あなたへおくる物語   作:紫炎.2

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今回は前回に比べては少なめです。

それではどうぞ。


第14話:巴村

『姉さん、大丈夫なの?』

 

とある民家で少年が出かけようとする女性のことを心配していた。女性は白い着物に身を包み、手には日本刀を携えている。女性は優しい笑みを浮かべ、少年の頭を撫でた。

 

『大丈夫、姉さんは強いから・・・・・・それに私の不思議な力はこんなときこそ使うべきだから』

『でも危ないよ! たくさん魔物が来ているでしょ?』

 

彼はこれから彼女が向かう場所がどれだけ危険かを知っている。だから彼女には行ってほしくないし、このままずっと一緒にいて欲しい。

 

『そうだ! 村のみんなで逃げちゃおうよ! そうすれば姉さんも行かなくて良いし、村のみんなも怪我をしなくて済むよ!』

『それは駄目よ』

『どうして!?』

 

姉を危険な所に行かせたくない弟だが、姉の方も決意は固く一歩も譲らない。彼女は弟の頭をあやすように優しく頭を撫でる。

 

『ここが私たちの故郷だから・・・・・・それに私は一人じゃないから』

『でも・・・・・・』

『大丈夫よ。すぐに終わらせて、帰ってくるから』

『うん・・・・・・わかった。必ず帰ってきてね?』

 

頭を撫でる手を離し、姉は玄関を開ける。弟は笑顔でそれを見送る。外は空から雪が降り、地面に積もっていき、姉の白い着物がその景色に溶け込んでいく。

 

(駄目だ、姉さん! そっちに行ったらいけない!)

 

突如、一人の男性が出かける姉を引き留めようと声を上げる。だが、男の声だけは何故か彼女に聞こえない。男は一生懸命に声を上げ、手を出すが、雪景色の中を進む彼女を引き留めることができない。

 

『行ってらっしゃい、姉さん! 無事に帰ってきてね!』

『えぇ、行ってきます、縁』

(行かないで! 姉さん!)

 

笑顔で手を振りながら見送る弟と微笑みながら雪の中を進む姉、その姉を引き留めようと声を上げる男。

 

「姉さん!!」

 

手を前に突き出しながら勢いよく起き上がる。息を荒げながら、彼は周囲を見渡した。

 

「ハァハァ・・・・・・夢か・・・・・・」

 

息を整えながら周りを見て、彼は先程までのことは夢だったことを理解した。嫌な物を見たと頭を抱える。

 

「何でまたこの夢を・・・・・・」

 

先程見た夢を払うように頭を横に振りながら、起き上がって洗面台の方に進む。蛇口を捻り、水で顔を洗い、鏡を見る。

 

「姉さん・・・・・・もう少しだ・・・・・・もう少しでアイツらに復讐を果たせるよ」

 

鏡に映る自分の顔を見ながら、彼はその先を見つめる。その先に移る“誰か”に話しかけるように。

 

「復讐を果たせば・・・・・・姉さんも笑ってくれるよね・・・・・・」

 

彼はそこにいる“誰か”に懇願するかのように、歪んだ笑顔を浮かべた。そんな歪な男を見て、その“誰か”は悲しそうに彼を見つめていた・・・・・・。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「・・・・・・」

 

暗い闇が辺りを覆っているのにも関わらず、先が見通せるぐらいには視界が開けている森の中、剣心は一人佇んでいた。辺りには他に誰もおらず、風が木々の間を吹き抜けている。

 

「・・・・・・」

 

そこに二人の少年が現れる。一人は茶髪の少年、吉井明久でもう一人は黒髪の少年、明神弥彦である。二人は村の中で見かけない剣心を捜して、ここまで来たのである。

 

(あれって何をしているんだろう?)

(確か・・・・・・感覚を研ぎ澄ましているんだってよ)

(そうなの?)

