いやね、本当にプライべートの用事が立て続けに舞い込んで、しかも今回の話で自分の苦手とする部分を発掘しちゃって・・・・・・
そのせいでだいぶ執筆も遅れたし、次話でエピローグの予定がずれちゃいました。ただ、物語も佳境なので、私なりに手を抜くことはできなかったのです。
長々と語りましたが、とりあえず完成したので投稿します。
それでは、どうぞ。
――――――雪が降る
――――――全てを覆い隠すように雪が降る
――――――それは親切に、そして残酷に
――――――雪をかき分け、一人の少年が突き進む
――――――やがて少年は立ち止まり、その場に倒れ込む
――――――視線の先には赤く染まった雪が広がる
――――――その中心には一人の女性が倒れていた
――――――音もなく降り注ぐ雪は女性を覆い隠そうとする
――――――少年は慟哭する。静かな女性を目の当たりにして
――――――その慟哭さえも雪は覆い隠そうとする
――――――そう、雪は降る
◇◆◇
静寂がその場を包み込み、誰もがその場を動けずにいた。剣心と縁は互いに目線で警戒し合い、明久達はあまりの真実に言葉を失っていた。
「・・・・・・その様子だと、やはり知らなかったのだな」
「け、剣心さん・・・・・・」
「アンタが頑なに、しかも約束を破ってまで俺たちを連れて行こうとしなかったのは・・・・・・」
「あぁ・・・・・・拙者が知っている者とお主達が語る雪代縁、これが同一人物なのではないかと思っていたからだ」
剣心は縁から視線を話さずに、明久達に話す。この真実を知ればどうなるか、彼には想像できた。だから、たった一人で決着をつけようと考えたのだ。縁は手持ちぶさたに剣を振り回す。
「・・・・・・うすうす、そうなんじゃないかとは思っていた」
「雄二・・・・・・?」
動揺する明久、当麻、さやかとは違い、少し冷静な雄二が口を開く。雄二の言葉にさやかはどういうことかと疑問を口にする。雄二は複雑そうな表情で縁を見据える。
「アンタは初めて出会った頃、巴村の住人だと言っていた。そのわりには村に住んでいるところを見たことがない」
「そういえば・・・・・・」
「俺はてっきり適当に誤魔化しただけなのかと思ったが、もう一つ・・・・・・ないと信じたかったが、もう一つだけある可能性があって、そのせいで村にいれないとしたらと考えた」
「もう一つって・・・・・・」
「あぁ・・・・・・犯人ってことだ」
今回の一連の事件を引き起こした犯人ならば、当然村にいられるはずがない。それなら村に寄りつかない理由にはなる。しかし、そうなると疑問になることがある。
「でも、縁さんは昨日・・・・・・」
「それにグリーンストーンを採りに行く時も・・・・・・」
「昨日来た理由は分からないが、グリーンストーンを採りに行く時は推測できる。恐らく剣心さんに掛けた呪いがグリーンストーンなしで解けたからだ。違うか、縁さん?」
「・・・・・・そうだな」
雄二の推測を静かに認める縁。雄二の推測が一つ当たるたびに、明久達は胸が締め付けられる程の痛みがよぎり、その苦しみから逃れたくてさやかは否定できるものを上げる。
「で、でも動機が・・・・・・」
「動機ならあるじゃねぇか・・・・・・この人がその名の通り、雪代縁なら」
「うぅ・・・・・・」
だが、ここでも雄二は認めざるえない現実を叩きつける。彼が雪代縁であるのなら、納得できる理由がある。
「雪代巴さん・・・・・・」
「た、ただの同じ名前の人だってこともあるだろう!? なら・・・・・・!」
「なら、どうしてグリーンストーンに関して詳しいんだ?」
「そ、それは・・・・・・」
「グリーンストーンは地元の人間しか知らない。なのに、この人は知っている。そして、名前は雪代縁・・・・・・動機も状況証拠も十分ってことさ」
雄二にとってもあまり認めたくないようで、とても複雑そうな表情のまま言い切った。自らが元凶であると言った縁の言葉を補強した雄二の推測に、縁は感心したとばかりに口を開く。
