あなたへおくる物語   作:紫炎.2

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様々な試行錯誤の果て、書き上げました。その文字数、これまでの中で最長の約1万2千字。

・・・・・・疲れました。

とうとう第一章は佳境に入ります。

それではどうぞ。



第18話:暗闇を解き放て

巴村を出て、少し歩いた先に広がる森を抜けたところに塔が建っている。住人も知らない間に建っていたその塔は、今も不気味な雰囲気を醸し出しながら聳え立っている。その塔の入り口には、巨漢の門番がいる。

 

「ほぉ~・・・・・・何者かと思ったら、我らがボスに返り討ちにされた人間ではないか」

 

不気味に光る両目でやってきた人間を睨む門番。よく見るとその門番は人間ではなく、石で出来た魔物だった。体全体が石で出来ており、その全長も2メートルを軽く超している。ギシギシと音を立てて、やってきた人間に近寄ると、その人間をいかにも見下すかのように顔を近寄らせる。

 

「今更何の用だ。まさか、また懲りずにボスに挑みに来たんじゃないだろうな?」

「いいや、挑みに来たんじゃない」

 

そんな巨漢の魔物に相対するのは、魔物に対してあまりにも体格差がある一人の男。和服姿に日本刀を携えた緋村剣心である。彼はこちらを見下してくる魔物に対して、真っ向から睨み付けている。

 

「貴様らのボスを倒しに来た。道を開けろ、死にたくなければな」

「貴様が? 我らのボスを?」

 

剣心は刀に手を掛けながら、魔物に対して忠告する。それに対して魔物はさらに見下しながら、剣心を見据える。

 

「ハッ! バカめ、貴様のような弱そうな人間の言うことなど聞くと思うか!」

「・・・・・・忠告はしたぞ」

「貴様こそ、覚悟しろ! この俺の頑強な体で押しつぶして・・・・・・!」

 

岩の魔物は自信満々に自身の体を誇示しながら、そのまま押しつぶそうとしたが、その瞬間、剣心が刀を抜刀する。目にもとまらぬ速さで、剣心は魔物の巨体を一刀両断した。

 

「・・・・・・はっ? えっ? なに・・・・・・が・・・・・・」

「悪いが、お前のような雑魚を相手にしている暇はない」

 

岩の魔物は何が起こったのかも分からないまま倒れる。剣心は完全に息の根を止めたことを確認すると、塔に踏み入れる。踏み入れた瞬間、周囲から魔物の気配が溢れ出すが、剣心はそれを意にも介さず、そのまま歩き出した。

 

「待っていろ・・・・・・今度は負けん」

 

力強く剣心は言い放つと、そのまま塔の中を進み出した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「とうとう着いたね」

「あぁ、おそらくここだろう」

「ここに剣心さんが・・・・・・」

「そしてあの村を襲った元凶の魔物がいる場所」

 

明久達が村を出発して数分、村の北側に広がる森を抜けて、元凶の魔物がいると言われている塔に辿り着く。塔は全体的に黄金色をしており、不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「ここまで来るのにちょっと時間が掛かっちゃったけど、何とか来られたね」

「道中に出てくる魔物とも結局戦うハメになっちゃったけどね」

「スライムとかは大丈夫だったが、あの唇が異様にでかいナメクジっぽいのは嫌だったな」

「あれって、何故か執拗に唇を押しつけてくるからな・・・・・・」

 

ここまで来る間に出てきた魔物達を思い出し、四人はげっそりと肩を落とす。村を出てからは村の人達の言うとおり、北の方に進んでいく。その途中、当然のごとく魔物が行く手を阻んできて、四人は出会う魔物を時には逃げ、時には倒していった。

 

「何だったっけ、あの魔物」

「えーと・・・・・・確か、リップスだよ。あの唇お化けは」

「その名の通りだな」

「出来れば、二度と会いたくねぇ」

 

しかし、魔物との戦闘に慣れていないせいか、思っていた以上に消耗が大きい。なかでも、彼らが話している唇お化けことリップスには特に苦戦させられた。理由は先程から彼らが話しているとおりである。

 

