Fate/grace overlord   作:ぶくぶく茶釜

28 / 39
#028

 act 28 

 

 癒しを受け入れつつ今も身体を(むしば)む呪いの宝具に耐え、出来るだけ冷静に状況を分析する。

 この世界は結局のところ自分達の知りえない場所である。

 魔力が豊富で、自然豊かである。

 どうやら『異世界』という概念があるらしい。

 そして、自分達はサーヴァントでありながらサーヴァントではない。

 では何だと問われれば分からないと答える。

 

「身体のケガは今以上に酷くはならないと思うっす」

 

 治癒魔法を担当したのは褐色肌のメイド。

 修道女(シスター)のようなイメージを持たせた服装。腰まである三つ編みに結ばれた赤い髪が二本。実に健康そうな笑顔を見せてきた。

 犬頭のペストーニャとは違い、こちらは人間だった。

 

「痛みまでは消せないようだな」

「得体の知れないアイテムの解呪って大変なんすよ」

 

 気さくな話し方は自分の記憶には覚えが無い。乱暴なものは知っている。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 癒されても右腕から来る激痛は既に全身に及んでいる。

 全体的な痛みになったからこそ多少の無理が出来る程度だ。

 最終的には魔獣の姿に変わる事はないと思うが自分でも無茶な事をしていると自覚する。

 治癒担当のメイドの他に何人か地上に出て来た。その中には先の話題に出た『直死の魔眼』という能力を持つサーヴァント『両儀(りょうぎ)(しき)』が居た。

 着物姿に赤い革のジャケットを羽織った純日本人()の女性。いや、日本人なのだが、整った美しさを醸し出す風貌は何処となく異国人を思わせる雰囲気があった。

 年の頃は二十歳近く。ただし、一人称は『オレ』という。

 名前が判明しているのはアサシンと呼ばれるのが好きじゃないから、という理由からだ。

 

「猪退治はいいけど……。二度と宝具が使えなくなる可能性があるぞ」

「サーヴァントの役目が果たせないなら使用不能も覚悟しなければならない。もとより……我らには目的が無い……気がする」

 

 上着のポケットから小さなナイフを取り出して弄ぶ両儀。しかし、表情は平静だ。

 

「いいのかい、アンタの大事な宝具だろうに」

「情けない話しだが……。世界に抗い……、失敗したようだ」

 

 戦う理由があればいいのだが、それ(戦闘)が無く、また自分のこれからの行く末すら見えない今において宝具とは単なるお荷物かもしれないと思ってしまった。

 少なくとも命令を与える魔術師(マスター)が居ない。

 本来なら既に意識を乗っ取られてもおかしくないのに冷静に思考できる。

 狂化が無効化されているのか、それとも()()()()()()()効果を発揮しないのか。

 

 全く、良く分からない状態だ。

 

 アタランテは(ひと)()ちる。

 立ち上がって周りを見渡せば平穏な風景が広がっている。それを戦闘で台無しにする自分は正に異物。

 ならば()()()()抑止力が働いてもおかしくないのではないかと。

 

「……良く分かりませんが……、治療するのであれば早く処置すればいいのでは?」

 

 折角だからと何人か地上に上げたサーヴァントの一人が言った。

 人選の都合か、ほぼ女性。

 男性も居る事は居る。

 数百人規模の人材の内、四分一ほどが男性という偏った比率は()()かの陰謀か。

 彼ら(サーヴァント)達と入れ替わるようにアインズは地下に引き上げていた。

 

「呪いを強制的に排除するとアーチャーさんの命が危ないかもしれない。ここは慎重に調べていくよ」

「……いっそまた腕でも落とせば良かろう」

 

 そう言った時、鳥人間に手刀で頭を叩かれた。

 鈍い音と共に痛みが襲う。

 

「腕だけじゃあ、つまらないんだよ」

「……ペロロン君。それはどうかと思うよ」

 

 すかさず白銀の騎士が突っ込みを入れる。

 

「女性をいたぶる趣味は無い。ハーレム最高っ!

 

 そう言った後、またも白銀の騎士が手で突っ込みを入れる。

 今度は無言だ。

 

「……つい煩悩が……。とにかく、安全に解呪する方法を探して、それから強引な手で行こうかと思います」

「……普通に考えて、宝具を無効化する能力者を探せばいいのでは?」

 

 おそるおそる手を挙げたのは額から角を二本生やす、甲冑を着込んだ女武者だった。

 クラスはアーチャー。

 サーヴァント達の服装は自動的に着る事が出る、という()()()()()()()()()があるらしく、それぞれ個性的なものとなっていた。

 別の服が着られない、という条件は無い。下着類はそれぞれちゃんと替えている。そうでなければ女性の沽券に関わる。

 男性でも同じ事だが。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 地上に出た他のサーヴァント達は自由に行動していい権限が与えられているようで、それぞれ好き勝手に散策を始めた。

 とはいえ、周りは平坦な草原ばかり。

 近くの村まで徒歩で二日ほどの距離。

 今のところ走って逃げる者は現れていない。

 

「明日辺り人が到着する予定になっているけど……。多人数の君たちを一辺に運ぶ事は想定されていない」

 

 アタランテの事も大事だが他の者にも説明を始めるナザリックの面々。

 白銀の騎士の他にも何人か姿を見せている。

 骸骨風の鎧武者。黒い粘体(スライム)。植物人間。炎をまとった鳥人間。

 

