それではどうぞ。
「昼間にもかかわらず薄暗いなぁ」
「異常気象って奴か? 局地的にも程があると思うがな」
目的の駅に着き、荷物を降ろした僕たちは辺りを見渡す。辺りは薄暗く、まるで夜になったかのような暗さが辺りを包む。この辺り一帯の気候なのかは分からないけど、こんな暗さでは気持ちまで暗くなってしまう。
「異常気象だったらニュースとかになっていてもいいと思うけど?」
「本当にこんなところに噂の村はあるのかよ」
「土御門の情報だと駅はここであっているが・・・・・・」
当麻は土御門から預かった地図と『龍山前駅』と書かれた駅の看板を見比べながら言う。
「しっかし本当に田舎だね。駅降りてすぐに森があるなんてビックリしたよ」
「普通ならワクワクドキドキ、冒険の予感って感じで大はしゃぎする予定だったんだけどね~」
「1泊2日の予定だったが、さっさと帰った方が良いな」
駅を出たところに広がる薄暗い森を見て、テンションが下がってしまう。確かに雄二の言う通り、これはさっさと帰った方が良いかもしれない。なんというかお化けが出そうな雰囲気である。
「上条さんの危険レーダーがこの森を進むな、さっさと帰れと言っていますがどうですか、明久さん」
「そうですね上条さん。僕も同じ事を考えていたところなんですよ。というわけでさっさと駅にカムバックしましょう」
「えぇ~? せっかく来たんだからちゃんと観光していこうよ~?」
危険を予期してさっさと帰りたい僕と当麻に対してさやかは観光したいと駄々をこねる。駄目だよさやか、僕はこんな危険なことに首を突っ込みたくないんだ。
「駄目だよさやか。絶対に何かに起こっていますって雰囲気を漂わせているところにわざわざ首を突っ込みたくないよ」
「大丈夫だって! きっとなんかの演出だって!」
「演出で天候を変えられるわけないだろ? ほらさっさと・・・・・・」
「あ~、話しているところ悪いがいいか?」
「うん? どうしたの雄二?」
さやかを説得しようとする僕と当麻に雄二が話しかけてきた。雄二は頭を掻きながら駅の方を向く。なぜか困ったような表情をしながら。
「駅・・・・・・無くなっているぞ?」
「「「えっ・・・・・・」」」
雄二の言葉に驚き駅のほうを見ると、そこにはあったはずの駅が跡形もなく無くなっていた。何かに廃墟になっているとか、改札もない古い状態になっているとかではなく、そこに駅など最初からなかったかのように無くなっていた。
あまりの事態に絶句してしまう僕と当麻とさやか。雄二は一人冷静に土御門からの情報が書かれたメモを眺めていた。
「何が起こったのか知らねぇが、こうなった以上は進むしかないだろう?」
「・・・・・・そうだね、進むしか・・・・・・ないよね・・・・・・」
「・・・・・・不幸だ」
「・・・・・・よ、よーし! しゅ、しゅぱーつ!」
さやかの元気な声にも僕は応えることもできず、荷物を持ってゆっくりと森の中に入っていった。
◇◆◇
森の中に入ってから数分、辺りは相変わらず薄暗く明るくなる気配が一向にない。今は念のために人数分持ってきた懐中電灯を頼りに、辺りを照らしながら進んでいた。道は割りと舗装されており、進むのにはあんまり疲れることはなかった。
「なんか、ワクワクするね。探検しているみたいで」
「そうか? 上条さんは早く帰りたいって気持ちで一杯ですよ」
「もぉ~当麻はまだそんなことを言う。いい、こうゆうのは楽しんだ者の勝ちだよ?」
「お~い、本来の目的を忘れるなよ~?」
「・・・・・・わ、忘れてないよ~? さやかちゃんがそんな大切なことを忘れるはずないでしょ~?」
「忘れていたんだな」
「雄二、大丈夫だよ。僕もすっかり忘れていたからね!」
「てめぇもか!? ていうか、それは大丈夫でもなんでもねぇよ!?」
「おい、騒ぐなよな。うるせぇぞ?」
「こ、この野郎・・・・・・!」
雄二が何か唸っているようだけど、どうしたのだろう?
