あなたへおくる物語   作:紫炎.2

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ま、間に合った。

どうも、皆様。紫炎です。

今回は文章が長くなったのと、リアルの方でずっと繁忙期だったこと。また、ずっと待っていたゲームにハマっていたことで、遅れてしまいました。

とはいえ、文章量がおそらく過去最多にあったかと。


それでは、どうぞ。


第26話:そもそもこうなったのは

パァンと甲高い音が路地裏に響く。倒れていた少女が少年に銃で撃ったのだ。

 

『‥‥‥改めて問題、一方通行は果たしてナニをやっているのでしょぉかぁ!?』

 

だがゼロ距離で、しかも顔に撃ったのにも関わらず少年は無傷で、余裕な表情で再度少女に対して問題を投げかける。少女は無傷だったことには目もくれず、少年に対して撃ったはずの銃弾が地面を抉っているのを見て、返答する。

 

『反‥‥‥射?』

『残念。そいつも合ってんだけど、俺の本質とは違うんだよね‥‥‥っと?』

 

少女は銃が効かないと分かるな否や即座に銃を少年に投げつける。若干、驚く少年に対して、立て続けに少女は電撃を浴びせる。

 

『あ‥‥‥!?』

 

だが、これも跳ね返されてしまい、逆に自分が食らってしまう。それも、自分が放つより、より正確に自分を貫いて。あまりの衝撃にまたも倒れ伏してしまう。

 

『答えは“向き(ベクトル)”でした! デフォじゃ“反射”に設定してあるけどなぁ!』

 

答え合わせとばかりに自分の能力を教える少年。それを聞きつつ、少女は今一度自分が戦っている相手を再確認する。

 

(運動、熱、電気。あらゆる“向き”を変換する能力者。弾丸や電撃はおろか、たとえ核ミサイルの直撃を受けても傷一つつかない)

 

そう、今までこの少女が戦っていたのは、学園都市最強の超能力者、一方通行(アクセラレータ)なのである。そんな最強に、少女は訳あって戦いを挑んでいた。

 

『ぐぅ!?』

『こいつを使うとさぁ、こんなこともできるんだぜ?』

 

うつ伏せで倒れる少女に対して、一方通行は指先を出血しているところに無遠慮に触る。

 

『俺は今、血に触れている。この血の“向き”を逆流させると人間の体はどうなってしまうのでしょうか?』

 

少年の問いかけに対して、もはやどうすることのできない悟った少女は静かに一方通行の言葉を聞く。

 

『正解者には安らかな眠りを』

 

その瞬間、“今まで幾度となく学習してきた”暗い闇沈んでいく感覚に襲われた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

真っ赤な血が目の前に広がる。その中心に一人の少女だったものが転がっている。

 

「うそだろ‥‥‥?」

 

あまりの光景に頭がふらつく。ほんの少し、本を買いに行っている間にこんなことが起こったのかと、理解が追い付かない。

 

―――子猫を押し付けてやった

 

突然のことに驚きながら、ため息をついていた御坂妹。その時のアイツの口元はなんだか‥‥‥

 

―――笑っているように見えたんだ

 

そう、見えたはずなのに。目の前に広がる御坂妹は今は全く身動きをしない‥‥‥

 

そう、剣心さんに切られ、地面に倒れた直後の縁さんのようだった。

 

「‥‥‥ぐぅ!?」

 

唐突に吐き気がこみ上げてくる。それと同時に今まで無視しようとしていた後悔も一緒に襲い掛かってくる。だが、腕の中に子猫がいることを思い出し、何とか踏みとどまる。

 

(吐くな。御坂妹だぞ、アレは‥‥‥!)

