Fate/grace overlord 作:ぶくぶく茶釜
何日過ぎたのか、何時間過ぎたのか。
経過した時間が室内だと全く分からない。時計は一応あるのだが、一日丸々眠り込むと一分しか経っていないと錯覚する事がある。
「ここに運ばれてから五日ほどですね」
尋ねたら素直に教えてくれた。
変に意地を張ると自滅する、という意味になるかもしれない。
それにしても寝込んだ来客に対して丁寧な対応。いったいどういうつもりが
身体が目当てなら寝込みを襲えばいい。今なら無抵抗でモノにされ放題だ。
個人的には不快だが、抵抗できないのは事実だ。
武器も奪おうと思えば持っていける状態だ。
他には何があるのか。
「単なる行き倒れにここまで親切にする理由は何だ?」
「……それは我らの主にお尋ねになられては、としかお答えする事が出来ません」
その主というのはずっと所用で忙しく働いており、客人対応が出来ないという。
他に話しが出来る者を寄越すように頼むとメイド達は自分達には呼びつける権限がない、と申し訳無さそうに言ってきた。
そこは違うだろう、と何度か言ったのだが。
「どうしてもお呼びしなければなりませんか?」
「……顔を見せられない理由でもあるのか? 我の姿が化け物だから嫌だ、とか?」
「いいえ。むしろ、そのお姿の方が……。こほん。……失礼しました。お客様の容姿に物申す失礼な事は致しませんよ」
と、薄く笑うメイド。
嘲笑かと思ったが、女性の言葉が単に面白く聞こえただけだという。
面白い事を言ったつもりはないが、気を悪くしたわけではないので我慢する。ただし、顔は不満の色をにじませたが。
確かに人間と獣の中間的な姿なのは否定できない事実だ。
それはキュベレイ様の怒りに触れた、とかなんか色々と事情があるのだ、と言っても通じそうにない気がした。
「……そういえば何故キュベレイ様の怒りに触れたんだっけ?」
召喚された時に自動的にその時代の情報が勝手に植えつけられたことによる弊害などが原因とかあるのか、と疑問を覚える。
他の英霊も何らかの事情で本質が歪められているのならば自分もまた大勢の
それでも自分はここに居るのだから、それを否定することも肯定することもきっと出来ない。
サーヴァントとは
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
世話を受けて更に一日が経過する。
一度意識がはっきりしてしまえば後は回復に努めるだけだ。
諦め一色だった気持ちも胃を満たす毎に解消していく。
自分は何と浅ましく、現金なものなのかと愕然としたものだ。
「……世話を受けている身で悪いが……、支払えるものは……、何も無い」
弓は最後の手段まで残したいので除外した。
「いえいえ。我々は仕事という対価を頂いておりますので……」
「……しかし」
「とにかく、お客様は身体を癒すことだけに集中してくださいませ」
入れ替わり立ち代わり訪れるメイド達。
姿というか衣服が同じなので全員が同一人物だと錯覚する事があったが、頭部と声はそれぞれ違っていた。
数十人規模のメイド達が控えているらしい。
「……我の……私のように行き倒れていた者が他にも居るのか?」
「別の部屋に居るかもしれませんが……。他のお客様の事はお伝えできませんよ」
と、
居るかどうかは自分で確かめるしかないけれど、接点についてメイド達が知る良しもないと女性は思い、追求はしなかった。
聖杯戦争の事とか聞いて答えるわけはないと思うが、少しは興味があった。
彼女達は我々の事をどこまで把握しているのかを。
把握していたとしても世話をするよりは倒した方が都合がいいはずだ。特にマスターが主ならば。
そうでないなら、ここは何なのか、という疑問が浮かぶ。
そう。ここは一体全体何なのか。
自分の知覚能力は少しずつではあるが戻ってきている。それでも何かが索敵を妨害しているようで、脳裏に僅かばかりのノイズが走る。
それはつまり
礼を尽くす前に気を悪くされては戦士としての
ここは大人しくするべきか。それとも成すがまま無防備でいるか、だ。
今更
それに反論できればとうの昔にやっている。
「……とうの昔に……」
願いがあるから召喚された。その願いが成就できなかった後はただ消滅するのみ。
では、今の自分の状態は何なのか。
仮に生き恥を晒せ、というものなら多くの敗北したサーヴァントが居てもおかしくない。脱落した彼らもそれぞれ行動したり、この先の身の振り方などを自問自答しているのかもしれない。
聖杯が無ければ戦う理由は生まれない。
一部は会話が成り立たないと思うけれど。
「……この顕現に意味があるなら……。私はこの先、何をすべきなんだ?」
目的が提示されなければサーヴァントは何をするものなのか。
己の能力で富を得たり、殺人に享楽するのか。
それとも不死性を利用して研究に没頭するとか。
それはそれぞれのサーヴァントが決める事だが。
「……であれば我は何をすればいい……」
一人で全ての子供を幸せに出来る自信など無い。
出来ない不可能を可能に変える力を持つのが聖杯だと認識していた。けれどもそれは結局のところ幻想でしかなかった。
ならば、どうする。
「……愚問だ。……自分に出来る事をするだけだ」
上体を起こし、部屋を見渡す。
ここから改めてスタートすればいい。と、思える事が出来れば楽なのだが、そう簡単にはいかない。
自分は出来ない事を知っている。でなければ聖杯など求めはしない。
「……それでも召喚してくれたマスターの為に働きたい気持ちは……、あったのだがな……」
魔術師達の思惑は結局のところサーヴァントには窺い知れない。
彼らが何を求めて聖杯を欲したのか。
サーヴァントを利用して有利に戦いを進めたい事は理解しているけれど、それでもやはり彼らは聖杯に何を求めたのか、聞いておくべきだったのかもしれない。いや、今だからこそ聞くべきなのか。
それが例え下らない理由だったとしても。