたんです」

「……それは何故だ。何故、その犯人は吉井達のせいにさせたかったんだ?」

「狙いは二つ。一つはまあ、私怨でしょう。実際吉井君には脅迫文が送られていたのですから」

 

木下さんがポケットから紙を取り出す。僕に送られてきた脅迫文だ。

 

「『あなたの秘密を握っています。あなたの傍にいる異性にこれ以上近付かないこと。この忠告を聞き入れない場合、同封されている写真を公表します』、か。……貴様、一体何をやらかしたら脅迫文を出されるほど恨まれるんだ……」

「そんなの僕の方が知りたいくらいですよ……」

 

こんなにも品行方正、清廉潔白に生きているというのに。

 

「そしてもう一つは、仕掛けたもう一台のカメラから気を逸らせる為。つまり見つかったカメラはフェイクであり、脱衣所にはもう一台カメラが仕掛けられている、ということです」

 

木下さんが今度はポケットから携帯を取り出し、その画面を鉄人に見せた。その画面に映し出されているのは、脱衣所内に置かれているカゴの網目の隙間からきらりとカメラレンズが覗いている写真だ。

 

「あとはこのカメラをバレないように回収してしまえば完璧なはずだった。……でも、犯人にたった一つだけ誤算が起きてしまったんです」

「「誤算?」」

「そう。吉井君がここまで辿り着いてしまったことーーそれこそが誤算。何故なら吉井君がここを突破してしまったら坂本君や土屋君もここに来てしまうーーつまり、カメラがもう一つ仕掛けられていることに気がついて回収されてしまうかもしれないから!」

 

木下さんが脱衣所の扉を開く。

その先に、一人の女生徒がいた。

 

 

「そうよね?この事件の真犯人ーー清水美春さん!」

 

 

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