Fate/grace overlord   作:ぶくぶく茶釜

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#012

 act 12 

 

 食について異常に執着する人物をランサーは一人()()思い浮かべられた。

 通称『初代サンタ・オルタ』という人物は性根が腐り切っている、という説明で終わった。

 

「……はっ?」

 

 やまいこの疑問にアタランテも同じ感想を抱く。

 何なんだ、そいつは、と。

 

「詳しくは分かりませんが……。世界中の子供たちに残念な玩具を押し付けドヤ顔で自慢する変質者だと……」

「……残念な玩具……」

「ああいうサーヴァントのマスターはきっと苦労するに違いがありません」

 

 力説するランサー。

 知り合いで敵という認識でいいのか、とアタランテとやまいこは疑問に思った。

 聞いている分にはろくでもない人間のようだ。

 

「ボクの知る限り……、性格的に変だな~っていうのは居なかった筈……」

 

 賑やかという言葉では通じないこともあるかもしれない。

 やまいこは改めて収容した人物の様子を確認する事をアタランテ達に約束する。

 

「それから……。君たちが敵同士じゃないなら、このまま交流する事を許可するよ。ああ、あと君。アタランテと言ったね?」

「ああ」

「今日一杯は無理な食事はしないように。いくら魔法でも身体はまだ少し現実に慣れていないと思うから」

 

 そう言った後で部屋から退出するやまいこ。

 残ったメイド達は後片付けを始める。

 

「……正直、他のサーヴァントに会いたくないですけどね」

「基本、殺し合いますから」

 

 聖杯戦争というシステムでは仕方が無い事だが、そういう(しがらみ)が無い今の状況では交流することも(やぶさ)かではない。むしろ色々と情報を得たいと思っている。

 それぞれの時代の英雄の話しは特に。

 だが、今はまだ互いに疑心暗鬼だ。何かの拍子に戦いが強制されるかもしれない。

 

「ルーラーとしての意見ではあまり役に立たないかもしれませんが……。仲良くできることを祈りましょう」

「そうですね。……しかし、この武具で出歩く事になるんでしょうか?」

 

 武装は身を守る上では有益だが、この格好のまま過ごさなくてはならないルールは無い。

 風呂に入った後は『浴衣(ゆかた)』というものを借りた。着付けはメイド達が(おこな)ってくれたが、それがとても着心地が良かった。

 

「私も着ましたよ、浴衣。あれはいいですよね」

「私は水着のままでした」

「……だろうな。ランサーも浴衣で過ごしてはいかがか? その薄着では(いささ)か……、不純な気配がする」

「サンタの戦闘服にケチを付けないでください。世の男共を悩殺する上では立派に役に立つんです。はい、論破」

 

 と、言った瞬間にアヴェンジャーの平手打ちがランサーの後頭部にヒットする。

 その様子にルーラーがよくやりました、と小さくつぶやくのをアタランテは聞き逃さなかった。

 彼女(アタランテ)も『教育的指導です』と呟いて感心した。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 児童虐待で訴えますよ、と涙目で言うランサーを無視して今後の活動について色々と余裕が生まれた。

 聖杯戦争の事は考えなくていい。それはつまりサーヴァントとしてのお役御免ともいえる。

 戦わないサーヴァントに存在価値があるのか、と言われそうだがマスターの都合で召喚される身にもなってほしい、と言いたい事はある。

 サーヴァントは基本的にマスターを選べない。

 時にはおかしな(やから)だとしても勝利の為に戦うしかない。

 人間的に性格破綻者や狂人だとしても。

 ルーラー達の部屋から出たアタランテは近くまだ居たやまいこに他の部屋の案内を頼んだ。

 

「いいよ。それじゃあ、次に行こうか。君たちの話しは実に興味深い。他のメンバーも立ち会わせたいところだよ」

「……殺し合いの話しばかりだと思うがな」

()()()的にはボクらも大して変わらないかもしれない。けれども、君らよりは深刻ではないと思う。……うん。立場の違いによる意見の隔たりは色々と勉強になるよ」

 

