バカな筋肉と優等生   作:にと‪ ꪔ̤

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CF開始&達成おめでとうございます!
届くの楽しみです。

※文月学園について捏造設定があります。
あくまでバカ筋の世界観ではこうだよ、くらいで受け止めていただけると有難いです。


期末試験編(第5巻)
第一問


 

梅雨に入り、本格的に蒸し暑さが増してきたこの頃。梅雨前線の影響をあまり受けないこの地域にしては珍しく、ぽつぽつと小雨の日が続いていた。

 

「ーー連絡事項は以上となります。…そうそう。皆さんはもうご存知だと思いますが、期末試験の日が近づいています。成績を落とさぬようしっかり勉学に励んでください」

 

この時期は試験問題を作るのに忙しいのだろう。高橋先生も帰りのHRを済ませると早々に教室から出て行ってしまった。途端にざわざわと教室が騒がしくなる。

 

「優子。勉強を教えて欲しいのだが」

 

後ろの席から声を掛けられ振り向くと、そこには重ねた教科書を両手で抱える夏目がいた。

普段軽そうな鞄だけを持ち帰っている夏目にしては珍しい。春休みは振り分け試験があるからと熱心に励んでいたが、それ以来だろうか。

 

「……アンタにしては珍しいじゃない、何かあったの?」

「夏休みに予定が出来てな。補習で潰すわけにはいかないだろう」

「なるほどね」

 

期末試験で赤点を取った場合、その補習は夏休みに行われる。夏休み中だが補習の日程は選べず基本は先生から指定のあった日に参加することになっているので、その予定とやらと重なってしまえばリスケが必要になるだろう。

…ちなみに。文月学園はそのテストの特色から赤点の基準も普通の学校と異なる。上限のないテストで成績順にクラスを振り分ける為、クラスの総合科目の平均から赤点を割り出すのだ。つまり、成績の良いクラスであればあるほど赤点のラインもかなり高くなってくる。Aクラスなら下手したら2000点を切った時点で赤点になる可能性もあるだろう。

 

「アンタ、うかうかしてたら補習になる可能性高いものね。んで?目標は何?」

「なんだかんだ社会系の科目は小テストのおかげである程度暗記出来ている。だから今回は数学や化学をメインでやろうと思っていてな」

「…数学?」

「今まではひたすら公式だけ覚えて基礎問題ばかり解いていたが、応用のパターンを覚えて出来る問題の幅を広げようかと」

「アンタにしては上出来ね。いいわよ、そこまでちゃんと考えてるなら教えてあげる」

 

話もまとまったところで帰る為に荷物を鞄に詰める。かち、と鞄の鍵を閉めたところで、先程から感じている視線の主達に声を掛けた。

 

「…代表、愛子、久保君。何か用?」

「ごめんごめん。なんか夏目君がそこまで考えて勉強してることにびっくりしちゃってさ」

「そうしないと優子は勉強を教えてくれないからな」

「………………………そうなの?」

「だってこいつ、教えなくちゃいけないことが多すぎるんだもの。だからまずどういう目標を持っていてどんなことを教えてもらいたいのかを共有してもらうことにしてるの」

 

このルールは春休みに勉強を教えた時に課した。

あの時は何もかも手探りで、どれも最底辺の成績だったからとにかく何も考えなくて良い暗記系の科目に絞りひたすら暗記しようと方針を定めた。それからまずはどの範囲を覚えるのか目標を立てさせ、そこをクリアしてから次に進む…といった形で覚える範囲を徐々に広げていったのだ。その成果が今の夏目である。

 

「なるほど。全教科の基礎をやるのは教える方も覚える方も大変だからやることを絞って効率を上げたのか」

「実際、具体的な目標を持った方がやるべきこともわかりやすかったし達成感もあった。優子様様だな」

「…勉強の仕方は人によりけりよ。たまたまアタシとアンタは同じ効率重視のやり方が合ってたってだけ」

 

それに、このやり方は暗記に全振りなので所詮その場しのぎでしかなく定着しにくいというデメリットもある。こいつは記憶力が良いみたいだから何とか成績を保持できているだけだ。

というかそんなことより、だ。勉強を教えるのは良いのだがーー気になっていることがあり、こほんと咳払いをして一旦話に区切りをつけて終わらせてから口を開く。

 

「…ところで。今日うちはお客さんが来るって言ってたから使えないんだけど…どこでやる?」

 

そう、肝心の場所の話だ。

以前は両親が共働きで秀吉も部活で遅くまで帰って来ないからアタシの家でやっていた。が、今日は親から来客が来ると聞いているのでいつものように家に呼ぶことは出来ない。

…学校はテスト期間につき居残り禁止だし、図書館はテスト前のこの時期はかなり混み合う。そうなるとまあ、集中力は散漫になってしまうけどファミレスあたりが無難ーー

 

 

「…それなら家にくるか?」

 

 

…………へっ?