「ただのお人好し共と思っていたが、案外頭が切れる奴もいるようだな」
「それじゃあ・・・・・・」
「裏付けという意味ならそいつの言うとおりだ。改めて言うが、俺がこの一連の事件の元凶で、話に出てくる雪代巴姉さんの弟、雪代縁だ」
改めて告げられた真実に明久と当麻、さやかは頭を強烈に打ち付けられたかのような痛みに打ちのめされる。そんなことあるはずないと目の前の真実を信じたくないと頭を抱える。そんな三人と一人だけこちらを見ている雄二を見据えながら、縁は口を開く。
「正直、お前達が本当にここまで来るとは思わなかった。お前達の実力だと、そこの死に損ないの足手まといにしかならないと思っていたからな」
「最初は置いていくつもりだった。だが、彼らは拙者の身を案じてここまで来てくれたのだ」
「勇気と無謀は違うぞ? まぁ、ここまで来ることができるだけの実力はあるようだがな」
予想外だと縁は一息つく。彼の予想では剣心が一人やってくるのだとばかり思っていたらしい。そこに明久達がいるとは全く想像していなかったようだ。縁は剣心の動きを警戒しながら明久達の方に気を向ける。
「お前達はどうする? 俺とやるのか?」
「縁さん・・・・・・」
かかってくるのなら戦うとばかりに明久達にも睨みをきかせる縁に、現実を受け入れるしかないと迫られる明久達。だけど明久はなおも信じたくなく、縁に問いかける。
「どうして・・・・・・?」
「うん?」
「どうしてこんなことをしたんですか?」
「どうして? そんなこと決まっているだろう・・・・・・」
明久の問いかけに怒りを滲ませながら縁は応える。視線はさらに鋭くなり、あくまで冷静だった態度もあらただしいものになる。
「姉さんの復讐だ。お前達だって分かっているんじゃないのか?」
「雪代巴さんの・・・・・・」
「で、でも、あの人は一人で魔物の大群に立ち向かっての・・・・・・!」
「あぁ? 何だ、まだそんな風に言ってやがるのか、あの野郎共・・・・・・」
「えっ?」
思わぬ縁の反応に明久達は困惑する。明久達はてっきり雪代巴が死んだことを理不尽に思い、行き場のない怒りを当時の村人達にぶつけているのかと思っていたからだ。縁は心底呆れた様子で話を続ける。
「知らないようだから教えてやる・・・・・・その話には欠けている部分がある」
「欠けている部分?」
「そうだ。雪代巴は一人で立ち向かった・・・・・・そう聞いたんだろう?」
「は、はい・・・・・・」
明久達が聞いた話では雪代巴はたった一人で魔物の大群に立ち向かい、相打ちとなったと聞いている。縁は静かに、それでいて怒りを滲ませながら話を続ける。
「一人で立ち向かったんじゃない、立ち向かわなければならなかったんだよ」
「えっ、何で・・・・・・」
「理由は簡単だ。あの日、アイツらに裏切られたからだ」
「裏切られ・・・・・・!?」
いきなり裏切られたと聞き、明久達は驚く。縁は自身を押さえるように、努めて声を抑えながら話を続ける。
「最初はどうすれば逃げられるのかを話し合っていたが、逃げ切れる術がないのなら戦うしかないと姉さんは話し合いの中で主張した」
「逃げ切れない・・・・・・」
「姉さんが主張したんだ、姉さんが先頭に立って戦うことは当然のことだった。他の奴らもやるしかないと覚悟を決めて戦うことを決意した」
「えっ? 戦うことを決意したって・・・・・・」
言い伝えでは雪代巴が一人で立ち向かったとされているはず。だが、今の話だと村の他の人間も戦うと言っているように聞こえた。その違いに明久達は困惑する。
「そうだ。奴らは姉さん一人に任せっきりにはできないと言って、自分たちも一緒に戦うと言ったんだよ」
「私たちが聞いた時は“一人で立ち向かった”って・・・・・・」
「戦うことを決めた翌日、とうとう魔物が村の龍山坑道までにやってきたと知らせが入り、姉さんは打ち合わせ通り、村の奴らを一緒に出かけていった・・・・・・かと思った」
「思った・・・・・・?」
