とうとう新年で、しかも平成が終わりますね。私は物事の終わりと始まりは極度の恐怖と寂寥で胸がいっぱいになりますので、メンタルがクソ雑魚ナメクジになります。
本当、明日から正社員として初めて働いていくということにメンタルが潰れる寸前です。前の職場はフリーターとは言え、とても居心地が良かったので、辞めるときには一人涙を流していました。私って、とても人との繋がりに飢えているメンタルクソ雑魚ナメクジだったのだと自覚せざる得ません。
っと、愚痴はこれぐらいにしてそろそろ本編に入りましょう。
巴村から帰ってきた四人のその後です。そのうち、今回は二人だけですがね。
それでは、どうぞ。
第21章:その後の彼ら
「はい、これが登録証ですよ」
「ありがとうございます、ジェイド先生」
「いえいえ、これぐらいお安い御用ですよ」
授業が終わり、放課後の廊下で明久はジェイドから登録証を受け取っていた。内容は雪代縁から譲り受けた倭刀に関してである。
「全く・・・・・・急に刃物を持ってきて何事かと思ったんですからね」
「すみません、小萌先生。とりあえずジェイド先生なら何とかできるかなとばかり考えていて・・・・・・」
「本当ですよ。風紀委員どころか、アンチスキルが動く事態になっていたんですからね」
「アンチスキルの支部に出向くのは死ぬほど面倒くさいですから、気を付けてくださいね」
「この人、心配しているようで心配してねぇ・・・・・・」
ジェイドと一緒にいた小萌が明久の軽率な行動を叱っているが、ジェイドの言葉に明久は半分反省し、半分呆れていた。
「では、預かっていた倭刀です。こちらで刀剣袋を用意しましたので、持ち運ぶ際はこれを使いなさい」
「吉井ちゃんのことですから大丈夫かと思いますけど・・・・・・絶対に人に向かって使わないでくださいね」
「はい、わかりました」
預かっていた倭刀が渡され、二人の言葉に深く頷く明久。
ゴールデンウィークが明け、特別な宿題を言い渡されていた明久たちは“雪代巴”という人物についてまとめたものをジェイドに提出した。その際に明久はジェイドと小萌に自身が譲り受けた倭刀の取り扱いについて話をしたのだが、その時に小萌とジェイドはすぐさま明久から倭刀を没収した。
「まさかバットケースに入れて直接持ってくるとは思いもしませんでした」
「本当ですよ。場合によっては捕まっていたんですからね」
「はい。本当にすみませんでした」
詳しい事情を明久、当麻、さやか、雄二の四人から聞き出したあと、この手のことに詳しいジェイドがすぐさま刀剣登録を申請し、程なくして登録が完了し、明久のもとに倭刀は返ってきたのだった。
「とにかく、人前では絶対に抜かないこと。いいですね!」
「は、はい! 気を付けます!」
「包丁代わりに使わないように」
「しませんよ!? そんなこと!?」
明久を厳しく注意した小萌はまだ他に仕事があるため、ジェイドと共に職員室に向かおうとする。
「あっ、先生! 一つだけ質問、いいですか?」
「なんでしょうか?」
「ここら辺で武道場ってありますか?」
「武道場ですか? そうですね・・・・・・」
「まさか、吉井君・・・・・・」
「ち、違いますよ! 小萌先生!」
あったかどうか悩んでいるジェイドを横目に小萌はまさかと疑いの目で明久を見る。明久は小萌が考えていることとは違うと主張し、理由を話す。
「この倭刀は本当に大事なものですから、せめてこれに相応しい様になりたいんです」
「むぅ・・・・・・」
「まぁまぁ、小萌先生。どうやら嘘は言っていないようですし、彼はあなたが懸念するような人物ではないことはあなたがよく知っているでしょう?」
「う~ん・・・・・・まぁ、そうですね」
明久の言葉に半信半疑ながらもジェイドに諭されて、小萌はとりあえず納得することにした。その様子を見て、ジェイドは明久の方を向く。
「吉井君、あなたが所望する武道場なら、学校から近い位置にありますよ」
「本当ですか!?」
「えぇ。場所は・・・・・・ここですね」
携帯から周辺の地図を取り出し、場所を教える。そこは学校からそう離れていない場所で、徒歩10分程度の場所である。
