あなたへおくる物語   作:紫炎.2

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まずは謝罪を。

連作のくせにメチャクチャ投稿期間が空いてしまったことにお詫びいたします。
プライベートがどうしても忙しくて‥‥‥まぁ、主に仕事なんですがね。

それに本話の投稿にあたり、他の小説にも矛盾が生じていることに気付き、勝手ながら修正を入れていただきました。

一応は整合性は大丈夫だと思いますが、何か違和感を感じたら、適宜修正する可能性はあります。ただ、ストーリーのメインチャートが変更されているわけではないので、ご安心ください

それでは、どうぞ。


第27話:吉井明久と御坂美琴の根源

「お、おれのせい?」

「そう、君のせい」

 

取り乱していた当麻を落ち着かせた明久は、当麻が言っていた今の在り方は当麻のせいだと言う。全く心当たりのない当麻には何のことだか分からず、只々困惑するばかりである。そんな当麻の困惑など知ったことではないとばかりに明久は話し始める。

 

「その様子だと心当たりはないようだね」

「あ、あぁ。ていうか、今はそうじゃなくてだな‥‥‥」

「あぁん?」

「ハイ、ダマッテキカセテイタダキマス」

 

明久を諫めようとしたが、聞き耳持たずとばかりに威圧され、当麻は黙り込む。明久はそのまま話を続ける。

 

「昔っから自覚しないままだよね、そこんところは」

「えっと、それはどういう‥‥‥」

「当麻は僕のこと、完全に折り合いつけて前に進んでいるって思っているでしょ?」

「あ、あぁ。だから、ソレの使いこなそうともしているし、悩んでいる風にも見えなかったし‥‥‥」

「そんなわけないでしょ。むしろ、僕はまだ全然折り合いついてないよ」

「えっ?」

 

まさかの言葉に当麻は戸惑う。てっきり、俺たちの中で一番に折り合いをつけて、前に進んでいるとばかり思っていた。だが、そんな明久からは思いもよらない言葉が飛び出す。

 

「むしろ、当麻の方がすでに折り合いつけて前に進んでいるとばかり思っていたよ。昔っからそんな感じだったし」

「昔っからって‥‥‥そんなに俺はどんどん前に進んでいるように見えていたのか?」

「というより、それしか見てなかったと思うけど?」

 

ため息を吐きながら明久は昔を思い出しながら、話し続ける。

 

「小学3年の頃だったかな? 山に遠足に行ったとき、僕ははしゃぎすぎて道を踏み外したのは覚えている?」

「‥‥‥あぁ、覚えている」

 

昔を懐かしむかのように当麻は少し、間をおいて思い出す。

 

当麻と明久の出会い‥‥‥正確には、当麻と明久、まどかにさやかと4人の出会いである。当時、二人は同じ小学生で、同じクラスメイトだった。その学校で行事があり、遠足に行くことになったのだが、そこで明久ははしゃぎ過ぎて道を踏み外してしまった。

 

「崖に一直線だったところを当麻が飛び込んできて、僕を抱えて一緒に落ちた」

「あの時は無我夢中だったからな‥‥‥それしか思いつかなかったし」

「あの時からは当麻は僕にとってヒーローになったんだよ」

 

ヒーローと聞いて当麻は若干照れるが、明らかに褒めているようには見えない明久の表情に当麻は再度気を引き締める。

 

「誰かが困っていたり、悲しんでいたりすれば、すぐに駆けつけて解決していく。漫画やアニメで出てくるヒーローそのものだった」

「そう言ってくれるのは、ありがたいけどよ‥‥‥」

「それが小学5年生になって、ふと思ったんだ。どうして当麻はそこまで頑張るのかなってね」

「それは‥‥‥」

「そんなことを考えながら、当麻の活躍を見ていた時のこと。当麻は6年生の、しかも当初喧嘩が強いって有名な先輩と喧嘩になっていたのを覚えている?」

「あぁ、もちろんだ」

 

当時のことを思い出す様に当麻は目を閉じる。あれは偶然通りかかったときのことで、さやかとまどかを強引に遊びに誘おうとしてたのを見かねて、その先輩に食って掛かったことだ。その先輩がやたら強くて、梃子摺っていた所を‥‥‥。

 

