Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
外で勝手気ままに戦闘行為をするようなサーヴァントが居れば彼らのような者が危機感を抱き、捕縛しようとする筈だ。
それはペロロンチーノ達でなくても結果は同じになると思う。
その上でサーヴァントを解放するのは現地の人間にとっては野に放たれた獣と大差がない。
「我らの方が周りにとって脅威となるか」
「……まあ、辺りを焦土と化すような連中がウジャウジャ居るからな」
村や街にとってみればいい迷惑だ。そして、なるほどとアタランテは納得する。
そんな危険物を野に放つ対価は大きくて当然だ、と。
監禁と言っても衣食住に制限は殆ど無い。あるとすれば階層移動だ。
自由に移動できれば拘束云々の話しなどしない。
「……一つ聞きたい」
「どうぞ」
「ペロロンチーノの部屋にはどれほどの死体があるんだ?」
「表現が物騒だが……。そうだね、想像に任せる……と言いたいところだけど……。いくつかある、という程度だよ。たぶんアーチャーさんが思い浮かべるほどは無いと思う。あと、ここにはアンデッドモンスターも居る。一概に死体と言われると答えにくいよ」
警備の為に徘徊しているアンデッドモンスターは確かに知っている。
それらもまとめて死体と
「あと、腐らせるような事はしない。綺麗なものは綺麗なままに……。そこはちゃんとするよ。そこら辺に居る
苦笑しながら解説するペロロンチーノ。
言いにくいことである筈なのに答えてくれるところは意外だとアタランテは思った。
「モンスターが多いから人間を入れるのは意外と大変でね。むしろ君たちが平気でいる事はとても驚きであり、ありがたいことでもある」
「それなりに化け物退治はしてきたからな」
自信満々にセイバーが言った。
「……あんまり凶悪なモンスターが居ると触れ回られるのは困る。近隣の村から少しずつ情報は出しているけど、近隣の国々はアンデッドモンスターは敵だという認識を持って……。この辺りは外に出た時、色々と知る事になると思うけど……」
「……ペロロンチーノ様。……あまり情報を出すのは……」
武装したメイドが小声で進言する。それに対し、ペロロンチーノは一度だけ頷いた。
「今回はボスも了承している。何が起きるかは……、彼らの態度しだいさ。多少の敵が居た方が賑やかでいいと思うけどね」
「……いかにペロロンチーノ様とてお戯れが過ぎます……。アインズ様に報告だけは
「どの道、ボスが来ても同じ議論をするんだ。こちらは早めに彼らの事を知っておく必要がある、……というだけだよ」
武装したメイドは渋い表情を作りつつ引き下がった。
そんな彼女の手を犬頭のメイドが撫でた。
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彼らにも立場や理由がある事は理解した。それに危機意識もしっかり持っている事は窺えた。だが、
鳥人間に聞いたのが間違いなのか、と思っても他の者も化け物ならば結局は一緒だ。
監禁肯定派だった場合は事態が悪化していてもおかしくない。
「……これは興味本位なのだが……、今までの話しの中で……、どれだけの
「口先だけでは納得できない部分がある、と……」
ペロロンチーノの言葉にアタランテは頷く。
頭では分かっている。情報収集がとても大切なのは。
『真実』というものを真実として受け止めるのは簡単ではない。
自分にとって都合のいい部分だけを信じる事は正しいとはいえない。けれども指針は欲しい。
その点で言えば聖杯なるものを追い求める事が果たして正しかったのか、という疑問が湧く。
単なる願望を
「ただ単に我が見て納得すればいいだけだ。嘘であったとしても騙された我が悪いだけだ」
とはいえ、監禁する可能性を否定しない所は正直者と見るべきか。
彼らの真意というものに少し興味が湧いてきた。
アタランテは寛いでいたセイバーに顔を向けて一つ頷く。
「へいへい」
やれやれという気力なさげにセイバーは言いながら席を立つ。
「……そう。……我がただ……悪いだけだ」
誰が悪いかの問答は不毛。
けれども、ただ従うばかりでは面白くない。
言葉の重みをペロロンチーノがどう受け止めるのか、見定める上でもやはり興味がある。そして、その魔法とやらが何処まで万能か。
覚悟を決めるという事はサーヴァントであっても難しい。まして自害などは相当に追い詰められでもしない限り安易に出来るものではない。
それを強引に出来るようにするのが令呪だ。
絶対命令権を行使されればどんなサーヴァントもなすすべが無い。
現状を打破するのに仲間を
それはそれぞれ自分の願望を持っているからだ。
手を組む事はあっても気を完全に許す事はありえないほどに無い。だからこそ、現時点で何も出来ずにいる。
獣耳を持つアタランテはこれから自分がやろうとしていることは実に馬鹿げていると自覚していた。
その上で身体も緊張でこわばり、脂汗が出て来た。だが、それを鳥人間のペロロンチーノに悟らせるわけにはかない。
あくまで涼しい顔で
金髪碧眼のセイバーが背後に移動した所でアタランテは何気なく顔を左に向ける。と、同時に右腕を水平になるように横へと伸ばす。
「ほいっと……」
と、セイバーの軽い調子の言葉が耳に届く。
ザシュ。
一瞬だけ聞こえた風切り音。
全身が緊張し、ついで汗が遠慮なく噴き出す準備を整えるような感覚。
その後に訪れる喪失感。
「……ふぅっ!」
唇を思いっきり噛みしめて嫌悪感とじわじわ強くなる痛みに耐えるアタランテ。
ゴトンという音が目の前で聞こえたが、その方向に顔を向けたくない気持ちが増大する。
それでも見えるのは肌色の肉体。
「いっちょ上がり。……じゃあ。オレの仕事は終わったから退散するわ」
気軽な言葉を発してセイバーは去った。
