Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
その後、他のサーヴァントらしき者達と面会してみたが施設の中を満喫しているように見える。
別の見方をすれば懐柔されたり、代表者とよばれるやまいこ達のようなものに使役されているのでは、と勘ぐってしまいそうになる。
悶々とした状態で自分に与えられた部屋に戻る頃には消灯の時間となっていた。
メイド達が怒っていたので愚痴を言われるかと覚悟していたが戻った途端に先ほどまでの出来事など無かったかのように普通に接してきた。
仕事は仕事として割り切っているとも言える。
消灯といっても眠る種族にとっての時間であり、睡眠不要の種族は引き続き起きていても問題が無い。
とはいえ、アタランテは眠れるので早めに眠って朝に備える。
防音対策が取られている為に部屋の外の音はほぼ聞こえない。
よほどの大きな音でも無い限りは、と付くかもしれない。
それから数時間ほど眠った。精神的に疲れたために熟睡は早かった。
起床の時間を告げる鐘の音は無いが扉をノックする音で目が一気に覚める。この辺りの感覚はまだ衰えていない。
個室とはいえ寝室があり、衣装部屋がある。
身支度を簡単に済ませて居間に向かう。
「はい。どうぞ」
と、声をかけると扉が開いた。
「失礼します。お着替えと朝食をお持ちいたしました」
「それは……、頼んでいないのだが……」
「そうだとしても冷蔵庫に入れる事になっていたもので……」
この部屋自体アタランテのものではない。
メイド達にとってみれば客が寝ていても合鍵などで開けて色々と着物や食べ物の用意を済ませる権利が与えられている、事になっているのかもしれない。
そういう文化に
「お風呂は既に沸いておりますが……。今の時間帯は男性客も利用なさるのでご注意下さい」
混浴があるので避けるならば時間調整するとメイドは説明する。
至れり尽くせりはありがたいが、慣れない文化に一々戸惑ってしまう。
しばらく施設の
折角の朝食を放置しては勿体ないので食べるのだが、あまり進まなかった。
不味いわけではない。
手が動かないだけだ。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
鍛錬について第六階層に行かなければらない規則は無く、自室でも腕立て伏せなどは出来る。
壁に矢を放ってはいけない。という事が脳裏に浮かんだ。
放ちたくなったらメイドに相談して上の階に連れて行ってもらおうと思った。
他のサーヴァントと合同で走り込みも出来ないものかと思案しつつ、一時間後に風呂場に向かう。
最初は一人だけしか居なかった階層が急に賑やかさを持ったのは幻術ではないかと疑った。
もしくはそれだけの事が出来る相手がどこかに居るのかも知れない。
収容されている殆どがサーヴァント。
それもまた何者かの意思を感じる。
「聖杯戦争が終わった後の世界とはこんなにも混沌としているのか?」
ここが正に『英霊の座』ならば、きっとこういう世界の事なんだろうな、と。
一通り楽しんだ後に消えていく運命ならば、それはそれで甘んじて受け入れよう。
「達観した顔をしているな、アーチャー」
シャワーを浴びていたら声をかけられた。
少人数ならクラス名で自分だと分かるのだが、今ならセイバーと声をかけるだけで二十人くらい振り向く気がする。
アーチャーだけでも五人くらい。
これが実際の聖杯戦争であれば混沌の様相と成り果てる。
まさしく、なんだこれは、だ。
「そこの緑色のアーチャー」
緑色のアーチャー。色で言われると案外、腹が立つものだ。逆に自分も色で区別する事はあるけれど。
正直、知らない方が良い事もあるものだとつい先日知ったばかりだ。
「……我、……の事だよな……」
いっそ真名の方が分かりやすい。
今はそんな状況となっている。
「……急に声をかけられるとは思わなかった。それで……セイバー。我に何の用だ?」
大抵のサーヴァントは貴族であったり王族である事が多く、態度も尊大だ。
逆に平民がサーヴァントになるのは日系くらいではないかと思われる。
今、声をかけてきたセイバーも服を着れば赤セイバーとなるが見た目は小さい。
ローマ皇帝らしいが詳しい事はアタランテには窺い知れない。
「特に用という事も無いが……。明日にも死にそうな顔をしておったのでな」
金髪碧眼の少女。それなのに胸が大きい。そこは少し嫉妬する。
それと似たような風貌の人物がやたらと多いので個性を見つけるのが意外と難しい。
喋り方や声質で何とか区別が付けられる、という程度だ。
スカサハの例もあるので細かい分類は割りと難しい。
あと、大人数のせいかは分からないが、真名を平然と名乗る
聖杯戦争において自分の弱点を晒す行為だとアタランテはマスターから教わった。それなのに彼らは自由になった事で隠すのも面倒臭いと思ったのか。
呆れはするが、気を許すのはまだ早い。
とはいえ、自分も既に何人かに真名を明かしてしまった。それは、寂しさのせいだと思う事にしている。
「死ぬのか、殺されるのか……。この先の自分の身の振り方が全く思い浮かばなくて……」
「んんっ? 外の世界にはたくさんの街や村があると聞くぞ。いずれ出る事になれば
最初の頃は監禁されて二度と出る事はない、と思っていたが今はサーヴァントらしき存在が大量発生しているせいで逆に外に出ない方がいいのでは、と思うようになった。
彼らが外に出る事は世界にとってちょっと洒落にならない危機に陥るような不安がよぎる。
その中には自分も入っている。
普通の人間よりも戦闘力が格段に上の存在だ。
国を取ることも
施設内で戦闘行為に発展しないのは不思議だが。
そう。戦闘行為が発生していない。
もちろん自分の知る限り、ではあるけれど。
血気盛んなサーヴァントが今まで何も問題を起こさないのも疑問点の一つだ。
「ところでセイバーはここに来てどれくらいになる?」
「どれくらい? ……んーと、30は超えた筈だ」
さすがに30年はあり得ない。では、三十ヶ月かというと、それも違う筈だ。
日にちであればアタランテよりも少し先輩に当たる。
と、軽く分析して思い出した。
数ヶ月前に大量に行き倒れが発生した、というやまいこの言葉を。
何十年も前からの出来事ではなく、ここ最近に起きたと考えるのが自然か。だが、それを素直に信じるには確証がもう少し欲しい。
「ここは過ごすだけなら快適だ。第六層……、階層だったか。そこに行けば陽の光りが浴びられる。食べるものにも困らない。娯楽は……多少はあるが……。贅沢を言わなければ……」
「住み易いのは我も理解した。……しかし、いつまでも過ごす事は出来ないと思う」
この施設の関係者がどういう意図を持っているのか、それが未だに分からない。
監禁のような事は無いが立ち入り禁止区域が気になる。
「滞在が少し強制的とはいえ、それ以外は比較的自由ではないか」
「サーヴァントの役目としては何かが間違っている気がする。いつまでもここに居てはいけないと……」
「そうかもしれないが……。自力で脱出するか? ここは難攻不落の要塞だと聞く。それに世話になっている分際で楯突くのは礼に反する」
「……それはそうなのだが……」
「急に自由になって戸惑っているだけだ。余など快適に過ごしておるぞ」
はっはっは~と裸で笑う皇帝陛下。
正直、いつまでも話し込んでいると湯冷めするような気がしたので、話題を早々に切り上げる事にする。それに赤セイバーは異論を挟まなかった。