 

縁さんと重なりかけるのを、必死に振り払い、壁に手を置く。同時に壁にまで飛び散っていた血に触れる。

 

(‥‥‥血が乾いていない)

 

血に触れたことで、逆に冷静になった当麻はなぜこんなことになったのかを考える。自分が離れたのはほんの2、3分。そんな時間でこんなになるような事故が起きたとは言い難い。ならば、考えられるのは‥‥‥

 

「能力者か‥‥‥!」

 

そう考えた瞬間、当麻は即座に表通りに走り出す。こんな短時間なら、まだこんなことをした能力者が近くにいる可能性があるからだ。幸い、当麻は能力者に襲われずにそのまま表通りに出られた。そのまま当麻は警備員(アンチスキル)に電話を掛ける。

 

「もしもし!? すぐに来て下さい! 路地裏で人が‥‥‥!」

 

当麻は一瞬、路地裏から誰かが来ていないか確認して、再度言葉を続ける。

 

「人が死んでいます‥‥‥」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「警備員だ。通報者は君かね?」

「はい」

 

通報してからしばらくして、当麻がいた路地裏の手前には規制線が張られ、何事かと野次馬が集まっていた。その中で、当麻は通報者として事情聴取を受けている。

 

「少しで良いから中の様子を説明してくれると助かるんだが」

「‥‥‥女の子が」

 

警備者の質問に当麻は先ほど見た光景を思い出しながら、少しずつ話す。

 

「全身、ズタズタに引き裂かれている感じで‥‥‥凶器とかは分からないです。もしかすると何かの“力”なのかも‥‥‥」

 

話すにつれて改めて御坂妹が死んだことを再認識していくようで、当麻はとても嫌になった。心のどこかで、これは夢で、翌日にはまた元気なアイツに会えるのではないかと思っていたいのである。

 

「‥‥‥その子、俺の知り合いなんです。出会って数日ぐらいしか経ってないけど、昨日も一緒にジュースを運んでもらって‥‥‥それが、何だって、こんなことに‥‥‥!」

「もう良い、落ち着いて。君はできる限りのことはした」

 

だが話していくうちに、これは現実で、御坂妹は死んだのだと再認識していく。そのことに動揺する当麻を警備員の一人が宥める。少しして、当麻がある程度落ち着いたのを見計らって、警備員の一人が当麻に話しかける。

 

「本来なら発見者にも同行してもらうところなのだが‥‥‥どうする?」

「‥‥‥行きます」

 

こんなことになったけど、最後まで見届けたい。そう思い、当麻は同行することにした。警備員も頷き、当麻を守るように展開しながら、現場に向かう。そして、たどり着いた先には、普通の裏路地が広がっていた。

 

「‥‥‥な、なにもない?」

「きみ」

「そ、そこです! そこに、死体が、あったはずなんです!」

 

確かにそこにあったはずで、アイツの死体なんて見間違えるはずなんてない。そこら辺中に血がぶちまけられていて、その中心で、アイツは横たわっていた。必死にそう訴えるが、現状がそんなことなんてなかったかのように、普通の裏路地が広がっているだけである。

 

「おい、いい加減にしないか。我々だって悪ふざけに付き合っているほど暇じゃないんだぞ!?」

「ま、待ってください! ほ、本当にここで人が死んでいたんです!」

 

この状況に当麻がいたずらに自分を呼んだのでは、と思い始めた警備員に咎められるが、当麻としては何が起こっているのか、自分の方がさっぱり分からない。まるで狐に化かされたかのような気持ちだ。そんな当麻の様子を見て、警備員の一人が話を続ける。

 

「分かった。仮に君の見たモノが本当だとして、それは間違いなくこの場所なのかい?」

「それって‥‥‥」

「記憶が混乱して他の場所と勘違いしているということは考えられないか?」

 

勘違いしている‥‥‥まさか。そう思ったのと同時に当麻は走り出した。後ろから警備員の人が止まるように言ってきているのが、聞こえたが、そんなことお構いなしだ。

 

(どうなっている!? クソ!? あれが、アレが幻覚だったっていうのか!?)

 

通路をまっすぐ突っ切り、さらに奥の裏路地に出るが、そこには先ほどと同じ普通の裏路地が広がっているだけだった。その状況を見て、当麻は愕然とする。

 

「ほんとうに‥‥‥何もないのか‥‥‥」

 

一体全体何が起こっているのか、まったく状況が掴めない。いっその事、本当にあれは幻覚で御坂妹は何事もなかったかのように明日、現れるのだろうか。それとも‥‥‥

 

(魔物が入りこんでいる‥‥‥?)