「喧嘩しているところにお前が乱入してきたんだよな」

「そうだよ。あの時こそが当麻が僕の人生をさらに捻じ曲げた瞬間だよ」

「いや、人生を捻じ曲げたって‥‥‥」

「僕はね、その時も心配になりながらも、当麻が必ず勝つって信じていたんだよ。でも、そんな時、一緒にさやかとまどかがね」

 

そこで一息入れて、明久は続ける。

 

「誰よりも辛い表情をして喧嘩を見守っていたんだ」

 

「だから、僕は喧嘩にも介入したし、その後当麻にも一言二言言ってやったんだよ」

「あぁ、覚えている。『お前! この‥‥‥馬鹿野郎!』だったな」

 

その当時は何を言っているのか分からなかったし、只々怒鳴っているぐらいにしか聞こえなかったが、俺のために怒っていることは分かった。

 

「あの時からよくわかったよ。当麻は放っておいたら、いつか死んでしまうってね」

「そういえば、あの時から俺の喧嘩によくお前が介入するようになったよな」

「さらに言えば、さやかとまどかからも色々相談されたよ。当麻の突撃癖と思い込みについてね」

 

嫌味ったらしく言われ、耳が痛てぇと当麻は頭を掻く。確かに明久に言われた通り、俺は何かあれば、お節介と言われようともそこに首を突っ込み、解決するまで動く。だが、それは正義感とか、そういうものではなく‥‥‥。

 

「俺の周囲で起こる不幸は、俺の不幸に巻き込まれた結果なんだ。だから、俺は俺自身の手でその不幸を、辛い幻想をぶち壊す」

 

どういうわけか、当麻の周りでは不幸な出来事がよく起こり、その不幸は当麻自身も身をもって知っている。そのせいで当麻は一時期疫病神扱いされていたことがあった。そのことから当麻は自分で解決することで、周りの評価を変えようとした。

 

「ほら、これだよ。いくら言っても矯正できない当麻の悪いところ」

「実際、その通りなんだよ。だから俺は‥‥‥」

 

あの人も、本当は俺が現れたから死ぬ羽目になったのでは‥‥‥と言おうとしたところで、明久がいきなり顔を真正面に近づけてくる。

 

「だから僕は何度だって言ってやるよ。『その不幸を僕がぶっ飛ばしてやる』ってね」

「あっ‥‥‥」

「当麻の周囲で起こる不幸は、君のせいばかりじゃないのに、君は全部背負おうとする。そして、それを心配する人がいる。でも、君は止まらない。なら、せめて君の不幸を僕がぶっ飛ばしてやる。そう決めたって言ったでしょ?」

 

だから、いつまでも自分一人で悩まずに話してよ、と明久は言い終わる。あの時から明久は俺の隣に立って、俺が無茶するたびに同じように無茶をするようになったのだ。そう考えれば、俺がこいつをこんな風にしたと言える。

 

「まぁ‥‥‥わかった。今のお前になったのは、俺の影響だな」

「で、何をそんなに悩んでいるの? と言っても、おおよそ想像はつくけど」

「まぁ、想像通りだよ。情けねぇよな‥‥‥」

「情けなくはないよ。僕だって乗り越えたわけじゃないし」

 

いや、そんな風には見えないと言おうとしたが、明久は続けて話し続ける。

 

「それより、当麻の方はどうしたの?」

「まぁ、何だ。相手に尋ねるのが怖いってだけだ」

「怖い? 何が?」

「俺の知っているアイツの素顔が分からなくなって怖いんだよ」

 

落ち着いて考えてみたら、結局はそういうことだ。俺の知っている御坂美琴なら、クローン計画に加担するなんてしない。だが、本当の御坂美琴は計画を知っていてかつ、それに協力しているのなら‥‥‥。

 

「今まで信じていたアイツの素顔を嘘とは思いたくないんだよ」

「‥‥‥それって、本人から聞いたの?」

「いや、まだだけど‥‥‥」

「じゃあ、聞きに行きなよ。それから考えればいいんだし」

「聞きに行けって、お前。簡単に言うけどなぁ‥‥‥」

「簡単だよ。当麻が知っているその人そのままならそれでいいし、もし間違っているのなら‥‥‥」

 

そこで一息ついて、明久はこぶしを俺の前に勢いよく突き出す。

 

