「ファースト。恋愛相談がある。」
6月25日、津々宮修斗誕生日の夕方、学校から帰った僕は、津島家に向かう前にファーストに電話をしていた。ファーストとの電話の内容とは、ヨハネのことだ。そしてシェリアスとの契約との内容でもある。つまり恋愛相談だ。完璧な津々宮修斗が恋愛相談をしたとなっては、周りからの完璧というイメージを崩しかねない。それもギャップとして使えるかもしれないだ。僕自身があまりやりたくない。だって恥ずかしいし。そこで既に僕とヨハネの間に入ることに一番適した人物に相談をした。それが今通話中のファーストなのだ。
電話越しに聞こえてきたファーストの声は少し驚いたような声で聞き返してきた。
「・・・え? 恋愛相談?もしかしてヨハネちゃんのこと?」
突如、ファーストの言葉から発せられたヨハネの名前に心臓が跳ね上がりそうになるも、落ち着きを取り戻してから返事を返した。
「そうだ・・・」
「まあ、そうだろうね・・・・」
「何が言いたい?」
「別にー。」
わざとらしくごまかしたファーストはどこか笑いをこらえているように聞こえた。
「何がおかしい?」
「いや・・・だって、真剣な声で聞いてきたから何かと思えば、そんな事かと思って・・・」
「・・・・・こっちは真剣なんだぞ。」
「ゴメンゴメン。で、僕は何を聞いたらいいの?」
「・・・・なあ、ファースト。 好きってどういう意味だと思う。」
「うーん、そうだな。・・・・『心が引き付けられる様子。その人に心が引き付けられて心がドキドキする様子。道楽や色事への欲求が強い様子。』・・・かな?」
「・・・辞書見てないか?」
「えっ?そんなことないよ。」
かすかだが電話の向こうからペラペラと紙をめくる音が聞こえる。もしかしてこいつに相談したのが間違いだったのだろうか。もっとゲーム部の先輩にでも相談した方がよかったのではないか、などと思い始めた頃、けらけらと笑いながらファーストの言葉が聞こえてきた。
「冗談だって。で、シェリーの言っている好きって、どっち?」
「likeかloveかということか?」
「そうそう。」
「うーん・・・・。」
二つについて考えていると、段々頭が混乱してきてしまい、根本的なところまで逆戻りしてしまった。
「・・・・そもそも、この二つはどう違うんだ。」
「多分だけどlikeは、一緒にいると楽しいとか、明るくいられるとかで、loveが残りの人生をずっと一緒にいたいとか、相手のすべてが知りたいとか、一つになりたいとか・・・」
「もういい。聞いた僕が悪かった。」
ファーストが口にした表現に全て自分とヨハネを当てはめていると、それこそ相談どころではなくなってしまいそうだったので、途中で止めさせた。するとファーストは考えたようにうなってからシェリアスに問いかけてきた。
「それじゃあ、シェリーはヨハネちゃんのことどう思ってるのさ?」
「よくわからん。」
「よくわからないじゃなくてもっと考えろよ。」
ヨハネ、ヨハネのことか。そうだな、どういったらいいのだろう。ヨハネと出会ってからの日々を思い返すと、最初に思いついた言葉は、『世話の焼ける妹』という言葉だった。そういえば、師匠も妹さんのことをまるで自分のことのように話していたことがあったな。こういうところから師匠に影響されてしまったのだろうか。しかしだとしたら師匠は妹のことを愛していると言っていたな。じゃあ、僕もヨハネのことを師匠にとっての妹さんと同じくらいの愛を抱いているのだろうか。そう考えると、何だか恥ずかしくなってきてしまった。それ以外に自分にとってのヨハネの存在を一言で表すと、と考えてしまうとどうにもこうにもいつまでたっても答えにたどり着ける気がしなかった。もしかしたらヨハネは一言では表すことが出来ないくらいの存在なのかもしれない。ぼそぼそとつぶやきながら考えるシェリアスのことを電話越しに想像していたファーストはじれったくなってきてしまった。早くしろよ、考えるなら電話切るぞ。と考えていた。その直後、今まで小さな呟きとは違う、はっきりとしたシェリアスの声が聞こえた。
「・・・・やっぱり、好きなのかな?」
「like? love?」
「・・・love。」
「じゃあ次、どれくらい好きか。」
「・・・どれくらい、と言われるとよくわからないが、これからも一緒にいたい、とか?」
「ほうほう。それで?!」
聞き返してくるファーストの声はさっきまでの少し退屈そうな声とは決定的に違う声に聞こえた。その声は、自分が楽しみにしていたクリスマスプレゼントが届いた時のように元気だった。
「・・・なんか、テンション上がってない?」
「気のせいだろ?それより早く次!」
「やっぱ、高い気がする・・・・。後は、僕の親みたいに離れたところには行きたくない、とか。
「うんうん。他は?!」
「他は・・・・・・・・・・・・そうだな・・・・・」