「なあぁぁぁぁ‥‥‥」

「あ、あぁ。ごめんな、怖がらせて」

 

走ったりなんだりして驚いたのか、ずっと腕で抱えていた子猫が鳴く。当麻も子猫の鳴き声でとりあえず一旦落ち着いた。そして、これからどうするべきかと頭を悩ませる。

 

「まず、警備員の人に謝らないといけないよな‥‥‥あと、できれば御坂妹の安否の確認も‥‥‥」

 

これからのことを考え始めた、その時別方向の裏路地から人が現れる。誰だと思い、そちらを見ると、そこには大きな荷物を肩に抱えた御坂妹がいた。

 

「御坂‥‥‥妹‥‥‥」

「申し訳ありません。作業を終えたらそちらへ戻る予定だったのですが、と」

「無事だったのか‥‥‥!」

 

御坂妹が無事だったことが嬉しくて、向こうが喋っているのを遮ってしまう。それが嫌だったのか、御坂妹は黙ってしまう。

 

「あ~悪い。お前にとっては気分の悪い話だけどさ、今の今までお前が危ない目に遭っているんじゃないかと思っていたんだ。けど、良かったよ。なんともないみたいだし」

「‥‥‥あなたの言動には理解しがたい部分がありますが」

 

安心したのか、当麻は矢継ぎ早に御坂妹に話しかけていく。一段落したと判断し、淡々と御坂妹は話し始めるが、予想外の言葉が飛び出す。

 

 

 

「ミサカはきちんと死亡しました、と、ミサカは報告します」

 

 

 

「はっ? いや、ちょっと待て。お前、何を言って‥‥‥」

 

死んだ? いや、お前はそこにいるじゃないかと、言おうとしたが、彼女が抱えている大きな荷物を見て、当麻は言葉が詰まる。そこから見えたのは御坂妹と同じ茶色の髪色。

 

「‥‥‥その寝袋には何が入っている?」

 

嫌な予感がまたも走る。心臓がうるさいぐらいになり始める。その寝袋に入っているものが、自分の想像通りならば‥‥‥そんな当麻に御坂妹は沈黙する。だが、当麻の問いに答えたのは、目の前の御坂妹の後ろから現れた人物だった。

 

「その寝袋に入っているのは妹達ですよ、と、ミサカは答えます」

「なっ!?」

「黒猫を置き去りにした事については謝罪します」

 

その人物に当麻は驚愕する。だって、そこに現れたのは御坂妹と瓜二つだったのだから。あまりの衝撃に当麻は一歩後ずさる。だが、次の瞬間。

 

「ですが、ミサカの都合で動物を巻き込むのは気が引けましたと、弁明します」

 

後ろからも御坂妹と瓜二つの人物が現れた。

 

「“実験場”に入っている時点で関係者かと思いましたが」

 

「どうやら、あなたは完全な部会者のようですね」

 

「詳細は機密事項になっているため、詳しくは話せませんが」

 

「“実験”の残骸の後始末をしていただけです、と、ミサカは補足しておきます」

 

さらに、四方八方から御坂妹が現れて、各々の言葉で説明を続ける。その数は十人以上になっており、当麻は只々困惑するしかなかった。

 

(な、なんだこれ‥‥‥なにが‥‥‥)

「どうやらあなたには無用な心配をかけてしまったようですね」

「警備員に通報したのはあなたですね、と、ミサカは確認します」

「血液なら凝固剤を使えば一分前後で固められると」

「黒猫は大丈夫ですか」

「アドレナリンの分泌を確認」

「ミサカは」

「事件性はありません、と、補足し」

 

 

 

「ここにいるミサカは、全て“ミサカ”です」

 

 

 

「現在あなたは極度のストレス状態にあると、ミサカは判断します」

 

何十人もの御坂妹に、当麻はただ立ちすくむしかなく、そんな状態を一人の御坂妹が冷静に当麻の状態を判断する。訳が分からず、困惑するかない当麻だったが、それでも何とか意識を保って、寝袋を持っているミサカを見る。

 

