Fate/grace overlord   作:ぶくぶく茶釜

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#010

 act 10 

 

 腹痛が治まり会話にも支障が無くなった後、改めて礼を述べるアタランテ。

 メイド達が言うところの(あるじ)、の一人『やまいこ』との対話を試みる。

 見た目には階層を巡回していた骸骨の騎士の方が強そうに見えたのだが。

 流暢に喋る内容から知性はかなり高い。

 

「改めて、ボク……いや、私の方がいいか。私はやまいこ。この拠点の代表者の一人だ」

「代表者……」

「うん。とにかく、無事で良かった。君さえ良ければ男共を呼ぶけど……。純潔とか男子禁制とかあるかと思って……」

「そういう縛りは無い。……確かに異性にジロジロ見られるのは好かないが……」

 

 アタランテの言葉を受けて軽くパンと音が鳴るように手を合わせるやまいこ。

 表情は分からないが喜んでいる雰囲気は感じた。

 確かに男子禁制という縛りがある女神などであれば問題が起きる可能性がある。しかしながら、既に男性というか(おす)には会った気がする。

 

「……変に気を使わせてしまったようだ。改めて謝罪する」

 

 頭を下げるアタランテ。

 お腹の調子はとても良くなっている。まさに奇跡。

 その後は何から話せばいいか、と思案していると部屋に別のメイドが姿を見せる。

 何人も入れ替わると数百人は居るのでは、と。

 

「そういえば……、我のような行き倒れは他に居ないのか?」

「居るには居るけど……。知り合いか、敵かで対応は変わるよ」

 

 自分の知る限り、どちらとも取れるので返答は難しい。尚且つ、施設内で戦闘行為に発展しては迷惑だ。

 それと知り合いと言っても真名のやり取りは数人だ。

 基本的にサーヴァントは全員が敵、ともいえる。

 戦いが終わった今、改めて雌雄を決する理由はアタランテには無いけれど。

 

「もし、歩けるなら着いて来て」

「了解した」

 

 大柄な体格にもかかわらず繊細な気配りの出来るやまいこの雰囲気はアタランテの印象では好感が持てる。けれども、それが本心かは分からない。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 食べ残した食事の事を思い出し、尋ねてみると一応は保管しているとのこと。

 少し熱を加えれば改めて食べる事が出来ると教えてもらった。

 それを歩きながら聞きつつ案内されたのはメイド達が寝泊りする個室の場所。

 多くのメイドには個室と相部屋が与えられている。中には空室もあり、物置のように使っている。

 その数は百部屋ほどあり、一階層とはいえ想像以上に広い空間である事に驚く。

 

「各階層は本当に広いよ。もちろんデッドスペースもあって、拡張の余地が残されている。そこを来客用に改造したりするのもまた楽しみなんだけどね」

「地下施設だと思うが……。こんなに広い空間を確保するとは……。天井も高い……」

 

 推定二十メートルほど。

 明かりはおそらく魔法の光り。夜になると場所ごとに消灯される。

 小さな邸宅を丸ごと納められる広さがある。

 

「ここのところ客人が多くてね。今まで使わなかった空間の再利用に一役買ってて助かっているよ。たまに重要会議も(おこな)われる」

 

 楽しそうに話すやまいこと驚いたり、呻くメイド達。

 おそらく秘匿事項が含まれているからだと思われる。

 そうして案内されたのはとある部屋。というか家にしか見えないし、アタランテに与えられた部屋とほぼ一緒だった。

 中身に変化が無いのであれば階層構造にはなっておらず、ただ単に吹き抜けになっている筈だ。

 

「天井が無駄に高く感じるけれど……。他の部屋も大体似たようなものだよ」

 

