バカな筋肉と優等生   作:にと‪ ꪔ̤

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強化合宿編ラストです!





最終問題

 

明久side

 

特徴的なドリルツインテを揺らしながら、清水さんは不服そうに腕を組む。

 

「……何のことですか?木下さん。美春は忘れ物を取りに来ただけなのですが」

「忘れ物?ああ、その右手に隠し持った小型カメラのことかしら?」

「っ、違いますっ!!そもそも美春が犯人という証拠はどこに、」

「……そうね。明確に貴方と犯行を繋げる証拠はないわ。でもね、貴方しかいないのよ」

「……私しか?」

「ええ。ーーねえ、吉井君。犯人が脱衣所を盗撮した目的って何だと思う?」

「えっ、僕!?」

 

木下さんからいきなり指名されて戸惑う。

 

「えーと、えーと……。犯人の目的、か。確か犯人はムッツリーニ同様商売をしていたみたいだから、その写真を売るとか……。あとは…個人的に楽しむ、とかかな?」

 

しどろもどろになりながらそう答えれば、木下さんはそうね、と鷹揚に頷いた。

 

「でもね、吉井君。犯人は写真を売れないのよ。何故かわかる?」

「へ?売れない?女子の裸なんてこれ以上ない売り物なんじゃーーって、ああ!自分が盗撮犯だってバレちゃうからか!」

「そういうこと。つまり犯人の目的は唯一つ、個人的に楽しむためよ」

 

なるほど。写真が売れない明確な理由があるわけだから、必然的にそれしかないというわけか……。……ん?でもちょっと待てよ?

 

「でも、それだけで清水さんだって断定するのは早いんじゃないかな?その理由だけなら他の男子生徒だって該当するよね?」

「そうね。他にも該当する生徒はいるかもしれないけどーー男子生徒は無いわ。だってコイツ以外皆覗きに加担してるんだから」

 

…あ、そっか。

そもそも僕達にここに辿り着かれたらカメラの回収が出来なくなっちゃうんだっけ。それなら僕達に協力するんじゃなくてむしろ足止めをしなくちゃいけないのか。

 

「うーん……。でも清水さんがカメラを仕掛ける理由なんてーー………。………あ」

「やっと思い出したかしら?そう、清水さんの好きな相手は島田美波さん。つまり、犯人の目的が個人的に楽しむ為だとしたらーー清水さんにはカメラを仕掛ける動機がある」

「ついでに言えば、吉井君達を恨む動機もね。あなたの傍にいる異性に近付かないこと、これは正確に言えば島田さんに近付くなってことなんじゃないかしら。でも吉井君達は大人しく従うどころか犯人探しを始めてしまったーーだから今回の騒動を起こすことで貴方達と島田さんの間に決定的な溝を作ろうとした」

 

「ふざけないでくださいっ!」

 

それまで静かに聞いていた清水さんが、とうとう声を荒げた。拳を握りしめてわなわなと全身を震わせている。

 

「黙って聞いていれば根拠のない推論ばかり!そんな妄想で盗撮犯として疑われるなんて信じられませんっ!」

「……あるわよ。物的証拠なら」

「へっ?」

「代表に坂本君のプロポーズ音源を売った盗聴犯と吉井君を脅している盗撮犯が同じであることと、道具の痕跡から犯人の手口や使用機器をも土屋君は突き止めていたのよ。そしてその生徒が『尻に火傷痕がある女子生徒』だってこともね」

「尻に火傷痕がある女子生徒に関してはアタシの方で調べて貴方しかいない事は確認済。そして土屋君から預かってきたその盗撮犯が使用していたと思われる証拠品のカメラがこれ」

 

木下さんはまたもポケットに手を入れると、今度は小型カメラを取り出して手のひらの上に乗せた。そのカメラは木下さんが携帯で映し出しているカメラと全く同じだった。

 

「ーーさて、清水さん。何か反論はあるかしら」

 

 

「………やろうが、」

「…何?」

「豚野郎が、お姉様を誑かすからっ!!」

 

清水さんはそう叫ぶと、勢い良く僕を目掛けて襲い掛かってきた。右耳がバチ、バチ、と微かな電流音を拾う。この音はーーまさかスタンガン!?