「ここならほかの学校の部活が専属で使っているということもないので、おすすめですよ」
「あれ? じゃあ、何でこんな学校の近くにあるんですか?」
「ここら辺はそれなりに学校がありますから、合同練習などで使う予定だったんですよ。ですが、これと言って部活に力を入れている学校はありませんから、結局誰でも使ってもいいということになったんですよ」
「そうなんですか・・・・・・それって、結局税金の無駄使いってことですか?」
「そうでもないですよ? それなりに利用している人はいるようですし」
本来の目的で使われることがないのなら、何のためにあるんだかと思う明久だったが、小萌の補足と自分にとっては好都合だったので、明久はそれ以上言わなかった。この後、二人と別れ、明久は意気揚々とその場所に向かった。
◇◆◇
「ありがとうございました」
必要な本を買って本屋を出る。思っていたよりも金がかかったが、これからのことを考えると必要経費だと割り切り、荷物を持って家に向かう。
「・・・・・・何の用だ、ムッツリーニ」
「・・・・・・人違いだ」
「じゃあこう言ってやろうか? 何でコソコソとバレるように尾行しているんだ、土屋?」
そう思ったが、学校から出た時から俺の後をつけていたムッツリーニこと土屋に俺は話しかける。しかも、なんだって俺にもわかるような雑な尾行をしているんだ、こいつ。
「本気になれば、俺に気配を悟られずに尾行できるだろう。なんだってまたこんな雑な尾行を・・・・・・」
「別に・・・・・・今回は不調だっただけ」
「ふ~ん・・・・・・で、一体何の用だ?」
「雄二、ゴールデンウィーク中に何があった?」
またその話か・・・・・・内心辟易しながら、俺はため息をつく。なんだってこいつらはこんなに聞きたがるんだか。
巴村での一件が終わり、学園都市に戻ってきた俺たちはあの事件で明かしても問題なさそうな事柄を抜粋し、まとめ上げた後宿題を提出した。その後、ゴールデンウィーク中全く連絡が取れなかった俺たちに対してクラスメート、俺の場合は文月学園組から質問攻めを食らったが、俺は何も話さず、考え事がしたからと一人で行動していた。
「あそこはど田舎だったから電波状態が悪くて、携帯が繋がらなかったって言っているだろう?」
「そんなことを聞いているんじゃない」
「別にその場で何か事件が起こったわけでもないし、村の生活や泊まったぐらいのものだぞ?」
「あくまで白を切るのか」
「だから、何もねぇって」
あの時、あの場所で起こった出来事の数々は、これまでの人生観を変えるようなことばかりだった。話に聞いていただけの存在だった魔物、間違えたままの歴史、そして、それゆえに堕ちた雪代縁さんの末路。時間が経って尚も俺の中では消化しきれず、未だに心の中にくすぶり続けていた。
「何故話してくれない」
「だから、隠すようなことはないっつーの」
「・・・・・・お前も一人で抱えて、何処かに行くのか?」
どうしても話そうとしない俺の態度に、どういうわけか逆に不安そうな表情を浮かべる土屋に俺は内心慌ててしまう。いくら話さないからといって、こんな弱気になるような奴ではなかったはずなのだが。
「何処かにって・・・・・・別に何処にも行ったりはしねぇよ」
「だが・・・・・・」
「だがも何も・・・・・・!」
「・・・・・・雄二は一人で抱えて何処かに行こうとする」
うん? 何か久しぶりに聞いたことのあるような声が・・・・・・?
「本当に雄二はどうしようもない。勝手に何処かに行ってしまう」
「いや、だから別に何処かに行ったりは」
「うそ。現に私を置いて、こんな世界に黙って行った」
「いや、黙って行ったも何も本来はすぐに帰る予定だったんだ・・・・・・よ・・・・・・?」
「ゆ、雄二・・・・・・後ろ・・・・・・」
あまりにも自然に会話に入ってきたものだから、そのまま話を続けたが、何か背筋が凍えるような気配を感じてきた。同じようにおかしいと思っていたはずの土屋も、俺の後ろを指さして震えている。なんだ・・・・・・一体後ろで何が・・・・・・?