「虎男のような奴もいれば、あんな奴もいるんだね」

「帰り道にもアイツらがいることを考えると・・・・・・」

「だ、大丈夫だって。元凶の魔物がいなくなれば、他の魔物も消えるって・・・・・・」

 

明久と当麻、さやかはもう二度と会いたくないとばかりにげっそりと肩を落とした。少しして、これ以上気にしていても仕方がないと雄二は手を鳴らす。

 

「よし、そろそろ気を切り替えるぞ」

「うん、そうだね」

 

雄二の一言で三人は気分を切り替えて、目の前の塔を見据える。塔は先程と変わらず、不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「森を抜けてすぐの場所にあったね」

「いかにもここにボスがいますって雰囲気を出しているよ」

「剣心さんもここにいるよな・・・・・・?」

「あぁ、いるだろうな」

 

そう言って雄二は塔の入り口の側を指さす。そこには真っ二つにされた人間型の岩が転がっていた。大きかったであろう巨体は、今は力なく横たわっている。

 

「これをやったのは、恐らく剣心さんだろうな」

「すごい・・・・・・岩を真っ二つに」

「しかも縦に・・・・・・だ」

「これ見ると剣心さんって、本当に強い人なんだね」

 

真っ二つにされた岩の巨体を見て、剣心の凄さを初めて実感した四人。だが、そんな剣心でも一度負けたのがここにいるであろう魔物のボスである。

 

「とにかく、何かしらの助けになりたいよね」

「あぁ、そうだな」

 

決意を新たに、四人は塔の入り口の前に立つ。各々気を引き締め直し、塔の中に入っていく。

 

「よし・・・・・・行こう、みんな! 剣心さんを助けに!」

「「あぁ!」」

「うん!」

 

声を高らかに四人は塔の中に入っていった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「案外スムーズにすすめるね、ここ」

「道中の魔物は剣心さんが倒していったんだろうな」

 

塔の中は壁は外と同じく黄金色で、床はダークブルーで覆われており、無機質な雰囲気を醸し出している。だが、どういうわけか通路の奥の方まで見通せるぐらいに明るい。

 

「にしてもよ、魔物の死体がないっているのも驚きだよな」

「本当だよね・・・・・・お父さんの研究でも原因は分からないってあったし」

「そのわりには入り口で転がっていた岩の魔物っぽい奴は残っていたけどな」

 

塔の中を進むこと数分、四人はほとんど魔物に出くわすことなく進んで行っていた。魔物に出くわすだろうと思っていたため、こうもスムーズに進むとは思っていなかった。

 

「なんでかな? 何か理由があるのかな?」

「魔物のことは上条さんにはサッパリですわ」

「私も・・・・・・お父さんの研究をちらほら見せてもらった程度だし」

「俺はさやかの父親の方が気になってきたわ・・・・・・まぁ、推測混じりの仮説ならあるが・・・・・・」

「あるの?」

「あぁ」

 

雄二の言葉に三人が食いつき、雄二は歩きながら話を進める。

 

「恐らくだが・・・・・・知性を持つ魔物だけは人間同様、死体となってこの世にのこるんじゃないのか?」

「そうなの?」

「でも・・・・・・あまり知性が見受けられない野生の動物とかはどうなの?」

「他の動物たちはああ見えて、しっかりと学習する知性はあるからな?」

「う~ん・・・・・・それでもやっぱり疑問は残るな・・・・・・」

「まぁ、素人意見だからな。詳しく知りたいとなると、さやかの父親の方が詳しいんじゃないか?」

 

雄二の意見に若干納得いかない様子の三人だが、別にそこまで深く気になったわけじゃなかったため、そこまで深く考えないことにした。そんな感じで歩いていると、ひらけた場所に辿り着く。

 

「何か、広い場所に出たね」

「あぁ、道なりに真っ直ぐ進んだはずだから、そろそろ剣心さんと合流できても良いはずなんだが・・・・・・」

「でも、影も形もないな」

「あぁ・・・・・・どういうわけだ?」

 

そろそろ合流できると思っていた雄二だが、いつまで経っても合流できないことに焦りを感じ始める。明久、当麻、さやかも会える気配がない剣心に不安を覚え始める。その時、奥の方から声がした。

 

「哀れな人間共め! わざわざ殺されに来たのか!」

「誰だ!?」

 