ちらりと見た清水さんの手元には予想した通り、触れたら服の上からでも一撃で気を失ってしまう二十万ボルトのスタンガンが握られていた。

まずい、と思うが鉄人との戦いの疲労と夏目君の召喚獣から受けたキックの反動ダメージで身体がぴくりとも動いてくれない。

やばい、これは終わったーー

 

「流石にオイタが過ぎるぞ、清水」

 

しかし、僕にその電流が浴びせられることはなく。清水さんは僕に辿り着く前に間に割って入ってきた夏目君に阻まれてーー軽々と投げ飛ばされてしまった。かしゃん、と手元から落ちたスタンガンは夏目君が勢い良く手持ち部分を踏みつけたことにより物言わぬゴミと化す。

……一連の流れを見ていた鉄人が、はあ、と溜息を吐いた。

 

「事情は把握した。清水は俺が連れて行って特別補習とする。…それで良いか?吉井」

「……あ、はい。僕は写真を消してもらえれば、何でも」

「わかった、約束しよう。木下姉、夏目。お前達は吉井と坂本と土屋と木下弟を拾って部屋で待機していろ。指示は追って伝える」

「承知した」

 

立てるか?、と夏目君が手を差し出してくれる。動きたいのは山々なんだけど、今だに手足は震えを訴えていて上手く動いてくれない。素直に首を横に振ると夏目君は丁寧に僕の身体を起こして歩けるように肩を貸してくれた。

 

「命拾いしたな」

「本当だよ、ありがとう二人とも」

「?どういうこと?吉井君も随分とぼろぼろだし、もう手遅れなくらいじゃ、」

「あの激闘の末に手に入れた理想郷(アガルタ)がババア長の裸だったらーートラウマで危うくショック死するところだったよ」

 

ウンウンと夏目君も隣で頷く。

そんな僕達を見て、木下さんはホントに馬鹿ばっか…、と呆れたようにこめかみに手を当てていた。

 

 

◆◇

 

 

ちゃぽん、と温かな湯に身を沈める。

そういえばここ数日、補習のせいでお風呂はシャワーだけで済ませてさっさと寝ていて、ゆっくりお湯に浸かることがなかった気がする。

 

「……まさか追って指示する、って言われた処分が監視付きのお風呂とはねぇ…」

 

そう。鉄人から言い渡された僕達の処分は『ゆっくり身体を休めること(※ただし監視付き)』だった。当の監視役である夏目君は『もう風呂に入ったから』とジャージ姿でタオルを敷いた風呂椅子に座り、湯を入れた桶に足を入れて足湯を楽しんでいる。

 

「停学くらいは覚悟していたんだがな…」

「学園長はその判断だったがな。そこは西村先生が説得したらしい」

「え?鉄人が??」

「そもそも最初の覗き騒ぎは女生徒達がお前達のせいだと決め付けて勝手に折檻をしていたからな。まあ逆恨みされても仕方ないだろうと」

「よく鉄人がそんなこと知ってたな」

「いや、それを伝えたのは優子だ。優子と西村先生が話し合って、その話を西村先生が学園長に伝えて全員大きなお咎めはなしで決着を付けたと」

 

木下さん、そんなところまで動いてくれてたのか……。

 

「お前らには大きな借りが出来ちまったな」

「俺は何もしてない。返すつもりがあるなら優子にしてやれ。本人は『ウチの学年から停学者なんて出したら恥だから自分の為なの。勘違いしないでよね!』……なんて言っていたがな」

「…夏目……。お前その木下姉の真似絶対怒られるから二度とやらない方がいいぞ」

「…………………完全に容疑者」

「……そうか…」

 

心無しか少し肩を落とす夏目君。

ちょっと木下さんの真似に自信があったのだろうか。それにしては声色といい棒読み加減といい結構酷い出来だったけど……。

 

「じゃあ僕らだけじゃなくて皆お風呂なのかな?他の皆も今は部屋で待機してるの?」

「男子生徒達と清水は補習だ。お前達に関しては今日くらいは見逃してやろうという西村先生による寛大な処置だな」

「なんかお風呂に入ってるのに鳥肌が立ってきた」

「………………同じく」

 

まさか鉄人に気を遣われる日が来るなんて。

……そう思うと、監視役が夏目君なのも鉄人の配慮なんだろうか。まあ鉄人に監視されてたら普通にゆっくり休めないしね……。 

 

「…まあ、お前達の処分も免除だがその分清水の処分も西村先生による補習のみだからな。今日くらいは、と思うのも無理はあるまい」

「別にそのくらい気にしなくていいのに。鉄人も変なところで律儀だなぁ」

「良い先生じゃないか」

 

鉄人が良い先生、ねぇ……。

思わなくは無い時もないけど、認めるのはちょっと複雑だ。

 

「はー……。でもこれで僕が女装好きの変態と思われることもないし、雄二も霧島さんとの結婚は一旦白紙になったってことで。一件落着だね」

「………………………その噂が広まったところであまり変わらない気もするが」

「そんなことないやい」

 

変態はともかく女装好きとまでは言われてなかったはずだ。……………多分。

 

「…ああ、そうだ。明日にはなるが姫路と島田には俺の方から事情を伝えておく」

「そりゃあ有難いが…いいのか?そんなことまで」

「Aクラス女子にも伝えにいくからな。そのついでにだ、気にするな」

「あ〜…。そっか、Aクラスの男子も参加してたもんねえ」

「覗きは元々陽動作戦で優子の発案だからな。……まあ、それにしてもあそこまで大規模になるとは思わなかったし、久保が参加するとも思わなかった」

「あれは流石にびびった。Aクラスは正直半数引っ張れたら上出来だと思っていたがーーまさか全員来てくれるとはな」

「………………………(こくり)」

「巻き込んじゃったのは申し訳ないけど嬉しかったなぁ…。僕達の気持ちに応えて動いてくれたなんてさ」

 

