Fate/grace overlord   作:ぶくぶく茶釜

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#016

 act 16 

 

 後方に居るセイバーが食べ終わったのは数十分後だ。

 その間、アタランテは時間を忘れて様々な反応を眺めて微笑んでいた。

 

「食い終わったぜ。……それで……、オレの宝具を借りたいそうだが……」

「あっ、うむ。……つい周りに気を取られて……」

「色んな反応を見るのは面白れーよな。つい先日まで殺し合いしてた筈なのによ。今じゃあ仲良しごっこの真っ最中と来てる」

 

 それが悪いと言い切れはしないが、今の状況はどこか不安を感じさせる。

 何かが()()()()で一気に瓦解するような危うさがあるような。

 それを破るのは自分か、他人かの違いかもしれないけれど、いつまでも保っているとは思えないとセイバーは思う。

 

「ここの(あるじ)とやらが外に出さないから仕方が無いんだろうけど……」

 

 強大な力を持つサーヴァントを迂闊に出せば近隣の村や街が危うくなる、という理由があるから仕方が無い。

 それはそれで納得出来るものがある。それに彼らとていつまでも地下施設に閉じ込めておくのは不味いと分かっているようだし、今は待つしか解決策が無い。

 それにアタランテが知る限り、騒動が起きた事は無い。これから自分が起こしそうだが。

 

「セイバーの宝具の使い道は……限られてくるが……。誰かぶっ殺すのか?」

「似たようなものだが……。まず、場所を変えよう」

 

 場所を変更したところで第九階層で戦闘行為が出来るような場所はあまり無い。

 誰か彼か居るからだ。

 お構い無しの戦闘なら何処でも変わらないけれど。

 アタランテは比較的、人気(ひとけ)の少ない場所として相応しい所が無いかと思案し、自分が与えられた部屋が相応しいと気づいて、そこに向かう事にした。この提案にセイバーは異論は無いと返答した。

 元々自信家なところがあり、アーチャーである自分には部屋の中での戦闘は(いささ)か分が悪い。

 そんな事を思いつつ自分の部屋にセイバーを案内する。

 

「へー、やっぱり部屋の造りはどこも一緒か~」

「そのようだ」

「一人で使うには広すぎるし、十人でもまだ余裕があるよな」

 

 十人でも、と聞いて改めて部屋を見回す。

 ベッドは人数分は置けないと思うが、雑魚寝なら十人でも平気そうだ。

 アタランテはテーブルに果実水を入れたコップを置いた。

 冷蔵庫なる物があり、その中には様々な飲み物がすでに用意されていた。

 調理台は無く、料理は基本的に食堂で作る事になっている。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 話しは至極単純なものだ。それをセイバーがどう受け取り、どう答えるのかが問題だ。

 難しい顔のまま唸ってはいたが文句ひとつ(こぼ)さないのは武人としての振る舞いか。

 

「……本人がいいっていうなら何も問題はねーな……」

 

 あるとすれば後の問題だ。

 その辺りは弁護すればいい。

 まして邪魔するサーヴァントはおそらく居ない。せいぜいルーラーくらいかな、と。

 

「いいぜ。オレもあいつらの驚く顔には少し興味がある」

「……表情を変化させられるかは分からないが……」

「態度とかで分かんだろ、そんなもん。で? いつやるんだ?」

「早い方がいい。覚悟が鈍りそうだ」

 

 よし、とセイバーは疑問を挟まずに席を立つ。

 アタランテとしてはセイバーを罠にかける気は無いけれど、利用する事に少しは抵抗を感じた。

 現状打開や自分たちの身に起きている事に何か変化があれば御の字だ。だが、何も無ければ無駄な行為にしかならない。

 

 無駄かどうかはやってみなければ分からない。

 

 それに自分でも確認したい。

 外の世界の状態、状況などを。

 アタランテはセイバーを連れて食堂に戻る。すると別のサーヴァントと思われる人物と話しているペロロンチーノを見つけた。

 羽毛に覆われて背に大きな翼がある人物は結構目立つ。

 

「ペペ……、ペロロンチーノ……だったか? 今、いいか?」

「ああ、はい。どうぞ。アーチャーさん」

 

 仮面を被ったままのペロロンチーノは愛想笑いしているのか、急に舞い戻ってどうした、と驚きの顔なのか全く分からない。

 そういえば赤い粘体(スライム)が居なくなっていた。

 話しをしていた相手はアタランテと同じく地上に戻る条件などを尋ねていたようだ。

 他にもそういう話しが聞こえていたが結果は同じ。

 人数が多いから仕方が無い。

 いずれは全員を集めて改めて説明されることになると思う。

 

「先ほどの報酬だが……。……汝は女性全員が目的か? サーヴァント全員とは思えないが……」

「端的に言えばイエス……。えっと……、肯定の方が分かりやすいか……。女の子は大好きな性分でね。……絶対に全員じゃなきゃ駄目だ、とは言わないよ。……言いたいけれど……」