「心配なさらずとも今日まで接してきたミサカは検体番号10032号‥‥‥つまり、このミサカです」

「“ミサカ”は電気を操る能力を応用し、互いの脳波リンクをさせています。他のミサカは10032号の記憶を共有しているにすぎません」

 

それを知って、今日まで接してきた御坂妹が生きていたことに喜べばいいのか、理解が追い付かないこの状況に困惑すればいいのか、意味が分からなくなる。とにかく、この状況に対して答えが欲しい、そう思い当麻は尋ねる。

 

「‥‥‥お前は、“誰なんだ”!」

「学園都市に七人しか存在しない超能力者。お姉さま(オリジナル)の量産軍用モデルとして作られた複製人間(レプリカ)、妹達(シスターズ)ですよ」

 

告げられた事実に当麻はさらに困惑した。話の内容が、事実が大きすぎる。藪をつついて蛇が出たどころではない。もっと大きな何かが目の前に現れてしまい、当麻は打ちのめされてしまった。妹達は、話すことは終わったと一人、また一人と裏路地に奥に消えていく。

 

「本実験にあなたを巻き込んでしまった事には重ねて謝罪しましょうと、ミサカは頭を下げます」

「ま、待て‥‥‥!」

「何でしょう?」

 

去って行く妹達を止めようとするが、また十人近くいる妹達に一斉に見られてしまい、当麻は怯んでしまう。妹達は少し待って、何も話そうとしない当麻にもう用がないとばかりに去って行った。当麻は、結局何もできなかったことと、立て続けに起こった出来事につかれてしまい、壁に寄りかかり、そのまま立ち尽くしていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

時間はいつの間にか夜になっており、当麻は黒猫を抱えながらバスに揺られていた。あの後、とにかく心を整理したくて、そのまま帰路についた。ちなみに、歩くことすら億劫になり、バスを利用している。

 

(クローン‥‥‥あいつがビリビリの)

 

妹達の話が本当なら、アイツらはビリビリ中学生こと御坂美琴のクローンで、そいつらが大量に作られているということだ。

 

(でも、何のために?)

 

あの時は只々困惑したが、考えてみれば何のために妹達を作ったのか。確かにアイツと同じような電気を操る能力の持ち主がたくさんいれば、すごいと思うが。

 

(軍用量産モデル‥‥‥魔物と戦うため?)

 

それなら納得できそうだが、どう見てもそんな風には見えない。そもそも、それなら学園都市にはいない。ならば、他に目的があるのか。

 

(実験って言っていたけど‥‥‥ダメだ、全然思いつかない)

 

これが雄二や、土御門、承太郎ならもっと他の考えが出たのかもしれないが、当麻にはこれ以上何も思いつかなかった。

 

(結局、肝心な所で俺はダメだな‥‥‥)

 

当麻は自身の右手を見る。この手には幻想殺しが宿っており、この世の理不尽と言える力を打ち消せる。だが、それだけだ。それだけしかできず、結局は意志の強さで覆すしかない。

 

「でも、それを成すには力が必要で‥‥‥」

 

堂々巡りだ。結局のところ、俺はアイツらに何がしたいのか、分からない。そんな不安を感じたのか、黒猫が鳴き声を上げて、俺の方を心配そうに見つめてくる。

 

「‥‥‥悪いな。結局、アイツの元に返せなくて」

 

黒猫のあやす様に頭を撫でる。それを受けて、黒猫は気持ちよさそうにする。案外、癒されるものだなと、当麻は思う。

 

(そういえば、アイツ‥‥‥)

 

ふと、当麻は御坂美琴のことを思い出す。御坂妹と初めて会ったとき、アイツは明らかにアイツのことを知っている風だった。その後も、妹と会ったことを言ったら、こちらに詰め寄ろうとしてきた。

 

(それにシスターズの話では‥‥‥)

 

お姉さま‥‥‥ようは御坂美琴のクローンと言っていた。それはアイツの協力が必要なわけで‥‥‥。

 

「アイツは‥‥‥最初っから知っていた?」

 

いや、アイツの性格上、こんなクローン計画に協力するなんてありえない。それなら、気づかれない内にアイツのDNAを採取して計画を実行しているということの方が現実的だ。だが、それでは御坂美琴の妹に対する態度に納得がいかない。