こちらを蔑む声が響き、四人は声がした方を向く。その声の主はゆっくりとこちらの方に歩いてきた。

 

「こんなところまでわざわざやってくるとはな・・・・・・ご苦労なことだ」

「てめぇ、何者だ?」

「俺様が何者か知らないでここまできたのか? 本当に人間は救いがたいな」

 

近づいてきた声の主は人間ではなく、四本足のカニのような姿をしていた。だが、通常のカニとは違い、その大きさは人の腰辺りまで大きい。鈍い銀色のように光る体に、左手の巨大なハサミはそれだけで威圧感を与えている。そして、明久達を見る目はどこまでも人間を見下しきっている目だ。

 

「とりあえずここまで来たことだけは褒めてやろう。脆弱な人間の割にはな」

「お前がここのボスか?」

「いいや、俺はボスにここの留守を任されている者だ」

「留守を? じゃあ、ボスはどこにいるんだ!」

「それを人間ごときに教えると思っているのか? ましてや、お前らみたいな雑魚相手に?」

「てめぇ・・・・・・」

 

先程からこちらを雑魚扱いする魔物にさすがに腹を立てる四人だが、ボスとやらが留守を任せた相手だけあって慎重にならざるを得なかった。前に立ち、対峙する明久と当麻、雄二を後ろでさやかは剣心がいないかどうか、周囲を見渡す。

 

「・・・・・・ねぇ、剣心さんが見当たらないよ?」

「見当たらないって、そんななこと・・・・・・」

「道なりに真っ直ぐ来たんだぞ? まさか・・・・・・」

「何をゴチャゴチャ言ってやがる! どのみち、お前らは今ここで死ぬんだよ! このチョッキンガー様の手によってな!」

 

先に行ったはずの剣心が見当たらず、嫌な想像が頭をよぎる明久達を余所にカニの魔物ことチョッキンガーは明久達に襲いかかってきた。四人はとにかくチョッキンガーをどうにかすることを優先する。

 

「いない人のことを気にしてもしょうがねぇ! 構えろ!」

「くそ! やれるか・・・・・・!?」

「死ねやぁ!」

 

チョッキンガーは大きなハサミを前に突き出したまま、一番前にいた当麻に目がけて突っ込んでくる。当麻はそれを避けて、さやかの方に下がる。

 

「ちっ、外したか」

「余所見してんじゃ・・・・・・」

「ねぇ!」

 

止まったところを明久と雄二は各々蹴りとパンチで攻撃する。チョッキンガーは二人に気付いたが、身動きもせずにそのまま攻撃を受ける。

 

「っいた!?」

「か、かてぇ!?」

「バカが、たかだか人間ごときの攻撃で俺がやられると思っているのか?」

 

だが、明久と雄二の攻撃は通らず、むしろ攻撃した二人の方がダメージを負った。その有様を見て、チョッキンガーは二人を馬鹿にするかのように見下す。

 

「攻撃した二人の方が!?」

「カニだから硬いってことかよ!」

「バカな人間め、これでも喰らえ!」

 

痛みに耐える明久にチョッキンガーはハサミで横薙ぎに振り払う。明久はあまりの痛みに足を押さえていたため、もろにそれを喰らってしまう。

 

「ぐっ!?」

「そら、貴様にはこれだ!」

「明久!? くそっ!」

 

横に吹っ飛ぶ明久を尻目に、チョッキンガーは雄二の方に突進する。雄二は吹っ飛んだ明久を心配したため、避けるのは間に合わず防御する。それでも、チョッキンガーの四本の足から繰り出される突進は力強く、咄嗟の防御では踏みとどまれずに吹っ飛んでしまう。

 

「がぁっ!?」

「ハッハッハッ! 所詮は脆弱な人間だな! 脆い脆い」

「明久! 雄二!」

「てめぇ、よくも二人を!」

「さ~て、次はお前達だ!」

 

吹き飛ばされた二人をバカにし、チョッキンガーは当麻とさやかの方に向く。当麻は二人を吹き飛ばしたチョッキンガーを許せず、果敢に挑んでいく。さやかは持ち歩いていた鞄を持って、明久の方に向かう。

 

 