 やまいこの中で色々と納得したり考えさせられる場面があったようだと思い、彼女だと思うがこちらの立場を理解しようとしてくれるところは好感が持てる。

 もちろん厄介になっている身なので文句は出来る限り言わないつもりだ、と胸の内で言うアタランテ。

 次に向かった部屋の外観はやはり他の部屋と大差なく、メイド達によって扉が開かれる。

 自分で開けられる、と一度は言った。けれどもメイド達の仕事を取る事になる、という言葉に納得するしかない。

 これが奴隷であればアタランテと言えども素直に納得するところだが、ひ弱なメイドだと罪悪感が湧く。

 そんな思考を振り払い、部屋の中に入る。

 内装に大差はなく、外壁は無機質にして質素。

 一言で言えば華が無い。

 自分の家ではないのだから文句を言っても仕方がない。

 

「……今度は更に見分けが難しい……」

 

 衣服は違うが顔などは双子としか言いようが無い。

 同じクラスが複数存在しているパターンもあるのか、と疑いたくなる。

 一方は全身に張り付くような紫と黒を基調とする動き易い肌着に見える。

 もう片方は完全に水着だ。肌の露出が激しい。そして、双方共に胸が大きい、というか強調されている、としか言いようがない。

 二人共黒味がかった腰の辺りまで真っ直ぐに伸びた紫の髪。

 歳は外見的には二十代後半以降、大人びた印象を受ける女性。

 怪しく光る赤い瞳。肌は東洋系のような健康的な色合いに見えた。

 

「……来客か」

「同じ顔……。もしかして、そういう基準で同室にさせているのか?」

 

 アタランテは一緒に部屋に入ったやまいこに尋ねる。

 直接彼女に言葉をかける度にメイド達が前に出て何か言おうとするのをやまいこが手で制する。

 

「バラバラだと混乱するからね」

「……そうなると……、嫌な予感がするのだが……」

「十人くらい同じ人が居る可能性もあるよね。とはいえ、そんな事はボクらにはどうしようもないさ」

「……うむ」

 

 口元をゆがめつつ不満を滲ませるが何も言い返せない。というよりは同一存在を顕現させる聖杯システムに抗議する以外にどうしようもないことは頭では分かっている。

 これは相当に趣味が悪いと言わざるを得ない。

 

「あえてクラス名で言えばアーチャーとなる。よろしく」

 

 と、アタランテが先に挨拶した。

 室内に居た同じ顔の人物達はそれぞれ離れた位置で寛いでいたが来客の為に移動を始める。

 

「私は……ランサーだな」

「私はアサシンだ。だが、槍使いである事は変わらない」

 

 予想通りに同じ声にしか聞こえない。

 

「……せーの」

『私は影の国の女王……、スカサハだ』

 

 と、何度か練習したのか、同時に名乗りを上げた。

 見事に重なる声は不思議な音色に聞こえる。

 

「……よし、合った」

「今回は良い出来だった」

 

 顔を見合わせて喜ぶスカサハという二人の女性。

 どうやら二人は仲が良い様だ。

 

「どうも。……しかし、同一存在が二人並ぶのは……、違和感というか不思議な印象を受ける」

「我々も互いに不思議がっていた。しかし、現実に存在しているのだから受け入れるしかない」

「互いに存在をかけて殺し合うのも(やぶさ)かではないが……。一人残って旅をするのは……寂しいと思ってな」

「虎の子の『宝具』を使ってみたが帰れない。擬似的な帰還は果たせるようだが……。困った事態になった」

 

 ほぼ同じ声なので互いに交代で喋っても区別が付かない。

 だからといって喋り方を変えろとは言えない。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 スカサハ以外にも収容した人間というか存在というか。とにかく色々と居るらしい事を教えてもらった。

 その中で疑問なのが全員がサーヴァントなのか、という点だ。

 知らない世界に転移した、というのならば別にサーヴァントでなくてもいい。それにやまいこ達はどう見てもサーヴァントというよりは言い方は悪いがモンスターに類する。

 その辺りを訪ねようとすると我慢の限界を迎えたメイド達が猛抗議する。

 

「先ほどから至高の御方に向かって軽々しい口の聞き方には我慢ができません!」

「こらこら。彼らはお客さんなんだから、主人というか責任者が対応するのは当然だよ」

「……しかし」

 