 と、言いながら扉を開けるようにメイドに命令する。

 重厚そうな大きな扉。三メートルほどはあるだろうか。それを非力そうなメイドが開けていく。

 ギギィと重そうな音を響かせるが、遠くでも似たような音が聞こえる。

 一斉に開ければさぞかしうるさくなると思う。

 開け放たれた扉の中にやまいこは挨拶もせずに入っていく。その後をアタランテも追随する。

 どの部屋も同じ構造という話しなので目新しさは確かに無かった。

 

「これはやまいこ様……。ようこそおいでくださいました」

 

 挨拶してきたのはインクリメントというメイド。

 客対応にメイド達が交代で担当しているので同じメイドに当たる事は珍しくない。

 

「お客さんは起きてる?」

「もうまもなくいらっしゃいます」

 

 その言葉の後で姿を見せたのはアタランテも面識がある人物、だったのだが様子が少し、いや物凄くおかしい。

 見たままで言えば白、黒、子供の三人に分裂していた、となる。

 ついでに顔や髪型が似ている、を追加する。

 

「……はっ?」

 

 アタランテは口を開けて惚けるように言った。

 その様子に対し、姿を見せた白の人物は手を前に突き出し、苦笑する。

 

「何もおっしゃらないで下さい。ええ、ええ。あなたの戸惑いは私にもよ~く理解出来ますとも」

「……というよりこいつ誰? 私は知らないんだけど……」

 

 と、黒が喋る。

 声は大体同じようだ。

 という事は子供もきっと同じだと思う。いや、絶対に。

 

「まず、こちらは私の姉妹でも生き別れた双子の姉でもありませんよ」

 

 言っている事は違うようで同じ意味に取れるけれど、アタランテとやまいこは突っ込まなかった。

 

「……いや。ようは三人(とも)に『ジャンヌ』という事だな?」

 

 アタランテの言葉に顔からたくさんの脂汗を流す白。

 白というか白ジャンヌ。

 碧眼で金色の長い髪を持つ白人系のきめ細かい肌の女性。年齢は十代後半。背は平均的。黒い方もほぼ同じ背格好だが髪は白く瞳は金色だった。

 小さい方は年齢が十歳程度で小柄。

 身につけているのは白ジャンヌは白銀の鎧。黒ジャンヌは黒い鎧。

 子供の方は何故か黒いブラジャーのような水着を着ていて白いコートを羽織り、下半身は丈の短い白いスカート。額当てのような兜には金色の小さなベルが着いていた。

 あの二人(大きいジャンヌ)に容貌は似ているが髪と瞳は黒ジャンヌと同じ。

 ジャンヌはアタランテの記憶では『ルーラー』と呼んでいた人物だった。

 彼女(ルーラー)はサーヴァントの真名を看破するスキルがあるので、アタランテの名前はすでに知っている筈だ。ただ、残り二人(黒と子供)に関しては記憶に無い。

 

「もちろん私が姉のジャンヌです。こちらの黒いのは妹ジャンヌ。小ジャンヌです」

「……名前が同じなのだから仕方が無いが……。そのネーミングセンスの無さはなんとかならなかったわけ?」

「クラス名だと同じクラスの人が居ると混乱しますから仕方がありません」

 

 三人共にやはり同じ声だ。

 本当に姉妹と言っても差支えが無いほど。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 フランスを救った聖女『ジャンヌ・ダルク』が何故か三人。

 ジャンヌ三姉妹という単語がアタランテの脳裏に浮かんだ。

 

「こちらの小さな子も同じ名前なのですか? 娘ではなくて?」

「はい。……一応、私のクラス名は……オルタとサンタとリリィで……、えっとランサー……でしたか? そんな感じです」

「……そんなに長いクラス名に覚えがない」

「私がルーラー……」

「ルーラー・ジャンヌ。セイバー・ジャンヌ。ランサー・ジャンヌにしよう」

 

 アタランテが強引に言い切った。

 名前談議だけで一日が潰れそうな気配を感じた。

 

「私のクラスはアヴェンジャーだ」

「……そうか。では、アヴェンジャー・ジャンヌで……」

 