「おらぁ!」

「無駄だってわからねぇのか、人間が!」

 

当麻はチョッキンガーに殴りかかるが、チョッキンガーは自身の堅さを武器に攻撃を受け止めようとする。だが、当麻は拳を一旦止めて、殴りかかった勢いのままハサミにしがみつく。

 

「うおぉ!? 貴様、一体何を!?」

「このテメェの体格には大すぎるハサミはてめぇの武器と同時に弱点だ! コイツを押さえれば・・・・・・!」

「ぬわぁ!? き、貴様!」

 

当麻はチョッキンガーの背丈よりも高いハサミを掴み取り、体全体を使ってチョッキンガーを揺さぶる。思わぬ反撃にチョッキンガーはそのまま当麻に振り回される。その隙にさやかは吹き飛ばされた明久の元に着く。

 

「明久、大丈夫!? 怪我は!?」

「だ、大丈夫・・・・・・これぐらいなら平気」

「ならいいけど・・・・・・そうだ、これ」

「これは?」

 

さやかは何か思い出し、鞄からひとつの小瓶を取り出す。小瓶には緑色の錠剤があり、それを一粒取り出した。

 

「これ、昨日のうちに草壁さんからもらった薬草の錠剤。飲めばある程度の痛みを和らげることができるんだって」

「本当? 助かるよ」

「俺にも一粒くれ」

 

明久がさやかから錠剤をもらおうとした時、同じように吹き飛ばされた雄二も二人に近寄ってきた。雄二も同様に吹き飛ばされたのだが、明久と違い腕を怪我していた。

 

「ちょっと雄二、どうしたの、その怪我!?」

「あいつが体当たりしてきた時に、どうやらとがっていた部分が腕に刺さりやがった・・・・・・」

 

雄二は腕から出血しているのか、所々両腕の袖が破けており、破けたところから服を赤く染めていた。その痛みのせいか、雄二は痛みで顔を歪ませていた。

 

「痛みには耐性があると思っていたんだけどな・・・・・・」

「傷を見せて! 今すぐ治療しないと・・・・・・!」

「いや、そんな暇はねぇ。今は先にあのカニ野郎をどうにかしねぇと・・・・・・」

 

雄二の怪我を治療しようとするさやかだったが、雄二はそれを後回しにしてチョッキンガーをどうにかすることを優先する。チョッキンガーは未だに当麻に振り回されており、身動きがとれないようだ。

 

「問題はあいつの堅さだが・・・・・・」

「ちょっと! 先に怪我の方を・・・・・・!」

「そうだよ、雄二。先に怪我の方を応急処置でもいいから、治療してもらいなよ」

「だがな・・・・・・」

「だめ! そんなに血が出ていて無事なわけないでしょう!?」

「僕も行ってくるから、雄二はここでさやかの治療を受けて。いいね?」

「わ、わかった・・・・・・なら、明久。作戦があるから聞け」

「作戦が?」

「いいか・・・・・・」

 

前に自分が明久に命を大切にしろと言った手前、強く出られず雄二はおとなしくさやかの治療を受けることにした。錠剤を飲み、いくらか体が楽になり戦いに戻ろうとする明久を一時雄二は引き留めて、明久に作戦を授ける。明久はそれを聞いて、戦いに戻る。

 

「くそっ、この人間ごときが! こんなことして何になる!?」

「少なくても、アイツらの時間稼ぎにはなる! このまま、振り回してやる!」

「当麻! そのまま、そいつのハサミを押さえ込んで!」

「明久か!? よくわからねぇが、わかった!」

「何だ、今度は何をする気だ!?」

「こうするんだよ!」

 

当麻によって振り回されるチョッキンガーの足下に走り、そのまま明久はチョッキンガーを持ち上げる。本来なら、持ち上げるはとても難しいが、今チョッキンガーは当麻によって体が半分浮いている状態であったため、持ち上げることが出来たのだ。

 

「うおぉ!? 貴様ら、何をする気だ!?」

「そのまま、ハサミで一本背負い!」

「おっしゃー!」

 

持ち上がった状態で当麻はハサミを持ったまま、チョッキンガーを振り落とす。明久も当麻が振り下ろす方向にチョッキンガーを投げ、勢いよくチョッキンガーを振り落とした。

 

