さてさて今回はクリスマス特別版のデート回となりました。最初に言っておきます、文字数は15000オーバーで結構長めになっています。手が痛い。お疲れ様、僕!
この輝かしい聖夜 シャンメリーを片手に歌い踊りましょう 私の声はどこまで届くのか 私は皆さんに幸福を届けるサンタになりたい 今日だけでいい 私の願いよ 届いて
Mrサンタ 届けてください 皆さんに幸福を 私に本棚を
昨日、人生の一大イベントを終えた。終えたといってもほとんどシェリアスに任せっきりだったのだが。その大イベントとは、告白だ。修斗、というよりもシェリアスはヨハネに告白し、OKを貰った。これで魔王シェリアスと堕天使ヨハネは盟約の儀を交わしたのだ。それによって修斗とヨハネは俗にいうカップルというものになった。そしてシェリアスは告白だけでは飽き足らず、明日、日曜日にデートをするという約束まで取り付けたのだ。シェリアスも自分だとはいえここまでできると、本当に自分なのかと疑ってしまう。シェリアスになぜ君にはできるのかと聞いたところ、『お前も本当はできるがやろうとしない。』という返事が頭に響いた。そして今日はヨハネとの初々しい初デート前日の朝。昨日は津島家から帰ってきて家の自分のベッドに入ると、嬉しさと恥ずかしさで布団にくるまれながら悶えていた。おかげですっかり寝不足となってしまった。まだデート前日になったばかりなのに、僕の体は持つのだろうか。と悩みながらも修斗は眠気覚ましにコーヒーを飲み干すと、制服に着替えて部活に向かった。今日は午前中だけ部活があるからだ。
玄関を出て、家のドアに鍵をかけていると、隣りからヨハネが出てきた。玄関から出てきたヨハネの目元にはクマが出来ていた。ヨハネは眠そうな目に、小さなあくびを重ねて言った。
「ふぁあ、おはよう。」
「おはよう、眠そうだね。」
「あなただって、目の下にクマが出来てるじゃない。」
ヨハネに言い返されてしまった修斗は苦笑いを返した。
「なんだか眠れなくてね。ヨハネも同じ理由?」
「フッ、私はそこまで愚かではないわ。私は黒魔術の勉強をしていたの。」
誇らしげに語るヨハネだが、昨夜というよりも今日に日付が変わってから、たまにだが壁一枚挟んだ向こう側のヨハネの部屋からベッドの上で悶えているヨハネの声が聞こえた。どんなに他のことで頭がいっぱいになっていても、壁の向こう側で自分の彼女が自分のことを考えてベッドで悶えていると考えると、自分まで恥ずかしくなってきてしまう。そんな気持ちを僕一人だけが味わったとは言わせないぞ。
「あれ? おかしいな。昨日君の部屋からベッドの上で転がりまわる音が聞こえたけど。」
「えっ?!き、気のせいじゃないかしら?」
「そうなのか?たまに僕の名前も聞こえてきたような・・・あれ?ヨハネさん?もしかして・・・」
「・・・・うにゃーーー!!!」
ヨハネは顔を真っ赤にしながら照れ隠しにとびかかってくると、僕の背中をたたき出した。
「もーーー!!彼氏だったらもっと私を敬いなさいよ!」
「アハハ、ゴメンゴメン。」
付き合ったというのにもかかわらずいつもと何も変わらない日々を過ごす自分たちに少し疑問を持った修斗だったが学校に向かうべくヨハネとともに家を後にした。
~*~
家を後にして、いつものように学校に向かった僕たちは今、部活動をするべく弓道場にいた。そして今はウォーミングアップも終えて、弓を引いて矢を放っていた。4本すべて撃ち終わり、裏の待機室で弓の調整をしていると、隣りにファーストが座った。
「どうだった?」
「・・・うん。その・・・なんだ、OK貰った。」
「おお!よかったじゃん!だから悩む必要ないって言ったじゃん。おめでと。
「ありがと・・・・・」
ファーストの返事にどこか憂鬱そうな修斗を疑問に思ったのか、ファーストが不思議そうな顔で聞いてきた。
「どうしたの?まだ何かあるの?」
「実は・・・・、明日、ヨハネとデートする。」
「うん。それで?」
「何をもっていけばいいのでしょうか?」
「はあ?」
ファーストは呆れたとでも言いたげな顔でため息をつくと、目を細めながら言った。
「ホントにシェリー?もしかして恋愛に関しては内手なの?」
「・・・・いままでしたことないので。」
「そりゃ、大体の人はないよ。でもシェリーはもっと自信もっていいと思うよ。何てったってイケメンなんだし。」
ファーストの言葉に大事なことを忘れていたことに気が付くと、勢いよくその場に立ってしまった。
「そうだった。僕は顔はいいんだった。そうだよ、僕はイケメンなんだからこの神から与えられた顔を駆使すればいいじゃないか。」
「なんだろ、その言い方腹立つ。」
横でぼそりと呟くファーストのことを無視して一人、頭の中で明日のデートプランを考えていった。そして大幅にだが思いついたプランをまとめると、中々いいものができた。