「低位の解呪魔法じゃあビクともしないようっすね。……というか、この猪って生きてるんすか? 動いてるけど……」

 

 死者ではないのか、不死者(アンデッド)退散が通用しなかった。

 引っ張れば当然の如くアタランテが痛がる。

 

「一体化?」

「接触している部分だけだと思う」

「なら、綺麗に切り離すのが早道っすかね」

 

 身体を侵食する痛みから、そんな簡単な方法では無いとアタランテは予想している。

 使用者の生命力に関わるものなら、瀕死にでもならない限りは物理的な方法などは通用しない、気がする。

 

 なら瀕死になるしかないではないか。

 

 ため息をつきつつ残酷な結論にほとほと呆れ果てる。

 そんなことくらいしかないのであれば、もはやどうしようもない。

 

「ぶほっ……。はぁ……」

 

 肺にダメージを受けたせいか、派手に吐血するアタランテ。

 どういう事態になっているのか、さっぱり理解出来ない。

 それにもまして結構な惨状にもかかわらず褐色肌のメイドがとても憎たらしい笑顔で腹が立つ。

 他人の不幸を笑うタイプか、と思った。

 

「手っ取り早くぶっ殺すほうが……」

「物騒な結論を選ぶな、ルプー」

 

 ペロロンチーノの言葉に恐縮する戦闘メイドのルプスレギナ。

 狡猾で残忍なメイドとして働いているが至高の者達からすれば可愛い娘に過ぎない。

 そんな彼女にアタランテを診るように言ったのは他ならぬペロロンチーノ自身だ。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 身動き自体はまだ出来るが痛みによってあまり動きたくない気持ちになってきた。

 豊富な魔力のお陰で猪が随分と活性化し、また自然治癒力の増大で延々と痛みが強くなっている気がする。

 下手に死なないせいで、何か深刻な事態に陥っているのではないかと思うようになってきた。

 安全な除去は無理かもしれないと思いつつも他に方法は無いのかと思案する。しかし、そんな方法などきっと無いのだろうと思う。

 命を懸けて使う宝具だ。逃げ道など用意されていると考えるのは甘い証拠だ。

 

「……ふん」

 

 と言いながら倒れていたアタランテの頭を鷲掴みにする者が居た。

 光り輝く木の枝の様な角を側頭部から生やす大柄の人物。しかし、それを人間と形容する事が果たして出来るのかという異様な風体だった。

 両腕は太く、筋骨隆々。表情は判別できないが胸に巨大な眼球が埋め込まれたような姿。

 摩訶不思議な模様が全身に刻まれている。

 

「なにやら取り込んでいるようだが、ようは半殺しにすればいいのだな」

 

 人間一人を片手で掴みあげる膂力により、アタランテはなすすべもなく掲げられる。

 人間型の多いサーヴァント。というか人型しか居ない中で異質な存在感を示すのは『ゲーティア』と呼ばれる人物だ。いや、それを()と呼べるのかは怪しいところだ。

 人語は解している。意思疎通も今のところ問題はない。

 

「もたもたしていれば苦しみは終わらない。ならば早く楽にすべきだ」

 

 重厚な声で正論を言う。知性はとても高いようだ。

 だが、方法はとても乱暴である。

 いきなりアタランテの腹部に拳を見舞う。それだけで様々な吐瀉(としゃ)物が吹き出た。

 

「ぐぅっ! ううぅ!」

「今の一撃でも変化は無しか」

 

 それにもまして恐ろしいのは誰一人として止めようとしないこと。

 ペロロンチーノも白銀の騎士も同様に。

 周りの者達は驚いてはいた。けれども彼らは別の事で気に止めないのか、それとも黙って見ているつもりなのか。

 現場がとても静かになったこと以外で変化は無い。

 

「ふん。死なないように手加減するのも面倒だが……。受けた恩は返さねばな」

 

 そう言いつつもアタランテを地面に思い切り叩きつけるゲーティア。

 後頭部から地面に叩きつけられ、苦悶の声以外に叫びは無い。いや、出来なかった。

 押し付けられた手により鼻が潰れ、鼻血が零れる。

 

「……抵抗する気力を失ったか。それはそれで結構な事だ。そのまま黙って死んでいろ」

 

 だらりと力の抜けた手足をゲーティアは一瞥したが、行動は止めない。

 適度に半殺しという注文なので死なない程度には痛めつける必要がある。

 二度ほど地面に叩きつけた後で猪がくっついている右腕を乱暴に引き千切る。既にアタランテに痛みで叫ぶ気力が無く、そのお陰でとても静かだった。

 千切れた腕が地面に投げ捨てられると猪は力尽きたように零れ落ち、元の黒い毛皮に戻った。それと同時にアタランテの服装と髪の色なども。

 サーヴァントを殺すために痛めつけたわけではないので、姿が戻った事を確認した後、ゲーティアはアタランテを開放した。

 

「まだ息があるはずだ。治療するなら早い方がいい」

「了解っす」

 

 ルプスレギナは全く怯む事無く、アタランテの治癒を始める。

 その時になって周りから安堵の吐息が漏れ始める。

 これが普通の人間達なら一つ一つの行動にいちいち悲鳴が上がるところだ。それが無いのはそれぞれ歴戦の英雄たちだからか。それとも見慣れた光景なのか。

 もちろん、ペロロンチーノ側にも言える事だが。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。