Fate/grace overlord   作:ぶくぶく茶釜

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#035

 act 35 

 

 室内にあるテーブルに乗せていた二つの『天穹の弓(タウロポロス)』に顔を向ける。

 使い手が一人に対して武器が二つ。

 単なる美術品であればそれなりの価値がある代物だ。ぶくぶく茶釜たちに譲渡するのであれば何の問題も無い。

 けれども他のサーヴァントに渡すのはどうにも違う気がする。

 新たな火種にしかならない。

 

「……汝らに渡すことも大して変わらないか……」

 

 それ以前に腕を二本も取られてしまった。さすがにあれは新たな火種にはならないと思うが、気色悪い趣味に走らないことを様々な神に祈る。

 場が静まり返ったところで男部屋では何かと不都合があると判断したぶくぶく茶釜は自分の部屋に移動させる事にした。

 まずアタランテの身体をローブのようなもので覆い、すばやく移動させる。

 敏捷で言えば粘体(スライム)といえどアタランテに引けはとらない。

 メイド達は置いてけぼりになってしまったが。

 そうして次の部屋に到着し、一息つく。

 第九階層にある至高の四十一人の為の部屋は広めに作られており、豪華さに欠けるが各人の特色を設けている。ただ、ぶくぶく茶釜は基本的に第六階層に別の拠点を持っており、主にそちらを使っている。

 

「普段は第六階層に居るから、こっちの部屋にはあまり物は置いてないのよ」

 

 そう言いながら連れて来たアタランテを椅子に座らせて、部屋の中を移動する粘体(スライム)

 人間ではないのに人間的な様子に今更ながら驚く。

 

「ここなら余計な客人は入ってこないから。……弟とかは来るかもしれないけれど……」

 

 あちこち移動するぶくぶく茶釜。それだけ見ていると何をしようとしているのかさっぱり分からない。だが、気晴らしにはなった。

 話しが通じるところも不思議だ。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 数分後にお抱えメイドがやって来たので早速命令を伝えて、部屋に様々な物を持ち込ませていく。

 大きなベッドではないが床で眠れるようなものが次々と運び込まれた。

 それと縛られたペロロンチーノ。

 

「暇だろうから、丁度いいストレス発散として(まと)として使っていいわよ」

「弟君なのだろう?」

 

 彼の(くちばし)は何らかの紐のようなもので結ばれていた。

 

「信賞必罰。変態に慈悲は無い」

 

 そう言われても素直に弓を(つが)えて矢をペロロンチーノに放てるわけがない。

 狙うなら股間がいいわよ、という呟きが聞こえた。

 とにかく罰を与えるならお好きなどうぞ、という事らしい。

 しばらく彼を見つめつつアタランテは黙って佇んだ。

 別に殺したいほど憎んでいるわけではないし、驚かされただけだ。

 そのペロロンチーノに触れようとすると彼のお抱えメイドが阻止してくる。

 

「至高の御方に勝手に触れるのは……」

 

 ただでさえ(まと)にする事ももってのほかだが、姉の特権を使う至高の御方の命令なので文句が言い難い。

 口を堅く結んだ状態でアタランテを見据える。

 

「……吊り橋効果で好きになるとか勘弁してよね。他の女性サーヴァントにも声をかけていることを忘れちゃダメよ」

「……厳しいのだな」

 

 正に変態に人権は無い。いや、異形種だろうと権利は無い、か。

 唸る鳥人間を部屋の片隅に置いても気になるし、煩いのだがぶくぶく茶釜は出来るだけ無視した。

 

「ところで……、ぶくぶくちゃがま。でいいのだな?」

「おおとも」

「汝も何か所有しているのか? 身体のようなものとか」

 

 姉弟(きょうだい)ならば似た趣味を持っているかも、と思っただけだ。

 周りには目立つ物騒なアイテム類は見当たらない。というよりペロロンチーノの部屋の中も知らないけれど。

 

「……一応あるわよ。そりゃあ……、出来てしまう方法は試したくなるものよ。それなりの収集癖は他のメンバーも持っていると思うわ。だから私だけ特別ってことはない」

 

 それを人に見せて自慢するとかは別の話し、とぶくぶく茶釜は呟いた。

 アタランテも無理に見たいわけではないが、気になる事は事実だ。それとペロロンチーノを解放するように頼んだ。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 当たり前だが、人間的な姿ではない粘体(スライム)の感情などは読みにくい。というか読めない。

 アタランテの要望にため息のような仕草で応えて、ペロロンチーノを解放する。

 その後すぐに彼は部屋から追い出された。

 慌しい一団を退けた後、二つに増えた己の宝具を眺める。もはやどちらが本物か全く見分けが付かない。

 二つとも持ち主の意思で消せて、次に出す時はまたいつものように一つだけ出る、という話しだった。

 

「……しかし、何故?」

 

 触れた感触も扱いもどちらも本物にしか思えない。

 矢は別途自分で出せるが、これと似た原理なのか。それとも現地の魔法による奇跡なのか。

 

「この世界のルールに合致した、とか。統合された、とかじゃないかしら」

「………」

「好き放題魔法が使えるけれど……。魔力という概念はちゃんと調べたわけじゃないわ。どうしてこんな概念が存在するのか、私達も実はよく分かっていない」

 

 ぶくぶく茶釜はメイド達に席を外すように言いつける。

 一礼したメイド達はペロロンチーノの下と別の部屋とに分かれていく。

 

「……それ消していいわよ。それとも私らにくれるの?」

「……このまま片方を消した場合は……もう出せないのではないかと……」

「疑問は実証してこそよ。悩んだって何も変わらないわ。やってみる事が大事。……そのせいでとんでもない事実が判明することは……、よくある事……」

「……うむ」

 

 粘体(スライム)に諭されるアタランテ。

 全く表情は分からないけれど優しい言葉使いに感動する。

 


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