「その幻想をぶち壊せばいいでしょ?」

「‥‥‥ははっ。そうだな、その通りだな」

 

そうだった、何を悩んでいたんだ俺は。俺の右手は超能力とか魔法を打ち消すためなんかじゃない。俺の右手は、俺の思いは‥‥‥。

 

「あぁ、そんな幻想、俺がぶち壊してやる」

「うん、その意気だよ」

 

出てきた問題が大きすぎて、俺は自分がやりたいことを見失っていた。だが、単純なことだったのだ。アイツが間違っているのなら、それを正してやればいいのだ。俺はグッと右手に力を込める。

 

「ありがとな。おかげで目が覚めたよ」

「どうも致しまして。とりあえず、その人に会いに行きなよ」

 

途中だったんでしょ、っと明久は道を譲る。その先にはいつの間にか俺から離れていた子猫が俺を待っていた。

 

「あぁ、行ってくる!」

「気を付けてね、怪我して帰ってきたら、さやかが怖いよ?」

「その時はお前も説明してくれよな!」

 

そして、俺は夜の街を子猫と一緒に走り出した。確かな一歩を踏みしめるように。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

夜も更けてきて、周囲に人がいなくなり、車もあまり走らなくなってきた夜の鉄橋。そこには一人の少女が橋から川をぼんやりと眺めていた。

 

―――困っている人がいるなら助けたいと思った。

 

小さいころ、私の能力は弱いが、さらなる成長が見込まれており、そのことから研究施設に通うことが多かった私は、ある病気を知った。

 

―――筋ジストロフィー症。全身の筋肉が少しずつ弱くなっていく病

 

私が通う研究施設ではその病にかかった子供たちがいて、必死にリハビリを繰り返していた。だが、その施設の研究員が言うには、治療法が見つかっておらず、長くは生きられないという。

 

―――助けてみたくはないかね?

 

私の能力を応用すれば、生体電気に干渉することが可能になり、治療法が見つかるかもしれない。その話を聞いて、私は喜んで協力した。

 

―――苦しんでいる人達に、希望の光を与えることが出来るのなら

 

「‥‥‥どうして、こんな事になったのかな」

 

結果が、今の事態。大人たちにとって都合のいいレプリカが量産されて、そして消費されていく。そして、本来望んでいた出来事は全く見向きもされず、消えていく。

 

「なんで‥‥‥」

 

『アンタ、自分が殺されるための実験を手伝うなんて、何考えているのよ!?』

『ミサカは実験動物として造られました。与えられたスケジュールは実行しなければなりません。と、ミサカは返答します』

 

あの子はそう言って、そのまま実験場所に向かう。その後は‥‥‥

 

「ッツ!?」

 

鮮血が舞い、なんてことのない死体が転がる。さっきまで、生きていた子が。

 

―――私が殺した

 

私が不用意にDNAマップを提供したせいで、あの子達は消費されるために生まれて、殺されるために死ぬのだ。何の意味もなく‥‥‥挙句、

 

『お姉さま、お姉さま、仔猫が‥‥‥』

『やめて‥‥‥やめてよ‥‥‥』

 

私と仲良くなろうとした一人の子を。

 

『その声で、その姿で、私の前に現れないで‥‥‥ッ!』

『‥‥‥はい、失礼しました』

 

私は拒絶した。私の罪を目の前で押し付けられている罪悪感に耐えかねて。私の都合で。

 

「‥‥‥どうすればいいの?」

 

逆転の切り札はもう、ない。一応、最後の、本当に最後の一手だけならある。だが、これも確立の低すぎる博打だ。なにより、これを実行したら‥‥‥

 

「‥‥‥て」

 

今更、そんな資格もないのに、体が心の底から震える。嫌だと、震える。でも、もうこれしか手はない。もはや、選択しないなんて許されない。

 

「助けて‥‥‥」

 

誰か、助けて。この悪夢を終わらせて。

 

―――ミャア

 

ふと、何か声が聞こえて、そちらを向くと、そこには黒い仔猫がいた。

 

(ネコ‥‥‥?)