雰囲気まで暗くならないように話しながら進んでいくと、開けた場所に出た。空が暗いことには変わりはないが、それでも懐中電灯が必要ないぐらいには明るい場所だった。座ることができそうな岩が都合よく四つほどある。
あとどれくらいかかるのかわからないため、僕たちはその岩に腰を掛け、休憩することにした。
「まだ目的地には着かないの?」
「森を抜けてすぐのところにある、としか書いていないからな。森の抜けるのにはもう少しかかるかもな」
「うへぇ~、ただの山道なのに時間かかるねぇ~」
「むしろ山道だから時間がかかるんじゃないのか?」
「かもな。予定ではもう少し進んでいる予定だったんだが・・・・・・」
「しょうがねぇだろ? こんな天気なんだからな」
そう言って雄二は空を見上げる。相変わらず空は暗く、星が見えない程どんよりしている。こんなのではせっかくの観光旅行が台無しである。何故ここだけがこんな風になっているのだろうか。
「せめて星でも見えればまだいいのになぁ」
「見えたら見えたで問題だと思うけどな」
「時間はまだ昼頃だし、本当の夜中になる前には村に着きたいよ」
「そのためには前進あるの・・・・・・ッ!?」
立ち上がっていざ進もうとしたとき、突如近くの草むらからガサッと音がした。突然音がしたため僕たちは身構える。周りの雰囲気も相まって緊張が高まる。
「な、何かいるのかな・・・・・・?」
「い、いるだろうな・・・・・・そこに・・・・・・」
「雄二・・・・・・見に行ったら?」
「御免だな。明久、お前が見に行ったらどうだ?」
「い、いやだよ」
僕たちが話している最中も草むらから音が聞こえる。その音は近づいているのか、徐々に大きくなってくる。音にあわせてつばを飲み込む。そして、大きくガサッと聞こえた後、それは姿を現した。
「・・・・・・」
「えっ? 何あれ?」
「青い・・・・・・何か?」
どんな猛獣だろうと身構えていた僕たちだったが、“それ”の姿を見て拍子抜けした。それは球状の青い生物だった。頭のてっぺんがすこし尖っており、目と口が特徴的で絵に描いたような感じだ。数は3体ほどで、彼らはこちらをじっと見ている。
「な、なんか拍子抜けだな」
「そうだね・・・・・・」
「ビックリさせやがって・・・・・・」
当麻と僕は緊張が抜けて、この謎生物をよく見ようと近づいていった。雄二も落ち着いたらしい。後もう少し触れるところまで行く。
「・・・・・・ハッ! ストップ! それに不用意に近づいたらダメ!」
「・・・・・・へっ?」
どんな感触だろうと思い、触ろうとすると突然背後からさやかが叫ぶ。その叫びで僕は動きを止める。
その時だった。
「ッ!?」
「明久!?」
突如、腹に激痛が奔り、後ろに吹き飛ばされる。
「がっ・・・・・・!?」
「明久!?」
「大丈夫か!?」
「明久! しっかり!」
「だ、大丈夫・・・・・・腹が痛いだけだから」
なぜ吹き飛ばされたのか、先ほどの場所を見てみると先ほどとは違い、明らかに敵意むき出しでこちらを睨んでいた。
「何が起こったの?」
「わ、わからん・・・・・・お前が近づいた瞬間あの中の一匹がお前目掛けて・・・・・・」
「当たり前だよ」
「さやか?」
戸惑う僕と当麻、雄二に対してさやかはひとり冷静だった。何でさやかはこんなに冷静に・・・・・・?
