Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
そんな暮らしを延々と出来るのか。
平和な世の中であれば、それが当然とも言える。
自分がサーヴァントだという思い込みがある限り、矛盾した思考と戦い続けなければならないのかもしれない。
化け物ばかりなので誰が至高の存在なのかはアタランテには窺い知れないけれど。
メイド達の反応で大体は理解してきた。
一メートル足らずの
他のモンスターと何が違うのか。
それを聞こうとすればメイド達が表情を険しくする。
ここでは
「至高の御方は神すら
と、取り付く島も無い。
おそらくサーヴァントよりも上位だという事だ。
「ここに居る
足元を這いずる黒い
人語を解するとは思わなかったので驚いたが、この第九階層に居る者達はだいたい喋る、とのこと。
もちろん、例外も居るけれど。
至高の存在は姿はどうであれ、全員が喋るという。
「サーヴァントは召喚された時代に合わせた知識を植えつけられるそうですが……。おそらく、貴女達はこの世界に召喚されたサーヴァントではないのかもしれません」
「……しかし、我らは魔術師達によって召喚された姿を持っている」
聖杯戦争時に召喚されるサーヴァントは基本的に全盛期の姿で呼ばれる事になっている。
中にはおかしなものも居るのかもしれない。
だが、確かにこの時代の知識が無いのはおかしなものだ。というより今の自分の知識は聖杯戦争時のまま。
いや、正確性が不確かなので断言は出来ないけれど、
「分かり易い言葉だと『転移』です。前に居た世界の知識をそのまま持って、別の世界に来た感じですね」
「……む」
その言葉が正しいならば新たに知識を得る事無く来たので、色々と分からない単語があっても不思議ではない、ということになる。
確かに納得出来る理屈ではある。
「……しかし、
「ははは。そういうものだとご理解下さい。自然界に居るかは分かりませんが……。一般的な
実に気さくな黒い
正式な種族としては
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じっとしていても身体が鈍るだけなので第六階層に移動し、木々を飛び回る事にした。
この階層はとにかく地上世界と遜色なく、時間経過と共に明るくなったり暗くなったりする。
たくさんの植物が生い茂り、場所によっては荒野のような平地もある。
残念ながら獣狩りは許可されていないので武器はあくまで鍛錬のみの使用に限られていた。
迂闊に宝具を撃てば辺りの被害は甚大だ。
「……樹木が多いせいか、空気が美味いな」
既に赤いロープを越えてもいい事になっているので少し遠出をする。
階層としての広さは数キロメートル四方。
意外と広大に見えるが果てが確かに存在する。
天井までの高さが結構あるのでジャンプした程度では届かない。
この階層にあるという大樹ですら天井に届いていないのだから百メートル以上はあるのかもしれない。
「……見えない壁か……」
第六階層の果てにある壁。それは延々と続く景色があるにも関わらず進めない限界領域。
無限の広さが無い、という意味でもある。
風景だけは何処までも続いている。だが、やはりここは地下空間。
触れて初めて理解する。
「形としては四角形の単純なものだ」
背後から重厚な声がしたのでアタランテは振り返る。
そこに居たのは第六階層を点検しているという至高の存在の一人で熊が二足歩行しているようにしか見えないモンスターだった。
種族で言えば
「壁の向こうは岩などか?」
「普通に考えればそうなるね。実際に掘ってしまうのは勿体ないけれど……。地中である事は間違いないよ」
この幻想風景が実際の距離感を狂わせて広大な土地を演出している。
さすがに壁に激突しては困るので、事前に立て看板などがあちこちに設置されていた。
「勝手に招いた分際だが……。そろそろ地上が恋しくなったとか?」
「うむ。確かに……、その気持ちはある。この世界がどういうものか自分の目で確かめる上でも……」
「意思決定をする者が不在の現時点では我々が勝手な判断は出来ない。その点ではお詫び申し上げるが……。もうしばらくの滞在を切に願いたい」
全ての至高の存在が高圧的な者ではない。それは何人かと出会って知った事実のようなものだ。
それぞれ個性があり、親しみやすい者や人付き合いが苦手そうな者。様々だった。
鳥人間のペロロンチーノも最初は驚いたがその後は見掛けなくなった。
メイド達に呼ばれる事が無いので諦めたのか、他の女性に声をかけて驚かせているのかは分からない。
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別の日に闘技場に向かうと多くのサーヴァントらしき人物達が
さすがに宝具の真名解放はしていないようだが、どれも一般の人間を凌駕する動きを見せていた。
「かー、全力が出せねーのは意外と面倒くさいな」
「もし出してたら一気に魔力が無くなる」
「飛び道具系は無理でも支援系は気にせず宝具が使えますよね」
「自爆攻撃は流石に無理ですが……」
今のところ殺し合いに発展はしていないが敵対する英霊同士による鍛錬は結構危うい気がする。
それにもまして気になるのは似た顔。いや、ほぼ同じ顔のサーヴァントが一緒に居る事だ。
特にセイバー系が。
「青い私よ。腕が鈍ったのでは?」
「ふふ、黒い私……。普段から酷い食生活をしている貴様に言われる筋合いは無いな」
「サンタの贈り物を食らえ」
「飛び道具は禁止ですよ、私達~」
「あっはっは~。似た存在同士がいがみ合ってる~」
同族嫌悪。その言葉を実践している者達は少なからず居るのだが、サーヴァントに関しては
「全てのセイバー死ね」
「しっかし、父上も大量に居ると異様だな」
「そうだな。というかお前、水着がデフォかよ」
食堂であった白銀の
格好は水着仕様で肌は程よく日に焼けた小麦色。
自身の身長ほどある大きな板を持っていた。
波に乗る道具だというのだが、一応宝具という話しだった。
「クラスが違う自分との対話は意外と気持ち
「それよりもこんなにサーヴァントって居たんだな。そっちの方が驚きだ。数とか限定されてなかったか?」
アタランテの知る聖杯戦争は七騎対七騎。更に両陣営に一人ずつの
少なくともこの施設に居るのはおよそ百騎以上。
聖杯大戦と呼ばれてもおかしくないほどの規模だ。
「本当に全員がサーヴァントか? 部外者も混じってないか?」
アタランテは闘技場の観客席に座り、彼らを睥睨する。
石造りの
空席は大体
「水が無いところに大波を召喚する宝具を使ったらカオスだよな」
「他人の施設で暴れれば怒られるのは必定だ。そこは節度を持った方がいい」
「我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け!」
「春の陽射し。花の乱舞」
「宝具展開。
「うるせー! 勝手に宝具使うんじゃねーよ!」
「
あちこちで技を繰り出すところは本来ならば戦場でしか見る事は出来ない。
それぞれが持つ宝具は必殺技でもあり、自らの真名を特定される原因になりうるもの。
ここぞという時以外の使用は堅く禁じられるものだ。それがマスター不在の影響からか、好き勝手に行動している。
見る分には構わないのだが、互いに戦闘する事になる時は不味くなるのではないかと。
気にしないサーヴァントならば指摘するのは野暮ではある。