「やっぱりこれ以上何かする前に監禁するべき」
「・・・・・・」
ようやく誰が話しているのか気づいたが、後ろから漂う強烈な殺意やら威圧感やらとごちゃ混ぜになったオーラのようなものを感じ、俺は後ろを振り向きたくない。だが、振り向かないと話が進まないため、俺は後ろをゆっくりと振り向いた。
そこにはもはや形容しがたい怒りを纏った翔子がいた。
「よ、よぉ・・・・・・翔子・・・・・・久しぶり・・・・・・だな」
「雄二も元気そうで何より。でも、どれだけ私が心配したと?」
「わ、悪かった・・・・・・ほ、本当なら・・・・・・すぐに帰る予定・・・・・・だったんだよ」
「そう・・・・・・でも、許さない」
「・・・・・・(フッ)」
もはやどんな言葉を尽くしても翔子には届かないだろう。俺はそれを確信して、潔く買った本を地面に置いて、正座をした。
「翔子・・・・・・済まなかった!」
「許さない」
次の瞬間、俺の意識は久しぶりに吹き飛んだのであった。
「やっほー、ムッツリーニ君、久しぶり」
「・・・・・・何故いる!?」
「ワシもいるのだがな・・・・・・」
◇◆◇
「うん? 今誰かの悲鳴が聞こえたような?」
「気のせいじゃない? ウチには聞こえなかったわよ?」
「私も聞こえませんでした」
「そう? じゃあ、気のせいかな・・・・・・?」
何だか雄二の悲鳴が聞こえたような気がしたんだけど・・・・・・美波や姫路さんにも聞こえていないようだし、気のせいか。
先生に場所を教えてもらったあと、僕はその場所に向かっていた。途中、美波と姫路さんと出会い、二人も一緒に付いてくることになった。あれから転校生5人組とは雄二をきっかけによく話すようになり、折に触れてこうやって一緒にいたりする。時折、美波と姫路さんから恐ろしい気配がする時があるが、別に危害を加えてくるようなこともないので仲良くしている。
「確か、ここら辺にあるって聞いたんだけど・・・・・・」
「あっ、アレじゃない?」
言われた場所に着き、目標の建物はないか探していると美波が指を指す。僕と姫路さんは指を指した方を見ると、そこには立派な体育館があった。
「ここ・・・・・・だね」
「画像も一致していますし、ここですね」
「へぇ~、意外と立派ね。てっきり、もう少し荒れているかと思った」
僕も美波と同じで放置されていると聞き、少し荒れているとばかり思っていた。だが、手入れが行き届いているのか、寂れている様子もなく綺麗な状態である。
「こんな立派な建物なのに、あまり使われていないなんてね・・・・・・」
「まぁ、学園都市は研究施設や意味不明な建物が多いからね。なかには、実験場で大きな土地一つ使うこともあるし」
「それだけ超能力を重視しているということなんですね」
僕としては実験よりもレベル0の人たちに何かしらの保証とかしてもらいたいけどね。そのせいでスキルアウトとかが横行しているし。
「部活とかでこういう施設とかは使ったりしないのかしら?」
「本来はそのために作られたらしいけど・・・・・・今はどうだか」
「怖い人たちがいたらどうしましょう・・・・・・」
「大丈夫、その時は僕が二人を守るから」
ここら辺の地区はあまりスキルアウトがいないから油断していたけど、考えてみれば使われていない施設なんてスキルアウト達の絶好の溜まり場だった。二人に危害が加わらないようにしないと・・・・・・。
「・・・・・・うん? 二人とも、どうしたの?」
「な、何でもないわよ!? さっさと行くんでしょう!?」
「そ、そうです! 早く行きましょう!」
「えっ、ちょっと!? 二人とも!?」
急にその場で黙り込む二人に呼びかけたけど、僕を振り切るようにさっさと二人とも体育館に向かってしまう。急なことで先を行かれてしまうけど、僕はすぐに二人より前に出て体育館に入る。入り口にはすぐに下駄箱があり、そこに靴を入れてそのまま武道場に向かう。
「二人とも、大丈夫? 何だか顔が赤いけど・・・・・・」
「だ、大丈夫に決まっているでしょ!? そうよ、大丈夫よ!」
「そ、そうです! 大丈夫です!?」
「本当かな・・・・・・っと、二人とも僕の後ろに」
さっきから顔が赤い二人を心配して声を掛けるけど、二人は大丈夫と一点張りでしっかり話そうとしない。さらに心配だけど、ヒュッ・・・・・・と武道場の方から音が聞こえ、僕は二人を止める。二人も僕の雰囲気が変わったのを感じて、僕の後ろに下がる。二人の前に出つつ、僕は武道場のドアを開けた。
「・・・・・・二人とも、大丈夫だよ」
「本当? スキルアウトとか不良とかいない?」
「うん。どうやら、女の子が一人素振りをしているだけみたい」
武道場の中の様子を確認すると、そこには一人の女の子がいた。こちらに気づいていないのか、目もくれずに素振りをしている。僕たちよりも先にここにいたらしいので、とりあえず挨拶してみよう。