「どうしたんだ、さやか? まるであいつらを“知っている”かのようじゃねぇか?」
「思い出したんだ・・・・・・小さいときお父さんが見せてくれた“魔物”のことを・・・・・・」
「ま、魔物だって? あれが?」
「見た目に惑わされないで! 私もついさっき思い出したばかりだから」
あんな謎生物が魔物? あんな子動物みたいな奴が?
「あれは“スライム”。魔物の中でも一番ポピュラーなやつだよ・・・・・・」
「“スライム”? あれが・・・・・・って、来るぞ!?」
さやかの言葉とともに謎生物こと、スライムはそれぞれ当麻と雄二に目掛けて突っ込んでくる。二人は慌ててそれを避けるが、もう一匹のスライムが避けた雄二に向けて襲い掛かった。先回りされていたため、雄二はもろに食らう。
「ぶはぁ!?」
「雄二、大丈夫!?」
「だ、大丈夫だ。くそっ、柔らかい体のわりには強烈だな!」
「この野郎!」
当麻がお返しとばかりに一匹殴るが、そこまで堪えた様子がない。それと同時に当麻に二匹同時に突っ込んでくる。さすが殴った直後だったので、回避が間に合わず体当たりを受けてしまう。
「ぐあぁ!」
「当麻!」
「ぐっ・・・・・・くそっ!」
二体同時攻撃は堪えたのか、痛がる当麻。殴っても有効打にならないとなるとどうすれば・・・・・・。痛みがある程度回復して前に出ながら考える。スライム達はまだまだやれるぞとばかりにこちらを威嚇する。対するこっちは決め手がないため、考え込んでしまう。
「どうすれば・・・・・・」
「殴って殴って殴り続けるしかねぇだろ」
「もしくは蹴り飛ばす・・・・・・とかか?」
「逃げるとかできないかな?」
「逃してくれるとは思わないけどね」
逃げられるなら逃げたいけど、こちらをじっと見て威嚇しているし、先ほど僕たちは相手の攻撃をもろに食らってしまい、正直逃げるのもきつい。こんな状態では絶対逃してくれないだろう。僕と当麻、雄二は互いに頷き、前に出る。
「さやか、君は下がっていて」
「え、私も戦うよ!?」
「女の子を闘わせるわけにはいかないだろ? それに俺たちの方が頑丈だし」
「う~・・・・・・でもあんまり無茶はしないでよ?」
「分かっているって。昔から散々言われていたからな」
「明久も当麻も守らないじゃん」
「「今日は守る!」」
「お前ら、来るぞ!」
こちらが話していると、痺れを切らしたのか、向こうからこちらに襲いかかってきた。こうなったらやられる覚悟でこいつらを倒してやる。僕がそう思ったその時。
「そこのお前ら、全員伏せろ」
背後から声がして、咄嗟に言われるがまま僕たち四人は伏せた。それと同時にゴウッと頭上を何かが通り過ぎていき、スライム達の悲鳴が聞こえた。顔を上げるとそこにはナイフに串刺しにされているスライムがいた。
「全く・・・・・・こんな奴らに手こずる奴なんて始めて見たぞ?」
またも背後から声がして、後ろを振り返るとそこには一人の男性が居た。
首元に紺のスカーフを巻き、上は濃いオレンジ色と紺色のジャケット、下は濃いオレンジ色一色のスウェットを着ている。顔は聡明そうで、当麻と同じ髪型をしている。髪色は白色のような銀だ。また、特徴的な眼鏡もつけている。背後に背負っている細長い袋が気になる。
「あの、あなたは・・・・・・?」
「・・・・・・人に名前を尋ねるときはまず自分からじゃないのか?」
「あ、すみません。僕は吉井明久です」
「俺は坂本雄二だ」
「私は美樹さやかです。こっちが上条当麻」
「それで、あなたは・・・・・・?」
「別に名乗る必要はないが・・・・・・俺は雪代縁だ」
そう言って僕たちの命の恩人である人は、少し面倒くさそうに名乗ってくれたのであった。
突如現れた謎の人物と魔物、さて彼らは明久達にどう関わってくるのか?
次回もお楽しみに。