Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
聖杯戦争。聖杯大戦。聖杯探索。
呼び方は様々だが、望みを叶える聖杯と呼ばれるものを巡って過去、現在、未来から『
その最後の一人となった英霊の魂を聖杯にくべる事により、勝者に一つだけ望みを叶える権利が与えられる。
英霊達は『
基本的にマスターはサーヴァントを現世に繋ぎ止めておく為のエネルギータンクと同義であり、魔力供給を受けなければサーヴァント達は実体化が出来なくなる。
何故なら英霊の身体はその名称が示す通りに霊体で出来ている。マスターの魔力供給によって実体化するのが基本だが、もちろん例外もあるらしいが。
魔力を得る方法は様々で、非効率的ながら他者から魔力代わりに血液や心臓などを奪うことでも実体化や大魔術を行使したりする事が出来る。
召喚された英霊にも大なり小なり望みがあり、単なる使い魔で満足するものなど基本的には居ない。だからこそ、命令を聞かせる為に『
これが尽きれば最悪、自分のサーヴァントに殺される事態も起きる。
願いは英雄の為だけにあらず。
全てはたった一人の勝者の為に。
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全ての子供に幸せになってほしい、という願いの為に多くの者を傷つけた。
もちろん後悔しても仕方が無い事は分かっている。
マスターに命令されたわけではなく、自分の意思で行動した結果だ。
だからこそ、この結果に不満などあろうはずが無い。
全身に鈍痛が残る中、俊足では敵無しと謳われた狩人たる女性は脳裏に様々なことを思い浮かべた。
だが、ふと
自分は役目を終えて消滅したのではないのか、と。
使い魔たるサーヴァントは死ぬと『英霊の座』とかいう場所に記録を残し、消滅する。そういう命令のようなものが身体に刻まれていた筈だった。
だからこそ疑問に思う。
自分は何故、思考しているのか。
頬に伝わる優しい風。
戦場の土煙など何処にもない。
それに周りが
「………」
目蓋を開けば敵の攻撃が、と身構えるも見えるのは青空だ。それと嗅いだことのない新鮮な新緑の香り。それは周りに広がる草原のものだと数分後に気づく。
そして、もう一つ。
「……ここは……、何処だ?」
つい数時間前まで自分が居たのは『ルーマニア』とかいう国だった筈だ。
戦場の傷跡がまだ癒えない穴だらけの大地が広がっている、はずの土地は今は何処にも見当たらない。
周りを見渡せど見えるのは自分の記憶に無い風景。
本当にここは何処だと女性は戸惑う。
それと先ほどから自身の体内を満たす膨大な魔力。
これは決してマスターから供給されているものではない。それにマスターはとうの昔に廃人にされている。
「……なんだ、これは……」
何処から供給されているのか、と周りを見渡す。
原因はすぐに判明する。
見渡す限りの世界そのものが魔力に溢れていることを。
それはもう神の世界と言っても過言では無い。
これならば単独で実体化も可能だ。いや、霊体化する必要が無いほどだ。
痛みが残る身体もいずれは回復する、と思い現状把握に努める。
立ち上がって改めて自分の身体を確認する。
背中にかかるほどの長さがある髪の毛は前面部が翡翠の如き色合いで後半は対照的に荒々しさを現す金色となっていた。更に頭頂部からは先の尖った獣の耳が覗く。
白人系のきめの細かい顔立ちに凛々しさを秘めた瞳もまた碧玉に彩られていた。
身に付けている服装に返り血があったので戦場での記憶は幻ではない事を物語っている。
服は前面部分の髪と同じ色合いの緑色が肩とスカート部分に使われ、胸部辺りと足元は黒で構成されていた。
そのスカートから尻尾が出ていた。
黒いガントレットを付けており、近くに愛用の武器『
「……マスターとの繋がりは完全に断たれている。それなのに私はここに居る。……やはり、周りの魔力によるものか……」
だが、それにしても膨大すぎる、と不信感を
武器を拾い上げ、周りを一望する。もちろん見覚えある風景は一つもない。
「聖杯無き今……。私がここですべきことなどあるのか……」
いや、ある。と、女性は思う。
生きているからこそ出来る事がきっと。
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まず最初にすべき事は自分の能力の確認だ。
軽く走ってみたが全身が酷く重く、ケガをしているようだがどの程度酷いものなのかは分からない。
それに内臓系だと手が出せない。
足は多少の痛みがある程度で歩行に支障は無い。
おそらく利き腕は骨折していないと思う。だけど、武器を持つと手首が痛い。ヒビでも入っているのか。
自然治癒で何処まで回復するかは分からないが、万全の体勢になるまで数日は掛かりそうだ。
本来霊体に過ぎないサーヴァントはどんなケガを負っても魔力で回復する事が出来る。もちろん、サーヴァントとて人間と同じく死ぬ事がある。
元々が霊体なので現界出来ずに消滅、というのが正しいかもしれない。
「……生きながら死人のようなものに……。くっふふふ……」
どういう理由があるにせよ、自分は今ここに居る。それを喜ぶべきことか。
自然とこみ上げる笑いは絶望や諦めによるものか。
「……これが絶望だというのならば。……我は……、私は何を望み、生きる?」
もちろん全ての子供たちの幸せのためだ。
そう。その筈だ。
願いは成就しなかった。ならばその望みは無駄では無いのか。
「……聖杯に頼らずに出来る事はきっとある。だから、我は前を向こう」
この身体が再度、消滅するまでは。
マスターなきサーヴァントの末路は哀れかもしれないが、今はそれすら気にならない。
そんな事はきっと嘘だ。
そう思う自分もまた自覚している。
自分はまだ歩みを止めていないのだから。
「……与えられたクラスというものがどうなっているのかは分からないが……。私はまだ……アーチャーなのか。……まあ、それは今はどうでもいい事なのかもしれないが……」
女神アルテミスより賜った『
その何かはきっと自分が望む願望。または何か、としか言いようがないもの。
「……今、成すべき事は……」
お腹が空いた。何か食べたい。
生物として至極当たり前の『食欲』を満たすこと、から始めようと思った。
サーヴァントとて腹は減る。どうしてと言われると、何故なのかは分からない。
思えば何も口にしていない。
狩猟を
何か獲物が居ないか、まずはそれを探すことにしよう、と。
「……後は水……。我慢は出来る。だが、飢えを恒久的に耐えられるかは……」
戦いの連続だった日々が恨めしい。
非常食の確保でもしておくべきだった。