冷静になって振り返ると正気じゃなかったなと思うけど、それでもあの時の嬉しさは変わらない。真面目で頭の良い久保君と、同じ気持ちで同じ熱量を持って一緒に出来ることがあるなんて思わなかったから。

 

「………………まあ、明久がいいならいいか」

「…………………………知らぬが仏」

「?二人して苦虫を噛み潰したみたいな顔をしてどうしたの?」

 

秀吉もだけど、久保君の話をすると皆いつも喉元に魚の小骨が刺さってるみたいな顔をするんだよな…。

久保君と仲の良い夏目君なら何か心当たりがあるだろうか。

そう思って夏目君をちらりと見たけど、夏目君も心当たりは無いのか首を横に振るだけだった。

 

 

◆◇

 

 

久保side

 

覗き騒動から一夜明けた強化合宿の最終日。

今日は卯月高原から文月学園へ帰るだけなので、朝食のみ済ませてもう皆がバスに乗っている。

初日とは違って、左側座席に女子、右側座席に男子と通路を挟んで真っ二つに別れて座っていた。

 

「皆律儀だよねえ。別に気にしなくていいのに」

「あんなことがあった後なんだから気にして欲しいんだけど……」

 

通路の向こう側でけらけらと笑っている工藤さんに思わずツッコミを入れてしまう。

というか覗かれる側だったはずの女子達は工藤さんに限らず皆あまり気にしていなさそうで、どちらかと言うと気まずそうに下を向いたり落ち込んだりしているのは僕達男子の方だった。

 

「だって皆朝一で謝りに来てくれたじゃん。覗きも結局は未遂で終わってるし、皆気にしてないよ〜」

 

ねぇ皆ー?、と工藤さんが女子達に声をかければ皆うんうんと頷いていた。

 

「何だ。部屋に戻って来て誰もいないと思っていたら謝りに行ってたんだな」

「そうそう。久保君なんて土下座で全責任は僕にあるからAクラスの男子達は責めないで欲しいってさ♪流石にそれを聞いて怒るなんて野暮な子なんていないよ〜」

「ほう。漢らしいじゃないか、久保」

「唯一覗きに参加しなかった君に言われるのはいっそ嫌味に聞こえるよ…」

 

……覗き行為をしたことに対して反省もしているし、何であんなことをしてしまったんだろうと落ち込んでいる。けど、それ以上に今隣に座っている夏目君が覗きには参加していなかったことにショックを受けていた。

 

「ああ、そうそう!それ本当なの!?ボクもびっくりなんだけど!てっきり優子の裸が見たい!って吉井君達と突撃してくると思ってたのに」

「ちょっと」

「……まあ、優子の裸に興味があるか無いかと言われればあるが」

「アンタも馬鹿正直に言うんじゃないわよ!こっちが恥ずかしいじゃない!!」

 

 

「ーーでも、普通に考えて覗きはダメだろう」

 

 

「「「……」」」

 

それはそうだ。本当にその通りなんだけど。

自分の本能に正直で、突飛な行動ばかりしている夏目君に常識を説かれるのはちょっとこう、複雑だ。

 

「だから久保が参加したのは意外だった。俺以上に真面目なヤツだからな」

「…あまり掘り返さないでもらえると助かるよ。自分でも馬鹿なことをしたと思っているし」

 

現在進行形で後悔中なのだからちょっとほっといてほしいんだけどな…。

肩を落として俯く僕に、夏目君はぽんと軽く肩を叩く。

 

「そう気を落とし過ぎるな。あの時ーー吉井達を手助けする為に駆け付けた時。あれはカッコよかったぞ」

「……へ?」

 

工藤さん達に聞こえないようにか、小声で言われたその言葉に思わず顔をあげる。ぱちりと目があった夏目君はいつも通りの涼しい顔で、少しだけ笑っていた。

……短い付き合いだけど、彼が励ます為におべっかを使うような人間でないことは知っている。つまり、今言われた言葉は彼の本心からくる言葉なわけで。

 

「……」

「どうした、また下を向いて。具合が悪いのか?」

 

君のせいなんだけど、とは口が裂けても言えなかった。

 

 





次回は夏目と須川君(というよりFFF団)のちょっとした小話を挟んでから5巻の内容に移る予定です!
4巻はちょっとAクラスにはあまり関係のない話なので省略します、見たかった方がいたらすみません…。ただ、4巻の出来事が無くなるわけではないです!

これからも自分のペースで進めていきますので、たまに読み返しに来てもらえたら嬉しいです。
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