 

何でここにネコが? そう思った子猫の後ろに人影が見える。

 

そこにはこの世で一番会いたいのに、会いたくなかった人がいた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

仔猫の進む先に合わせて走り回っていたら、探していたアイツが、御坂美琴がいた。一瞬躊躇するが、覚悟を決めて話しかける。

 

「何やってんだよ、おまえ」

 

一瞬だけ、唖然とした表情だったが、すぐにいつも生意気な表情に戻る。

 

「‥‥‥な、何よ。何していようが私の勝手でしょ。夜遊び程度でアンタにとやかく言われる筋合いは」

「やめろよ」

「やめるって何を? 今更夜歩きぐらい‥‥‥」

 

最初こそ取り繕うような感じだったが、いつもの感じに戻ってしまう。こいつは絶対に自分から話そうとはしない。俺は確信して、あの資料を取り出す。

 

「これ、知っているよな?」

「‥‥‥ッ!?」

「御坂妹の事も『妹達』の事も実験の事も『一方通行』の事も知っているから。だから互いに無駄なことは省こうぜ」

 

さて、どう出る。返答によっては‥‥‥俺は身構える。ことによっては、このままコイツと戦いになる可能性がある。今までのようなじゃれ合いなんかじゃない、本気の戦闘になる。

 

「‥‥‥あーあ。アンタ、何者よ。ついこの間、私のレプリカにあったばかりでもうそこまで辿りつくなんて‥‥‥探偵にでもなれるわよ?」

 

そういって、アイツは橋の手すりに寄りかかる。その様子は犯行を暴かれて観念した犯人のような雰囲気だ。

 

「でもそれを持っているって事は私の部屋に勝手に上がり込んだのよね」

 

何もかも最初から知っていて、反省なんて微塵も感じさせない口調。

 

「あげく、ぬいぐるみの中まで探すなんて‥‥‥死刑よ、死刑」

 

この様子だけ聞いていれば、こいつが間違ったことをした悪い奴だ。

 

「で、結局アンタは私が心配だと思ったの? それとも許せない?」

 

だが、最後のこの言葉で確信した。だから、もう迷わない。

 

「心配したに決まっているだろ」

 

コイツは利用されたんだ。そして、自分なりにミサカ達を助けようとしたんだ。俺の言葉が予想外だったのか、一瞬呆然としたが急いで取り繕うとする。

 

「‥‥‥ぁ‥‥‥まっ、ウソでもそう言ってくれる人がいるだけで、マシってとこかし‥‥‥ら‥‥‥」

「ウソじゃねぇ」

「な‥‥‥に‥‥‥?」

「ウソじゃねぇって言ってんだろう!」

 

でも、自分でもどうしようもないところまで来てしまって、せめて誰かに責めてもらいたかった。だから、あんなことを聞いてきたのだ。御坂は先ほどまでの様子が崩れてしまい、そのまま手で顔を隠して、黙り込む。しばらくして、また話し始めた。

 

「‥‥‥あの子たち、ね。平気な顔で自分たちのことを『実験動物』って言うのよ。『実験動物』、ラットやモルモット。研究のために体中弄られて、用済みになったら焼却炉へ」

「‥‥‥」

「あの子達はね、『実験動物』っていうのがどんなものか正しく理解している。分かっていながら自分たちの事を『実験動物』って呼んでいるのよ」

 

それは‥‥‥確かに俺にも覚えがある。あの実験場で会った際に、自分たちのことを複製人間と、そう言っていた。それを淡々と、それこそ人間が人間です、というかのように。

 

「そんな状況を生んだ原因は私」

 

まるで自分の罪を告発する罪人のように御坂は話す。そして、アイツは手すりから離れて歩き始める。

 

「だから、あの子達は私の手で助け出さなきゃいけないの」

「どこに行く気だ?」

「今夜も実験が行われる。その前に私の打てる手で『一方通行』と決着をつけてくるわ」

 

そうしてその場を離れようとする御坂を俺は手で止める。

 

「‥‥‥? 何よ?」

「勝てるのか?」

「‥‥‥ッ」

「この資料には185手でお前が死ぬっていう『樹形図の設計者』の予測演算が書かれている。それを踏まえて、本当に『一方通行』ってヤツに勝つつもりで行くのか?」

 

おそらく、こいつには勝算はない。ここを離れようとした御坂は、まるで死を覚悟した罪人のようだった。これで、全てが終わる‥‥‥という諦めにも似た雰囲気だった。そして、それは思った通りだった。