「当時子供だった俺は戦いに出ることを姉さんから許されず、家で待っているしかなかった。だから家で待っていたんだが・・・・・・居ても立ってもいられずに、家を出た。そこには逃げる準備を整えていた村の連中だった」
「うそ・・・・・・」
一緒に戦うと約束したはずなのに、どうゆうわけか、彼らは村を捨てて逃げようとしていたという。怒りを抑え込みながら話す縁の様子から、嘘とは思えない。縁は昔のことを思い出しながら話し続ける。
「今でもあの時の奴らの態度と言葉を思い出す。あの時の醜い奴らの言い訳と形相・・・・・・」
◇◆◇
雪が積もり始めたあの日。俺は姉さんの言うとおりに、家で待っていた。外は雪で覆われ始めており、囲炉裏の火を絶やさないようにしないと寒くてしょうがなかった。
「大丈夫だ・・・・・・絶対帰ってくる。みんなが一緒だから」
俺と姉さんの故郷である村に今、魔物の大群が迫ってきている。理由は分からないけど、このままではみんなが危ないと姉さんと村の力自慢達が立ち上がった。今頃は魔物と戦っているのだろう。
「家の中ばかりいても退屈だしな・・・・・・玄関前の雪かきでもするか」
姉さんが帰ってきた時、雪が邪魔で入りにくいなんて嫌だし。それにとにかく、色々動いていないと不安で押しつぶされそうになる。俺は気を紛らわせるため、雪かきの道具を持って外に出る。朝の時よりも雪は止み、周囲を見渡せるぐらいになっていた。
「はっ・・・・・・?」
その時、俺はあってはならない光景を目にしてしまった。昨日、魔物の一緒に倒そうと言っていたはずの大人達が、荷物を纏めて逃げようとしていた。
「何で・・・・・・どうして・・・・・・?」
「急げ・・・・・・あっ、縁君」
「どうしてみんなここにいるんだよ・・・・・・姉さんと一緒に魔物を退治しに行ったんじゃないのかよ」
「そ、それは・・・・・・」
何で、どうしてと俺は大人達に聞く。一緒に村を守ると、君一人に負担は掛けられないと言っていたじゃないか。なのに、何でここにいるんだよ・・・・・・どうして。
「姉さんと一緒に行ったんじゃないのかよ!? 何で逃げる準備なんてしているんだよ!?」
「ち、違うよ。これも戦うための準備で・・・・・・」
「沢山の荷物を抱えることが戦うための準備なのかよ! そもそも、姉さんはもう戦いに行ったんだぞ!?」
「だ、だから、これは・・・・・・」
「姉さん一人で行かせたのかよ!? アンタ達は!」
約束したはずなのに、姉さんと一緒に村を守るって約束したはずなのに。コイツらは約束を破って、自分たちだけ逃げようとしているか!?
「嘘つき! 姉さん一人に押しつけた卑怯者!」
「ち、違うんだよ、縁君。これは・・・・・・その・・・・・・」
「何だよ! 何かあるのかよ!?」
大人達は俺の目から視線を反らして、口を濁す。その様子は今まで信じていた大人の姿とは打って変わり、無様で醜く見えた。
「わ、私たちは戦い方を知らないんだ。だから・・・・・・」
「だったら、何で昨日の話し合いの時に言わなかったんだよ!? 姉さんだって無理に主張していたわけじゃないだろう!?」
「でも、故郷は大事だし・・・・・・」
「ふざんけんな! そんなこと言うなら戦えよ!」
「う、うるさい! 子供が分かったように言うな!?」
そうだ、そうだと一人の大人が叫び返したら、それにつられて他の大人達も声を上げて、俺を怒鳴り返してくる。畑を世話の仕方を教えてくれたおじさん、村で唯一の医者である雄一のお父さん、よく差し入れをしてくれるおばちゃんも、みんな声を上げて俺に怒鳴ってくる。
「魔物だぞ!? 敵うわけないだろう!」
「行って無駄死になんてしたくない!」
「巴さんのように戦い方なんて知らないんだよ!」
「・・・・・・っ、もういい!」
話にならない。俺はそう結論づけて、持っていたスコップを持って龍山坑道に向かう。後ろから引き留めようとする声も聞こえたが、そんなことお構いなしに突き進んだ。
(姉さん・・・・・・姉さん!)
