Fate/grace overlord   作:ぶくぶく茶釜

20 / 39
#020

 act 20 

 

 一騒動あったにもかかわらず第九階層は翌日も特に変化は無かった。

 混乱した時に右腕をあちこちに叩きつけたが、出来た(あざ)は二時間ほどで消えた。

 魔力が充分であれば肉体的な損失は短期間で修復される。それはある程度、こちらの世界でも問題なく機能するようだ。どうしてと質問された場合、答えられる自信は無い。というか自分(アタランテ)も知りたい。

 一人部屋に居ても気がめいるだけなので食堂に移動してテーブルに突っ伏していると白銀の全身鎧(フルプレート)姿のセイバーがやってきた。

 

「よう。元気……無さそうだな」

 

 と、元気良く声をかけてきた。

 アタランテは返事をする気力が無かったので無愛想な顔だけ見せた。

 

「おいおい、どうした? 腕は治ったんだろ? 良かったじゃねーか」

「……それはそうだが……。全てが信じられない……。我は……、何を目撃したんだ、と……」

 

 テーブルに数回、額を打ち付ける。

 ゴンゴンゴンと。それ程強くではないが、多少は痛い程度だ。

 痛みがあるという事は生きている事の証明だ、と今は何故か言い切れない。

 この痛みすらも信じられない。

 サーヴァントとて痛みは感じる。

 

「今度は首でも落としてみるか?」

「……さすがに死ぬだろう。だが、それすらも治すようでは……、もはやお手上げだ」

 

 奇跡をなすものが死者の蘇生までできる、と出来れば言ってほしくない。実際に(おこな)ってもほしくない。

 聖杯にかける願いにどれだけの人間がかかわり、命を落としてきたのか。

 

「その魔法とて傷を治す程度かもしれねーじゃん。世界を救う魔法があるのか聞いてみろよ」

「……あったら怖い……」

 

 国を救える魔法はあるのか。ありますよ、とペロロンチーノなら簡単に言いそうで今は何でも怖い。

 例えがペロロンチーノだけだが、他の者は更におかしな能力を持っていた場合は想像したくない結果を見る事になりそうな予感がする。それは勘でしかないが。

 

「あのペロロンだか、ペペロンだか知らねーが。実際に魔法を使ったのはメイドだろ? 確かそういう話しだったと思うんだが……」

「……ああ、その通りだ。しかし、メイドですら出来た事を彼が出来ない訳がない」

 

 そういうメイドを使役する者だ。

 確実に上位の能力があると見て間違いない、筈だ。

 

「試しに片っ端からぶった斬って確かめてみようか。何が起きるか……」

「意味の無い殺し合いにしかならないんじゃないか。何かの条件で出来ませんとなったら……。それはそれで怖い」

「無差別は駄目か」

 

 それにしても物騒な事を言うサーヴァントだな、とアタランテは呆れ果てる。

 元は何処かの騎士だったはずなのに。

 騎士道精神は持っていないのか、と憤慨する。

 持っていないからこのセイバーに頼んだ事を思い出し、自己嫌悪に陥る。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 唸るアタランテに気づいた他のサーヴァント達が集まってきた。

 それぞれ復活した腕を眺めたり、(さす)ろうとする。

 

「ホムンクルスの腕を接合したわけではないんだな」

「人体再生は禁忌の技……」

「聖杯でしか叶わないような御技を……」

 

 と、驚きつつ色々と分析し始める。次第にもう一度、切り落としてじっくり研究しようか、という話しになってきた。

 さすがに改めて斬られるのは困る。痛いし、覚悟が要る問題なので、丁重に断った。

 

「……女性サーヴァントは気をつけた方がいい。確実に狙われるぞ」

「……むぅ」

「望むところだ」

 

 と、反応は様々だった。

 奇跡を目の当たりにして失意にくれる自分は何の為に戦っていたのか、アタランテは疑問に思う。だが、その答えはきっと出ない。

 聖杯に望む事が現実になった場合、それを自分は素直に受け入れられるのか。それとも幻と切り捨てるのか。

 唸りつつ何度かテーブルに頭を打ちつける。

 

「……新しい目的を探す方がいいのか……」

 

