Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
少し呆然としながらも切り離された自分の腕を見つめるアタランテ。
数分見つめてみたが動き出す事は無かった。
本来ならば霊体化したり、魔力によってケガが治癒したりするものだ。
それが離れた腕には全く起きていない。
「心臓が無いから
器用に手袋をはずし、アタランテに手袋を返すペロロンチーノ。
心臓があれば肉体は維持される、という意味に聞こえるが、その方法もまたえげつないものだと感じた。
もちろん、対象となるサーヴァントはたくさん居る。
その全てはさすがにありえないとしても、ペロロンチーノは単なる趣味で終わらせるのか。それとも何か如何わしい事や目的でもあるのか、と疑問に思った。
ペロロンチーノだけとは言い切れない。
化け物が居る世界だ。
食用とかもあるかもしれない。
「装備一式あった方が見栄えはいいかも」
腕だけ見れば何の変哲も無い。
アタランテらしい特徴は恐らく獣耳か尻尾くらいだ。
正しく『人体標本』の如く。
「……ペロロンチーノは死体を欲するのではなく、生きた生物のままがいいのか?」
「そうだね。これは自我が無い肉体を作る。だからこそ都合がいい」
サーヴァントの自我を奪って標本にするよりも人道的に思える。おそらく宝具は共有しない。
そう話している内に指を動かしたり、腕を曲げたりする。
痛みについては切り口だった部分に違和感がある程度。他は皮膚がヒリヒリしていた。
「何とも不思議な感覚だ」
「事前にたくさん食事を取れば、しっかりと再生された腕にも栄養は届くらしいよ。闇雲に無尽蔵に増えるのは怖い事だとか」
早速、復活した腕で武器を呼び出す。するとちゃんと現れた。
感覚的にも自分の腕。それは間違いない。
「能力は失っていないようだ。……魔力回路や令呪も気になるな」
魔術師の腕に宿る能力は再生魔法でも復活するのか、というものだが肝心のマスターが居ないようなので、結果を見る事は
もし、マスター達が居れば令呪の奪取が出来るのか気になるところだ。
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それにしても不思議だと切り離された腕に釘付けになったアタランテ。
戦場の死体よりも綺麗だ。自分の腕だから、ではない。
単なる切断ではない現象は自分の記憶にない。そのせいで好奇心がとても刺激されている。
「……そうそう。仮に万全の体制で肉体を残しても寿命は本体と一緒。不思議なことに本体が死んだ後で腕を切り取り、再生魔法を掛けても効果は現れない」
「……はっ? えっ? な、なな、何故だ?」
「魔法の不思議なところでね。条件が合わないと効果を現さない。おそらく死んだら死体と認識されてしまうようだ。そうなると効果が無い、どころかダメージを負う結果になるかもしれない。特にアンデッドモンスターに治癒魔法を使うと攻撃魔法と見なされるから」
ペロロンチーノは苦笑しながら説明が難しい部分を出来るだけ分かり易く伝えてみた。
肉体は自我が無いとはいえ成長する。
能力については秘匿事項だが本体の武具は奪えない。
「本体が生きているか、無事である時に
つまり相手に覚悟だけ持ってもらえば眠らせてじっくり取っていくという事だ。
意識が回復すれば、何事も無く事が終わっている。けれども、何故か、腕や脚がたくさん辺りに散らばっている。
完全に無痛とはいかないけれど、軽傷程度の感覚なら数日休息するだけで済む。
「……何でもない事のようだが……、やっている事は残酷極まりない」
「うん。それは自覚している。この方法を確立した者はきっと
それはまるでペロロンチーノが見つけた方法ではない、と言いたげだった。
確かにこんな方法はおいそれと出来る事ではない。
まして、元々居た場所では霊体化するサーヴァントが相手だ。
常識的に考えれば不可能に近い。というか出来るなら誰かが試した筈だ。
ならば何故、誰もやらなかった。
至極当然の疑問が浮かぶ。
無駄な殺し合いより効率的ではないのか。
それにホムンクルスの製造技術がある事はアタランテの記憶にもある。
「……出来るならば誰かがすでにやっているか……」
そもそも人体を再生させる事は魔術でも不可能ではないのか。
これは本当に奇跡を起こす『魔法』かもしれない。
しかも、ペロロンチーノのみならず、メイド長も出来るところから更に驚く。
この世界には
「……信じられない……。この世界に奇跡が溢れているなど……」
だが、現実に目撃している。
それが幻術であるならば自分の腕もまた幻でなければならない。
そもそもサーヴァントという存在自体、人々の願望から作り出されている、ともいえなくはないか、と。