Fate/grace overlord   作:ぶくぶく茶釜

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#004

 act 4 

 

 次に意識を回復すると顔や身体が温かく感じた。

 しばらく理由を探っていると誰かが手拭いか何かで拭いてくれているようだった。

 本当ならすぐにでも飛び起きなければならないのだが、力が全く入らずなすがまま過ごす事になった。

 

「……ありがとう、と言うべきなのだろうな……」

 

 喉に少し痛みがあったが、女性は言った。

 

「……いいえ、これが私達の仕事ですから」

 

 優しい返答。

 声の主に心当たりは無い。

 

「……水をいただけないか? もう何日も口にしていない……」

「空きっ腹に冷たい水は刺激が強いと思いますよ。少々お待ちくださいね。白湯(さゆ)をご用意いたしますから……」

「……ご厚意に甘えさせてもらう……」

「はい」

 

 ふう、とため息のようなものをつき、ゆっくりと流れる時間を過ごす。

 自分が今何処に居るのか、それを確かめると地獄の風景が広がっているかもしれない。それでも目蓋を開くべき、と誰かが問いかけてくるようだ。

 本来なら即答するところだが、今は何もかもが億劫で(たま)らない。

 アーチャーとしての責務を忘れた駄目サーヴァントと言われても今は素直に受け入れられる気がする。

 

 いや、駄目だろう!

 

 決意を込めて目蓋を開けた。すぐに光りが飛び込み涙ぐむ女性。

 何日も暗闇に居た眼球には刺激が強すぎたようだ。

 もう一度、ゆっくりと開きつつ外の光りに慣れされていく。

 

「……ふぅ……」

 

 ぼやけた視界が少しずつ鮮明になり、自分の見ているものが何なのか分かり始める。

 ベッドに寝かされているのは感覚的に理解出来ていたが、どこかの建物の中のようで、嗅いだ事の無い臭いが鼻腔を(くすぐ)る。

 何度か(まばた)きし、室内の様子を把握していく。

 手足は拘束されていないようだが、少なくとも血生臭い拷問部屋ではないのは分かった。

 先ほどまで居た声の主たちの姿は見えない。

 

「……どれだけ寝ていたのか……」

 

 無防備になりすぎた。しかし、今更警戒しても遅すぎる。

 ここは流れに身を任せるのが正しいと自分の勘が言っている。

 視線を泳がせていると愛用の弓が部屋の片隅に立てかけられているのが見えた。

 女神アルテミスより賜った大事な弓だが、今の自分にそれを持つ資格があるのか疑問だ。

 もっと相応しい者が現れれば譲渡も視野に入れねばなるまい、と。

 

「……衰弱しすぎて起きられん……」

 

 麻痺はしていないようだが、身体が異常に重く感じる。

 つい先日まで人の気配が無かった。それが今度は気配だらけだ。

 この落差にどう対応すればいいのか。

 ふ~ん、と鼻息を長く出して唸っていると部屋に何者かが入ってきた。

 自分の部屋ではないので断る理由は無いのだが。

 姿を見せたのは頭に白いヘッドドレス乗せ、見慣れない黒い服装。大きく張り出した胸を白い中着のようなもので支えていた。

 自分が住んでいた世界はもっと薄着だったから、他国の服装に口出しする気は無いが、少しだけ気になった程度だ。

 

「起きられましたか?」

「……あ、ああ。すまない。随分と世話になったようで……」

 

 丁寧に挨拶してくる女性。

 礼儀正しい居住まいは好感が持てる。

 だが、この気配は何処かで感じた覚えがある。

 不思議な衣装を着た彼女は寝ている女性の側に色々と飲み物やら着替えなどの用意を整えていた。

 丁寧な仕草は口出しできないほど見事な動きだった。

 

「……着替えは身体が動かれてからがいいでしょうか? それとも私共がお手伝いいたしましょうか?」

「……すまない。本来ならば自分でやるべきことだが……。今は(しも)の世話まで出来ないようだ」

 

 戦士としては口に出すのも恥ずかしい事だが、今は恥も外聞もどうでもいい。

 自分は何も出来ないのだから。

 おそらく寝ている間に身体を丁寧に洗ってくれたりしてくれたはずだ。嫌な臭いが一切しないし、身体に不快感もない。

 それどころか痛みも無い。

 ただ、体力が衰えて動けない事を除けば完璧に近いといえる。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 部屋に訪れた女性は一人ではなく、その後に交代で別の女性がやって来た。

 見事な所作に驚きつつ言葉を失った事もあるが、他人に飲み物を頂くのは恥ずかしくもあり、情けなさも感じる。

 とはいえ、それが現実であり、結果だ。

 他の英霊が居れば絶好の(まと)

 それに抗うことなど今の自分には出来そうもない。

 ただ単に討ち死にして消滅する運命ならば、それはそれで受け入れるしかない。

 

「……美味(うま)いな、この水は……」

 

 適度に温められた白湯(さゆ)は喉にとても優しく、とても美味(おい)しかった。

 

「地元の天然水を第五階層で冷やしたものを使っておりますから」

 

 と、微笑む彼女(メイド)の顔を見ている内に眠気が襲ってきた。

 元々体力が無いのだから長く起きている力も無い、ということかもしれない。

 それを何度繰り返せばちゃんとした挨拶が出来るというのか。

 全く、情けない事だ。

 

「お休みなさいませ」

「……また……後でな……」

 

 そんな生活をどれだけ続けたのか。

 それでも少しずつではあるが長く起きられるようになってきた。代わりに軽い頭痛が襲ってきて眠れなくなってきたが、それが原因とも言え、なくはない。

 今回は温かいスープを頂く。

 何も無い腹に入れるのだからどこにどう流れ落ちるのか、とてもはっきりと知覚できるほどに自分は飢えていた。

 

「……あまり無理をされますと逆流するそうですよ」

「空きっ腹には堪えるな……」

 

 熱がそのまま胃を焼くような痛みがあった。それでも無いよりはマシだし、味は申し分ない。それとも自分は猫舌だったか、と疑問に思った。

 水だけでは腹を壊すと言われたので他の飲み物にも挑戦する。

 

「……ところで、ここは誰の家なんだ? 主に一言謝罪せねばなるまい」

「お客様の体力が戻り次第、お会いになるそうですから。それまではご無理はしないように、と……」

「それはいかん」

 

 と、言いつつも足は震えて前に進まない。

 今の自分は部屋から自力で一歩たりとも出られないくらい弱っている。

 魔力は溢れるほどあるのに。

 

「絶対安静です。そうでなければ私共が叱られてしまいます」

 

 眉をキリっとVの字にして彼女、一般メイドと呼ばれている者は言った。

 服の胸の部分に名札が縫い付けてあったが知らない文字だったので読めなかった。

 本来ならその土地の文字は召喚時に読めるようになるらしいのだが、別の地域や概念などが影響したのか、解読できなかった。

 尋ねればいいだけだが、言いたくない事もあるかもしれない、という事が脳裏に浮かんだので聞きそびれてしまった。

 

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