「ありがとな、ファースト。おかげでいいものを思いついた。」
「え?あ、うん・・・。」
自分が何かしたのかだろうかと悩んでいるファーストをほったらかしにして修斗はもう一度考え事にふけり始めた。
~*~
部活を終え、帰宅した修斗はさっそく明日の準備に取り掛かった。準備と言っても最初は調べものばかりでネットを開いていた。明日行こうと思っている場所の公式サイトを開いて開園時間から、閉園時間、おすすめのスッポト、人気のスイーツ、注目のイベント、片っ端から調べつくした。こういう大事な時に限ってどういう訳か、僕たちが標準装備をしている呪いが発動してしまう。呪いとは、バスが事故で遅れたり、通日に強風や大雨で外に出られなくなったり、前日に体調を壊して当日に出かけれなくなったり、財布をどこかで落としたり、鍵を落として出かけた場所に取りに戻ったり、帰りの電車やバスが運行中止になったり、新品の衣類の上に鳥の糞が落ちたり、電車が事故で待ち合わせに遅れたり、もし買ったお土産が自分の目の前で売切れたり、と様々な種類がある。これ以外にもいままでたくさんの呪いにかかったがそれらすべてを話しているときりがない。それほどこの呪いは強力な物なのだ。魔王も堕天使も苦しめるのだから、よほど力が強いのだろう。いや、闇のものだから呪い強いのだろうか。などと考えだしたらきりがないので、呪いではどうしようもないという結論に至りそれ以上は考えないことにした。しかし明日は僕にとっても、多分ヨハネにとっても初めてのデートになる。だからこそ尚更、明日は呪いが起こってほしくないから、できる限り呪いが起こる可能性をつぶしている。行先については特に問題はなさそうだが、問題は天候とハプニングだ。ネットの天気予報サイトには沼津の明日の降水確率は10%と書かれていた。10%か、呪いが発動するには十分すぎる数字だな。これは高確率出降るぞ。傘を準備した方がよさそうだな。もう一つ呪いが発動する可能性があるとしたら、予想外のハプニングくらいだろう。これに至っては前日にはどんなことが起こるのか予想できないからどうすることもできない。しかしだからこそ用意するものは決められている。大目にお金をもって置き、簡単な医療品を持って、モバイルバッテリーを持ち、予備に地図をカバンに入れれば十分だろう。カバンはいつも使うものでいいだろう。カバンに荷物を詰めていると、飽きれたような声でシェリアスの声が響いた。
『まったく、心配性だな。』
シェリアスの声はなおも響いているが、修斗は気にせずそそくさとカバンに荷物を詰めている。
『そこまで心配する必要がどこにある?』
「今までに起こったことを考えたら次も起こると考えるのが普通だろ。」
『真面目だねえ。あんな呪いに打ち勝ってこその魔王だと思うがな。』
「知るか。そんなもの僕にはない。」
その答えの返答にシェリアスは少し困った様子を見せたが、しばらく考えてから回答した。
『だったら、僕が変わってやる。』
そう言ったシェリアスはいつぞやの時のように半ば強制的に修斗と入れ替わった。またあの不思議な感覚に包まれると、意識がシェリアスへと切り替わり、体の主導権を彼にゆだねた。
「まあ、見てなって。」
そう言ったシェリアスはせっかく修斗が入れた荷物をカバンから取り出し始めた。
『おい、なにやってる?』
「何って、必要なもの以外置いていくんだよ。」
シェリアスは次々に荷物をカバンから取り出すと、取り出した荷物を机の上に置いていった。その中には消毒液やモバイルバッテリー、地図も含まれていた。
『おい!そんなに抜いたら後々困ることになるぞ!』
「知るかよ、そんなこと。その場しのぎで何とかなるさ。」
『・・・君のその楽観差さはこから来ているんだ。』
「心配すんなって。大丈夫大丈夫。」
『君の大丈夫は何よりも心配なんだよ。』
この後、何とかシェリアスを説得させると、今度はさっきよりも少なめに最低限の用意をカバンに詰めなおした。シェリアスならばこんなものなくとも解決できるかもしれないが、念には念を入れておきたい。
~*~
自分の用意を終えると一度意識を修斗に戻してから、夕食を作るために津島家に向かった。こういう時に鍵って呪いは牙をむく。呪いは体調に攻撃を始めて、免疫を下げて次の日には風邪をひいてしまうのだ。そこで前日にできる予防としては、栄養価の高いものを食べて、早く寝るだけだ。そこで今日は簡単に作った夕食が。
「うどん?」
「そう。何か問題がる?」
「別にないけど、どうしてうどんなの?」
「うどんはバカにならないぞ。食べやすいし、簡単に作れるし、栄養もある。女子力も上がるかもしれんぞ。」
「どこ情報よ。」
胡散臭いとでも言いたげな目で見てきたヨハネだったが、それ以上は何も聞いてこず、大人しくうどんを食べ始めた。これで明日僕たちが風邪をひく確率は少しでも減っただろう。