無事でいてくれ・・・・・・死なないでと心の中で何度も、何度も姉さんの無事を祈りながら俺は雪道を走っていく。龍山坑道までの道は雪で覆われているため何度か転んでしまうが、姉さんはもっと頑張っているんだと自分に言い聞かせ、雪の中を進んでいく。そして、龍山坑道に辿り着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・姉さんは?」
戦いは既に終わっていたのか、辿り着いた龍山坑道ではとても静かで、雪が降り続けていた。だが、激しい戦いがあったのか、周りの雪がなくなっている場所や、掘り返されている場所もあり、戦いの爪痕がそこかしこにあった。
「姉さん・・・・・・姉さん!」
周りに魔物が残っていて関係なしに俺は姉さんの姿を探す。生きている・・・・・・絶対に生きている。姉さんは絶対に生きている!
「姉さ・・・・・・ん・・・・・・」
だけど、現実は非情で。
「ねえ・・・・・・さ・・・・・・ん・・・・・・」
目の前に広がる赤い雪の上に倒れ伏す姉さんがいた。
「う、嘘だ・・・・・・うそ・・・・・・」
ありえない、そんなことない。これは、ありえない。
「あぁ・・・・・・うぅ・・・・・・」
ゆっくりと近づいて姉さんの安否を確かめる。大丈夫、生きている。絶対、絶対に生きている。だって、姉さんは・・・・・・姉さんは・・・・・・!
「あっ・・・・・・」
触れた瞬間、理解した。姉さんは・・・・・・死んだ。
「うぅ・・・・・・あぁ・・・・・・そんな・・・・・・」
あの優しくて、強くて、温かい姉さんが・・・・・・姉さんが・・・・・・死んだ。
「うそだ・・・・・・うそだ・・・・・・!」
触れる場所は冷たく、赤い雪は広がり続けるように見える。雪はまだ降り続けて、姉さんを覆い隠そうとする。
「う、うそだぁああああああああああああ!!」
雪は冷たく、降り続ける・・・・・・。
◆◇◆
「あの日、俺にもっと力があれば・・・・・・そう後悔しない日々はない。俺がもっと姉さんを引き留めることが出来ればと」
「縁さん・・・・・・」
昔のことを思い出しながら語る縁の表情はとても苦しい表情をしており、思わず明久が気遣うかのように声を出す。雄二はそういうことかと納得したように言葉を発する。
「なるほど・・・・・・つまり、縁さんはその日、巴さんを見捨てた村人たちに復讐をするために・・・・・・」
「違うな」
「えっ?」
姉を見殺しにした村人たちの復讐のために縁は今回のことを仕組んだのだと思った雄二だったが、縁はそれを否定する。明久と当麻、さやかもそうだとばかり思っていたのであっけにとられる。縁は徐々に怒りを滲ませつつ、話を続ける。
「姉さんを見殺しにしたあいつらはな、今度は姉さんを祭り上げようとしたんだよ」
「巴さんを? でも、それは助けてもらったことに感謝して・・・・・・」
「感謝? あれでか?」
「え、縁さん?」
「あいつらは姉さんのことを村の英雄に仕立て上げて、それで見殺しにしたことを償ったことにしたんだよ」
話し続ける縁の声に熱が帯び始める。目を見開き、怒りで声を震わせる縁に周りは威圧され、声を発することが出来ずにいる。
「今でも思い出す、あの時にあいつらの言い訳がましい醜いあいつらの表情と言葉・・・・・・!」
『縁君、巴さんのことは残念だったね』
『彼女もきっと村を守れて本望だったはずだよ』
『そうだ! このことを言い伝えとして残そう!』
『彼女の勇敢な行いを忘れないように・・・・・・ね』
「ふざけるな・・・・・・ふざけるな! 姉さんを見殺しにしたくせに!」
昔、縁が姉を亡くした後に掛けられた言葉を思い出し、とうとう縁は怒りを爆発させる。今までの冷静な縁とは打って変わり、憎悪と怒りでその身を震わせ、周囲を威圧する。
「てめぇらが一緒に行けば姉さんだって死なずに済んだんだ! なのに、直前になって姉さんに全てを押し付けて、あまつさえ逃げようとしやがっただろうが!」
「縁・・・・・・」
「なのに、悪びれもせずに残念だった? 本望だぁ? 勇敢な行いだぁ? ふざけるな! 姉さんはそんなことのために戦ったんじゃねぇんだよ!」