 

『次は常盤台中学生寮前、常盤台中学生寮前』

 

その時、丁度御坂美琴が通う学校の寮前に到着した。当麻は一瞬迷ったが、意を決して黒猫を抱えてバスを降りる。建物の前で少し悩んだが、再び寮の入り口に進む。郵便受けを見て、アイツの自室番号を確認する。

 

(208号室‥‥‥)

 

確認した後、そのまま当麻はインターホンにその番号を入れて、呼び出しを押そうとする。

 

(‥‥‥会って、どうする)

 

呼び出そうとしたが、嫌な考えが頭をよぎってしまい、止まってしまう。御坂妹は『実験』と言っていた。自分たちは御坂美琴から作られたクローンとも。状況から考えて、御坂美琴は『実験』に素材を提供した“協力者”という事になる。

 

「協力‥‥‥人一人殺す実験に協力‥‥‥」

 

アイツは全部知った上で協力していたのか?

それがどういうことかを知った上で?

 

あの活発で、いつも勝気な笑顔の裏で、誰かが死んでいるのを、自分が協力したせいで犠牲になっている人がいることを理解して。

 

(もし、全部承知の上であるのなら‥‥‥)

 

何を話せばいいのだ。未だに大事な人の死を引きずっている俺なんかが。

 

「みゃ~」

 

考えが纏まらなくなり始めた時、腕に抱えていた黒猫に声を掛けられて我に返る。当麻は一呼吸を入れて、インターホンを鳴らした。

 

『―――はい?』

「‥‥‥上条だけど、御坂か?」

『はぁ? カミジョーさんですの?』

「あ、やべ‥‥‥部屋を間違えたか?」

 

思っていた返事とは違い、さらに自分のことを知らない人物ということに当麻は焦ってしまう。

 

『いえいえ。お姉さまでしたらすぐにお戻りになられるかと。御用がおありでしたら、中に入って待つことをお勧めしますわ』

 

それと同時に寮の入り口が開く。当麻は若干戸惑いながらも寮の中に入る。中はドラマにでも出てきそうな洋館のロビーみたいな場所で、埃一つもないような広間が広がっていた。当麻は自分が住んでいるマンションと比べて、レベルが違うことに圧巻しながらも、208号室を探した。程なく部屋を見つけて、ノックする。

 

「どうぞ。鍵はかかっておりませんので、お入りになって」

 

なにか聞き覚えのある声に言われ、部屋に入る。

 

「あら?」

 

部屋にはベッドに座っていた一人の少女がいたが、当麻は彼女のことをすぐに思い出す。

 

「お前、先日の! えっと、確か‥‥‥しろくろ‥‥‥」

「白井黒子ですわ、殿方さん。わたくし、お姉さまとは相部屋ですの」

 

そう、白井黒子。2千円札が自動販売機にくわれた日に出会った、テレポートの少女であり、御坂美琴をお姉さまと言って、慕っていた少女である。まさか、相部屋だったとは‥‥‥と驚く当麻だが、白井の方は明らかに敵意丸出しで立ち上がり、当麻に詰め寄ってくる。

 

「やってくれますわね!? お姉さまをつけ回すにあきたらず‥‥‥部屋にまで押しかけてくるなんて!!」

「お、押しかけ!? 違うって! そんなんじゃねぇよ!?」

「あぁ~!? わたくしとしたことが大失態ですわ! こんな馬の骨をわたくしとお姉様の愛の巣に招き入れてしまうなんて!?」

 

そう言って、白井はベッドに倒れこみ、枕を抱えて身をよじる。当麻は誤解を受けつつも、訂正するのも面倒なので、御坂のことを尋ねる。

 

「御坂は? いつ帰ってくるんだ?」

「‥‥‥そんなところに突っ立ってないで、腰掛けたらどうですの? 隣のベッドが空いてますわよ」

「いいのか? 勝手に」

「ご心配なく。そちらはわたくしのベッドですので‥‥‥当然ですが、こちらのベッドは! お姉さまのベッドだけは譲れませんわよ!!」

「そ、そうですか‥‥‥」

 