「ぐわぁ!?」

「どうだ!?」

「当麻! 一度下がろう!」

「あぁ、わかった!」

 

当麻と明久はチョッキンガーから一旦距離を取る。先程まで当麻はずっとチョッキンガーを相手に振り回し続けていたため、その時の体力の消耗を気にしてである。現に明久と同じように下がった当麻は息が上がっていた。

 

「大丈夫、当麻? まだいける?」

「あぁ・・・・・・大丈夫だ。まだ、いけるぜ」

 

汗もかき、息も上がっているがやる気十分の当麻。明久も作戦がうまくいき、これならいけるとやる気があがる。その作戦を考えた雄二はさやかに腕を治療してもらいながら、作戦がうまくいったことに手応えを感じていた。

 

「よし・・・・・・これならいける」

「一本背負いって・・・・・・よく思いついたね?」

「今の俺たちにあいつの硬さを貫く術はない。なら、硬さを貫くんじゃなく、別の方法でやるしかない」

「それが今の一本背負い・・・・・・」

「正確には落下や衝突の衝撃だがな」

 

防御を貫けないのなら別の方法で奴にダメージを与えるという雄二の作戦は見事に嵌まり、チョッキンガーは大ダメージを負った。その証か、奴の立ち上がる速度が遅い。

 

「おのれ人間ごときが・・・・・・この俺様に傷を負わせやがって・・・・・・!」

「当麻!」

「おう! もう一度だ、明久!」

 

立ち上がり、こちらを睨み付けるチョッキンガーを見据え、当麻と明久はもう一度同じようチョッキンガーに立ち向かっていく。雄二もさやかの応急処置を終え、再び立ち上がる。

 

「もう一度喰らわせてやる!」

「図に乗るな、人間が! ホイミ!」

 

突如チョッキンガーが何かを叫ぶと、弱い緑色の光がチョッキンガーの体を包み込む。そして、さっきまでヨロヨロだったチョッキンガーがしっかりと立ち上がってしまう。

 

「もう手加減しねぇぞ! 全員ぶっ殺してやる!」

「今のって、まさか!?」

「回復魔法だよ! だって、あの光は・・・・・・!」

「ゴチャゴチャうるせぇ! まずはてめぇからだ、ツンツン野郎!」

 

急に魔法を使ったチョッキンガーに慌ててしまい、動きを止めてしまう明久と当麻にチョッキンガーは当麻に対して右手をかざす。

 

「灰になれ! メラ!」

「なっ!?」

 

またもチョッキンガーが叫ぶと、奴の右手から火の玉が勢いよく飛び出してきた。当麻は驚いて、咄嗟に右手を突き出してそれを打ち消す。

 

「なっ!?」

「あ、あぶねぇ・・・・・・幻想殺しで消せてよかったぜ・・・・・・」

「あいつ、魔法も使えるのか」

「ず、ずるいよ! あの硬さに魔法って・・・・・・!」

「不味いな・・・・・・」

 

当麻は幻想殺しのおかげで何とか無事だったが、まさか魔法まで、しかも回復魔法まで使えるとは思っていなかった雄二は顔を曇らせる。このままでは消耗戦になり、回復手段で劣るこちらが不利になる。

 

「どうする・・・・・・?」

「何でカニのくせに火の魔法なんて使えるんだよ!? おかしいだろう!?」

「そんなこと、こっちが知ったこっちゃねぇんだよ!? それよりも何だ、その右手は!?」

「一々教えると思うか?」

「くそが! 人間のくせに生意気な・・・・・・!」

 

急な事態に両方共パニックになり、何故か言い争いになる。明久達は魔法が使えることに、チョッキンガーは当麻が魔法を何の予備動作もなく打ち消したことに。

 

「まぁいい・・・・・・魔法が効かないならじっくりといたぶって殺してやる」

「くそ、あいつも警戒してくるだろうから容易にはいかないだろうな・・・・・・」

「せめて、こっちも魔法が使えたら・・・・・・」

 

いくら考えても答えは分からないと思ったチョッキンガーは一旦、考え事を棚上げし、通常攻撃に移ろうとしている。当麻達もそれを迎え撃とうと身構える。

 

