Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
外を眺めたり、軽く散歩したり、質問できるだけアインズに問いかけたりしていると空が赤みを帯びてきた。
陽が傾いて一日を終えようとする風景。
それは第六階層の風景よりも自然なものに見える。
「地球の地図で言えば……、ここはヨーロッパ辺りと言える。国だと……、ドイツとかフランス辺りになるのかな……。もちろん、地形はだいぶ違っていて、向こうは雪国のアーグランド評議国がある」
「アインズ……国王は地球の知識に詳しいのだな」
「……詳しい人がたくさん居るからだ。転移者の話しを総合すれば……。……ふむ」
自分で言った言葉に対し、今更誤魔化しても手遅れだとアインズは観念する。
無理して誤魔化す気は無く、久しぶりの客人対応に調子が狂っただけだ、と自分に言い聞かせる。
地盤は既に固まっている。それに自分はアタランテ達に疎まれるような事はしていない。罠はもちろん自衛なので文句は言わせない。
「本音を言えば……、私……、俺達も転移者だ。だが、別に元の世界に戻りたい気持ちは湧かない。ただ、それだけだ」
これは嘘偽りの無い自分の本音。しかし、客人に伝わるかは不明だ。
別に伝わらなくてもいい。信じてもらえなくてもいい。
所詮は他人だ。
それでも同郷と思われる者との対話は嫌いではない。だからこそ本音がついつい漏れてしまうのは仕方が無いのかもしれない。
もちろん特段の口封じは考えていない。
聞かれた質問に答えただけだ。
「………。ならば……、聖杯や聖杯戦争の事はご存知か?」
「いいや。そういう知識は持っていないし、仲間も持っていない筈だ」
聞き覚えの無いサーヴァントという存在。
自分の知らないところで色々な事件などが起きていたのだな、とアインズは感心しながら興味を持った。
集めた情報によれば彼らは過去の偉人や物語に出てくる英雄たちばかり。
それを魔術師達が必要な触媒を用いて召喚し、聖杯を掛けて殺し合う。
聞いている分には物騒極まりないのだが、願望を叶える為ならばそれくらいはするかもしれない、という思いもある。
「君たちが欲する聖杯とは……。こういうものか?」
と、物は試しとアインズは懐から黄金の
それは一般的なコップと大差のない大きさで、細かい装飾が刻まれていた。
「……いや、私の記憶にある聖杯は……、もっと大きくて球体のような形だった」
聖杯と呼ばれるものがどんな形を持っているのか、英霊であるサーヴァントは基本的に最終決戦まで見る事が出来ない事が多い。
特別な場合を除けば形の無い物の為に無駄に殺し合う事になる。
アタランテが見た聖杯と呼ばれるものは直径十メートルを越える球形。
ひび割れた球の中には女性の像が刻まれているものだった。
「これも立派な聖杯で、名前もそのまま『
と、
大層なものではないと言ったがアインズにとっては二つと手に入らないレア中の
こんなアイテムの為に殺し合いをする、という部分はあながち理解出来ない事はないのだが、アタランテの説明とは何かが違う。それは何となく理解した。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
アインズが取り出したのは『
全部で二百個あり、入手が難しく、また情報も乏しい為にアインズが知りえているのは五十個程度。
アタランテの説明などを聞くとサーヴァントが求める聖杯は人々の願望を叶えるもの。
いわゆる、あらゆる不可能な概念なども無理矢理に叶えるようなとんでもない代物。そうアインズは理解した。そして、アタランテの願望は『全ての子供たちを幸せにする』というもの。いや、より正確には『この世全ての子供たちが愛される世界』だ。
「それを聖杯で叶えてもらおうと……」
聞いている分には聖杯でなければ叶えられないものか、と疑問に思う。
大雑把な願いは叶えるのは確かに難しい。
一人ひとりの幸せや愛の形は違う。それを無理やりに叶えようとすれば無理が生じる。
他人の死を願う者、他人の財が欲しいと思う場合など。何処かで誰かが不幸せになる事もある。
「……矛盾を孕む願いは危険だと思うぞ」
「……私はただ子供たちの幸せを願っているだけだ」
それはアタランテが思う幸せの形であって当人の幸せとイコールではない。
だからこそ願いを叶えるのは難しいとアインズでも思う。そして、それをもし仮に叶えるような代物の聖杯とやらが存在するならば、とんでもないものだ。