何やら別の意味で興奮し始めた白井に、あまり、それについては聞かないでおこうと当麻は思い、当麻はもう一つのベッドに腰掛けた。

 

「‥‥‥それで、あなたはお姉様と頻繁に諍いを起こしている殿方でよろしいんですの?」

「あぁ~‥‥‥まぁ、多分そうだな」

 

白井が落ち着くのを待っていると、相手の方から話を振られ、当麻も適当に返事をする。最初こそはアイツの過剰防衛を咎めるためだったが、今は向こうの方から突っかかってくるので、むしろこちらは被害者の方なのだが。

 

「曖昧な返事ですこと‥‥‥まぁ、噂の“あの馬鹿”さんとは、一度じっくりお話ししたいと思っていましたの」

「(馬鹿‥‥‥)あいつ、そんなことを言っていたのか」

「えぇ、それはもう、楽しそうに!」

 

若干呆れ気味に白井は話を続ける。その言葉にはなにやら大層な実感が籠っており、そうとう話をしていたのだろうと思えるほどだった。当麻としても楽しそうと言われても、楽し気にしているのはあまり見ないし、むしろこちらをからかったり、怒っていたりする方が多い。

 

「まったく‥‥‥こんなのを支えにしなくても、お姉様の力になりたい人はここにいますのに」

「いや、アイツは俺を目の敵にしているだけだって」

「チッ、不粋ですわね。お猿さんにも理解できるように言いますわよ!?」

 

そうして、白井は一呼吸を置く。その間に黒猫が腕から飛び出し、白井の揺れるツインテールの髪に片方に寄って来る。白井は若干それに戸惑いながらも、話を続ける。

 

「超電磁砲(レールガン) 御坂美琴お姉様は学園都市第3位にして常盤台のエース。選ばれた存在であるお姉様は人の輪の中心に立てても、輪の中に混ざることはできない。そんなお姉様にとって」

 

ここで白井は一呼吸おいて、さらに話を続ける

 

「自分を対等に見てくれる存在‥‥‥とまぁ、こんな所だと思いますわよ」

 

若干悔しそうに白井は話す。そんな話を受けて、当麻はなおのこと戸惑う。

 

(自販機に蹴りを入れる“ふざけたお嬢様”)

 

あの日、いつも通りにやっている風で、2千円札が飲まれたことで大爆笑していたお嬢様。

 

(異常な『実験』の“協力者”)

 

今日、路地裏で現れた御坂妹達を使っての非人道的な実験。

 

(どっちが本当の御坂美琴なんだ‥‥‥!?)

 

おそらく、誰よりも身近にいるであろう白井の話を聞いて、当麻はますます困惑してしまう。そうこう考え込んでしまっていると、廊下の方から足跡が聞こえてきた。

 

「まっずい、寮監の抜き打ち巡回のようですわね!」

「えっ?」

「見つかると大変なことになりますわ! 本来だったら、男子禁制ですのよ!」

「はぁ!? ど、どうすりゃいいんだよ!?」

「その辺に隠れてくだいさいの!」

「か、隠れるったって、どこに‥‥‥!」

「あぁ、もう! 面倒ですの!」

 

白井はベッドから即座に立ち上がり、当麻の右手を掴む。そして、一瞬静寂に包まれるが、白井は自身の超能力が発動しないことに困惑する。

 

「‥‥‥あら? あなた、どうしてわたくしの力が働かないんですの?」

「あ、あぁ。それは俺の幻想殺しでっでぇ!?」

 

当麻は能力を説明しようとするが、部屋をノックする音がして、白井は咄嗟に当麻をベッドの方に蹴り飛ばす。

 

「なにすんだよ」

「いいから、大人しくベッドの下にでも潜り込んでろっですの!」

 

そう言われて、当麻は咄嗟にベッドの下に身を隠し、白井は部屋のドアに向かう。程なくして、部屋のドアが開き、寮監が現れる。

 

「白井、夕食の時間だ。食堂へ集合せよ」

「はぁーい、ですの」

「‥‥‥御坂は?」

 

ドアの方から話声が聞こえてくるが、当麻は見つかりませんようにと願いながら、ベッドの下で息をひそめる。しかし、一緒に連れてきていた黒猫は暇なのか、当麻の頭を登ろうとする。

 

「イデッ、いででで。つ、爪を立てるな‥‥‥うん?」

 

黒猫のせいで気が逸れたからか、当麻はベッドの下に他にも何かあると気づく。気になって、そちらを見ると、そこには大きなクマのぬいぐるみがあった。

 

「何だ、ぬいぐるみか‥‥‥あれ?」

 

ぬいぐるみかと安心したが、そのぬいぐるみの首の方に何やら資料がはみ出ていることに気が付く。気になって引っこ抜いてみると、そこには衝撃的な文字が書かれていた。

 

『量産異能者「妹達」の運用‥‥‥超能力者「一方通行」‥‥‥』

 

息をのむ。目の前にアイツらが言っていた実験の内容が書かれたものが現れたのだから。程なくして、白井も寮監も部屋を出ていき、部屋には当麻と黒猫の一人と一匹になる。当麻はベッドから這い出て、一緒に取り出した資料を読む。

 

『量産異能者(レディオノイズ)「妹達」の運用における超能力者「一方通行」の絶対能力(レベル6)への進化法』

「レベル‥‥‥6‥‥‥?」

 

一体なんのことだと思い、当麻は読み続ける。おそらく、ここに求めている答えがあると思って。

 

『学園都市には7人の超能力者が存在する。しかし、「樹形図の設計者」を用いて予測演算した結果、まだ見ぬ絶対能力へ到達できる者は一名のみという事が判明した。

 

唯一、絶対能力に辿りつける者を“一方通行”と呼ぶ』

 

「一方通行‥‥‥」

 

聞いたことがある‥‥‥というよりも学園都市に住む者なら、だれでも知っている。一方通行‥‥‥学園都市最強の超能力者。

 

『しかしながら、通常の時間割りの元では絶対能力への進化には250年の経過を必要とする。そこで我々は実践を用いた特殊時間割りを組み込むことで能力の成長を促すことにした。

 

すなわち、特定の戦場を用意し、シナリオ通りに戦闘を進めることで「実戦における成長」の方向性をこちらで操るというものだ』

 

「実戦における成長‥‥‥」

 

その言葉には納得がいくものがある。今までの超能力者とのゴタゴタでもそうだし、直近では明久が戦闘中に魔法に目覚めるということもあった。もし、それを操れるのだとしたら、それはとてもすごいことだ。だが、次の文章に当麻は衝撃が走る。

 

『「樹形図の設計者」による演算結果では、128種類の戦場を用意し、“超電磁砲(レールガン)”を128回殺害することで、“一方通行”は絶対能力へと進化する。

 

当然ながらレベル5である超電磁砲を128人も用意できない。我々は同時期に進められていた超能力者量産計画「妹達」に着目した。

 

超電磁砲の毛髪から摘出した体細胞も用いて、フォミクリーによる複製に成功。言語・運動・倫理など基本的な脳内情報は洗脳装置を用いて強制入力。結果、およそ14日で超電磁砲と同様、14歳の肉体を持った複製人間(レプリカ)が出来上がる。

 

多少の劣化は認められ、実力はレベル3程度。これを用いて「樹形図の設計者」に再演算させた結果、

 

2万通りの戦場を用意し、2万人の妹達を殺害することでレベル6への進化への結果が得られることが判明した』

 

「―――っざけな。ふざけんな! ちくしょう!」

 

あまりの内容に当麻は資料を地面に叩きつけて叫ぶ。この内容通りなら、これまで妹達は誰かが描いたシナリオ通りに死んでいったということになる。つまり、今日のあの時も‥‥‥。

 

(こんな資料を隠し持っていたってことは、つまりアイツは‥‥‥)

 

これは関係者向けの内部資料だ。これを持っていて知らないはずがない。つまり、アイツもあの実験に協力していたということだ。それは‥‥‥アイツが‥‥‥。

 

「‥‥‥あれ? 何だ、この資料は」

 

