Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
少し騒動があったが現場はあっさりと元の活気を取り戻す。しかし、地面には惨状の痕跡が残ったままだ。
復活したアタランテはゲーティアに礼を言う気にはなれない。胸の内では助けてくれた恩人だ。しかし、方法が乱暴すぎて嫌悪感しか湧かない。というか敵だ。
鼻は潰されるはガンガンと頭を打ちつけてくるわ、で災難だった。
全部自分の自業自得が招いた失態なのだが。
無気力になって地面に座り込む純潔の狩人アタランテ。
実は腹部の一撃が強すぎて血尿が出たらしい。
下着が真っ赤に染まってしまった。だからこそ恥ずかしくて現場から逃げ出したくても動きたくない気持ちと
「……手加減しても長引くだけだが。はぁ~、もう穴があったら入りたい……」
治癒魔法により短時間で身体の調子は戻った。けれども精神的なダメージまでは癒されない。
「それにもまして周りのサーヴァントの皆さんが普通に見物してたのは凄いっすよね。こういう現場はありふれているんすかね」
「……ありふれてたまるか」
精一杯の抵抗を見せるアタランテ。
「先ほどの化け物みたいな奴は……、あれもサーヴァントなのか?」
「本人はそんなこと言ってなかったっすよ。魔術王の残りカスとか聞いた覚えがあるっす」
「……なんだそれは」
「なんなんすかね。本人に聞けばいい事っす。さすがに脱糞まではしてないようっすね。一旦、戻って風呂に入った方がいいっすよ」
そう言われて拒否する気力はアタランテには無い。ただただ言う通りに従うだけだ。
それと黒い毛皮は既に霊体化して消えていた。あれはアタランテの意思でまた姿を見せるものだ。
実験と称して使う事は二度とごめんだと自分に言い聞かせる。
「そういえば千切れた腕は……」
と、探してみるとペロロンチーノが持っていた。
「二本目ゲット」
「………」
もはや言葉も無い。
というよりはまた腕が生えていた。
本当に治癒魔法というものは凄いとしか言えない。このままだと延々と腕が搾取されるのではないかとさえ思う。
流石に同じ部位ばかりでは飽きると思うけれど。
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一旦気を静めるために地下に戻る事にし、二日後にペロロンチーノに会いに行った。
ゲーティアは別にどうでもいいと思って無視する事にした。
わざわざ殴ってくれてありがとう、だなんて聞きたくないと思って。もちろん、自分だって言われたくない。
ペロロンチーノの部屋の前にたどり着き、扉をノックする。
簡単な挨拶程度はしなければ、と思ったまでだ。
扉が開き、担当メイドのリュミエールが応対する。
「ペロロンチーノ様は会議に出席されております。今日は残念ながらお戻りになられないかと」
「そうか。明日ならば会えるのか?」
「内容次第でございますので……。私からは断言できかねます」
無理に会いたいとは思っていない。
メイドに礼を述べて食堂に移動する事にした。
自分のやりたい事や確認したい事で更なる混乱を招いて、この先どうすればいいのかますます分からなくなった。
宝具の確認が済んだので一つは確実に消えたのは確かだ。
空いている席に座り、深くため息をつく。
「ふぉっふぉっふぉ。何やらお困りのようですな」
そう声をかけてきたのは薄着で褐色肌で何処かで見たことのあるような女性だった。
確か激辛料理に苦戦していたセイバークラスだったような、と。
今回はどう見てもサンタっぽい衣装になっている。
違うクラスの別人か。
「……汝は……前まで居たか? 初対面の……気がするのだが」
「気にしてはいけない。良い子にプレゼントをあげる使者である」
白い髪の毛。白い手袋に赤い水着のような格好。そして、その人物の側に奇妙な生き物が居るが羊の格好をした何者か、としか分からなかった。
「新手のサンタというわけか。これで三人目か……」
「だから気にしてはいけない。悪い文明は消去するぞ」
随分と物騒なサンタだな、と思いつつ飲み物と軽い食事を注文する。
タダ、という事でサンタに奢る必要は無く、自分の分は自分で頼めと言い含めておいた。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
内臓の損傷も既に完治しており、美味しく頂ける幸せを噛みしめる。
千切れた腕も問題なく動く。
生えてくるのはいいが霊体化が出来ないのは何故なのか。
宝具と服装は自由自在なのに。
「サーヴァントではないと仮定して、我々は何者なのか」
「自分達がサーヴァントだと思っているならばそれでいいのでは? 宝具も使えるのでしょう?」
「……そう言われると言葉も無い」
「そうですね……。この世界のサーヴァント……、では如何でしょう? 前の世界のことばかり考えていては何も進まないと思います」
サンタのサーヴァントがまともな事を言った。
あまりの事に反論出来なかったが、確かに言う通りだなと思った。
ここは自分の知る世界ではない。けれどもこの世界独自のサーヴァントとして現界したのであれば不思議な事は無いかもしれない。
もちろん
少し唸りつつ料理を平らげていると赤い
彼女、と言った方がいいのか
名札には『インヘリタンス』と書かれている。というか読めた。
「食事が出来るということは体調は割りと良い方ね」
「……お陰様で」
流暢に喋る
本来ならば数ヶ月くらいの入院が必要だ。サーヴァントであってもまだ少し安静にしなければならない。
そして、部位の欠損はそうそう経験が無いのでもっと休息が必要かもしれない。
当然の事ながら肉体を構成しているのは全て魔力だ。だから
今も身体が魔力で出来ているのかは怪しいところだが。
「一騒動あったわけだけど……。また無茶はしないでね」
「……う、……善処する」
「死にたいなら無防備になって身体を差し出してからよ。君達は貴重な素材の塊なんだから」
遠慮なしに紡がれる
命を大事にしない者の末路に憐憫は感じないぞ、という意味かもしれない。
本来ならば全サーヴァントを拘束し、好き放題に実験するところだ。それをあえてしないのは面倒だからとは到底思えない。
それが出来ない理由があるのか。それとも本当に純粋に自分達サーヴァントの事を心配してくれている、とか。
あり得ないと言うのは簡単だ。だが、彼らはサーヴァント達に特別、何も要求してこない。
部位の収集は個人的な趣味の範囲かもしれない。