 

 変に隠さないところは感心する。

 サーヴァントが目的ではなく、女性が目的という事なら結局変態に変わりがない。

 セイバーは椅子に(もた)れかかるように座り、頭の後ろで手を組み、足も組む。その態度に近くに居たメイド達が表情をきつくする。中には『ペロロンチーノ様を前にして、なんて失礼な』という呟きも聞こえる。

 もちろん、聞こえている筈のセイバーは口笛を吹く様な態度で無視する。雑兵に用は無い、という態度で。

 

「ここで俺が君の獣耳を触りたいと言ったら触っていいの?」

「……いきなりは困るな」

 

 身体を貰えば煩わしい問答が必要なくなる。つまりそういう事か、とアタランテは軽く頭痛を覚える。

 単なる観賞でもおぞましい事に変わりがないけれど、女の身体を好き勝手触れる意味でなら納得出来る。もちろん、本当は納得したくないけれど。

 

「例えば眼球を抉り取って、そのまま放置する事はしない」

「……つまり治癒する手段を確立しているからこそ出来る……。いや、自信を持って言っているのか……」

 

 口先だけでは単なる障害者の増産だ。

 サーヴァントとしての特性が生きていればケガなどは回復できると思うけれど、それが十全に機能しなければ生活に困る。

 

「さっきから訳わかんねー話ししてっけど……」

 

 と、アタランテの横に大人しく控えていたセイバーがテーブルに片肘をつけてペロロンチーノを見据える。

 

「お前はアレか? おっぱい大好き人間か? 見た目には人間には見えねーけど……」

「見た目は人間じゃないよ。俺の仲間は全て異形だ。メイド達もだが……」

「ホムンクルスってのは聞いた。……それにしても感情豊かで良く食うよな。……あれって使役する側では邪魔だとか思わないのか? ……ほら、感情とか」

「元々、感情は無かった。今は色んな表情を見せてくれるから俺は嬉しいと思っている」

「へ~」

 

 ペロロンチーノに対して尊大な態度を取るセイバーを睨むメイド。それに対し逆に睨み返すセイバー。

 

「メイドはひ弱だからあまり苛めないように。うちのボスに知れたら大騒ぎになるから」

「戦闘用じゃねーんだ……」

「それ用のメイドは居るよ。居るけど、戦わせる機会は無かった」

 

 淡々とセイバーの疑問に答えるペロロンチーノ。

 

「一応……、呼んでおくか……」

 

 こめかみに指を当てて何事かを呟くペロロンチーノ。その彼の行動にアタランテ達は驚く。

 僅かばかりの魔力が辺りに飛散していったのが見えたので。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 一般の人間には魔力はほぼ視認できない。

 サーヴァントになった時から僅かではあるが光りの粒子が見える。それは他のサーヴァントも同じく見えているようだ。

 

「……それが魔法か……」

「連絡用のね。仕草でわかった?」

「溢れる魔力でそうじゃないかって見当を付けただけさ」

 

 セイバーの言葉にペロロンチーノは首を傾げた。

 魔法を使う時、一瞬光ったりするから、それかなとペロロンチーノは思った。

 あるいは魔法を行使する時に何かが出ていて、それが彼女達には見えている、ともいえる。

 地に溢れる魔力がどうたらと言っていたし、と。

 そんな事を思案しているとメイドが二名訪れた。

 

「お待たせいたしました。……わん」

 

 一人は犬の頭部を持つメイド長のペストーニャ・(ショートケーキ)・ワンコ。

 もう一人は武装したメイドでふっくらしたスカートが特徴的だった。

 メイド服をそのまま鎧と化したような意匠となっている。

 

「おっ、出たな犬メイド」

「ほほほ。出来ればペストーニャとお呼び下さいませ、……わん」

 

 ペロロンチーノは呼び寄せたメイド達を近くに座るよう命じる。

 

「汝の趣味がどうであろうと否定しても仕方が無い。だが、本当に約束は守られるのか? 我々が地上に戻れるという……」

「それは多数決で決まる。もし、監禁が多数だとすると……、無用な争いが生まれるだろうね。そこは手探りだから残る人は残ってもいいように。出て行きたい人はちゃんと自由に出せるように、改めて議論されると思う」

「……決議は一度だけではないと……」

「そうなるだろう。我々は民主的に物事を決める。もちろんボスが最後の決定権を持っているけれど……。仲間達が決定した事はたとえボスでも尊重するさ。ここはそういう事で成り立ってきた組織だから」

「鶴の一声は無いのか?」

「場合による。みんな大人だから。わがままは言うけれど」

 

 誰かが反論すれば多数決。それは理に適っているが知らない者にとっては不安要素でしかない。

 それでもアタランテ達には彼らの決定に従う以外に道は無い。

 


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