(おう。前に聞いた時はそう言っていたぜ)

 

何をやっているのか二人で話し合っていると、剣心は二人を余所に深呼吸を始める。何かするのかと、二人は剣心を見守る。

 

「・・・・・・はぁ!」

「「うわぁ!?」」

 

深呼吸の後、剣心は一声叫ぶ。すると、ヒラヒラと落ちてきた葉っぱが剣心の一喝と共にパァンとはじけ飛んだ。二人は驚いて、一歩下がる。その時の音で剣心は二人に気付く。

 

「二人とも、こんなところでどうした?」

「剣心さんが見当たらなかったので、探しに来たんです」

「そしたら村の外、しかも森の方に行ったって聞いたからよ。連れ戻そうと思ってきたんだよ」

「そうであったか・・・・・・心配かけて悪かった」

 

先程の鋭い雰囲気は霧散し、いつも通りの穏やかな剣心がそこにいた。近寄りがたい雰囲気もなくなったので、二人は遠慮なく剣心に近づく。

 

「剣心さんって、本当に凄いですね。こう・・・・・・声を上げたら、葉っぱがパァンって」

「これでも剣の鍛錬をしているでござるからな」

「本気の剣心はもっと凄いぜ?」

「本気の剣心さん・・・・・・どんな感じなんだろう」

「自慢するほどではござらぬが、少なくても村周辺や龍山坑道、そして行く予定である塔に出る魔物には負けることはないでござるよ」

 

さぁ、村に戻ろうかと剣心さんは明久達の前に立つ。その背中は頼もしく、明久と弥彦は剣心に着いていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

時は少々遡り、朝の剣心宅での居間。剣心復活から一段落して、全員朝食を取っていた。

 

「緋村さん、体に違和感や痛みとかはありませんか?」

「何もないでござるよ。昨日まであった怪我の痛みも、嘘のように快調だ」

「ならよかった・・・・・・緑の宝玉を使用した治療法は久しぶりだったから」

「本当、傷口も綺麗さっぱり消えていたもんね」

 

間近でそれを見た明久は未だにそれが信じられずにいる。素人目に見ても、針で縫わないといけない程の怪我だったが、それ跡形もなく消えていると驚くしかない。

 

「本当、回復魔法みたいだよ」

「あぁ。それさえあれば、他の大怪我でも何とかなるんじゃないのか?」

「残念だが、それは無理だ」

「えっ、どうして?」

 

当麻の考えを否定する医者に疑問を呈するさやか。確かにこれさえあれば、大怪我しても大丈夫だと思うのだが。

 

「いくつか理由があるけど、一番の理由は怪我の具合によって使用する量が変わることだね」

「量が?」

「あぁ」

 

医者は残っていた粉末状になった緑の宝玉を取り出す。粉末は宝玉の時のまま、今もなお輝きを失っていない。

 

「昨日も言ったと思うけど、これは山に自生している薬草の成分が地中を通ってカラーストーンに染み出したものなんだ」

「そういえば、そういうこと言っていたな」

「ただ、山にある薬草の成分が一ヶ所に集中したせいか、効能が強すぎるんだ。だから、量の調節をしないと逆に服用者を苦しめることになる」

「はぁ~、そうなんだ」

「下手をすれば、死に至らしめることになるからね」

 

だから勝手に使っちゃいけないよと医者は粉末が入ったビンを自分のバッグの中に入れる。

 

「あえてもう一つ理由を挙げるなら、グリーンストーンは今見つかっている鉱脈だけしかないってところかな?」

「成る程な。一ヶ所しか鉱脈がなく、しかも怪我の具合によって量の調節を見極めないといけないから、使いこなせる人間が限られてしまう・・・・・・と」

「カエル先生ならいけるんじゃない?」

「確かにいけそうな気がするね」

 

学園都市にいるカエル顔の医者を思い出しながらさやかは言う。その医者はいつも無茶やって怪我をする当麻や明久の治療をしており、その実力はどんな怪我でもほとんど後遺症を残さず、治療するほどである。

 

「お前達は話を聞いていたのか? そもそも採れる量も少なく、安定的に採れないじゃ意味ないだろう」

「あっ、そうか」

「つーか、今は剣心のことだろ。本当に怪我は大丈夫なんだよな?」

「先程診た限り、傷口は完全に塞がっているから今日から激しい運動をしても大丈夫だね」

「そっか・・・・・・本当によかったな、剣心」

「うむ・・・・・・皆、本当にありがとう。そなた達は命の恩人でござるよ」

「そんな・・・・・・命の恩人だなんて」

 

剣心のお礼にさやかは照れくさそうに返事をする。それに対して、当麻は逆に姿勢を正して剣心に謝る。

 

「俺はむしろ、謝る方です。俺が余計なことをしなければ、昨日のように大事にもならなかったのに・・・・・・」

「いや、そんなことはござらぬ。正直、開いては閉じ、また開いては閉じと傷口が痛むのは本当に辛かった。それをどうにかしてくれたのは、本当にありがたかった」

「でも・・・・・・!」

「それにお主は拙者が倒れた後も治そうと頑張ってくれたではないか。それだけでもありがたく思うでござるよ」

 