 抗議してもやまいこは気にしないと言うのは理解している。けれどもメイド達にとっては各上の存在たるやまいこに対してアタランテが無神経すぎると言いたげだった。

 確かに相手が何処かの貴族や皇帝であれば気軽に話しかける事はほぼ無理だ。

 それはなんとなく理解した。

 

「いいの。男連中が多いんだから色々と聞きにくい事もあるし、なにせ美人さんだ。話しかけることも難しいんじゃないかな」

「……出過ぎた発言をお許しくださいませ。ですが、まず我々に一言……」

 

 やまいこは自分の頭を撫でつつ軽くため息をつく。

 メイドに伝言を頼み、そこからやまいこに言葉を伝える。そういう事だとしても目の前に居るんだから直接話した方が早いに決まっている。

 そういう庶民感覚をやまいこは持っているので気にしないのだが、メイド達は完全に自らの役柄に固定されているので宥めるのが大変だ。

 かといって部屋から追い出すわけにもいかない。

 

「あまりグダグダ言うと追い出すよ。会話はスムーズに(おこな)いたいの。いい?」

 

 やまいこが少し迫力を込めた言い方をするとメイド達が顔を青くして跪いていく。

 これ以上の進言は怒りに触れると察知したようだ。

 彼女達は一つ頭を下げて壁際に待機する。

 

「部下を持つと色々と苦労する。それで何か言いたそうだったようだけど、なんだい?」

「あ、ああ、うん。汝らが収容しているのはサーヴァントなのか、それとも単なる行き倒れなのか、というものだ」

「さーばんととかは分からないけれど、数ヶ月前からこの辺りに大量の行き倒れが現れてね。放置するのも可哀相だから空いている部屋を使わせているのさ」

「……数ヶ月前から?」

 

 アタランテの言葉にやまいこは頷く。

 

「今もこの辺りに現れているんじゃないかと毎日調査している最中さ。それら全てが君らが言うさーばんとかと言われても困るけれどね」

「我らはもう二週間前から滞在している」

「英霊にも一時(ひととき)の休暇は必要だ。あと、ここは鍛錬も出来るので重宝している」

「すっかり馴染んだようで良かったよ。我々としてもこの地域を戦場にしたくない理由があるから様子見を続けている」

 

 サーヴァント以外にも転移してきた相手が居るならば、それらもやまいこ達が見つけて保護する、ということか、と。

 部屋数は確かに多く、全サーヴァントを収容してもお釣りが来るかもしれない。

 それにしてはサーヴァントばかり転移するのは(いささ)か疑問だ。

 たまたまサーヴァントとしか出会っていないだけでマスターとかも転移しているのか。そう思いはしたが契約の繋がりが切れているので、それがありえるのかも疑問だ。

 

「転移の時期が近いからとて関連付けるのは早計だけれど……。だいたい似たような人達だからきっとさーばんとかもね」

 

 アタランテが知る英霊の数はそんなに多くない。だが、違うクラスでありながら同一の存在が居る事から相当な人数が転移してきているような気がする。

 おそらくまだまだ増える予感がする。

 

「施設に全てを収容しておくのも色々と不都合となってきたから、みんなで手分けして君たちの受け入れ先とか相談中なのさ。これが結構大変でね。候補地はある。後は君たちがどう過ごすか、だ」

「……ということは既に外に出たサーヴァントも居るのだな?」

「結構居ると思うよ。ただ、この辺りは不法侵入者を追い払う為の様々な罠が仕掛けられている。それに引っかかると……、体験した君なら分かると思うけれど行き倒れが量産される」

 

 つまり飢えに苦しむ原因はやまいこ達の罠にかかった、ということか。

 アタランテは怒りは一瞬だけ湧いた。だが、すぐに理解する。

 他人に荒らされたくない土地であれば仕方が無いと。

 それに命を取る事が目的ではなく、無力化した方がサーヴァントを安全に引き取る事が可能になる。

 戦略的には理に(かな)っている。

 狩人たる自分が狩られてしまうとは実に情けない事だ、とアタランテは不甲斐無い自分を恥じた。

 罠といってもサーヴァントを捕らえる罠はそうそう人間には作れない。

 化け物というかモンスターだとしても難しいのではないかと思う。

 

