バカな筋肉と優等生   作:にと‪ ꪔ̤

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幕間③
彼と過去とFFF団


 

明久side

 

 

「横溝が逃げたぞ!!追えーーっ!!!!」

「おのれ横溝の奴、異端審問会血の掟を破り女生徒に告白するとは…!!その罪万死に値する!!絶対に生きて返すな!!!!」

「「「はっ!!」」」

 

Fクラスの何ら変わりない、いつもの日常風景。

クラスから飛び出していった横溝君を追いかけ、何十人もの教徒達が飛び出していく。

そんな様子を、僕達はのんびりと眺めていた。

 

「やれやれ、横溝君も馬鹿だなぁ。異端審問会から逃げられるはずがないのに」

「お、明久。今日は行かないのか?」

「うん。もう少し武器を研いでからにするよ」

 

本当は行こうと思っていたんだけどーー愛用している包丁が若干錆びていたので研ぐのを優先することにした。錆のせいで殺傷能力が落ちちゃってたら意味ないしね。

 

「……やれやれ…。お主らも毎日懲りないのぅ」

「………………………リア充が撲滅されるまで、異端審問会は不滅」

「……そんなことをしているのかモテぬのではないか」

 

うるさいやい。

 

「ところで横溝の奴は誰に告ったんだ?」

「えーと確か……」

「木下姉だ。秀吉に告白した時も異端審問会にかけたんだがな。また懲りずに、しかも今度は木下姉に告白していたとタレコミがあった」

「あ、会長」

 

裁判準備を進めていた会長こと須川君が手を止めてこちらにやってきた。ちらりとムッツリーニを見やったので多分タレコミはムッツリーニからなのだろう。グッジョブ、ムッツリーニ。

 

「わしの後に姉上とはのぅ。なんだか複雑な気分じゃ」

「ちなみに結果は?」

「…………………………(フルフル)」

 

ムッツリーニが首を横に振る。横溝君は振られたみたいだ。

…まあ、僕ら最底辺クラスの野郎どもと、成績優秀で品行方正な優等生と名高い木下さんはそもそもレベルが違いすぎる。それに、

 

「ま、夏目でもダメなんだから横溝が振られるのも当然だな」

 

ーーそう、夏目君という強大なライバルがいるのだ。

夏目君は(黙っていれば)整った顔立ちをしているし、成績だって下位とはいえあのAクラスに入っているわけだから優秀。何よりもあの一途っぷりで一時期は木下優子と夏目は付き合っているらしいと噂が流れていたほどだ。

……それでも報われていないのだから、木下さんを落とすのはそう簡単にはいかないだろう。それが二年男子の共通認識だった。(ちなみに秀吉の方が告白されやすいのもこれが原因の一部だったりする)

 

「…ぶっちゃけさぁ、秀吉から見て木下さんと夏目君ってどうなの?付き合ってるように見えたりする?」

「……うぅむ。夏目には申し訳ないがあまり、というのが本音じゃな。じゃから研いでいる包丁を握り直さんでもそいつの出番はないと思うぞい、明久よ」

 

それなら良かった。やっぱり友人を手にかけるのは心が痛むからね。

 

「確かに。あの二人、仲は良いと思うが漫才みてるような気分になるから恋人って感じには見えないな」

「実際姉上も恋愛対象として意識しておるかと言われれば微妙じゃ。…夏目も口癖のように好きと言うしのぅ、最近は姉上もそのくらいならスルーしておるようじゃ」

「…………………………耳にタコ」

 

ムッツリーニがうんざりとした顔で呟く。

一番付き合いが長いとはいえ、違うクラスの友人であるムッツリーニですらそう言うのだから直接言われている木下さんはもっとなんだろう。

……というか、あれ?

 

「須川君さ、夏目君は異端審問会にかけなくていいの?」

 

今、ふと思い出した。

今日の異端審問会の議題は『横田君が木下さんに告白したこと』だ。それなら先程から皆が言っているように夏目君だって常日頃から木下さんに告白している(全く相手にはされていないけど)のだから異端審問にかけられて然るべきのはず。…でも、夏目君が異端審問会に出頭しているところを僕は見たことがない。

 

「……そういえばそうだな」

「確かにのぅ」

「………………………今からでも捕まえに行くか?」

 

呑気にそうだと肯定する一般人共(雄二と秀吉)とは違い懐から素早く捕縛用の縄を取り出すムッツリーニ。流石一級審問官なだけある。

 

「……いや、いい」

「「「「…へっ?」」」」

 

ーーしかし、須川君は予想に反して落ち着いた態度でそれを諌めた。

 