「今度はさっきのようにはいかねぇぞ! 人間が!」

「来るぞ! 構えろ!」

「あー、もう! 出ろ、魔法! メラ!」

 

突進してくるチョッキンガーに身構える当麻と雄二だが、明久はどうしても納得がいかず、ヤケクソ気味に魔法の名前を叫ぶ。すると、叫ぶと同時に突きだした両手から火の玉が飛び出した。

 

「へっ?」

「はっ?」

「えっ?」

「なっ・・・・・・!」

「・・・・・・ふぁ!?」

 

突然出てきた火の玉に全員が驚き、そのなかでも火の玉を出した明久が一番驚いた。火の玉はそのまま突進してくるチョッキンガーに直撃する。

 

「ぎゃあぁぁぁ!? あぢぃ!?」

「・・・・・・出ちゃった」

「出たな」

「出たね」

「出ちゃったな・・・・・・」

 

直撃を受けたチョッキンガーは予想外の攻撃と熱にもだえ苦しむ中、明久達は急に出来てしまった魔法に驚いて明久の両手を見ている。

 

「どうやって出したの?」

「・・・・・・どうやって出たの?」

「いや、やった奴が聞き返すなよ!?」

 

明久自身どうやったのか分からず、聞き返してしまう。その言葉と無自覚な表情に本当にどうやったのか分からないようだ。雄二はとりあえず一旦整理するために明久と話す。

 

「まず、叫んだ時にどんなことをしようと思った?」

「えっと・・・・・・こう、手を突き出して・・・・・・火の玉、出ろって感じに」

「なるほど・・・・・・他には?」

「あと・・・・・・体中の何かを手で出した?」

「何かを」

「出した」

「・・・・・・とりあえず、もう一回あのカニ野郎にやってみろ」

 

抽象的な話ばかりで分からないため、雄二はとりあえず今言ったことを未だにもだえ苦しんでいるチョッキンガーに向けてやるように言う。明久も言われたとおりにやってみた。

 

「え~と・・・・・・こんな感じに・・・・・・メラ!」

 

先程と同じようにチョッキンガーに向けて両手を突き出すと、火の玉が飛び出しチョッキンガーに直撃する。もう一度直撃を受けたチョッキンガーはさらに苦しむ。

 

「ぐわぁぁぁ!? くそが! 人間ごときが!」

「・・・・・・出来た」

「出来たな」

「しかも苦しんでいるよ?」

「・・・・・・よし! お前ら、気合いを入れ直せ! いけるぞ!」

 

もう一度出来たことにみんなが唖然とする中、雄二は明久、当麻、さやかに発破を掛け、態勢を整え直す。その声に応え、明久達も再度身構える。

 

「何故か知らんが、明久の魔法は有効だ! それを軸にしてあいつを倒すぞ!」

「分かった!」

「明久、もう一発だ!」

「うん! え~と・・・・・・メラ!」

 

当麻に言われ、明久は先程と同じように両手を突き出す。だが、今度は出なかった。

 

「・・・・・・出ないな」

「・・・・・・今ので気付いたことがあるんだ」

「何だ?」

「魔法を唱えた時に、何か体の中からエネルギーのようなものが減ったような感じがあったんだ」

「ねぇ、それって所謂魔力ってやつじゃないの?」

「うん。それでね、今唱えた時はその魔力がガス欠を起こしたような感じがしたの」

「・・・・・・所謂魔力切れってやつか?」

「・・・・・・うん!」

「「「うん! じゃねぇーーー!!?」」」

 

突然の魔力切れによって魔法が使えなくなったことを冷や汗混じりの笑顔で告げた明久に、三人でツッコミを入れる。

 

「せっかくいけるって時に何でそんなことになるんだよ!?」

「しょうがないじゃん! 魔法なんて初めて使ったんだから!?」

「こんなのってないよ・・・・・・あんまりだよ・・・・・・」

「明久に期待した俺がバカだった・・・・・・!」

 

まさかの事態に困惑する四人。それを見て、今までもだえ苦しんでいたチョッキンガーがほくそ笑みながら立ち上がる。

 