「すみませーん! ここを使ってもいいですか!」
「ちょ、アキ!」
「明久君! 急に失礼ですよ!?」
「・・・・・・」
二人が僕を抑えようとするけど、あんなに真摯に素振りをしている人が悪い人とは思えないので、少しずつ近寄っていく。
「・・・・・・勝手にしろ」
「はい、ありがとうございま・・・・・・す・・・・・・」
その人がこちらを見た瞬間、僕は言葉に詰まった。その人は黒い袴を着ており、腰にまで届きそうな長い黒髪が特徴的だ。それだけなら精悍で綺麗な女の子に見えるのだが、こちらを見る目つきは他者を射殺すかのように鋭く、目の下にくっきりとクマが見える。
「えと・・・・・・いつもここで?」
「貴様には関係ないだろう」
「ま、まぁ、そうなんだけど・・・・・・」
何よりも彼女はこちらのことなど心底興味ないようで、一瞥しただけですぐに素振りに戻った。絶対に他者を寄せ付けようとしない彼女の雰囲気に、美波と姫路さんはたじろいでしまう。
「あ、明久君・・・・・・」
「ちょっと、アキ・・・・・・」
二人は小声で大丈夫なのかと僕に話しかける。僕もこんな人がここを利用しているなんて思ってもいなかった。本来なら、あまり関わり合いにならない方がいいだろうけど・・・・・・僕は彼女にある程度近づく。
「初めまして、僕は吉井明久。君の名前は?」
「・・・・・・名乗る必要はない」
「そっか・・・・・・僕も今日からここを使おうと思っているんだけど、いいかな」
「勝手にしろ。私の邪魔をするな」
「うん、よろしく」
彼女に断りを入れて、僕は早速素振りを始めようとする。だけど、重要なことに気づいて再度彼女に話しかける。
「えっと・・・・・・竹刀ないかな?」
「・・・・・・私の邪魔をするなと言ったはずだが?」
「ご、ごめん。でも、初めてここを使うから」
「そっちの方に倉庫がある。そこの中の物を自由に使え」
「うん、ありがとう」
考えてみれば、素振りをするための道具がないことに今気が付いた。やっぱり、そういうものがないと素振りにならないよね。僕は彼女に言われた通り、倉庫の方に向かっていく。その最中、美波と姫路さんが僕の方に近寄ってきた。
「ちょっと、アキ。本当に大丈夫なの?」
「あの人、何だが危ない様子でしたよ?」
「まぁ、大丈夫だよ。悪い人ではないみたいだし」
二人とも近寄りがたい雰囲気の彼女を警戒しており、それに不用心に近づいた僕を心配そうにしている。僕は二人を安心させようと、なるべく笑顔で接した。
「近寄りがたい雰囲気だけど、スキルアウトみたいな感じはしないよ」
「確かにそうだけど・・・・・・何だか今まで会ってきた人とは違う雰囲気よ」
「それに何だか、とても怖いです」
「そうだね・・・・・・でも、大丈夫」
「明久君?」
大丈夫だと言い張る僕に二人は疑問そうにこちらを見る。確かに二人の心配している通り、なるべく関わらない方がいいかもしれない。でも、彼女がこちらを見ていた瞳の奥に宿していた暗い、とても暗い感情には覚えがある。
(あれは・・・・・・あの全てを憎みきっている目は・・・・・・)
あれは怒り狂っていた縁さんが見せた目だ。大切な人を失い、怒り狂い、この世の全てを憎み切った目。あんな目をした人を放っておくことなんてできない。僕は倉庫から竹刀を見つけ出し、それを持って彼女の近くに近寄る。
「倉庫にあったよ、ありがとう」
「なら、とっとと離れろ。邪魔だ」
「それで・・・・・・素振りってどうやるのかな?」
「話を聞いていなかったのか?」
尚も尋ねてくる僕に腹を立ててきたのか、こちらを睨みつけてくる。だけど、僕も一歩も引かず、彼女の方をまっすぐ見据える。後ろで美波と姫路さんがこちらを心配そうに見つめてくるのを感じる。一触即発のような気配があったが、彼女はため息をつく。
「やり方だけだぞ」
「うん、ありがとう。えっと・・・・・・」
それで終わりだと言い捨てる彼女にお礼を言いつつ、そういえば名前を聞いていなかったと思い、言い淀む。彼女の方もそれを察してか、本当に仕方がないように名前を教えてくれた。
「篠ノ之箒だ。別に覚えてもらわなくても結構だ」
どうでしたか?
本当なら、雄二の方まで終わらせる予定だったんですが、区切りがいいので、ここまでにしました。
次回は雄二のお悩み相談と、当麻かさやかのどっちかを取り上げる予定です。
あと、皆さんに催促するようで申し訳ないのですが、批難・ご指摘および感想をどんどん書いてください。
先ほども言った通り、作者は人との繋がりに飢えているクソ雑魚ナメクジのメンタルです。それは正当な批難であれ、繋がっていると感じられれば心が安心するほどです。
それに感想があれば、より良いお話をお送りすることができると思っております。
今まで感想を貰っておいて打ち切りにした作品が多々ある作者ではありますが、本当に皆さんよろしくお願いします。
それではまた次回に。