「あの、非モテの中の非モテとして非モテの中のカリスマとして頂点に君臨し、」

「非モテ王として名を馳せ世に蔓延るリア充は全員掃討してやると異端審問会を立ち上げ、」

「………………自ら会長に就任しそのカリスマ性を遺憾無く発揮し会員達をまとめあげ己が掲げた責務を全うし続けているーー」

 

「「「あの須川(君)が!?!?」」」

「しばくぞお前ら」

 

失礼だな、と顔を顰める須川君。

そう思うのなら自分の行動をよくよく振り返ってみるべきだと思う。

 

「…お主のことだから夏目が常日頃から告白していてキリがないから、という理由ではあるまい。何か特別な訳でもあるのかの?」

 

確かに。僕も一瞬相手にしていたら多過ぎて話にならないからとかかと思ったけどーーそんな理由で異端者を見逃すほど須川君は甘くない。

秀吉の問いかけに対し、須川君は顎に手を当てて考える素振りを見せ、少し間を空けてから俺も詳しくは知らねえけど、と前置きを置いて話し始めた。

 

「……一年の時、あいつらと同じクラスだったんだけど。木下姉の方がさ、色々あったみたいなんだよ。…そん時に庇ったのが夏目だったんだ」

「それ以来、木下姉も雰囲気変わったっつーか…。楽しそうでさ。別に仲良かったわけじゃないーー話したこともないただのクラスメイトだったけど、勝手に良かったなって思っちまった」

「…そんな雰囲気をさ、いちいち突っかかって邪魔するのは野暮だろ」

 

まあ、そんな感じ、と須川君は曖昧に話を締めた。気まずそうに少し視線を落としているのは、もしかしてその当時を思い出しているのだろうか。

それにしても木下さんのことを思って見守っているなんて、須川君にしては中々いいところがーー

 

「ーーで?本音は?」

「イケメンが振られまくってんのを見るのはスカッとする」

 

前言撤回。こいつは本当のカス野郎だ。

 

「それに夏目は木下姉にぞっこんなせいであの高スペックにも関わらず告白されることもないしな」

 

ふふん、とどこか得意げな須川君。

夏目君に限ってはモテない理由はそれだけじゃないと思うんだけど…。まあいっか。わざわざ言う必要もないし。

 

「…………いや、そうでもなさそうじゃぞ」

 

ふと、窓の外を眺めていた秀吉が口を開いた。

トントンと窓を叩くので、吸い寄せられるようにそこに近づくとーー旧校舎の裏庭に二人の男女がいるのが見えた。

男の方は見覚えがある。夏目君だ。もう片方の女子はあまり見かけない子なので他学年の子だろうか。二人は向かい合って話をしているようだ。

 

「お、あれってもしや…」

 

なんだなんだと様子を伺っていると、女の子が徐にスカートのポケットを探り出し、中から手紙を取り出した。封はハートのシールで閉じられていてーーってあれはまさか……。

 

 

「「「異端者は死刑じゃあーっ!!!!!!」」」

 

 

全てを理解する前に、身体が勝手に動いていた。

研いでいた包丁はローブのポケットの中にしまい、閉められていた窓を開け放って窓へりに足をかけてそのまま勢い良く飛び降りる。

2階からの飛び降りは流石にちょっと負担だったのか足に痺れるような痛みが走ったがーーそれどころじゃない!

 

「おのれ夏目ぇ…。木下姉に飽き足らず他学年女子に手を出すなどうらやま、いや許さん!!異端審問会の名の下に死刑に処す!!」

「…………………………裏切り者には罰を」

「見損なったよ夏目君…。君がそんな人だとは思わなかった」

 

ちらりと夏目君は二階の窓ーー僕達の教室がある方に視線をやると、そういうことか、と呟いた。

 

「「「…さて、遺言は?」」」

「さらばだっ!」

 

身を翻して駆け出して脱兎の如く夏目君が逃げ出す。死刑を賭けた地獄の鬼ごっこは、騒ぎを聞きつけた鉄人に僕らが逆に追いかけ回される羽目になるまで続いた。

 

 

◆◇

 

 

「…秀吉。お前は夏目のことを応援してんのか?」

「うむ。頑張っておるからのう」

「じゃあさっきのは、」

「夏目を疑っておるわけではないのじゃがーーどうやら夏目は他学年の女子から多少人気があるようでの」

「それが気に食わない、と」

「……一言もそんなことは言ってないのじゃ」

「顔に出てんぞ。明久達が飛び降りてった途端にこにこしやがって」

「…」

「夏目を応援しているからこそ思うところがある、ってか?…色々複雑だな、妹心ってやつは」

「雄二、お主まで女扱いするでない!お主が最後の砦なのじゃ!」

 

 




次回は5巻になります。色々と明らかになるかもしれないのでお楽しみに!
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