Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
一旦席を離れ、ある人物を探すアタランテ。
特定の人物というか特定のクラスなのだが。
話しを総合するとペロロンチーノ達の目的というか彼個人の目的のような気がするけれど、サーヴァントに興味を持っているようだ。
それは力なのか、それとも本当に肉体なのか。
後者はどうにも受け入れがたい嫌悪感しか湧かないけれど、変態的趣向には覚えがある。
特にキャスターとアサシンクラスにはろくでもない英霊が多い。
「すまないが……、頼みを聞いてくれるか?」
広い食堂を利用する知り合ったサーヴァントの一人に声をかける。
ペロロンチーノ達のような極端な異形以外はほぼサーヴァントといってもいいくらいの大所帯となっている。
自分の要望を聞いてくれそうなのは騎士道精神溢れるセイバーでは無理なので、頭のおかしそうな奴を選んだ。
黒い姿でいかにも物騒な面構え。それでいて王様然とした尊大な言動の人物を。
クラスはセイバーだと思う。だが、もう一人区別し難いライダークラスが居る。
見分けるポイントは側に
「……この騎士王の中の騎士王。最強のセイバーさんに頼みごととは……。貴様……、命知らずだな?」
そんな事を言いながら施設のメイドに負けず劣らず食事をしているのは死人の如き色白の肌を持ち、金色の瞳に金の髪。身につける防具は毒々しい黒くてスカートがある
そんな人物が好物とするのはハンバーガーや脂ぎったものばかり。いずれ体重が増えるのでは懸念している。
それと口いっぱいに頬張りながら喋る時があるので注意が必要だ。
「……体重に関しては心配するな。一発撃てばすっきりダイエットだ」
「そうかもしれないが……。何かが壊れると思う。それより……宝具を貸してもらいたい」
「……話しを聞こうか。おかわりを持って来い」
「……少し食べすぎでは? いくらサーヴァントでも無限に食べられるとは思えないのだが……」
大食漢のサーヴァントが意外と居るのが気になるところだ。
施設の者はそれでも大丈夫だと言っていた。それが本当かどうかは分からない。
いや、アタランテとしては知りたくなかった。知ってはいけない事実がありそうで。
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通常、サーヴァントの持つ宝具は戦闘においてギリギリまで秘匿するもの。または通常武器として使用する側面から貸し借りは基本的にしない。
サーヴァントは互いに殺し合う運命にあるので、協力関係は一時的以外では基本的にしないものだ。
宝具は武器に留まらず、英霊の象徴であれば肉体や魔術も含まれる。
多くの宝具には真名があり、それを口にする『真名解放』によって真の力を引き出す。
アタランテの持つ『
「……いいだろう」
「まだ何も言ってないぞ、黒セイバー」
「
見た目や話し方には圧迫感があるが、落ち着いて聞いていると微笑ましく思える。
食べ物に執着するところはさぞ食生活が貧しかったのだな、と哀れみさえ覚えるほどだ。
どこかの国の王様のようだが可哀相に、と言ってやろうかなと意地悪な気持ちが湧く。
狩人たる自分もあまり人の事は言えないけれど。
「……ふん。我が宝具を貴様が持っても意味が無いぞ」
「剣であれば何でもいいだけだ。いちいちケンカを吹っかけるより素直に頼もうと思って……」
「……ケンカか……。腹を満たしている今は機嫌がいい。誰を殺すんだ?」
「殺しではない。……だが、物騒な頼み事なのは変わらないな。ここから出る為の確認作業といったところだ」
会話が終わるたびに無表情でひょいパクと食べ続ける姿が何とも奇妙で、面白い。つい吹き出しそうになる。
もう少し美味しそうに食べたらいいのに、と。
反転英霊はみんな
「……いや、別の者に頼むとしよう」
山盛りの食事が終わる頃には次の日になっているのではないかと思ったので。
本当なら見知った相手の方が話しやすいがセイバー系は真面目な者が多い。だからこそ、セイバークラスとして召喚されるのかもしれない。
ここはアサシン系を探すのが順当かとため息をつきつつ移動を開始する。しかしすぐに見知った存在と出くわす。やはりセイバークラスなのだが性格は凶暴であり、破天荒という言葉が似合う。