 

「‥‥‥そうね、残念だけど私じゃ逆立ちしてもアイツには歯が立たない。だけど‥‥‥私にそれだけの価値がなかったら?」

「価値?」

「そう。最初の一手で私が負けて185手で私が死ぬっていう予言を覆したら?」

 

それは樹形図の設計者の予測演算ミスとなり、一方通行のレベル6進化への再計算が必要となる。だが、それをさせるには‥‥‥

 

「おまえ‥‥‥死ぬ気なのか?」

 

コイツの、御坂美琴の一撃負けが必要になる。そして、実験の性質上、ほぼ確実に死ぬ。御坂は俺からの問いかけには答えず、頭を掻く。

 

「そんな事で計画が止まると思っているのか?」

「えぇ。あの計画は私には当て馬になる程度の力はある事を前提にしている。なら私が一手で敗北して、地を這って、尻を振って無様に逃げ転がる事しかできなかったら‥‥‥研究者たちはきっとこう思う。『樹形図の設計者』の予測演算にも間違いはあるんだってね」

 

確かにそう考える奴が出てくるだろうし、ありえない話ではない。

 

「そんなもの‥‥‥再演算されちまったら無駄死にじゃねぇか!?」

「それはないのよ。『樹形図の設計者』はね、すでに破壊されているのよ。上は面子のために隠しているけど。だから、再演算はできないのよ」

 

破壊って‥‥‥あれがなかったらアフリカ大陸の魔物たちの動向は監視できないじゃあ‥‥‥って、そうじゃない。今の問題に対して、重要なことがまだ残っている。

 

「さぁ、分かったでしょ? 通してちょうだい」

 

そう言う御坂は表情や、雰囲気を見て、なおの事確信する。暗い、だが決意した表情はしに行こうとしている奴だ。

 

「ほら、通して」

「ダメだ」

 

コイツを行かせてはいけない。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「おまえが『一方通行』をぶっ倒しに行くつもりなら、俺が止めるのは間違っているかもしれない。でも最初から死のうとしている奴を行かせられない」

 

‥‥‥そうか。アンタはそう言うのか。なら、私は‥‥‥。

 

「じゃあ、何よ。アンタには他に方法があるって言うの?」

 

私は威嚇で電撃を放ち、アイツの持ってきた資料を焼く。何の予兆もなしに資料が燃えて、一瞬で灰になる。

 

「何もできないくせに綺麗事や理想論で語らないで」

 

虫唾が走る。ようやく、やっと決断できたのに。誰にも見せなかった本音を話したのに、よりにもよってコイツが‥‥‥!

 

「それでも‥‥‥嫌なんだ」

「‥‥‥話にならないわね。まさかレプリカなんて死んでも構わないとか思ってんじゃないでしょうね」

 

コイツに限ってそれはないと思いたいけど、こうまで邪魔してくるってことは、そんな風に思っているんじゃないかと考えてしまう。

 

「私の邪魔をしようっていうのなら、この場でアンタを撃ち抜く。嫌ならそこをどきなさい!」

「‥‥‥それはできない」

 

コイツは‥‥‥! 私は苛立ちと共に電気を周囲に放出する。もう、周囲の事なんてどうでもいい。立ちふさがるのなら!

 

「そう、力づくがお望みってわけね。今までアンタには勝てたことはないけど‥‥‥でも、今回ばかりは負けられないのよ!」

 

周囲にアイツの悪友どもはいない。それでもコイツに勝てたことはないけど‥‥‥それでも今回ばかりは!

 

絶対に勝つと意気込み、私が電撃を放出しようとした時、アイツは両手を上げて無抵抗の構えを見せた。

 

「‥‥‥何のマネよ?」

「俺は‥‥‥お前とは戦わない」

「ハ‥‥‥ハァ? アンタは本当に馬鹿なの? そうしたら私が手を出さないとでも思っているの?」

 

いつもなら確かに手は出さない。無抵抗のコイツに勝っても意味がないからだ。でも、今は別。あの子達の命が懸かっているのだ。

 

「私にはもう他に道なんてない! 無抵抗だろうと邪魔をするなら撃ち抜くわよ!?」

「それでも‥‥‥俺は戦わない!」

「ふっ、ふざけるな!」

 

尚も無抵抗の姿勢を崩さないアイツを、その近くの鉄柱に電撃を当てる。威嚇でも何でもない、本気の一撃を。

 

「戦う気があるなら拳を握れ! 戦う気がないなら立ちふさがるなぁ! 半端な気持ちで人の願いを踏みにじってんじゃないわよ!?」

 

何がしたいのコイツは!? 何がしたいのよ!? そんな行動が一番辛いのよ!? 戦え! 戦え!