 やまいこはメイド達に色々と命令を下し、アタランテは三人の()()()()()()()()()女性達に椅子に座るように促す。

 自分の事だけでも大変だったのに同じ存在、いや、どう考えても子供は同じ存在とは思えない三人は一体全体何なのか。

 更なる頭痛の種が増えて混乱する。

 ジャンヌ・ダルクが三人居るなら他にもクラスは違うが同一存在が居る可能性が高まる。

 青セイバー、白セイバー、黒セイバーとか。

 

「汝らもこの地に召喚された口なのか?」

「……召喚というよりは転移ではないかと……。戦いの記憶を保持していますし……」

「我々もどうしてここに居るのかは知らない。少なくともここは『フランス』ではないことは理解した」

「……もちろん、外の世界のことですよ……」

 

 と、それぞれ喋っているのだが同一人物が声色を変えているようにしか聞こえない。

 という事は別のクラスのアタランテが何所かに居る可能性もありうるのかも、と。

 ジャンヌ達から何も無い平原を歩き回って小さな木造の建物にたどり着いて今に至る、という簡単な説明を受ける。

 アタランテも言える範囲で説明した。

 それとサーヴァントなのに腹痛を感じるところから少しおかしい事も。

 

「サーヴァントという役目を終えて、別の何かに変異した、のではないでしょうか。魔力によって装備品の修復は確認致しました。しかし、空腹を感じるところは生物的です」

「……この世界の生物になった、って事じゃないの?」

 

 アヴェンジャー・ジャンヌは足を組んで睨むように呟く。

 聖女のイメージを持つルーラー・ジャンヌとは真逆の存在ともいえる。

 それに引き換え、子供のランサー・ジャンヌはとても礼儀正しい。言葉使いも丁寧であった。

 

「分かっている事は我々にマスターは居ない。契約自体されていないことです」

「……やはり」

「ですが、能力を失ったわけではないようです。単独行動できるサーヴァントという事もありえる。ですが……、まだまだ分からない事だらけです」

 

 それと、と呟きつつルーラーはやまいこに顔を向ける。

 その頃には扉から食べ物と飲み物が運ばれてくるところだった。

 

「この施設についての詳細は教えてはもらえないのでしょうか?」

「それについてはまだ答えが出ていない。もう少し待っててね。これはボク一人で決める事じゃないから」

「分かりました」

 

 と、あっさり納得するルーラー。

 無駄な議論をしても意味が無いと悟ったからだと思われる。

 メイド達がテーブルに温かい紅茶を置いて行く。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 アタランテと三人のジャンヌはほぼ同時に紅茶を一口飲んだ。そして、ほっと一息つく、ところまでほぼ同時。

 

まあ! これは素晴らしい味だわ」

「……ふん。まあまあじゃないの?」

「……アヴェンジャー・ジャンヌにはまだ早かったのかしら? 紅茶の味を理解するのは」

「……見栄を張らずに素直に美味しいと言えないのは残念ヒロインへの危険なフラグですよ」

 

 などなど。

 賑やかさでは羨ましいとアタランテは思った。

 単独行動の多いアーチャーは何かと相談事が苦手だ。

 苦手というか、気を許せる仲間が居なかった。

 

「そうそう。本来は令呪などで縛られるサーヴァントシステムですが、私が持っていた令呪は全て消えています。おそらく他のサーヴァントの方も同じような境遇だと予想しておりますが……。それらは実際に確かめるしかないようです」

「自由……という事か?」

「そうだとしても、この世界で我々が何をするか……。何が出来るのか。聖杯探索をする事になるのか。色々と分からない事だらけです」

 

 聖杯を求める為に自分達サーヴァントは召喚され、戦いに身を投じる。

 では、その()()が無くなったサーヴァントは何をすればいいのか。

 

「システムから切り離された中には暴走する者も出るだろう。特にバーサーカーなどはとても危険な存在になる」

「いえ、案外システムのくびきから解放されて理性を保っているかもしれません」

「……そうだと良いのだが……」

 