赤い模様が描かれた白い
出来た料理を受け取りに行っていた者は金髪碧眼の騎士。声質では女性。または歳若い男子にも聞こえる。
風呂場で見かけたので女性なのは丸分かりだったが。
「よう、アーチャー。なんか暗い顔してんな」
天真爛漫な笑顔で挨拶するが戦闘時は本当に野生児のような戦い方をする。
「あなたが明るすぎるだけだ」
他の騎士風よりは話しが通じるかもしれない、という事に気付き同席を試みる。
本来は敵同士だが今は戦う理由が無い。その為かセイバーは特に邪険にせずアタランテの同席を許した。
「……で、オレになんか用か?」
「汝の宝具を借りたい」
「……これはまたどストレートだな。
たくさんではないが騎士道精神を持つセイバーは誰でも頼みにくい。なので、要望を受け入れてくれる者は限られてくる。その中で目の前のセイバーはまだ少し希望がある。
後、
「本当はアサシンを探していたのだが……。我の頼みを聞いてくれそうなのが見つからなくてな」
居たとしても首を狙いそうなのが数人。毒で死にそうになるのが数人。
やはり普通に剣を扱う人物が好ましい。
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これから食事を始めるようなので食べ終わるまで待つことにする。
食欲を減退させるような話しになるので。
「……なんだ、食いたいなら自分で頼んでこいよ」
「いや、我はもう食事が済んだ。だから、待つ事にした。急かさないのでゆっくりと食べててくれ。その間に自分の気持ちを整理するので」
「じゃ、じゃあ……。あっち向いててくれよ」
「分かった」
アタランテは素直に従った。
視線を替えて改めて周りの風景を見据える。
食堂と言っても数十メートル規模の広さがあり、百人以上が滞在しても余裕があった。
極端な大食漢はそれほど居ないようだが、彼らの食事の在庫は本当に足りているのか疑問だ。
数人のメイドが入れ替わり立ち代わり後片付けをしたり、現場の清掃をしている。
「……しかし、殆どサーヴァントにしか見えないな……」
しかも霊体化していない。
自分も霊体化はできる。いや、出来ていた。
こちらの世界に来てから姿を隠す事が出来なくなっていた。武器と防具は消せるのに。
溢れる魔力に何か秘密でもあるのか。
「……アサシンとバーサーカーが同じ席に居ても大人しくしているとは……」
クラスによる狂化は解除されているようだ。
このまま平穏に過ごしていると勘が鈍るのではないかと思うのだが、かといって殺し合いをするわけにもいかない。
「ズッズズッ、ゴホッ。ズズッ」
ふと、視界に箸を握って不器用に麺類を食べる白銀の鎧を着た人物に気付いた。
大きな音などで他の者も驚いているようだ。
白い青みがかった長い髪の女性。クラスはランサーだが武器は持っていない。
苦しみながら食べる姿が何とも郷愁というか愛らしいというか、意外性に富んでいた。
周りに汁を飛ばしながら食べ続け、傍らに居たメイドが苦笑しながらテーブルを拭いていた。
様々な食べ物があるのでそれぞれ怖いもの見たさで挑戦している。
特に割り箸というもので食べる料理は殆どのサーヴァントが苦戦した。もちろんアタランテも。
麺類を『すする』という食べ方を知らない者が多く、
縦に割って使うとは露知らず、二本持ったり突き刺したりと試行錯誤をする風景が広がっていた。さすがに横にへし折る者は数人しか居なかった。
顔に大量の汗を浮かべる白い髪で褐色肌のセイバーを見つけた。こちらはどうやら激辛料理を頼んでしまったようだ。
辛いものは平気と豪語する者も悶える料理が確かに存在する。
「……この料理は……、悪い文明です……」
「食べ慣れないものは無理せず残してもいいのですよ」
「……もったいない」
「……うるさくして……、ごめんなさい」
「どうして麺が長いのだ?」
「パスタは平気で食べられるのに……」
頼んだ人間が悪いのは明らかだが、文句が多い。それはそれで微笑ましい風景ではある。
基本的にサーヴァントは食べずとも餓死しないと言われる。だが、そのルールのようなものがこの世界では適用されていない気がする。
もし、そうであればしっかり食べないと