 

「‥‥‥戦わない」

「‥‥‥戦えって言ってんのよぉ!」

 

私は言葉のまま、電撃を放つ。そうすれば、アイツは電撃を嫌でも止めるから‥‥‥

 

ズドンッ!

 

電撃はそのままアイツを貫き、その衝撃でアイツは後ろに吹っ飛ぶ。

 

‥‥‥吹っ飛ぶ? 嘘だ。

 

だって、アイツには私の攻撃は当たるわけないのに‥‥‥そ、それに、電撃で貫いたば、場所は、アイツの、アイツの胸当たり‥‥‥。

 

最悪の考えが頭をよぎるが、アイツはゆっくり立ち上がってくる。それに対して、安堵しながらも、私は即座にその感情を押し殺して、アイツに話し掛ける。

 

「こ、これで分かったでしょ。私は本気でアンタを‥‥‥!?」

 

立ち上がってきたアイツは、またも無抵抗の構えを見せた。

 

「なん‥‥‥で」

「‥‥‥言っただろう。おまえとは戦わない」

「ッツ!? どうしてよ!? こんなイカレた実験は間違っているって分かっているでしょ!? それをやめさせようってんじゃない! 何で止めるのよ!?」

 

意味が分からない。続けるべきっていうのなら、立ちふさがるのも分かる。でも、戦わないってところが分からない。何がしたいのよ、コイツは!?

 

「‥‥‥あぁ、お前の言う通り、こんなのは間違っている。こんなモンの為に誰かが傷つくなんて」

「だっだら!」

「けど、お前のやり方じゃ‥‥‥おまえが救われない」

 

‥‥‥えっ?

 

「だから‥‥‥どかない」

 

なにを‥‥‥なにをいっているの、こいつは。わたしが‥‥‥?

 

「何を‥‥‥言っているのよ。私にはっ、今さらそんな言葉をかけてもらえるような資格はないんだから!」

 

この実験はそもそも私が遺伝子提供をしたから。だから、こんなことになっている。あの子達は死ぬために生まれてさせられてきている。それも、これも、私が軽率に実験に協力したから。だから‥‥‥!

 

「仮に! 誰もが笑っていられる幸せな世界があったとしても! そこに私の居場所なんかないんだから!」

 

こんな実験の発端を作った元凶が幸せになんてなっていいはずがない! だから、罪は償わないといけないの! そんな世界に私のような罪人がいていいはずがない!

 

「‥‥‥それで、残された妹達がおまえに感謝するとでも思っているのか?」

 

その言葉で私は頭の中が真っ白になった。あの子達の姿が浮かび、私は何を言えばいいのか分からなくなってしまった。そして、気づいてしまった。

 

「おまえだって気付いてんだろ‥‥‥こんなやり方じゃ誰も救われないって」

 

こいつの言う通りなのだ、と。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

瞬間、今までのとは比較にならない電撃が迸る。それは電撃というよりは電気が一つの奔流となって暴走したものだった。だが、それでも当麻はその場を動かなかった。

 

「うるさいのよ、あんたは‥‥‥あの子達だって‥‥‥」

 

その電流の中心に立つ美琴は、当麻によって見透かされた本心によって、もはや余裕などなく、辛うじて立っているような状態だった。

 

「あの子達だって私が死ねば、少しは気が楽になるわよ。もう、私が死ぬしか方法はないんだから‥‥‥一人の命で一万人が助かるなら素晴らしいことでしょ」

 

もはや理屈にもならない言葉で、目の前の人物をどかそうとする美琴。だが、当麻は毅然として立っている。

 

「もう、それでいいじゃない‥‥‥だから、そこを‥‥‥」

 

それはすでに何もかも失ったかのような人物が、目の前の人物に救いを求めるかのような懇願だった。だからこそ、当麻の答えは変わらない。

 