「……だが、それこそが私が戦う理由だ。……今は我が願いは否定され、敗北し、英霊の座に追放された」
追放される筈だった、というのが正確だとアタランテは胸の内で呟く。
戦闘は終了し、おそらく聖杯も消えたはずだ。それなのに自分は見知らぬ土地に居る。
マスターも無く、聖杯の影も形もない場所。
「サーヴァントは戦う理由あって召喚されるものだ。少なくとも私はそう思う」
だからこそ理由が無いのに存在していられるはずがない。
赤の他人に聖杯について議論を重ねても意味が無い。けれども世話になった分は帰したいと思った。
それと折角用意してもらった飲み物を頂き、一息ついたところで外に出る。
豊富な魔力に満ちた世界。
マスター不在でも何の支障も無く単独行動が出来る。
本来ならば魔力切れで実体を維持する事が難しい。
「……バーサーカー達すら狂気に陥っていない……。それはつまり……どういう事だ……」
ならば一つ試してみようか、とアタランテは別の宝具を出現させる。
それは黒い毛皮。
魔獣である『カリュドンの猪』を仕留めた景品であり、第二の宝具。
ただし、仕留めたのはメレアグロスという人物で、アタランテは一矢を当てただけだ。
アタランテに求婚する為に贈られた物だが、彼女を巡る男達の争いが起きて殺し合いになり、メレアグロス共々死んでしまった。
「主様よ」
アタランテはアインズに向かって言った。
「もし、我が正気を失った場合は……好きにしてくれて構わない。恩もろくに返せない分際で申し訳ないのだが……」
「……何をするのか分からないが……。客人のしたいようにすればいい」
「
右手に握る黒い毛皮から黒いオーラが漂い始めた。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
ログハウスに迷惑がかからない位置というものは無さそうだが、百メートルほど離れた場所まで移動するアタランテ。
見知らぬ土地なので逃げ出しても路頭に迷うだけ。
最初の徘徊が脳裏を過ぎる。それゆえに好き勝手に行動することに少し躊躇いを感じた。
「……折角の現界を私は無にしようとしている。それはやはり勿体ないことなんだろうな」
聖杯戦争に敗北した。その記憶は鮮明に覚えている。
激しい怒りに満ちて戦い、敗北し、サーヴァントの心臓ともいうべき『霊核』が砕かれた。
普通ならばそれで戦いは終わり、消滅する運命だ。
この再現界には何か意味があるのか。それを考えようとしたが未だに答えが出ない。
出ないような世界に現界した、と言えば身のふたも無い。
いや、正しく理解出来ない事かもしれない。
「……世界よ。我に真実の姿を見せ
黒いオーラをまとう毛皮を自身の胸に叩きつける。
鋭い爪が備わっている黒いグローブにより叩き付けた部分が傷付き血が出始める。
自身の血液に触れ、毛皮が体内を侵食し始めた。それにより痛みが広がっていく。
「……
黒い毛皮は都市国家カリュドンを滅ぼす為に使わされた魔獣のもの。
この宝具は自身を狂化し、爆発的な力を与える。しかしながら全身を激痛が襲う。
一度使えば命は無い。玉砕覚悟の対人宝具である。
本来ならば。
前髪付近の緑色だったものは紫色。後方は薄紫へと変わっていき、服装にも変化が生まれる。
肌の露出が増え、
靴は猪風の蹄が現れ、尻尾は荒々しい毛羽立った黒い体毛に変わり、二本になった。
グローブも黒い毛皮で覆われる。
最大の特徴は右肩に巨大な猪の頭が現れた事だ。
口から血の様なものを滴らせている。
「……あががっ……。り、理性は……保たれている……だと? 狂化されるのでは……なかったのか……」
痛みで混乱しそうになるが変化を冷静に分析できるところは意外だと思った。
傷みは本物。
宝具の展開に不備があるとは思えないが、どういう状況になっているのかアタランテには理解出来ない。
「間違いなく宝具は機能している。ううっ、全身が……張り裂けそうだ……」
声に出さないと涙が出そうになるほど痛い。
右肩の猪が首だけなのに唸り声を上げている。
油断すれば身体を乗っ取られそうな気がする。
「……理性を保ったまま宝具を扱うのは……無謀だな……」
しかも決戦時に
怒りに身を任せていた事もあり、縦横無尽に駆け巡っていた。それが今は痛みで走る事が難しい。
狂化されていた事によって痛みを忘れていたせいもあるかもしれないが、実に情けない事だ。
数歩歩いただけで膝が折れる。
黙っているだけで汗が止め