「もっとさ!結婚したいとか、誰にも渡したくないとか、他の男子と話しているの見るとむかつくとか、自分だけのものにしたいとか、そういう考えはないのか?!」
「それ、危なくないか?」
「そんなことないよ!これくらい普通だって。誰にも渡したくないから人は告白するんだよ。」
「そうなのかは知らないけど、さっきの君の考えはヤンデレに近い気がする・・・。」
「えっ?!シェリー、ヤンデレじゃないの?!」
「何でだよ!勝手に人に余計な設定をつけたすな!」
「アハハ、ゴメン。」
なんだろう、やっぱりこいつに遊ばれている気がする。こいつにとって僕らは遊び道具でしかないのだろうか。ここらで一度反撃した方がいいのではないだろうか。一度、頭に思いついたが、言わないで閉まっておこうと思っていたものを引っ張り出した。
「そういえば、君がヨハネのことをヨハネちゃんって呼ぶの、なんかイラッとくる。」
「えっ?!マジ?」
「マジ。」
「マジか・・・・」
ここにきてファーストはどんな時よりも真面目な声で謝罪を返した。
「なんか・・・ゴメン。ホントにゴメン。」
「いやいいy・・・」
いいよ、と言おうとしたらファーストはさらに言葉を付け足そうとした。こいつ、もしかしてそこまで誤ってくれるのか。今日、学校で行われた誕生日会といい、やっぱりファーストは根はいいやつなのだろう。
「本当にゴメン。反省します。もう近づきませんから、殺さないでください。」
「だから、僕はヤンデレじゃない!」
「えっ?!違うの?!」
「違うわ!さっきも言ったけど、勝手に人に変な設定を付け足すな。」
「アハハ、ゴメンゴメン。反省しまーす。」
「くっ・・・。くそったれが・・・」
さっきの考えは全否定だ。やっぱりこいつ誰よりも黒かった。いいところなんてない!次はどう復讐してやろうかと考えていると、再びファーストが真面目な声に戻った。
「ふぅー。思いっきり笑えたし、今度は僕から助言させてもらうよ。」
「・・・・頼む。」
ファーストが電話から離れて息を思いっきり吸い込むと、一気に吐き出した。彼曰く、助言とともに。
「バカか!今まであんなにやっといて今更何が恋愛相談だ!転校初日壁ドンして、休日に一緒に出掛けて、隣りに引っ越して、二人きりで手料理を何度も食べて、しまいにはテストが終わった帰りに日に手をつないで帰ったのに・・・何が恋愛相談だ!そこまでやっといてまだくっついてないとか、どんだけルーズなんだよ!」
「ファ、ファースト、どうしてそんな知ってるんだよ・・・。」
「ヨハネちゃんに聞いたり、周りに見てたやつがいたんだよ。いい?見てるこっちが砂糖を吐きたくなるようなことも沢山してたのに、今更相談とか、逆に笑えるよ。」
「・・・・・」
「そこまで、やったんだからさ、今更恥ずかしいものもないだろ。行ってきなよ。」
なんだかんだ言ってこいつは僕が告白することを想定して、今まで会話していたのか。こいつやっぱり、いいやつなんじゃないか。
「ありがとな、ファースト。」
「いえいえ、こちらこそ面白い話が聞けたから。」
面白い話?・・・・まてよ、こいつさっきの言葉が言いたかったなら最初のひたすら僕が恥ずかしい目にあっていた工程は必要だったのか。そのことを問いただそうと、ケータイを耳に当てたが、時すでに遅く、通話は切れていた。逃げたな・・・。
スマホをホーム画面に戻すと、もうすぐでいつも津島家に向かう時間になっていた。夕食の準備をするために台所に向かうと、今度は頭の中にシェリアスの声が響いた。
『やるんだな、今日。』
「ああ」
何日か前の自己暗示の日からどういう訳か修斗の頭の中に自分の声が響くようになった。最初にこの声に聞こえたときも戸惑うことはなく、今では普通に会話までできている。そんなもう一つの自分の声はなおも言葉を続けて発せられたが、修斗は準備を続けた。
『告白なんて面倒なことせずに、力ずくで自分の所有物にしたらいいのに。』
「シェリアス、あまりヨハネを物扱いするな。それに、僕にそんな度胸あるわけないのを知ってるだろ?」
『確かに。こういうことに関してはヘタレだからな修斗クンは。じゃあ代わりに僕がやってやろうか?』
「黙れ。僕たちは未成年。そういうことは法律で禁止されてるだろ。」
『いい子ちゃんぶるなよ。僕たちは闇の住人だろ?』
「ここではその法則は通用しない。それくらいわかるだろ?」
『フン、わかってるよ。・・・もしまだ抵抗があるなら、告白くらい僕がやってやろうか?』
シェリアスの一言は今までの修斗を煽るようなものとは違い、本気で手助けをしようとする心遣いが声に出ていた。正直、これからヨハネに告白するかと考えると今にも心臓が破裂しそうだ。だけど、これくらいは自分でやりたかった。せめてものけじめとして。
「・・・いや、僕にやらせてくれ。」