「どかない」

「‥‥‥ッ!」

 

当麻の拒絶と同時に暴走した電気は瞬間、解き放たれた。

 

少しして、力は霧散し、そこには息も絶え絶えの美琴と気絶した当麻がいた。美琴は一息つくと倒れている当麻に気付く。思わず当麻に近づこうとするが、踏みとどまってしまう。様々な思いが逡巡するが、いつの間にか近くにいた子猫に声を掛けられる。

 

「‥‥‥」

 

美琴は一瞬迷うが、倒れた当麻に近づいていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

猫の声が聞こえる。多分自分と一緒にやってきたアイツの子猫だ。その声に応えようとして、俺は目を覚ます。目を開けた先には御坂がいた。

 

「‥‥‥あ」

「やっぱ馬鹿でしょ、アンタ。もう、決定ね」

 

目を覚ました途端に御坂に罵られてしまう。まぁ、確かにそう言われてもしょうがないことしたからな。俺は何も言わずに、その言葉を受け入れる。

 

「何も、関係ないじゃない。目を瞑って、何も知らなかった事にすれば、今まで通りの日常に戻れるのに」

 

その通りだ。実際、御坂妹に言われた際に引いていれば、こんな目には合わなかった。

 

「能力を使えば私なんて、軽く黙らせられたのに」

 

幻想殺しを使えば、こんなに傷つくこともなかった。

 

「なんで‥‥‥なんでこんなにボロボロになって‥‥‥短い間だけど心臓も止まっていたかもしれないのに」

「ハハ‥‥‥」

 

全部こいつの言う通りだ。それが一番楽な方法だったのかもしれない。でも、俺はこれでよかったのだと思えた。

 

「‥‥‥なんで、そんな顔で笑っていられるのよ」

 

そうじゃなきゃ、コイツの本音に辿りつけなかった。俺が知りたかった本当のコイツに遭えなかったから。そして、やっと心からコイツに言えることが出来るから。

 

「おまえの味方でよかったと思ったからさ‥‥‥だから、泣くなよ」

 

俺はやっと右手を泣いている御坂の頭に添えて、あやす様に頭を撫でることが出来た。戦うための右手ではなく、誰かを慰めるための右手として。

 

右手‥‥‥能力‥‥‥実験‥‥‥

 

ふと、俺はそれに引っかかるものを感じた。そうだ、この実験はそもそも何も目的としていた。そして、それは‥‥‥

 

『誰かが困っていたり、悲しんでいたりすれば、すぐに駆けつけて解決していく。漫画やアニメで出てくるヒーローそのものだった』

 

ヒーロー‥‥‥それは前提‥‥‥

 

そうだ。明久が言っていたように“前提”だ。この実験はそもそもの前提がある。その前提は‥‥‥

 

『あの計画は私には当て馬になる程度の力はある事を前提にしている』

 

御坂は当て馬と言った。つまりレベル5であるコイツすら当て馬程度でしかないという“最強のレベル5”であることが前提の実験なのだ。

 

‥‥‥そうか、そういうことか。それなら、その前提を根底から覆したのなら。

 

この実験を辞めさせられる。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

わずかの時間ではあったが、コイツのやられるがままに頭を撫でられていたが、突如こいつは頭を撫でるのをやめ、立ち上がっていく。

 

「分かったんだ。実験を止める方法」

 

いつの間にか泣いていた涙をぬぐい、コイツの話を聞く。

 

「実験は『一方通行』が最強っていうのを前提として予測演算されている」

 

その通りだ。実際、アイツは‥‥‥あの男は私がどんな手段を使っても倒せる方法を見つからない。だから、私は‥‥‥

 

「じゃあ、ソイツが実はメチャクチャ弱かった‥‥‥例えば“学園都市最弱の無能力者”になんかに負けちまったりすれば、その前提は覆されるんじゃないか?」

「ッ!? まってよ、まさか‥‥‥!」

「俺が戦う」

 

立ち上がったアイツは毅然と言い放つ。だけど、その姿はボロボロで、今も両ひざに力を入れて立ち上がっている様子だ。なのに、戦うという。あの、一方通行に。

 

「む、無理よ! アイツは私なんかとは次元が違う。世界中の軍隊を敵に回してもケロリと笑っていられるような化け物なのよ!? 今度こそ、本当に‥‥‥!」

 