「突然の魔法には驚かされたが・・・・・・所詮は低俗な人間だったってことだな」

「ま、まだ負けたわけじゃないぞ!?」

「何言ってやがる。テメェらには俺様にこれ以上の有効な手段はないんだろう?」

「そ、それは・・・・・・」

「よく頑張ったと褒めてやろう。だが、人間ごときがこのチョッキンガー様には敵わないのさ!」

「いいや、貴様の方が終わりだ」

 

勝利を確信して叫ぶチョッキンガーだったが、突如明久達の背後から別の声が響く。誰だと思い、振り向くとそこには剣心がいた。

 

「け、剣心さん!」

「無事だったのか!?」

「うむ、この通りピンピンしておるよ。しかし・・・・・・やはり、来てしまったのか」

 

無傷の剣心の姿を見て、四人は安堵する。それとは対照的に剣心は複雑そうな表情をしていた。剣心は歩いて明久達の前に出て、チョッキンガーに対峙する。

 

「剣心さんは一体どこにいたんですか?」

「前にここのボスがいた場所に向かったのだが、生憎留守だったようなので塔の中を探していたのだ。すると、何やら叫び声が聞こえると思い、そちらに向かうとお主達がおったというわけだ」

「えっ、でも私たちもここまでは一本道で来たんですけど」

「途中である仕掛けを解くと開かれる道があるのだ。拙者はそこを通っただけのこと」

「隠し通路があったのか・・・・・・」

 

今まで出会えなかった理由を簡単に話した後、剣心はチョッキンガーを見据える。チョッキンガーも突然の乱入者に不機嫌そうな顔をしていた。

 

「貴様は知っているぞ・・・・・・前にここに来て、俺たちのボスに返り討ちにされた人間だな?」

「恥ずかしい話だが、そうだ。もう一度、お前達のボスを倒しに来た」

「けっ、バカな奴め。ボスの慈悲で命拾いしたのにわざわざ殺されにきたのか?」

「貴様らのボスはどこにいる?」

「ふん、バカが! 貴様のような奴に誰が教えるか!」

 

チョッキンガーは剣心のことをバカにしながら突っ込んでいく。それに対して、剣心は刀に手を置いて身構える。

 

「け、剣心さん! 突っ込んできますよ!?」

「大丈夫でござるよ。このような雑魚に遅れは取らぬ」

「調子に乗るなよ、人間が!」

 

心配する明久達を背に、剣心は依然刀を身構えたままの体勢である。チョッキンガーは突進しながらハサミを前に突き出す。

 

「死ね! 人間!」

「・・・・・・ふっ!」

 

あと少しでハサミが突き刺さろうとしたその瞬間、剣心が目にも止まらぬ早さで動く。チョッキンガーと剣心が交差する。その一瞬の交差の後、何かが宙を舞い、床に突き刺さった。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・ぎ、ぎゃあああ!? お、俺様のハサミが!?」

「まぁ、こんなところでござるな」

「・・・・・・えっ?」

 

気付けばチョッキンガーのハサミが床に突き刺さっており、剣心も疲れた様子もなくいつの間にか抜いていた刀を鞘に戻す。一瞬の出来事と自分たちが苦労した相手をいともたやすく切り捨てた光景に明久達は唖然とする。

 

「・・・・・・凄い」

「あんなに苦労とした奴を一瞬で・・・・・・」

「成る程な・・・・・・一人でも十分だったってことか」

 

チョッキンガーのハサミを切り落として平然とする剣心を見て、四人はあまりの実力差に呆然とした。確かにこれなら一人でも十分と言えるだろう。むしろ自分たちの方が足手まといだ。

 

「もう一度言う・・・・・・貴様らのボスはどこにいる」

「し、知らない・・・・・・」

「ほぅ・・・・・・」

「し、知らないんだ! 本当に知らないんだよ!」

 

ハサミを切り落とされたことによって、チョッキンガーは完全に戦意喪失してしまい、剣心の問いに素直に答えた。それだけあのハサミはチョッキンガーにとって、強さの象徴的なものだったのだろう。刀に手を掛けながら脅したが、本当に知らない様子のチョッキンガーにさて、どうしたものかと剣心は悩む。

 