この凶行に似た状況に対してメイド達は不思議そうな顔をしていた。だが、周りに居るであろうサーヴァントの中から気付いた者が小さな声で呻くのが聞こえた。
「……ペスとナーベ。後は頼むよ」
「畏まりました、わん」
「はっ」
犬の頭部のメイド長と武装メイドが慌てずに席を立ち、アタランテの側に移動する。
ペロロンチーノは手に大きな白い容器を持っていて、テーブルの上に転がっている肉の塊。
正確にはたった今、切断したアタランテの右腕に液体を降りかけた。
血が飛び散っていた部分にも水だと思われる液体を振りかけていく。
「サーヴァントの肉体は霊体だと聞いたが……。血は出るんだね」
ペロロンチーノの言葉には驚きが含まれた様子が無かった。
冷静なところは意外だと思う。それに想像していたより周りが
一部のサーヴァントを除いてメイド達は少なくとも騒ぎ立てない。いや、なんて失礼な事を、と憤慨する声はあった。
「掃除用具を」
「はい」
淡々と指令を下すメイド。
「……ん~、ん~……ふぅ……」
腕に水をかけ終わった後、武装メイドが何かの紙を燃やす。その後でペロロンチーノから容器を受け取り、それを今度はアタランテの右肩に掛ける。
「……場を汚すとは……。メイド長。ここは低位でいいのでは?」
「そういうわけにはいきません、わん。……二度手間になりますので……、わん」
「そうですか」
短いやり取りにもかかわらず冷静な対応。
「ペス。ここは……静かに頼むよ」
と、口元というか嘴部分に人差し指を当てるペロロンチーノにペストーニャ・
「見事な一刀でした、わん。これなら何の支障もないでしょう、……わん。では……、……〈
アタランテの肩に手を置き、小声で魔法を唱えるメイド長。
血が垂れていた肩口附近は魔法の効果により、出血が止まり、その次に切り裂かれた部分の肉体に変化が起きる。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
ペロロンチーノはアタランテの切断された腕を持って色々と眺めていた。
既に切断面は塞がり、新たに出血することがない事を確認する。
「綺麗な腕だ。これを壁に打ち付けて観賞する……、みたいな事はしないよ。この手袋は返すけど……。服装は後でデザイン画だけ取らせてもらえるかな。便利な魔法でも武具までは効果が及ばない。……というかそういう魔法が無い」
簡単な例えとして、皿を割って片方に治癒魔法を掛けても復活しない事を伝える。
無機物を修復する魔法はあるにはあるけれど、治癒魔法のような現象は起こせない。
それなのに
「……おお……。腕が……」
メイド達が辺りに飛び散った血などを拭いている
多少の痛みと気持ち悪い違和感を覚えつつ肉体が増える様子に驚く。
それはゆっくりとしたものだが元の腕を再構成しようと細胞が驚くべき速度で増えるような感じだ。
まさしく、奇跡をなす魔法のように思えた。
「魔力による再構成に似ているような気がするのだが……。落とした腕は未だに存在している」
離れた肉体は既に自分の意思は通じていない。けれども消えずに残っている。
「……これがペロロンチーノが言っていた報酬の正体か……」
アタランテの様子に気付いた他のサーヴァント達も興味津々に見学していた。
その間に掃除を終えたメイド達が何食わぬ顔で立ち去っていく。
「治癒魔法が通じる事は既に実証済みだったけど……。ここまでの規模はそうそう試せない。ならば多少の脅しは必要だよね?」
例え誘導尋問が無駄でも強引に
それが
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そうこうしている腕は形だけ元の姿を取り戻した。
ペストーニャから数十分は外気に晒したまま、あまり動かさないように、と注意を受けた。
出来立ての肉体は柔らかいので変に曲がったまま固まってしまう可能性があるという。
「……一度の魔法で完全に、とはいかないけれど。腕程度なら一回か二回だ。これが意外と手間がかかる。特にペス達の魔法は。やまいこさんなら一回で済むよ。こっちは低位で済むから楽」
自分の腕に触れるアタランテ。
皮膚は確かに自分のものだ、と感覚を確かめていく。
「今のような魔法で肉体を収集するのだな。……それなら障害を負ったままさまよう事態は避けられそうだ」
「本当ならもっと痛くない方法でやるよ。さっきのような乱暴なものだと治りが悪くなる」
「……それは……済まなかった」
「……それで……。何か納得出来るものはありましたか?」
納得できたこと。そんなものがあったのか、と自問する。
不可思議な現象に驚いているのは分かった。それをどう言葉で表せばいいのか分からない。
「目の前で見ていたはずなのに……。未だに信じられない。……だが、言葉が偽りではない事を理解しなければならない」
それでもやはり納得出来ない気持ちはある。それになんとおぞましい事だ、と嫌悪感は更に強くなった。
今は腕だけだが、ペロロンチーノの話しでは全身を貰う気でいる。
普通に妻にされることも嫌だが、これは女性として嫌なのか。生物やサーヴァントの尊厳として嫌なのか。
どちらでもありそうだが。とにかく、はいそうですか、と納得してはいけない方法のように感じた。
「……これは興味からだが……。その腕から全身が再生することはあるのか?」
「肉体の量が少ないから無理だ。仮にやったとしても途中で止まる。それ以降は魔法でも何も起きない。……例外があるとすれば肉体全てがとんでもない生命力に溢れている存在だ。この世界だと……、
ペロロンチーノはアタランテの腕で自分の頭を撫でる。
その様子を見て、少し不快感を覚えた。
何だか、使用方法が不純に思えたので。
腕ではなく、足か尻尾にすればよかったかな、と今は少しだけ後悔した。
仮に尻尾だと下着を脱ぐ事態になりそうで恥ずかしさを覚える。