 

 

◆◇

 

 

見慣れない住宅街を、夏目先導のもと進んでいく。学園を出てすぐの急勾配の坂を降りて左に進んで、また現れた坂を少し登った先にあるこの住宅街に並ぶ家々は洒落ていて自分の家より一回りほど大きい住宅ばかりだった。

 

「……この辺って高級住宅街じゃなかったっけ?初めて通るよ〜」

「何となく自然豊かなところに住んでいそうなイメージがあったから、こんな街中に住んでるのは意外だったな」

「………………………(こくり)」

「そうか?」

 

あの後。

話を聞いていただけだった三人も行きたいと言い始め、結局四人でお邪魔することになった。(……まあ、正直夏目の家が気になるのはわかる)

普通の家に遊びにいく人数としてはちょっと多いとは思うが、夏目が何も言わずに了承していたから大丈夫なんだろうーーとは思っていたけど、まさか高級住宅街に住んでいるとは。それなら四人呼んだところでスペースに困ったりもないだろう。

 

「ここだ」

 

しばらく道なりに歩き続け、密集した住宅街から少し外れたところで夏目は足を止めた。表札に「NATSUME」とあるので夏目の家であることに間違いはないとはわかるのだがーーそれでも目の前に広がる光景は俄かに信じ難かった。

 

「し、シルバニ◯ファミリー……?」

 

赤色の屋根。クリーム色の外壁。窓の形もそっくりな、あまりにも既視感を感じる家がそこに建っていた。

 

「よくわかったな。母親が幼い頃から好きで、それを参考に家を建てたと聞いている」

 

夏目が懐から鍵を取り出してドアノブに差し込む。右に回すとかちゃん、と鍵の開く音が聞こえた。そのまま夏目がドアを開ける為に扉を押したがーーがちゃがちゃと固い音がするだけで一向に開く気配がない。

 

「………………もしかして、逆に施錠した?」

「そうかもしれん」

 

もう一度鍵を差し今度は逆方向に回る。先程と同じくかちゃん、と音が鳴ったのを確認し、ドアを開けば今度は容易く開いた。

 

「「「「お、お邪魔しまーす……」」」」

 

そろそろと靴を脱いでフローリングの床に足をつける。愛らしい家の外観と同様に室内もこだわっているようで、壁に観葉植物がかかっていたり、前方に見える階段にもアンティーク調の手すりが誂えられていた。

夏目が一番手前にある、左手側のステントグラスがはめ込まれた扉に手をかける。

 

 

「何もないがゆっくりーー」(夏目がドアを開ける)

 

「「………」」(室内にいた男女が驚いて固まっている)

「……お邪魔しました」(夏目がドアを閉める)

 

 

「ーーすまない。一旦外に、」

「お待ちなさい」

 

夏目が閉めたドアはすぐに開かれ、室内にいた男性が慌てて夏目を引き留めた。

夏目は何処か気まずそうに目を伏せながら口を開く。

 

「藤司郎。逢引きは別に構わんのだが事前に連絡をしてくれると、」

「違います。彼女は同じ大学の友人でそういった仲の人では」

「うんうん、そうだな」

「話を聞きなさい」

 

ぐえ、と頬を伸ばされ夏目が呻く。

男の人は気の済むまで頬を伸ばしてから夏目を解放するとこちらに身体ごと向き直った。

 

「失礼いたしました。…愚弟のご友人の方々、ですよね?惣司郎の兄の夏目藤司郎と申します。いつも愚弟がお世話になっております」

「「「「……こちらこそ、お世話になっています……」」」」

 

礼儀正しく深々と頭を下げられ、こちらもつられて頭を下げてしまう。

黒髪のサラサラストレートヘアと夏目とはだいぶ異なった様相。何よりーーあの馬鹿とは似ても似つかない丁寧な口調と礼節のある態度に戸惑ったが、切れ長の瞳と整った顔立ちは確かに夏目に似ていた。

……そういえば妹さんも髪が黒髪だったな、と今更になって思い出す。

 

「…あの。そちらの方が惣司郎君、ですか?」

 

夏目のお兄さんの後ろから黒髪の女性が顔を出す。

その女性もまた綺麗な人でーーお兄さんの訂正がなかったら美男美女カップルだと勘違いしていただろう。

 

「ええ。うちの愚弟です」

 

夏目君のお兄さんは女性の問いに頷くと、右に一歩ずれてその女性と夏目を対面させた。

 

「…改めて紹介します。彼女は大学の友人の吉井玲さん。同じ学部、同じ日本人、しかもお互い文月学園に弟がいることがわかってよく話すようになりまして」

「…そうだったか、失礼。弟の夏目惣司郎だ、よろしく頼む」

「はい。よろしくお願いしますね、惣司郎君」

 

夏目が差し出した手に応え、握手をする女性。

アタシ達はそれを呆然と眺めていた。…いや、正確に言うと衝撃で言葉が発せなかったのだ。

お互い文月学園に弟がいるーーつまりこの女性の弟の苗字は、吉井。…アタシが知る限り、吉井と聞いて頭に浮かぶ生徒はたった一人だ。

 

「…あの〜お姉さん。ちょっと聞いてもいいですか?」

「?はい、何でしょう?」

「お姉さんの弟の名前ってーーもしかして、明久、だったりします?」

「はい、そうですよ」

 

にこっと微笑む女性。

美人なお姉さんと、どちらかと言うと可愛らしいと形容する方が似合う吉井君の顔立ちはどうにも繋がらなくて。

 

「「「えぇぇーっ!?!?!?」」」

 

新たに発覚した意外な交友関係と血縁関係に、アタシ達はただただ驚くばかりだった。

 

 

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