Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
鍛錬と食事と睡眠と風呂。
それを幾日も繰り返し、施設の主との謁見が叶ったのは約束の日時の少し前。
寝て起きてを繰り返すだけでは不健康。外の世界の探究心が日に日に強くなっていた。
本来ならば全員を集めてまとめて説明するのが手っ取り早いところだが、ペロロンチーノの口添えがあり、先に対面出来る事になった。
報酬のお陰だと思いたい。
謁見場所は最下層の玉座の間ではなく、第九階層にある主の自室だった。
二人のメイドに挟まれて訪れた部屋は他の部屋と幾分趣が違って見えた。
まず扉を守る兵士が屈強な昆虫のモンスター。
強行突破する気は無いが防りは鉄壁だと思われる。
室内に通された後、待っていたのは白いドレス姿の女性。
側頭部から前方へ向かって生えている角を持ち、腰から身体を守るように覆う大きな黒い翼があった。
それ以外は見目麗しい人間の女性に酷似した顔つき。腰に掛かるほど長い黒髪は飾り気が無くまっすぐ伸ばされている。
白人系の肌に縦割れの虹彩の金色の瞳が怪しく光る。
胸元は金で出来た蜘蛛の巣のようなアクセサリーがあった。
「ようこそおいでくださいました」
「どうも」
謎の美人に促されるまま広間にあったソファに座るアタランテ。
異形の存在は色々と見て来たが今回の人物は更に異様な雰囲気を醸し出していた。
モンスター特有の威圧感や存在感のようなものだ。
物腰自体は柔らかい。
「まもなくアインズ様がいらっしゃいますが……。武器は持たないように願いますよ」
「承知した」
おそらく他の至高の存在と同じくモンスターの一種だと思われる。けれども今まで見て来た以上に恐ろしい存在など居るのか疑問だ。
事前に得た情報ではアンデッドモンスターということだった。
室内に入りきらない巨体という事は無いと思うが、どんな人物なのかは興味がある。
そうして数分後に別の扉が開いた。
アタランテは誰に言われたわけではないが席を立って出迎えの準備を整える。
「………」
主という事で言い知れない圧迫感はあったが居住まいを正して待ち構える。
姿を見せたのは豪華なローブを身にまとう白骨死体。それが普通に歩いて来た。
骸骨系のアンデッドモンスターは既に見慣れているのだが、今度の相手は不思議なほど神聖さを感じた。
「お待たせした。私はこの『ナザリック地下大墳墓』の主にして『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』の国王。アインズ・ウール・ゴウンである」
重厚な声質で名乗りを上げるアンデッドモンスター。
聞き慣れない名称。説明はあったものの国王という部分で首を傾げる。
それはつまり死者の国ということか、と。だが、それはおそらく違う、とも思う。
彼らの仲間と思われる者達の中にアンデッドモンスターはそれほど数が居なかったので。
「……初めまして。私はアーチャー、アタランテというものです」
「そう堅くならずに。まずはお掛け下さい」
「どうも」
お互いが着席する頃には緊張も幾分と和らぐ。
改めてアインズというアンデッドモンスターを見据えてみるがモンスター特有の恐ろしさはまるで感じない。むしろ気さくな雰囲気を感じる。
服装で少し
「客人には随分とお待たせしたようで申し訳ない」
と、言いつつアインズは側に控える
「既に聞いているかは分からないが……。このナザリック周辺には外敵を補足する罠が仕掛けてある。恥ずかしい話しだが……、私は襲撃を受けるのが怖い。だから対策している、というわけだ。それに客人たちが次々と引っかかっている事は大変申し訳なく思っている」
慎重な姿勢を持つ主という事は聞いていた。
殆どのサーヴァントは罠にはかかったが拷問や体罰などは受けていない、という話しだが信憑性については今は考えないことにする。
聞いた限りでは施設で丁重に扱われて悠々自適の生活が送れて幸せだとか。
「急な転移で訳も分からず、得体の知れない施設に囚われた貴女達を束縛する権利は本来ならば無い。それは認めるところである」
「こちらとしても抗議の声を上げようとは思わない」
「それはありがたい。半ば監禁、軟禁生活を強いた事は素直に謝罪したいところだ。地上への帰還だが……。認めるわけにはいかない。……と言うつもりはない」
「………」
アタランテは黙ってアインズに次の言葉を促す。
完全に骨であるにも関わらず、人語を解する事に今ではあまり疑問を抱かないほど慣れてしまっている自分に苦笑する。
「近隣の村に君達を受け入れる施設を作らせた。人数が多いので分散してもらう事になる……のだが……。次の問題として……、君たちの仕事だ。我々としても仕事を見繕ってあげたい……。だが、そこら辺の余裕が無い。無い、というか自国民のことで手一杯なのだ」
「急な来訪者に割り振れる仕事を用意する事は難しい……。確かにその点は理解出来る」
得体の知れない力を有するサーヴァントが多いし、互いに殺し合う状況になれば近隣の村や街に多大な被害を与えてしまう。
それと『聖杯』の存在だ。
いくら魔術師が居ないとはいえ、どんな理由で戦いが起きてしまうか分からない。
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アインズという骸骨モンスターはとにかく話しやすい雰囲気を感じさせる。
好感が持てる相手といったところか。
至高の存在の代表者ということだが得体の知れないアタランテ達を受け入れてくれた事に対し、見た目でとやかく言う事は控えようと思った。
それにそれ程嫌悪感も湧かない。
「ここ一ヶ月強の施設の使用料などは我には払えそうにない。そこら辺については主としてどうなのだ?」
「食事に関しては問題は無い。……修繕費は想定内だし……。メイド達に仕事を与えられた分を差し引けばチャラに出来るほど……」
ここでアインズは軽く咳き込む。
肉体が無い筈なのでどうやって咳き込んだのか、疑問に思った。
どう見ても喉に肉片は無い。
「失礼……。君達が施設内で暴れだすような事態が起きていないので、こちらから何かを請求する事は無い。食事に関して……、色々と気にされていたようだが……」
「あ、ああ。メイド達の食事量から在庫の枯渇がとても気になってしまった」
「メイド達の食事はちゃんと計算に含まれている。器物損壊以外では大した損失は発生しないんだ。もちろん、君達の分の食料もね。だが……気にされるところから我々も安易に胡坐は掛けないことを思い出させてくれた。それには感謝したい」
問題が無い、という根拠が知りたかったが主としても気にする程の問題ではない、という認識ならばアタランテとしては何も言えない。
どういう内容なのか詳しく知る事は大事なことなのか、と言われれば答えに窮する事になる。
人様の施設なので余計なお節介ではある。
「長く滞在させている事で外への切望も強くなっている事でしょう。私がたまたま忙しかったばかりにお待たせさせてしまって……。……ところで、皆さんはお仲間なのですか? 皆さん一様にサーヴァントとおっしゃっておいででしたが……」
「仲間ではない。一人の願望を掛けて殺し合う敵……。ということになっている」
「……敵」
「現時点において目的の品が無いので争う理由が見当たらないのだが……。今後の状況次第では争うかもしれない」
手を組む間柄になる事は出来るが、基本的には敵だ。
命令されればアタランテとてルーラーを殺そうとする。
「敵ばかりでは困りますね。こっちとしてもそちらとしても……」
「面倒ごとで言えば確かにそうだ。サーヴァントとは魔術師に良いように利用されてしまう存在だ」
「……お一人という事で……地上に出てみますか? これから仲間と会議をして色々と決めようと思っていますが……。気晴らしに、でも……」
「……気晴らしか……。しかし良いのか? 我々はあなた方の敵かもしれないし、監禁したままの方が都合が良い事もあるだろう」
本音では外に出たい。けれども知りたくない真実が待っているかもしれない、と思うと素直に喜べない。
この世界がどういう所なのか。自分は知るべきなのか、このまま地下世界で意味の無い殺し合いで消える方が楽なのか。
色々と思考が混乱している。