「縁さん・・・・・・」
「殺してやる・・・・・・姉さんを見殺しにしただけじゃ飽き足らず、その姉さんの死すらも利用しようとしている奴らも全員殺してやる・・・・・・!」
憎悪と怒りで復讐を煮えたぎらせるその姿はまさしく悪鬼羅刹のごとく、その身を憎悪だけで構成するかのように全身全霊で怒りをまき散らしていた。
「いや、殺すだけじゃだめだ。一切の希望も与えず、生き地獄を味わらせて、恐怖と苦しみと絶望の中で、悶え苦しみながら殺してやる・・・・・・!」
◇◆◇
明かされた真実、雪代縁の憎悪と怒り、そして復讐心。度重なる衝撃的な事実に対して、明久たちは何もできず、また何も言えずにいた。間違っていると思うことには間違っていると言い続けてきた当麻と明久も、そんな姿をずっと見てきたさやかも、この中で一番頭のいい雄二も、この憎しみに圧倒されて押し黙るしかなかった。
(こんなのって)
(言えるはずねぇ)
(何か・・・・・・って何を言えば・・・・・・)
(うぅ・・・・・・)
何か言わなければならない、何か声を掛けたいと思いながらも、何を言えばいいのかわからない。長い間憎悪と怒りでその身を焦がし、衰えることも知らず、なおも増長し続けるそれに、彼らは掛ける言葉を持ち合わせていなかった。
「・・・・・・衰えることはないな、お主の憎しみは」
「剣心さん・・・・・・?」
そんな中、剣心は縁に話しかける。この憎しみに対して剣心は何を話すのか、全員が剣心に注目する。剣心は縁の憎悪に満ち足りた雰囲気を受け止めながら、しっかりと本人を見据える。
「当然だ。俺のこの憎しみは衰えることはない。あいつらが生きているかぎり」
「お主の憎しみ、理解してもわかってやることはできぬ・・・・・・だが、否定することもできぬ」
「むしろ分かろうとすることが迷惑だ。俺の憎しみなど、当事者でもないお前がわかるわけもないだろう」
「あぁ、そうだな・・・・・・そんな簡単なことが分からなかったから、前回は惨めにも敗北し、お主に切られたのだ」
剣心は前に縁に出会った時のことを思い出す。あの時は人の姿をした魔物が人々を害しているとばかりに思っていた。だが、それは間違いで、縁には縁の理由があり、それを無理に共感しようとした。だから、迷いが生じ、剣心は敗北したのだ。
「あれから呪いに苦しめられながらも、色々考えさせられた」
「それで結局は俺を倒しに来たのか」
「そうだ・・・・・・お主にもまだ、人の心が残っているうちに」
「なに?」
予想外の答えに縁は怒りを一時押えて、剣心に注目する。明久たちもどうゆうことかと剣心の方を見る。
「お主と剣を交えたとき、お主の中には憎しみしか残ってないとばかり思っていた。だが、お主にも未だに人としての情が残っていたのだな」
「急に何を言ってやがる。俺に人としての情だと? すでに魔に堕ちた俺が?」
「うむ。修羅となり、復讐に身を焦がして、なおお主は誰かを助ける心があったのだ」
「何をもってそんなこと・・・・・・」
「弥彦と彼ら4人のこと、そして拙者のこと」
「ッ!?」
図星を突かれたかのように縁は表情を強張らせる。剣心は戸惑いを見せた縁を諭すかのように話を続ける。
「最初は部外者だからなのかと思ったが、それほどまでに憎しみに募らせているのなら、村人たちに一部の希望も与えずに、拙者を殺せばよかった。だが、お主は呪いを掛けたとはいえ、拙者を生かした」
「・・・・・・あいつらに反抗した者の末路を見せたかっただけだ」
「だが、拙者を助けに来た弥彦をそのまま生かして帰したな」
「わざわざ殺す必要がなかっただけだ」
「極めつけに吉井たちだ。見せしめのはずの拙者を助けるために動いていた彼らをお主は助けた」
「それは・・・・・・」
ここで初めて縁の言葉を詰まらせる。咄嗟に言い返せなかった縁は口を噤み、言葉を探すかのように押し黙る。剣心はそんな縁の様子を見て、一息ついて話を続ける。
「拙者に関しては言った通りでもあるし、さらなる絶望に叩き込もうという意図であったのだろう。だが、命を懸けて誰かを助けようとする弥彦や彼ら4人を見て、お主の中に何か感じ入るものができた」
「・・・・・・」