「剣心さんってすごいですね」

「うん? いやいや、この程度はまだほんの余興でござるよ」

「あれで余興って・・・・・・いや、もういいか」

「しかしまぁ・・・・・・これは困ったな」

「うむ・・・・・・こやつが知らんとなると、今塔にはいないのかもしれぬ」

「うそぉ・・・・・・ここまで来て?」

「そりゃ、ないぜ・・・・・・」

 

ここまで来てボスがいないとなると、何のためにここまで苦労したのかと明久、当麻、さやかは気落ちする。雄二と剣心もどうしたものかと頭を捻らせていると、切り落とされたハサミの左手の痛みを堪えながら、チョッキンガーは剣心を睨み付ける。

 

「ひっ、ひっひっひっ・・・・・・貴様らなんかボスが来れば・・・・・・」

「そのボスを探しておるのだが・・・・・・」

「テメェらなんか、ボスが来れば!」

「その口を閉じろ、この雑魚が」

 

やられてもなお、こちらを見下してくるチョッキンガーに呆れるが、突如聞こえた声に反応し、全員そちらの方を向く。それと同時にナイフが飛んできて、チョッキンガーの額に突き刺さった。

 

「あっ・・・・・・えっ? 何で・・・・・・?」

「聞くに堪えないな、貴様の言葉は」

「貴様・・・・・・!」

「あっ・・・・・・縁さん!」

 

突然現れた雪代縁に剣心は警戒するが、明久達は喜びを浮かべる。雪代縁は相変わらずぶっきらぼうな表情を浮かべている。

 

「縁さん! やっぱり来てくれて・・・・・・!」

「吉井!」

「ふぇ!? 剣心さん・・・・・・?」

 

現れた雪代縁に近寄ろうとする明久だったが、剣心は声を上げてそれを制する。突然、剣心に止められた明久とそれを見ていたさやかと当麻はどうしてとばかりに剣心に顔を向ける。そんな微妙な空気の中、雪代縁はゆっくりとチョッキンガーに向けて黙って歩き出す。

 

「縁さん・・・・・・?」

「あの・・・・・・」

 

いつもの様子とは違う縁に戸惑いながらも声を掛ける明久とさやかだが、縁はそれらを無視してチョッキンガーの元に歩いて行く。そして、額に刺さったナイフに愕然としているチョッキンガーの前に辿り着いた。

 

「・・・・・・相も変わらず貴様は無様だな」

「ボ、ボス・・・・・・何故?」

「えっ・・・・・・ボスって・・・・・・?」

 

縁がチョッキンガーにボスと呼ばれたことに動揺する明久とさやかと当麻。それとは対照的に剣心は縁を警戒し、雄二は複雑そうな表情で縁を見据えていた。縁は混乱するチョッキンガーを憮然とした表情で見下ろしている。

 

「人間を見下しているくせに、自分が負けそうになると負け犬の遠吠えのように吠えたてるだけ・・・・・・そんな奴が俺の部下なんてな」

「ち、違います、ボス! あの人間が強くて・・・・・・!」

「もういい、目障りだ」

 

そう言うと縁は手に持っていた剣を引き抜き、力任せにチョッキンガーを一刀両断する。チョッキンガーは最後まで縁に命乞いをするかのような表情のまま、真っ二つに切り捨てられた。

 

「お主を慕う部下だろうに・・・・・・それを容赦なく切り捨てるとは」

「こいつが? 陰でいつも『強いだけの人間上がりが・・・・・・』と陰口をたたいている奴が?」

 

ハッと吐き捨てるように縁は剣を振り回す。剣心はチョッキンガー自体には何の思い入れもないので、そうかと一言言うだけで済まし、縁を見据える。そんな中、動揺していた明久達が縁に話しかける。

 

「あの・・・・・・縁さん。今、そいつ・・・・・・縁さんを・・・・・・」

 

今までの話から想像したくない、そうであって欲しくないと思いながらも明久は縁に尋ねる。縁は眼鏡を整えながら明久達に応える。

 

「想像しているとおりだ・・・・・・俺がこの一連の事件の元凶だ」

 

雪代縁は、ゆっくりと、そして確かな言葉を持って、応えた。

 




とうとう明かされた黒幕。この非常な現実に明久たちは・・・・・・。

次回もお楽しみに。

さて、また書き始めないと・・・・・・。
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