Fate/grace overlord   作:ぶくぶく茶釜

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#007

 act 7 

 

 数時間ほどの走りこみの後でメイドの下に戻り、第九階層に戻る。ここがアタランテが現在滞在している階層という事になる。

 ここは全十階層の構成を持つ地下施設、ということになっている。

 

「お客様が移動できるのはここと下の第十階層の一部。それと先ほどの第六階層でございます」

 

 と、説明するのはデクリメントというメイドだった。

 一般メイドは全部で四十一人居る。それぞれ自分の仕事の為に駆け回っているので全員が揃わないことには顔の違いを見つけたり、名前を覚えるのは難しいと判断した。

 第十階層にはまだ降りられないが、ここは元々は外敵から身を守る為の施設で、気軽に案内できないところだと教わった。

 アタランテの為に解放されたのが先ほどの三つの階層のみ。

 第六階層に行くには第八、第七と昇らなければならない。けれども今は立ち入りが禁止されてる。

 ではどうやって移動するのか。

 答えは『転移』だ。

 だが、どうやって転移するのか、と次の疑問が生まれる。

 転移方法は秘匿されていて教えられない、とメイドは答えた。

 

「……勝手に逃げられては困る、こともあるか……」

「ご不便を()いて申し訳ありません」

「構わない。主との対話で解決を図るとしよう」

 

 今は身体の調子を元に戻す事に専念する以外にする事がない。

 衣食住に不満は無い。むしろ、その気になれば延々と地下施設で暮らせるのではないかと思うほど快適だ。

 だが、水と食料は無限ではあるまい、と思う。それらはどうやって手に入れるのか。

 

「第六階層で育てたり、外部で育てる事もありますよ」

「水は?」

「それは……、上の階層や近くの森などの水源から引いている、と聞いております」

 

 充分な兵站(へいたん)が整っている施設ほど攻め滅ぼすのは困難だ。

 つまりここは天然の要塞でもある、ということになる。

 要塞にしては自然豊かな雰囲気が気になるが。

 とにかく、不思議なところだ、という感想がよく湧いて出る。

 

「……これが夢ならば納得するところだが……。本当に不思議なところだ」

 

 出される食事も実に美味い。

 大抵の料理が出てくるそうだが、それでもやはり食材調達は少し気になる。(ぜい)の限りを尽くした施設とはいえ礼を尽くさねば気がすまない。

 そう思い、食堂とやらに案内してもらいアタランテは驚く。

 料理を作っているのがどう見ても化け物だからだ。

 それは人間が呪いで醜い(きのこ)にされたような存在。

 

「……な、汝が料理を作る職人……なのか?」

 

 人間的な形を持ち、白い身体というか茸に似た形の頭部は赤い玉のような大きな雫がたくさん張り付いていた。

 それが服を着て自我を持って器用に動いている。

 表情というものは無く、どこを向いているのかは分からない。

 それ以外は人間的な姿だった。しかし、おそらく服の中身も茸だと思われる。

 

「こちらは……副料理長の……ピッキーでしたか?」

 

 と、曖昧な紹介をするメイドのフォス。

 普段から名前で呼ばないために本当の名前が分からないようだ。

 役職で呼ぶのが基本ならば意外と知らない事もあるのかもしれない。

 

「それは茸の種族名ですよ。私の事は副料理長とお呼びくださいませ」

 

 本当に種族名で呼ぶなら『ハイドネリウム・ピッキー』が正式名のようだが、確かに個人名かと言われると疑問だ。

 モンスターとしての種族名だと『茸人(マイコニド)』である。

 一応、()となっている副調理長は多くのメイド達の料理のほか、第九階層の大抵の施設の管理を任されており、酒を(たしな)むバーカウンターのマスターも務める。

 

「改めて、料理番をさせていただいている副料理長です」

 

 胸に手を当てて丁寧にお辞儀をする茸人間。

 アタランテも挨拶を返す。

 

         ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 多くのメイドに対して一人だけでは大変な労力では、と疑問に思ったのだが助手に男性使用人を動員していると答えてきた。

 メイド達はベッドメイキングや掃除は出来るが料理は苦手だとか。

 なんでも料理に関する職業(クラス)レベルを持っていないので、どうしても作る事が出来ない。

 ならば練習すればいいのでは、と聞き返すと、やりましたが消し炭しか出来ません、と。

 

「我々は()()()だから専門の特殊技術(スキル)を持っていないと特定の作業が出来ない、という理屈がある()()()のです」

「……はあ。では、掃除は何故、出来る?」

「恐らく……、女中(メイド)職業(クラス)を持っているからでは、と思われます」

「ふく……料理長も料理に関係するスキル……とやらを持っているから、なのか?」

「おそらくは……。料理人(コック)職業(クラス)レベルを与えられているので皆様に料理が提供できるのだと思いますよ」

 

 では、メイド達に料理のスキルを与えればいいのでは、と思う。

 普通ならそう思う。しかし、それが出来ない理由があるから、今も彼女達は料理を作る事が出来ない、のではないか。

 いくら女中(メイド)とて多少の料理は出来る筈だと思うのだが。

 

「……そういえば『ひぞうぶつ』と言ったか?」

「はい」

 

 アタランテの脳裏にはすぐに『ホムンクルス』という言葉が浮かぶ。

 仮にそうだとしても感情豊かな部分が気になる。

 本来は魔術師のエネルギータンクや尖兵として使い潰される存在で、様々な知識を与えても(えき)になるとは思えない。それとも案内役という使い方なのか、と。

 

「我々は『至高の御方』達によって作られた……、あいや、我々は『人造人間(ホムンクルス)』です。別の言い方だと……『NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)』だそうですよ、お客様」

「の、のんぷれい……? 前者のホムンクルスは知っている。汝らがそうだというのか? それにしては人間と遜色ない対応をするのだな」

 

 そう言うとメイドは気を悪くするどころか口に手を当てて微笑む。

 

「ふふふ、っと失礼……。至高の御方達によって生み出されなかった哀れな生き物(人間)よりは高等な存在だと自負しております。……正直に言いますと……、我々は人間のような下等生物は基本的に嫌いです」

 

 後半は無感情、棒読みで言った。

 それは敵視していると言ってもいい、というか口にしたくない、とでも言いだけのものだ。

 先ほどまで友好的だったメイド達が急に知らない生き物に変化したようで背筋に冷たいものが落ちる。

 

「ですが、至高の御方の命令とあれば……、たとえ下等な人間だろうと全力を持って歓待いたします」

 

 スカートを摘んで横に少しだけ広げ、片方の足を後ろに下げて軽く膝を曲げる。そして、上体を低くして頭を下げた。

 ごく自然に振舞われる会釈の仕草は何百、何千回と繰り返してきた動作のように見えた。

 

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