 バーサーカーの問題の次はアサシンとなる。

 彼らは殺人に興じる傾向にあるので現地の人間には脅威とならないかと。

 

「アヴェンジャー・ジャンヌとしてはどういった感情がありますか? クラス名のように何かに復讐したい気持ちとか残っていますか?」

「ああ? う~ん。自分の気に入らないことには腹が立つ……。という程度で、……別に何かしたいとか……。そういうのは()()無い。どうしても殺したい相手っていうのは……、浮かばないな……」

 

 例えば生前のジャンヌを火刑に処した人間達とか、とルーラーが言ってもアヴェンジャーは首を傾げるのみだ。

 時代が違う。世界が違う。という理由があるのかもしれない。

 それはそれで納得する理由ではあるけれど、クラスに応じたそれぞれの役目は絶対に破れないルールではないのか、と改めて尋ねるアタランテ。

 

「ルールに従う理由が今はあるとは思えません。そもそも聖杯戦争の為に転移した、という感じがしないのです」

 

 役目を終えた英霊は(すべから)く消滅する運命だ。残っていても現地の人間にとっては脅威であり、邪魔でしかない。

 中には受肉して現世を謳歌する者も居るらしいが。

 

「……それはそれとして……。私が気になるのは……、自分が装備している防具です」

「うむ」

 

 ルーラーは自分の白銀の鎧を突き出すように主張した。

 

「不思議なことに自分の意思で消したり、出したり出来るのです」

「うむ」

 

 と、素直に返事をするアタランテ。

 それがどうしたと言わんばかりだ。

 確かに聖杯戦争中は武具は自在に出せていた。というよりは装備丸ごとサーヴァントの持ち物であり、霊体化できる。

 その理屈までは窺い知れないけれど。

 

「アタ……、真名で告げる事に抵抗はありますか?」

「今更な話しだ。ルーラーとは知らぬ仲ではない。それに彼ら(やまいこ)は恩人だ。見知らぬ者の場合は躊躇(ちゅうちょ)するかもしれないが……」

「分かりました。当分は真名で呼ばせていただきます」

 

 逆にアタランテ側はクラス名でなければ混乱する事を伝え、お互いに納得していく。

 

「では、改めて……。アタランテは身につけている防具に違和感はありませんか?」

「特に思う事はない」

「この防具は絶対に売りさばく事が出来ません。おそらく各々の武器も……」

 

 アタランテとしては武器の弓は売りたくないもの、と思ったところで気付いた。

 礼の為に譲渡する事が出来ない、という意味だと。

 相手に渡したところで自分の意思で手元に戻せる。現にアタランテの手には弓が握られている。

 ずっと部屋に置きっぱなしにしていたものだ。ちなみに増殖できるのは打ち出す弓矢くらいだ。

 いくら魔力が豊富だからといって、と試しに弓が増えないか色々と念じたりしてみた。

 霊体化出来るなら、それを応用すればいい。という発想は出来たが実践できるのかはまた違った概念があるのか、()()生み出せなかった。

 

「おそらく武具はサーヴァントと一心同体。霊体で出来ている、または出来ていた、が正しいかは分かりませんが……。捨てる事が出来ない」

 

 一心同体だからといって武具を攻撃されるとダメージを受ける、という事にはならない。

 完全に破壊されたとしても魔力で復活する事が出来る可能性がある。

 

「この現象がある限り、我々サーヴァントは何らかのシステムや戦いに身を投じる事になる可能性があるかもしれません」

「新たな聖杯戦争が起きると?」

「ルーラーである私にもなんとも言えませんが……」

 

 ランサー・ジャンヌ以外が小さく唸る。

 どういう意図があるにせよ、自分達にはマスターが居ない。それは感覚的に理解している。

 サーヴァントは使い魔ゆえに命令があれば戦う運命だ。

 では、その命令を下す者が居ない場合は自由時間として遊んでいていいのか。

 

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