『・・・・そうかい。でも、僕が無理だと感じたら強制的に変わるからな。」
「ああ。わかった。」
準備したものを入れたカバンを持ち玄関に向かった。そしてドアノブに手をかけたとき、再び脳内にシェリアスの声が響いた。
『しくじるなよ。』
「わかってるさ。」
ドアを開き、隣りの津島家へと向かった。
夕食を食べ終わり、修斗とヨハネはリビングでコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。ここまで、どのタイミングで言えばいいの関わらず、ただ時間だけが過ぎていき後4時間もすれば自分の誕生日も終わりを迎えようとしていた。しかしさすがの修斗もここまでくれば決心はついていた。後は最後の一歩が踏み出せないでいた。しかし今の逃すと、ファーストやシェリアスになんといわれるだろうと考えてしまうと、無理やりにでも口を動かそうとした。
「あ、あのさ、ヨハネ。」
「何?」
さっきまでテレビを見ていたヨハネの顔が自分に向いた。これから彼女に告白をしようと思うと妙に意識してしまう。ただでさえ可愛いのみ今は神々しくも見えてきしまって、言葉を失ってしまった。
「・・・・」
「何なのよ?」
「あ、その・・・・」
言わなきゃ言わなきゃ言わなきゃ、言わなくては。
「ヨハネ、す・・・・・す・・・・・」
「す?」
「す・・・・す、スイカの季節が近づいてきたね!」
「え?そ、そうね。でも私はスイカよりメロンの方が好きかしら。」
「そ、そうですか・・・・」
何やってんだ、僕は。またテレビの方を向いてしまったヨハネの姿を見ていると、頭にシェリアスの声が響いた。
『ヘタレが。変われ。』
この後意識が少し遠のきかけたかと思うと、自分の語感はそのままで自分の体の主導権を失ったような感覚になった。意識はシェリアスと繋がっているようで、大きなモニターに映ったさっきまで自分が見ていたヨハネの姿とリビングが映った。シェリアスの声はそのまま僕の声となりヨハネに話しかけた。
「ヨハネ、いいかい?」
「今度は何よ?」
「今日、僕の誕生日だろ?」
「そうね、それがどうしたのよ?」
「ちょっと、ワガママを聞いてもらってもいいかな?」
「いいわよ。天界魔界条例に誓ってあげる。」
「じゃあ、・・・君が欲しい。」
「えっ?!」
シェリアスの言葉に動揺しているヨハネは、顔が真っ赤になっていた。
「な、なな、何言ってるのよ?冗談もほどほどにしなさい。」
「冗談など言った覚えはないよ。僕はいたって本気だ。」
「つ、つまり、それって、告白なの?」
「ああ。」
ヨハネはさっきよりも顔が赤くなると、テーブルに伏せてしまった。しかしシェリアスはそんな様子のヨハネのことなどつゆ知らずに、告白の言葉をつづけた。
「君は僕をおかしくした。それは君が美しすぎるがゆえだ。もし君が僕の望む答えを返してくれないのならば、自らの首を剣で切るだろう。」
詩人だな、シェリアス。などと思いながら見ていると、シェリアスはさらに言葉をつづけた。
「君のその美しい瞳で見る世界を、これからは僕もともに見ていたい。君の隣で見ていたいんだ。」
そういったシェリアスはは真っすぐに自分の手を伸ばした。その手は机に顔を伏せているヨハネのすぐ前に突き出された。
「魔王の名のもとに、堕天使ヨハネと盟約を結びたい。」
その言葉にヨハネは俯いたまま目だけをあげて伸ばされた手を見ていた。その姿を見たシェリアスは薄く微笑むと最後の言葉を述べた。
「僕と付き合ってください。」
最後の言葉を言い終えたシェリアスを見つめるヨハネの顔は目だけでもわかるほど赤面していた。しかしヨハネはいつからか考えていたため、シェリアスの告白に対する答えはずっと前から決まっていた。その答えを述べるべく、ヨハネは自分の顔をあげてシェリアスの瞳を見つめると、必死に恥ずかしさで目をそらしたくなるのを我慢しながら、答えた。
「はい。」
そういったヨハネは自分の前に伸ばされたシェリアスの手を握った。白く、小さいヨハネの手は確かに強くシェリアスの手を握っていた。手を握ったヨハネの瞳は少し涙を浮かべていいるように見える。しかしヨハネは涙目になりながらも満面の笑みを浮かべていた。ヨハネの答えを聞いたシェリアスは不敵とも、優しいともとれる笑顔を浮かべた。
「フフフ、契約成立だね。」
今回から動画のタグに『恋愛』を付け足しました。
シェリーのヨハネへの告白を考えるのに、リアルで1時間ほど使ってしまいました。結果として、二人が恋愛展開で今後どうなるのかはあまり考えていませんが、次はクリスマスに投稿します。暇ですから!その時の回は記念すべき初デート回になります。初々しい!羨ましい!だけど嬉しい!そんな複雑な気持ちで執筆中です。
読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを