Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
知らない世界に放り出されたアタランテが急に逃げ出したところで行くあてなど無い。そう思ってしばらく彼女の行動を見守る事にした。
ログハウス内に引き上げ、地面に座り込むアタランテを眺めつつ着いて来たユリに飲み物や食事の用意を命令する。
「あの様子ではこの世界の住人という訳ではないようだ。しばらく放っておいても大丈夫だろう」
「……はっ」
「……ところであの耳と尻尾は自前なのか?」
「メイドの話しで
サーヴァントと呼ばれるものは身体的な特徴による共通点というものは確立されていない。
無理に指摘するならば人間型が多い、というくらいだ。
過去の偉人や神話の英雄。それらをサーヴァントと呼ぶ事は報告にあった。
「正確には魔術師が召喚する使い魔か……。興味深いのだが……、まさか大勢存在するとは思わなかった」
数百人強の行き倒れ。
さすがにアインズも驚いた。それだけ偉人が居た、という証明だ。
アタランテはごく最近に出現した存在だが他の者と同様に罠にかかってしまい、仕方なく収容した。というか仲間が助けるべきと言ったからだが。
人助けを否定するつもりはないが、得体の知れない能力を持つ物騒な存在は早めに追い出したいのがアインズとしての本音だ。
興味はある。けれども『ナザリック地下大墳墓』を吹き飛ばされたくない気持ちの方が強い。
「……最初の時はもっと大変だったのが……、今は懐かしい思い出となるとはな」
数年前のことではない。
数ヶ月前の事だ。
サーヴァントと呼ばれるものの実力を見せてもらったのだが、その時は
特定の魔法には強いはずのナザリックも全く違う概念の前では形無しということか。
すぐに修復できたので大事には至っていないが、相当に焦った事は今でも覚えている。
「……しかし、早速ペロロンチーノさんが手を出すとは……。同じ
エロゲー大好き人間だから。
美しい娘だとは思う。だが、サーヴァントというからには尋常ではない能力を持っている筈だ。
こちらが弱みを見せれば何をしでかすか分からない。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
ユリが食事の用意を整えるころにアタランテはアインズの下に戻ってきた。
そのまま逃げる事も出来たのに。
「逃げなかったのは恩返しをする為ですか?」
「それもある。私はこの世界について何も知らない。それにまた行き倒れてしまう可能性があるからな」
「……今度は大丈夫だと思いますよ」
一度食らった罠に二度もかかるとは思えない、という感覚でアインズは言った。しかし、対抗手段を持っていない場合は何度でも罠にかかる。
穏便に収容するなら相手を傷つけずに弱らせた方が確実だ。
逃走と従属。アインズにとってどちらが有益かは分からないが面倒ごとが片付くのならばどちらでもよかった。
個人的にはペロロンチーノに恨まれなくて済んだ、と安心すべきところだが。
「この建物は隠蔽しているわけではない。ユリを控えさせておくから自由に散策してくるといい。いっそ村まで行けるのならば……、あちらの方角がオススメだ」
アインズが指し示す先の村。それは自分が一番お世話になった、または懇意にしている村の場所だ。
何人かのサーヴァントと呼ばれる者たちも向かっている。
「どれだけ急いでも二日はかかると思うが……。というか、それくらい近隣の村から離れている」
「了解した」
「この先どうするかは客人の選択次第だ。監禁について誤解があってはいけないのだが……。私は別に君達を一生閉じ込める気は無い。敵対者ならまだしも……。困っている者を助けたい気持ちはある。冷血な王様では何かと体裁が悪いものだ。慈善活動の一環と取ってもらっても構わない……」
気さくに喋り始めるアインズ。
アタランテの印象では高貴な存在や偉そうな王様という印象は感じなかった。
嫌々王様をやっている、というわけでもなく素の自分を見せているように感じた。
それは弱みを見せている事と同義のように思うのだがアインズという人物にも色々と悩み事があるのかもしれない。それを発散する場が無く、見知らぬ人間になら打ち明けても問題は無いと心が緩んだ結果とも言える。
とにかく、アタランテは黙って聞き入った。
「貴女は私の見た目がアンデッドだからと物騒なイメージを抱いてはいませんか?」
「そう言われれば言葉も無い。その姿で善人だと初見で気付くものは……、居ないと思う」
「……自分の中では善人のつもりなのだが……。いや、確かに完全に善人というわけではないのは自覚している。彼らの代表者であり、ナザリックの支配者であり、今は自国の王だ。……他人に愚痴を言っても仕方が無いが……。物事の最終判断をしなければならない気苦労は君達や一般の人間と大差は無い……筈だ」
声の感じでは少し疲れているような印象を受けた。
代表者や王という存在は個人的感情に左右されてはいけない。
常に国と国民を第一に考えなければならない責務がある。
「君たちが知りたいのはこの世界についてだと思うが……。それは私も知りたい事だ。だから、というわけではないが……、君達を帰還させる方法を我々は持ち合わせてはいない」
「……そうか」
魔術師による召喚ならばある程度の推論が立てられる。だが今回は魔術師の存在は無く、新たな聖杯戦争というわけでもない気がしていた。
ナザリック地下大墳墓と呼ばれる施設の中に居た大勢のサーヴァント。
どう考えてもおかしい。その一言に尽きる。
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サーヴァントは他のサーヴァントの反応などを感じ取る事が出来る。もちろん、距離的な問題があるのでどこにどれだけのサーヴァントが居るのか、正確なところまでの判断は出来ない。
アタランテの感覚では同じ階層に百メートル程の距離であれば何とか感じ取れる。
気配遮断などをされれば感知は難しくなる。
最初の頃に他のサーヴァント達を感じ取れなかったのは施設に施された対策の影響だと思われる。今から思えば相当強力な術式ではないかと。
「一つ聞きたい」
アタランテの言葉にアインズは無言で頷く。そばに居るユリも特に表情を変化させなかった。それはつまり彼女は冷静な判断が出来る存在だという事だ。
「仲間と相談した結果、監禁となった場合はどうなる?」
「私自身は監禁する気は無い。だが、危険と判断した者は更なる調査をすることになるのは確実だ。時間をかけて解放する、というのが正しい」
当初こそ監禁するべきと思った。
充分な調査をし、何者かを知る為に。
それからバカ正直に監禁するぞ、と言うわけにはいかない。そこら辺は言葉の駆け引きだが。
数百人を超えるサーヴァントという物凄い能力を持った者達を近隣に放って何が起きるか分からないし、善人ばかりではない事も調査で知りえている。だからこそ慎重に議論を重ねたい。
「国王としての判断か」
「そう思ってくれて構わない」
「……だが、彼らとて英霊として召喚された者達だ。そこは尊重してもらいたい」
「承知した。……いや、承知していると言った方が適切か……。架空の物語の英雄も居るようだし……。その者達は……」
と、口に出したところでアインズは気付いた。
アタランテもその架空の物語。
元はギリシア神話の女狩人。
色々な逸話を持つ存在だという話しだった。だいたい獣耳に尻尾が生えた人間が本当に存在しているわけがない。その辺りも
「行動原理に問題がある者も居よう。私とて無茶な事を言うつもりはない」
「冷静な判断で助かる。……飲み物を用意させた。遠慮なくどうぞ」
もちろん毒などは入れていないが客人たるアタランテがどういう反応を示すのか、少しだけ気になった程度だ。
もし自分ならアンデッドの身体でなくても怪しいと思う自信がある。
逆に何の
危険な飲み物を用意したわけではないが、色々と考えてしまう自分と他人の差をついつい考察してしまう。