剣心は当麻の謝罪に対して心を込めた感謝を送るが、当麻は事態を急変させた責任を感じてか、素直に良しとしようとしない。その様子を見かねたさやかと明久が当麻に話しかける。

 

「当麻、お礼は素直に受け取ろう。当の本人である剣心さんがそう言っているんだから」

「そうだよ。それに剣心さん自身が気にしてないって言っているのに、当麻がいつまでもそれを引きずったら、逆に剣心さんの方が申し訳なくなってくるよ」

「あ~・・・・・・そうだな。剣心さん」

「何でござるか?」

「あんなこと言っておいて何ですけど・・・・・・どうも、いたしまして」

 

最後の方は小声になりつつも、当麻はしっかりと返事をする。それを受けて、剣心も笑顔で頷いた。

 

「よし、話が一段落したところで・・・・・・次の問題に入るか」

「次の問題?」

「何だよ、剣心が治って良かったじゃないか」

「あぁ、それはもっともだ。だが、そもそも何で剣心さんを治す必要があった?」

「それは・・・・・・何だっけ?」

 

剣心さんを助けたいという一心のみで動いていたため、その先のことを思い出せないでいる雄二と剣心以外の全員。雄二はため息を吐き、呆れながらも話す。

 

「元々は剣心さんがこの事態の元凶の魔物を倒そうとして、大怪我したんだろ。怪我が治った今、やることは一つだ」

「あっ・・・・・・そういえば、そうだった」

「すっかり忘れていたよ」

 

雄二に言われて思いだした明久とさやかはアハハと笑い誤魔化す。当麻と弥彦も忘れていたため、苦笑いを浮かべながら視線を反らした。

 

「うむ。怪我が治った以上、あとは体の調子を取り戻し次第、魔物討伐に向かうでござるよ」

「医者としては無理をするようなことは辞めてもらいたいのですが・・・・・・頼みの綱が剣心さんしかいない以上、しょうがないですね」

「本調子になった剣心なら絶対勝てるからな! それに、今度は俺も行くぜ!」

「いや、弥彦は留守番でござるよ」

「何でだよ!?」

 

ついていく気満々だった弥彦だったが、剣心に駄目だと言われる。弥彦は不服そうに剣心に突っかかる。

 

「剣心一人じゃ危ないだろ!? だったら、一緒に行って手伝った方が・・・・・・!」

「今回の敵は生半可なものじゃないでござるからな。現に拙者も一度は遅れをとった」

「でもよ・・・・・・!」

「私も賛成だよ、弥彦君。いくら君が他の人と違って、魔物と戦えるからといっても進んで闘いに向かうことには賛成できない」

「えっ? 弥彦君って魔物と戦えるの?」

「拙者達は流浪人でござるからな。魔物が現れる場所も通ることもあって、護身用に弥彦に剣術を教えているのでござるよ」

 

意外な事実に明久達は驚く。自分たちよりも年下の少年が、村の外にいる魔物と闘う術を持っているのだ、これが驚かずにいられるだろうか。

 

「弥彦君って、すごいんだね」

「おう! そんじょそこらの奴には負けないぜ!」

「ならば、なおのことでござるよ。拙者がいない間、村の警戒を頼みたいのだ」

「村の?」

「うむ。拙者が倒れている間も、時折魔物が村に入り込んできたのでござろう?」

「そうなの?」

「あぁ。そのたびに弥彦君が魔物を退治していたんだよ」

 

怪我人も出たんだけどねと医者は言い締める。その言葉を聞いて、当麻とさやかは診療所の空っぽの棚を思い出した。あれは度々襲撃された際の怪我を治していたためかと二人は思い至る。

 

「お医者殿、薬の量は?」

「草壁雄一です、緋村さん。薬はもう風邪薬くらいしか残っていません」

「となると・・・・・・やはり、急がなければなるまい」

 

これ以上の負傷者を出すわけにはいかない、口にせずとも漂う雰囲気で全員察する。少しの間何とも言えない微妙な空気が流れるが、剣心は決意を固めるかのように口を開く。

 

「3日後・・・・・・3日後に奴を討伐しに行く。それまでには体を本調子に戻す」

「3日後ですか・・・・・・それなら剣心さんの体調も戻ると思います」

「それまでに僕たちも何かできることをしよう」

「そうだな・・・・・・よし、3日後に向けてやれることをしていこう」

 