「今まで会ったことがなかった者たちに触れ、お主の中に一つの迷いが生じたのだ。『こいつらは奴らとは違うのでは?』と」
剣心の言葉が図星なのか、怒りで目つきが鋭いものの押し黙っている縁。少し間を置き、剣心は言葉を続けようとするが、先に縁が口を開く。
「それが何だ。そんなことを思ったところで俺の憎しみは消えない」
「うむ・・・・・・確かにその通りだ」
「確かに・・・・・・どうやらそいつらや、貴様とその息子の弥彦だったか? お前らはあいつらとは違うだろう。それは認めてやるよ」
「縁さん・・・・・・じゃあ!」
「だがな・・・・・・だからといって俺が復讐を辞める理由にはならない」
剣心の言葉が届いて、復讐を辞めるのかと思った明久たちだったが、それがどうしたとばかりに縁は体を震わせる。彼と戦う必要がなくなると思った明久たちだったが、その言葉で一転して縮こまってしまう。
「それにな、どのみち俺を殺さなければお前たちは解放されないんだよ」
「どういうことだ?」
「ここら辺一帯を覆う暗闇の結界・・・・・・それの核となるのはこの俺の命だ。俺が生きている限り、この結界は壊れることはない」
「そうか・・・・・・どちらにしろ、お主を切らなければ前には進めぬのか」
「そういうことだ。さぁ、無駄話は終わりだ」
構えろと縁は刀の持ち手を逆さまにして構える。対する剣心も幾ばくかの逡巡の内、覚悟を決めたのか、刀を鞘に納める。
「えっ、うそ・・・・・・待って、戦っちゃダメだよ!」
「そうだよ! 剣心さんも縁さんも戦っちゃダメだ!?」
「まだほかに方法が・・・・・・!」
「話は終わりだと言ったはずだ。まだ何か言いたいことがあるのか」
「そ、それは・・・・・・でも!」
お互いに見たことがない構えをしたが、同時に闘気のようなものが膨れ上がるのを感じた4人は何とか止めようするも、止める手段がなく見ていることしかできなくなる。
「そ、そうだ! 当麻の“幻想殺し”だ! それで結界を破壊すれば・・・・・・!」
「そ、そうか! 俺の“幻想殺し”なら・・・・・・!」
「無理でござるよ。それは要となるものを完全に破壊するものなのだろう? なら、それをそのまま使えば縁の命も粉々になるだけでござるよ」
「そ、そんな・・・・・・」
「それに結局のところ、縁の復讐心を止めることにはならない」
雄二は咄嗟に当麻の“幻想殺し”を思いつくも効果がないとされて、しかも根本的な解決にはなっていないと言われてしまい、言葉を詰まらせてしまう。
「ゆ、雄二! 他にはないのかよ!?」
「うるせぇ! 少し黙ってろ! 俺も今考えて・・・・・・!」
「縁さん! 事件が終わったら一緒にお祝いするって言っていたじゃないですか!?」
「考えてやるとは言ったんだ。する、なんて一言も言ってねぇ」
「いやだよ・・・・・・こんな、こんなことって・・・・・・」
何を言っても、もはや届かない二人にどうしようもなく、ただ見守ることしかできない4人。このままではどちらかが死んでしまう、そう思ってしまうほどに縁と剣心の気が膨れ上がっていく。
「いやだ・・・・・・やめて・・・・・・」
「何か・・・・・・何か・・・・・・!」
「・・・・・・くそっ! 何も思いつかねぇ!」
「このままじゃあ・・・・・・このままじゃあ・・・・・・!」
目の前の光景が受け入れられないさやかに、何かないかと必死に頭を回す雄二、止める方法も言葉も思いつかない当麻に、訪れるであろう結末に恐怖する明久。4人とも、どうにか二人の激突を回避しようとするが、何も良い手が思い浮かばず見ていることしかできない。
そして、その時が来る。
対峙しあう二人にしか聞こえない、水滴が地面に落ちる音が響いた。
「「おぉおおおおおお!!」」
「だ、だめぇええええええ!?」
互いに今、放てる最強の技を繰り出し激突する。
そして、鮮血が舞った。
ここまで書いてミスしたなぁと思ったところ。
いつの間にか明久たちの雪代縁の呼び方が、雪代から縁に変わっていることですね。しかも二話連続。
とりあえずそれぐらい彼らにとって気を許した仲ということでよろしくお願いします。
さて、次回は激突後のことです。
次回もお楽しみに。