 腐ってもサーヴァントだ。

 

 やまいこという存在がどれほどの力を持っているのか分からないが、侮れない事は確かだ。

 それにしてもルーラーすら捕らえたのは脅威だと思う。

 ましてアヴェンジャーまでも。

 

「全員がサーヴァントというのは(いささ)か悪意を感じるが……」

「たまたまサーヴァントが大量発生したのだろう」

 

 そういう問題ではない気がする。

 そもそも大量にサーヴァントを召喚できるものなのか疑問だ。

 聖杯が壊れた影響です、というのならば少しくらいは分からないでもないけれど。

 現に複数のサーヴァントが居る。それは疑いようのない事実だ。

 

「その前にさーばんとと普通の来客と何が違うんだい? 一緒くたに呼称しているけれど……」

 

 至極当然の疑問をやまいは口にする。

 

「見た目では分からないな……」

「英雄などの伝承を知る者が居れば……。いや、マスターと呼ばれる魔術師によって召喚されるのが基本的なサーヴァントだ」

 

 例外もあるので一概には言えん、と黒い服のスカサハは言った。

 アタランテも彼女の言葉に同調し、頷く。

 それ以外でサーヴァントかどうかを見分ける事は難しい。

 彼らの時代の服飾で判断することも出来なくはないけれど、趣味で着ているだけの人が居ないとも限らない。

 時代と共に服装は変わるものだ。

 

「宝具と呼ばれる必殺技を使ったり、こう……霊体化した武器などを出せたりする者かな」

 

 と、二メートルほどの細身の赤い槍を何も無い空間から出現させるスカサハ。

 同じ事はアタランテも出来る。

 これは召喚の際に刻み込まれた能力で、本来はこんな妙な技は出来ない。

 サーヴァント()()()()というものによって当たり前のように行使できるだけだ。

 その原理は口より感覚に頼る事が多く、改めてどうしてと言われると困る事態に陥る。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 結局のところサーヴァントは相手がサーヴァントかどうかを把握できるが、やまいこ達には区別が付かない。そういう認識の違いがある事はそれぞれ理解した。

 折角他のサーヴァントに会えたわけだが、別に話したい事は殆ど無い。

 この世界にどうやってきたのか知りたかっただけ、とも言えるけれど。

 同じ状況ならば質問しても無駄な気がした。

 

「……敵対するかの問題が残っていたな……」

 

 聖杯をかけた戦いにはサーヴァント同士で殺し合わなければならない。

 各サーヴァントの魂をくべる為に。

 

「その聖杯が無いなら戦う必要は無い。魔力もマスター要らずで済んでいる」

「という認識で我々は共に生活しているわけだ」

「改めて聖杯が生まれたとしても肝心のマスターが居なければ命令に従う道理は無い」

 

 それは確かにその通りなのだが、今まで殺し合いをしてきた自分達に急に仲良くなど出来るものなのか。

 怨恨は無いのか、と。

 

「弱肉強食の原理を叩きつけておけ」

「うむ。その意見に私も同意する」

 

 と、仲の良い双子の姉妹のように喋るスカサハ達。

 しかし、片方が水着というのが少し気になる。

 

「これが基本武装だから仕方が無い」

 

 これで脱げなければトイレが困ると言いながらスカサハは豪快に笑う。

 

「特に大の方がな」

「この身体とて飢えもすれば出るものも出る。まことに不思議なものだ」

「……現状に満足しているのか? 元の世界に戻りたいとかは?」

「なるようになる」

「再召喚されるまではここで暮らすことになるやもしれぬが……。サーヴァント一人……、いや、数人程度でどうにかなるとも思えない。ここは地道な情報収集だな」

 

 それを今まさにアタランテは(おこな)っている。

 話しが通じる分、気は楽だが。

 この先の道筋は皆目見当が付かない。

 誰かと戦って死ねばいい、という案も実は浮かんだ。しかも一番確実で手っ取り早い気がするので性質(たち)が悪い。

 それと令呪による束縛が無い。ゆえに基本的には自由だ。

 

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