Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
不敵な笑みを浮かべる英雄王と複数のサーヴァントが睨み合う中、ペロロンチーノはメイド達を下がらせる。
一触即発の雰囲気に巻き込ませない為だ。代わりに防御に厚いシモベを呼びつける。
元はと言えば自分が宝具が増えるのか気になって試したら出来てしまったのが原因だ。
ある程度の予測と実績があったからこそだが、魔法は本当に不思議だと今でも思う。
「……ペロロンく~ん」
と、少し上空から恨みがましい声を出すのは水母モンスターの『スーラータン』だった。
見た目は弱そうだが『至高の四十一人』と呼ばれる彼らはそれぞれ人智を超越した能力を保有する。
現行のアタランテと比べると彼の方が二倍以上強い事になる。
「スーさん」
「争いの元はいつも君だね~。なにしてくれてんの?」
表情アイコンがあれば青筋が浮かんでいるところだ。
フヨフヨと浮かびつつ、いつでもペロロンチーノを狙い打てる状態になっている。
「そんなに
「……つもりは無くともギャラリーが大勢集まってますが?」
少人数で場を治めるにはサーヴァントが多すぎる。既に三十人強が集まっていた。
今のところ武器を抜き放つ者は居ないがどうすればいいのか、メイド共々混乱状態に陥っていた。
後から来た大柄な身体の『やまいこ』達が注意喚起していく。
戦闘行為に発展しないように。
その最中、もみくちゃにされる前にアタランテと宝具を掴む者が居た。
見た目は忍者風のいでたち。無言のまま現場から遠ざかる。その速度はアタランテの目から見ても驚異的であった。
礼を言う間もなく連れて行かれた先は何処かの部屋。おそらく忍者の部屋だと思われる。
「ここならば少しの間、静かに過ごせるでござるよ」
顔は布で覆われていて表情は窺えないが穏やかな口調だった。
一礼したアタランテは用意された椅子に座る。それと自分の宝具は手近な場所に置かれた。
「……うちのペロロンが迷惑をかけたでござるな。あいや、ござる口調は……構わないか?」
「我は……気にしない」
「そう? でも、自分の口調を無理に捻じ曲げるものだから意外と大変。拙者は……とクセになってしまうくらいだ。俺は『弐式炎雷』……。挨拶が遅れて申し訳ない」
「……アタランテ。アーチャーはたくさん居ると思うので……」
一つ頷いた後、弐式炎雷という忍者は『
専属のメイドは数分も経たずに部屋にやってきた。
「もう一人呼んでおくから。用はメイドに言いつけて、休んでいくといい」
「……了解した」
アタランテの言葉を受けた後、弐式炎雷は素早い動きで部屋から退出する。
慌しい一幕から逃れた後、一気に静寂が訪れて手持ち無沙汰になるアタランテ。
二つに増えた宝具を撫で付けながら消そうかどうしようか悩む。
まさか増えるとは思わなかった。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
それから十分ほど経った後で部屋にやってきたのは赤い
メイドはすぐに一礼し、室内に通す。同時に彼女のお抱えメイドも一緒に入ってきた。
「まあまあ、うちの弟がえらい迷惑をかけて……。ごめんね~。後でしっかり叱っとくから」
「い、いや。お構いなく。こちらも少し驚きすぎたきらいがある」
「……物騒な武器がいっぱいあっても困るんだけど……。色々と不思議なものを見せられて混乱してるでしょう?」
確かに混乱していることは事実だ。
見知らぬ土地に居るだけでも驚きなのに、これ以上の混乱は勘弁願いたいところだった。
それに輪をかけて地上の世界がもっととんでもないところだったら地下に引きこもってしまう自信がある。
何者にも負けない自負を持っていた狩人たる自分がこんな程度で根を上げるのは実に不本意だ。
他のサーヴァントがたくさん居るのだから彼らと殺し合いをすればいい。それが本来の正しいあり方ではないのか。
そう自問しても聖杯が無い状態では不毛だ。だから、返って来る答えは無意味である、と言える。
「……それにもまして魔法とはかくも凄いものだ」
宝具を増やしたのだから。
正しくはその原因を作った、だ。
奇跡を成す魔法は乱用すべきではない。だが、とても魅力的だ。
「知らない土地に来て、知らない概念に触れるのは怖いわよね」
「……うむ」
ぶくぶく茶釜は手近な椅子に身体を乗せる。
控えているメイドは黙って立ち尽くす。その後で一人のメイドがはっと目蓋を上げてアタランテの為の飲み物の用意を整える。
出された飲み物を一口飲むと気分が少しだけ落ち着いてきた。
転移から既に数ヶ月は経過しているが未だに驚きがいっぱいだ。
この上まだ驚きがあると思うと日常生活に支障が出るのではないかとさえ思う。
ただでさえ戦闘に特化したサーヴァントだ。まともな日常を送れる自信が無い。
「地下生活も飽きた頃だと思うけど……。そろそろ地上世界を満喫する気は無いかしら?」
「それは考えていたが……」
「いきなり街に行くより村の生活から人々の営みを勉強するといい。……それとも元の世界に戻る方法の模索がいいのかしら、貴女達にとっては」
確かに元の世界に戻る目的も大事かもしれない。とは思ってもアタランテにとっては過ぎ去った歴史の一部だ。元の世界も無い。
次の聖杯戦争まで英霊は『英霊の座』に記録を残し、消滅する。ただそれだけの存在だ。
今は少し毛色が変わって驚きの連続を味わっているが。