パンッと手を鳴らし、話を締める雄二。その後、全員で3日後に向けて、どうしていくかを話し合った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「そうして僕と弥彦君は剣心さんの面倒を見ることになったんですけど・・・・・・」

「別に世話になるようなことはないのだが・・・・・・」

「剣心が勝手に行かないように監視するのが目的だからな、これ」

「いや、さすがに拙者も今の状態で行こうとは思わぬよ」

 

村への帰り道の途中、三人は周囲を警戒しながらもゆっくりと歩く。村の外なので魔物が彷徨いているのだが、剣心を見た途端魔物達は彼らを避けていく。

 

「魔物が避けていきますね・・・・・・やっぱり剣心さんを恐れているんですかね?」

「魔物も動物に似た習性があるのか、自身よりも格上には襲いかかろうとはしないでござるよ」

「不思議だよな。明らかに普通の動物とは違うのによ」

「本当だよね・・・・・・強い奴は喋るし」

 

明久は坑道で出会ったワータイガーを思い出す。奴は普通に喋っていたし、獲物を効率的に待ち伏せる知性を持ち合わせていた。

 

「何か・・・・・・まるで人間のようだったよ」

「魔物が? そんなことあるのかよ?」

「少なくてもこの度の騒動の主犯は計画性を持っていた。だから、強い魔物は知性が高いというのも頷けるでござるよ」

 

剣心は元凶の魔物を思い出してか、明久の意見に頷く。弥彦は実際にそういう魔物を見たわけではないため、いまいちピンと来なかった。そんなことを話している内に、村に辿り着く。

 

「相変わらず辛気くさいよな」

「でも、変化は出てきているよ」

「うむ・・・・・・心なしか元気になっているものもいる」

 

そう言って剣心は一軒の家を指さす。そこは明久達がやってきた時、壊されていた家だが今は誰も壊していない。

 

「剣心さん復活を聞いて、希望を見出したんですよね」

「あぁ。きっと剣心なら何とかしてくれるってな」

「うむ・・・・・・責任重大でござるな」

 

あの家を壊していた男性は剣心が復活し、近いうちに魔物を退治するという話を聞いて家を壊すのをやめた。そのあと彼は倒れ、眠り続けている。

 

「まさか不眠不休で壊していたなんて・・・・・・・」

「家を壊さぬと、その間に他の建物を壊さなければならないことになっているからな」

「このような行い、早く止めねばならん。3日後には必ずどうにかしなければ・・・・・・」

 

改めて、元凶となった魔物の所行に怒りを感じ、3人は家に帰る。ちなみに、明久達はその後も剣心の家でお世話になっている。家に帰り、居間でくつろぎ始める。

 

「・・・・・・あっ」

「どうした、明久?」

「いや、ふと思い出してね・・・・・・」

 

そう言って明久は自分のバッグの中を漁り始める。少しすると、彼はノートと筆記用具を取り出した。

 

「勉強でござるか? であれば、机を出すが・・・・・・」

「お願いします。いや~宿題のことを忘れていまして・・・・・・」

「宿題? こんな時に暢気な奴だな?」

「ここに来て色々あったけど、これを忘れたら、どんな目に遭うか・・・・・・」

 

明久は何回か忘れた時のことを思い出し、身を震わす。彼としてはあまり思い出したくない内容らしい。剣心が机を戸棚から取り出し、明久の手前に置く。明久はノートと筆記用具を机の上に置いた。

 

「あの、剣心さん。この村に伝わる伝説って知っていますか?」

「伝説?」

「はい。何でも村が魔物に襲われた時に、一人の女性がそれをなんとかしたとか・・・・・・」

「ふむ・・・・・・拙者はそれらしいことは聞いておらぬでござるの」

「それ、俺は聞いたことがあるぞ」

「本当?」

「おう!」

 

この場で自分一人だけが知っていることに、ちょっとした優越感に浸りながら弥彦は胸を張る。

 

「確か・・・・・・村にいた一人の女性を称えた話だな」

「村に? じゃあ、その人はこの村出身だったのかな?」

「ふむ・・・・・・弥彦、よければ話してもらってもいいか?」

「おう、いいぜ。確か・・・・・・」

 

話の内容を思い出しながら、弥彦は話し始める。明久はノートを取りながら、剣心は興味深そうに聞く。

 

 

 

―――これは平和な村に突如、襲いかかった悲劇である。

 

 

 

 




語られる巴村の伝説とは?

そして他のみんなはどうしているのか。

次回も、お楽しみに。
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