 奇跡に幻想を抱きすぎた感はある。

 現界している事に今のところ支障は無い。新たなマスター契約をするのか、サーヴァント単体で旅をするのか、それらは外に出られたら考えよう、と思った。

 

「……女性限定か……。殺し合いをして最後に残った一人が外に出られるルールではないんだな?」

「それはそれでサーヴァントらしいが……。話しぶりでは……、違うような……」

 

 趣向としては実行される可能性がありそうだが、メイド達からは特に何も指令は下されていない。

 争わないこと以外の交流の制限は無く、与えられた部屋には門限が無い。尚且つ、他人の部屋には許可を貰えば同室も許されている。

 一ヵ月後に施設の主が帰還すれば色々と分かる事だが、それまで自分達は色々と疑心暗鬼に囚われそうだ。

 

「サーヴァントの武器や力を欲しないのは強者の驕り……、とは考えにくいのだが……」

 

 本当に単なる収集だと気持ち悪い事この上ない。特に女性としては。

 掛け値なしの変態で強者というのは考えたくない事だ。

 

「……本当にど級の変態なら服を着ることを禁じたりするか……」

「……おおぅ……。恐ろしい事を言うな貴様」

 

 例えとしては悪かったかもしれない。けれどもありえないところが怖い。

 変態の考える事は理解したくないが事前に色々と知っておかないと困ることもある、かもしれないと思ったまでだ。

 自分の考えだが、身体全体に悪寒が走り、髪の毛や尻尾が逆立つ。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 空きっ腹では考えも沈む。と、誰かが言ったので適当に注文してみた。

 ここはある程度の食事はだいたい対応してくれる。

 材料さえあれば作り方を教えて再現してもらうことも可能だとか。

 当たり前だが、無いものは作れない。つまりそこまでの万能性は無いということだ。

 何でもありだと逆に凄まじい。なので常識的で安心したのは言うまでもない。

 

「大勢の食事に対応しているようだが……。大変ではないか?」

 

 声かけに対し、茸人間は特に文句は言わなかった。

 

「いえいえ。大勢のお客様に対応できる忙しさは逆に嬉しいのです。……今の倍以上となると……どうなるか分かりませんが……」

 

 もし、表情があれば苦笑する言葉を言ったようだ。

 種族により人間的な表現が不可能な者が居る。けれども実に人間味があるので不思議だなと思った。

 慣れて来たのか、副料理長の異様な姿は今ではあまり気にならない。

 室内を飛んでいる水母(クラゲ)のようなモンスターや明らかに身体が燃えている者も見かけた。

 一様に人間型をサーヴァントと呼称しているが、全員ではないと思う。けれどもついつい誰もがサーヴァントに見えてしまうのは自分でも情けない気がした。

 というよりサーヴァントはサーヴァントの気配がある程度分かる。

 そこかしこにその気配があるので惰性でサーヴァントと呼称してしまう。

 

「本当にサーヴァントしか居ないのか……。その見極めはおそらく難しい……」

 

 ナイフとフォークを握り、作ってもらった食事を一口ずつ食べ始める。

 味に関して問題は無く、美味である。

 在庫の事がつい脳裏に過ぎるが気にしては駄目、と少し気にしておくべき、という言葉が浮かぶ。

 大半のサーヴァントは貧しさを知る時代から召喚されている。だからこそ食に関して大雑把な扱いするものは王クラスでもない限り、綺麗に平らげる。

 それこそ舐めたように。

 

「アサシンクラスですら丁寧に食べている。この食堂は一種異様な空間と言える」

 

 多少の話し声は聞こえるけれど、誰もが文句一つ言わないのは不思議だ。

 聖杯をかけて戦っていた者達ですら大人しくさせるのだから侮れない。

 

「各宗教に対応しているとは思うのだが……。それぞれの好みにちゃんと対応できる手腕は侮りがたし」

 

 だいたい自分で頼むのだから自己責任の部分もある。

 ただ、和風の麺類はだいたいのサーヴァントが苦戦している。

 食事を終えた後は自室に引っ込むか、第六階層に移動するかの選択を取る。

 戦闘以外では単調な暮らしと言える。

 体調次第では闘技場の利用も可能となる。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。