Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
見るものは見たので話しも終わり、とはいかない。
腕だけで話しが終わる訳がない。だが、アタランテ自身は確認が済んでしまった。これ以上の踏み込みはサーヴァントとて危険だと身体が訴えている。
自分の背後や周りにはたくさんのサーヴァントが居る。その全てが対象だ。
今後、何が起きるのか、全く想像できない。
「……この場所でこれ以上の物騒な話しは……、避けた方がいいのかもな」
「そうだね」
と、ここでアタランテは疑問に思った。
すぐ目の前に居るペロロンチーノに返り血が一切付いていない事に気づいた。
結構派手に飛び散った筈だ。テーブルと床はメイド達が拭き取ってしまったが。
水に何か秘密があるのかと思ったが、しっかりとテーブルは濡れていた。それは自然に乾燥して消えるかもしれないが、跡は残っていた。
「……全身が欲しいというのは嫌悪感しか湧かないが……。拒否権はあるのか?」
「無い。……と言った方が楽かもしれない……。平和的に済むならそれに越したことはない。なにせ俺の趣味だ。全てを揃えたくなる。そのためなら手段は選ばない、……みたいな事を言い出すかもしれないよ」
平然と言っているけれど女性という立場では脅迫のように聞こえる。
研究者ではもっと献体を寄越せ、か。
とにかく、厄介な事態になった事は確かだ。
サーヴァントを殺さずに標本にするとか、見たことも聞いた事もない。
「……だが、自由を得る為に必要とあれば……。それも止むなしか」
「……あんまり痛い思いはさせたくない。それは分かってほしい」
どちらにせよ、肉体と精神の両方が痛い思いをする事に変わりがない。
女性としても変態に色々といじられるのは生理的に
奇跡を扱う者にサーヴァントが勝てるのか、という疑問が生まれる。
食堂に居る者を動員すれば出来ないことは無いかもしれない。その時、彼らの実力がもっと分かる筈だ。
それが本当に正しい事ならば何も問題ない。
仮にサーヴァントを凌駕するようであれば今度こそなすすべもなく自分達は彼らの
交渉できる内に会話をやめるべきだ、と身体が訴えている。
「気がかりは早めに聞くといい。俺のような気前のいい奴が他にも居るとは限らないよ」
「……ペロロンチーノだけがこの趣味を持つのか?」
「数人は居るかもしれない。そのために序盤で規定の数を用意すれば、いちいち他のメンバーに聞かれる事も無くなる」
規定の数。それはどれくらいなのか、知るのがとても怖い。
サーヴァントに恐れるものは無いはずなのに。
今はとても怖い。
「メンバーは俺を含めて四十人ちょいってところだ。メイドや一部のシモベ連中はこういう趣味は無いぞ。居たとしても、それは俺のシモベの筈だ」
仮にメンバー全員という暴論で言えば腕が四十本以上必要になるかもしれない。
痛みの無い方法があるとしても生理的に
「……あまり良い趣味とは言えない。……けれども……、なんというか……。身代わりを置くと思えばいいのか……」
既に見るべきものは見た。これ以上の確認は必要無い筈だ。
それなのにまだ自分は席を立てない。
まだ何か聞かなければならない気がする。
数分間の黙祷のように押し黙ってしまったが結局のところ言葉は出てこなかった。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
ペロロンチーノに頭を下げて、それからアタランテは様々な事を考えつつ自分の部屋に戻った。
ベッドに腰掛けた途端に全身が激しく震えだす。
自分は何と対峙したのか、と。
信じられないことの連続で頭がおかしくなりそうだった。
「こ、この腕は本当に我の腕か?」
切断は既に
ならば新たに生えてきた腕は何なんだ。
つねれば痛い。痛覚と触覚はある。
服についている血は本物。
これは結局、何なんだ。アタランテは自分に問いかける。
洗面所に行き、自分の顔を確かめる。そこには見慣れた顔と身体が映っていた。もちろん、腕も。
「……バカげている……。奇跡がこんなに簡単に起きるわけが……」
セイバーに頼んだのは自分だ。それ以降は全て嘘だというのか。
アタランテは混乱してきた。
自分の常識が音を立てて崩れる。そして、それを防ぐ事が出来ない。
「……な、なんだ。これはなんだ。なんだ……」
自分の記憶にある人生に無い不可思議な出来事に戸惑う。
何度も『なんだ』と呟くが解答は出ない。
初めて見る奇跡に自分は恐れている。戸惑っている。混乱している。
「………」
いとも簡単に奇跡が扱われていい筈がない。
であれば全て幻か。自分は何処に来たのか。
ここが奇跡が溢れた世界だと言うのならば聖杯戦争とはなんとも虚しいものではないか。
多くのサーヴァントが戦う必要が本当にあったのか。
マスター達がこの世界に来たら発狂するのではないか。
「………」
それともペロロンチーノ達が特別なのか。
そんな気はしないのだが、分からない事だらけだ。