驚愕の事実に落胆していたら、実験の資料の他に地図があることに気が付いた。なんの地図だと思い、地図を開く。

 

『金崎大学付属・筋ジストロフィー研究センター』

 

この施設のところに×マークが記されていた。

 

「筋ジストロフィー‥‥‥?」

 

そういえば、この言葉、最近聞いたことがある。確かあれは‥‥‥そう、飛行船の時だ。アイツが樹形図の設計者が嫌いだって言っていて‥‥‥。

 

『筋ジストロフィー関連の研究施設は相次いで撤退を表明しており‥‥‥』

 

(まさか‥‥‥!)

 

当麻はもしやと思い、資料と黒猫を持って、寮を飛び出した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「はぁ、はぁ‥‥‥どこだ。どこにいる、御坂‥‥‥!」

 

寮を飛び出した当麻は当てもなく夜の学園都市を走り回っていた。あの資料と地図を見て、当麻はどうしても御坂に問い質さなくてはならないと思った。

 

(どっちなんだ‥‥‥! アイツは‥‥‥!)

 

実験の協力者なら何が何でも止めてやる。でも、それ以外なら‥‥‥そう思った瞬間、当麻の足が唐突に止まる。黒猫は急に止まってしまった当麻を仰ぎ見る。

 

「それ以外なら‥‥‥なんだよ」

 

それ以外なら、アイツに俺は何をしてやれるのだ。未だに自分のことすらままならないような自分に何ができる。ここにきて、当麻は未だに自分が悩みにとらわれていることが、重くのしかかってきた。

 

「俺は‥‥‥」

 

自分の悩みを抱えている奴が、相手を助けることができるのか。また、力が足りずに、何も救えないで終わるのではないのか。考えがグルグルとまわり始める。こんなことをしている間にも妹達は死んでいっているのに。

 

「くそっ! 動かないと。それでも、動かないと‥‥‥!」

「当麻? 何やっているの?」

 

どんどん足が重くなり、終いには動かなくなってしまったところで、背後から誰かが声を掛けてくる。誰だと思い、振り向くと、そこにはオニギリを立ち食いしている明久がいた。明久は怪訝そうにこちらを見る。

 

「なんか、動かないとって連呼しているけど‥‥‥なんかあったの?」

「‥‥‥してだよ」

「はい?」

「どうしてなんだよ、お前は!?」

「はぁ?」

 

突然現れた明久に、とうとう当麻は悩みが爆発してしまう。明久も急に声を上げられて、戸惑ってしまう。

 

「お前はどうして、そう簡単に立ち直っているんだよ!? お前はあの時、なにも感じなかったのかよ!?」

「はぁ? 何急に?」

「俺は! ずっと、ずっと考えていたんだ! あの時のことを、何かできなかったのかって‥‥‥!」

 

自分だけ、さっさと立ち直って、前を向いて歩きだしやがって‥‥‥俺はまだ悩んでいるのに。いや、もう悩む時間なんてないのに!

 

「自分一人だけさっさと進みやがって! どうしたら、そんな風になれるんだよ!?」

「‥‥‥」

「俺は、そんな風になれないのに‥‥‥! どうして!」

「てい」

 

ビシッ!

 

「あいて!?

「これで少しは頭が冷えた? バカ?」

 

当麻が叫び続けていると、突如明久が当麻にデコピンを食らわせた。急な一発に当麻は何も出来ず、ただ痛みで額を抑える。

 

「なんか足踏みしていると思ったら、いきなり叫んで‥‥‥しかも急に罵倒してくるとはね」

「わ、悪かった‥‥‥」

「そもそも、お前は“そんな風”っていうけどさぁ‥‥‥」

 

急に声を上げて、罵倒された明久は当然若干怒り気味に当麻に話始める。

 

 

 

 

「僕が“そんな風”になったのは、当麻、君のせいなんだからね」

 




いかがだったでしょうか?

ここら辺の場面は手を抜くわけにはいかないため、長くなりましたが、まだまだ彼の話は続きます。

次はこの小説の明久がこうなったのか、ということと御坂美琴の話です。

では、皆様。よいお年を。
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