Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
客人の変化というか変身にアインズは驚いた。
大体の予想は出来ていたが実際に目にすると新鮮なものを感じる。
今のところ暴れまわるような危険性は無いようだが、念のために仲間に連絡を入れておく。
アタランテは墳墓内での素行は実に良く、好感の持てる人物として高く評価されていた。
ただ可愛いからといってペロロンチーノの意見に流されはしないのだが、自分の目で確かめて分かる事がある。
高潔の狩人アタランテ。
もし、彼女が望めば待遇改善も視野に入れてもいいとさえ思った。
意外な化け方をする人物として気に止める価値はある。
けれども他人である事が最後に引っかかると思うと素直に喜べない。
「……そうだとすると俺って……、悪い奴だな……」
一応、王様になったのだから民から慕われる人物になりたい。
見た目は化け物だと自覚しているけれど。
この姿だって随分と浸透しているから何か良いアピールポイントとか新しく用意したいと思う。
他人を認めさせる事は異形種であっても難しい問題だ。
と、アインズが悩んでいる間もアタランテは地面をのた打ち回っていた。
痛いならやめればいいのに、という野暮はアインズは思っても言葉には出さない。それくらいの空気くらい読める、と。
「……あれは変身するだけの能力というかアイテムというか……」
「……ほうぐ、でございましょうか?」
側に控えていたユリの言葉にアインズは頷いた。
彼らサーヴァントの持ち物については実際に手にとって鑑定したことは無いので色々と分からない事がある。
自分達の
強引な手は最終手段だからだ。
少なくともアインズは強引な手は取りたくない派だ。
頭髪の色が変わり、不穏なオーラを発しているのは分かった。
本来ならば爆発的な戦闘力を見せ付けるようなものだろうけれど、地面を転がり続けているだけで苦しそうだ。
その上、元に戻れない呪の類である場合はどうすればいいのか、と色々と思索する。
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アタランテは何度も立ち上がっては地面に転がる作業のような行動を繰り返していた。
思うように動けない自分に負けては狩人の沽券に関わる。
「ぐぅ……」
獣のように叫んで痛みを忘れるような行動でもしない限り、気が変になりそうな気持ちと戦わなければならない。
理性を保ったまま制御することなど本来は想定されていない筈だ。
何度か転がりつつ、痛みに耐えかねて地面に額を何度も打ち付けて自分を黙らせる。
それをどれだけ繰り返したのか。顔面が
この宝具は一度使えば後戻りの出来ない
場合によれば右肩ごと切り落とせば解除されるかもしれない。
前回は力尽きて肩の猪の頭部がずり落ちて解除されたはずだ。
そうなるには誰かと戦い、敗れるか。このまま痛みに屈して命を無駄に散らすかしなければならない、かもしれない。
それでもまだアタランテは自分を保っている。
「……怒りによる狂化……。それを平常心で制御するのだから馬鹿げている」
だが、時間が経つごとに理解してくる。いや、慣れてきたと言うべきか。
身体能力は確かに格段に上昇した、気がする。
死闘を繰り広げるのに相応しい宝具ではあるが、それ以外では全くの役立たずだ。
相手を殺すためだけの宝具など百害しか無い。
ゆっくりと立ち上がるアタランテ。
「……ああ、これでもまだ世界は……、我に試練を与えるのか」
それとも他に何か理由があるのか。
宝具は効果を発揮した。しかし、それは通常のものとは
その何かが分からないから困っている。
あと一週間ほどのた打ち回れば今の状態でも生活できそうだが、先ほどから肩口の猪が体液らしきものを垂れ流しているので、これをどうにかしないと迷惑がかかる。
「……全く。この魔獣は飾りではないのか?」
呆れつつも困ったな、とアタランテは小さく呟く。
身を滅ぼす宝具を使っても事態は悪化こそすれ改善の兆しが全く見えない。
宝具が使えることしか判明しなかった。
「……ここで朽ちるのも悪くはないか……」
元より聖杯の為に殺しあうサーヴァントだ。
その命の価値はきっと低い。
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変身が解けないままログハウスに戻ると鳥人間のペロロンチーの姿があり、その側には白銀の
姿は見かけた事がある程度で名前はまだ聞いていない。
「緑から紫に変わっている……。変身系か……」
「色で言われると……、やはり気恥ずかしいな」
変身したアタランテをどう表現すべきか。それは自分でもやはり色でしか言えないと思った。
筋力が多少、増量された程度で顔形は同じ。
肩口に大きな猪が現れている。
これを変身と言えるのか疑問だ。
「元に戻る方法が……分からない。こういう場合は……、やはり……」
両手を広げて肩をすくめる仕草を見せるアタランテ。
「諦めるのはまだ早いですよ。まずは……、その血塗れの顔を何とかしないと……」
普通の人間ではないと思ってもやはり血は赤い。それに対して猪はただただ唸り続けている。
この宝具は自身の強化のみで猪が特殊な攻撃を仕掛けるような事は無い。
早速ペロロンチーノがアタランテの周りを回りつつ状態確認を
無闇に触ったりせず観察しているようだが、腕とか脚くらいは触られても問題は無い。
さすがに服を脱げと言われれば拒否したいところだ。
「この
解除方法は使用しているアタランテにも実は分からない。
一度使えばもう後戻りできない。そういう覚悟を望んで使用するものだと自分の記憶にはあったので。
相手を道連れにして自分も滅ぶ諸刃の
「都合のいい能力を持つサーヴァントに来てもらうとか?」
自分達では解決できなくともサーヴァントに詳しい者達ならば可能になる事があるかもしれない。
ナザリック側に出来る事は自分達の知識にある事のみ。
「他のサーヴァントに頼るとしても……」
顔を綺麗に
互いに殺し合うサーヴァントの能力を把握しているものなど居ない。
聖杯抜きの今ならば可能性は高くなるかもしれないが、自分には返すあてが無い。
「『直死の魔眼』とかいう能力はどうです?」
「あれは『殺す』事に特化しているから……、宝具が使用不能になるか彼女の腕が不能になるかするかもしれません」
鳥人間と白銀の鎧が顔をつきあわて議論を始めた。
自分だけでは悶々としたまま解決しないが彼らは聖杯戦争とは関係の無い存在だ。だからこそ
「……いや、その前に……。汝らは……サーヴァントの能力をいくつか知りえているのか?」
「答えてくれたものだけだけど」
秘密主義が多いというのは自分の思い込みか、と呆れるアタランテ。
確かに隠しても仕方が無い。意味が無いと思えば教えてくれる場合もあるかと納得していく。
ここではもはやサーヴァントという拘りは不必要かもしれない。
であれば今の自分は何者なのか。
ただの弓の英雄というのでは
それは自分の身体がサーヴァントであった時のままである事と記憶を保持している事だ。