ダメだ。アイツが力を無効化できるにしても、一方通行に勝てるわけがない。そうに決まっている。決まっているのに‥‥‥

 

「お願いっ! 一万人の人間を死なせた私の罪に誰も巻き込んだりできない。これは私が一人で終わらせなきゃいけないの!」

 

完全に立ち上がったアイツの姿に私は在りもしなかった、あるはずがないと思っていたものを見えてしまう。それだけはダメなのに‥‥‥

 

「だから‥‥‥!」

「じゃあさ‥‥‥何一つ失うことなく、みんなで笑って帰るっていうのは“俺の夢”だ」

 

ダメなのに‥‥‥なのに‥‥‥アイツは‥‥‥

 

「だから、それが叶うように協力してくれよ」

 

そういってアイツは私の方に振り向く。その姿に私は‥‥‥

 

「待っててくれ。必ず御坂妹は連れて帰ってくる。約束するよ」

 

私は“希望”を見た。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

夜の町中を走る。あの後、御坂からどこで実験をやるのか聞いて、俺はその場所に急いでいた。

 

「って、うおっ!?」

 

途中、躓いてしまい倒れてしまう。だが、すぐに立ち上がり、走り出そうとする。だが、急にまた足が震えだす。

 

「さっきのダメージが脚にきてんのか? それとも‥‥‥」

 

あの時の路地裏でのことを思い出す。血の海に沈んだもう一人の御坂妹、それを誰にも悟られず、短時間で殺したであろう事実を。

 

「内心じゃ人間をあんな風にしちまう奴を相手にするのをビビっているってのか?」

 

自分でも気づかないうちにそれが、俺自身を縛っているとでも言うのだろうか。俺はそれらの気持ちを押し殺すため、震える足の殴る。

 

「デカイ口叩いて情けねぇぞ! 次の実験開始時間は8時30分。急がねーと‥‥‥」

 

時間がない。さっき鉄橋での時間は8時15分ほどだった。今からじゃあアイツらを呼んでいる暇もない。早いところ実験場に行って、一方通行を止めねぇと‥‥‥俺は念のために近くに時計がないか確認して、それを見つけた時、驚愕する。

 

「8時34分!? 何でもう過ぎて‥‥‥!?」

 

鉄橋での落雷か!? それで時計が止まって‥‥‥!

 

「クソっ!」

 

ぐずぐずしている暇などない。俺はなおのこと走り出す。しばらくして、湾岸のコンテナ区に辿りつく。俺はそのままコンテナ区に突入し、奥に走り出す。

 

「確か、ここで‥‥‥ッ!」

 

少しして、開けたところに出ると、そこには満身創痍で倒れ伏す御坂妹と、それを見下ろす白髪の少年がいた。その光景に俺は頭の中で何かが切れた音がした。

 

「‥‥‥おい、この場合実験ってどうなっちまうだ?」

「‥‥‥何故あなたがここに」

 

気怠けに俺を見る少年‥‥‥おそらく一方通行と同様に、俺が現れたことに驚く御坂妹も俺に問いかけようとするが、一方通行は倒れる御坂妹の頭を踏みつける。

 

「何だオマエの知り合いかぁ? 関係ねぇ一般人なンざ連れ込ンでンじゃねぇよ」

 

その光景に今までの疲労とか、体のダメージとか一瞬で消し飛び、俺は前に出る。

 

「こりゃ、秘密を知った者を口は封じるとかってかェお決まりの展開かァ?」

「離れろよ」

「‥‥‥何か言ったか」

 

相手も俺の言葉が癇に障ったのか、さっきまでの軽薄な感じなど消えてこちらを睨んでくるが、どうでもいい。俺は両手を握りしめて言い放つ。

 

「今すぐ御坂妹から離れろっつってんだ! 聞こえねぇのか、三下ぁっ!!」

 

 

 

 




いかがでしょうか?

まぁ、区切りがいいとはいえ、また長くなりました。

とにかく、次は上条当麻VS一方通行のバトルです。

できる限りは今年中には投稿する予定ですので、気を長くしてお待ちいただけたら幸いです。

そして、未だにこの作品を見捨てずいらっしゃる読者の皆様には感謝いたします。

ありがとうございました

それでは、また次回
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