二人とも夕食を食べ終え、うどんが入っていたお皿を洗い終え帰宅の準備をしていた。準備と言ってもカバンの中身を忘れていないかの確認だけだが今日持ってきたものと言えば夕食の食材くらいだったらかカバンの中はほとんど空っぽになっていた。今中に入っているのは、ケータイと財布などの貴重品くらいだろう。カバンを確認すると、中にはしっかりと貴重品が入っていた。これで確認できたし、そろそろ帰ろうかな。
「じゃあ、今日はそろそろ帰るよ。」
「そう、今日は速いのね。」
「まあ、明日は大事な日だし。」
「そ、そうね。」
ふとお互いに目が合ってしまい、二人とも顔が赤くなってそれ以上会話が続かなくなった。
「じゃ、じゃあまた明日。」
「ええ、また明日。」
~*~
津島家を後にした修斗は家に戻ると、すぐさまお風呂に自室に向かった。明日の用意が入ったカバンの最終チェックをする。一度シェリアスによっていくつか取り出されてしまったから、物には少し不安があるがここまできたらなるようになるだろう。カバンのチャックを占めると、クローゼットを開けた。明日はどの服を着ていこうかとクローゼットの中を端から端まで見渡した結果、黒のズボンに白いYシャツに紺色とも黒色ともとれるパーカーを手にとった。この服は沼津に来る前から持っていた唯一のまともな服でここに来る前はあまり着なかったが、ここにきて遂に着る時が来たのだ。きっとこの服は明日という日のために買っていたのだろう。クローゼットの奥に封印され続けたこいつが日の光を浴びる時が来たのだ。ハンガーごとクローゼットから取り出すと、そっと部屋の壁にかけた。
一方、修斗の部屋から壁一枚挟んだ反対側のヨハネの部屋では同じくお風呂上がりのヨハネが明日着る服を選んでいた。しかし彼女は修斗のように普通の服を選ぶはずはない。ヨハネがクローゼットを開けると、そこにはゴスロリが大半を占めていた。そのほかの服と言えば、制服と、ただの白い服くらいだった。この中から選ぶとなると、大体は黒い方を選ぶ。それは今回も同じで明日が初のデートであっても、初のデートであるからこそヨハネはゴスロリ衣装を選んだ。
二人はそれぞれ自分の服を選び終えると、それぞれ自分のベッドに入った。二人のベッドはお互い壁を挟んで隣り合っている形になっている。二人はそれぞれ相手が壁の反対側で寝ているであろうと考え、壁にそっと手を触れた。その手は壁のせいで見えないが、見事に二人の手は重なる形になっていた。この向こう側にいる相手は今何をしているのであろうか。そしてこの向こう側の人と明日、デートをする。これ以上考えると、寝付けなくなってしまいそうだったので、思考と止めて、壁に向かって今日最後の言葉を口にした。
「お休み、ヨハネ。」
「おやすみ、シェリアス。」
そのまま、深い眠りについた二人は、初デート前日に終わりを告げた。
~*~
ケータイのアラームの音で目が覚めると、時刻は午前6時を指していた。ベッドから起き上がり、窓から外を見ると、空は雲一つないとはいいがたいが、太陽が顔を出していた。どうやら天候は持ちこたえたみたいだ。呪いによって邪魔されていない空は今日という日を祝福しているようだ。今日はこのまま、太陽が出ていてくれたらありがたいのだが、ここで油断したらそれこそ呪いの思うつぼになってしまう。大き目の折り畳み傘をカバンにはいいていることを再度確認すると、部屋を出た。洗面台に向かい顔を洗うと、洗面台の鏡にはいつもの輝かしい顔が映った。髪の毛から水が滴る姿も完璧だ。まさに水も滴る何とやらか。ドライヤーで髪を乾かし、前髪を整えると、キッチンに向かい、朝食を作り始めた。今日は8時にヨハネを迎えに行くことになっている。そして今は午前6時半。まだまだ時間に余裕がある。トーストと他の食事を作りながらリビングにあるテレビでニュース番組を見ていると、血液型占いが始まった。どうやらO型は今日はついていない日になるようで、要注意だそうだ。なぜこういう時に限って占いも低いのだろうか。まさか天の神が僕たちを邪魔しようとしているのか。などと考えていると、トーストが焼きあがった。オーブンからトーストを取り出し、先にテーブルにもっていくとバターを取りに冷蔵庫に向かった。冷蔵庫からバターを取り出し中身を見ると、空になっていた。仕方なく入れ物を捨てて、マーガリンと取り出した。中身を確認すると、今度はしっかりと中身が入っていた。冷蔵庫から取り出したマーガリンをテーブルにもっていくと、後数歩でキッチンを出るというところでつまずいた。
「うわっ!」
つまずいた表紙に手に持っていたマーガリンの入れ物は、宙を舞い最終的には僕の服の上に落ちてきた。まだ中身が完全に溶けていないとはいえ、少し溶けた部分から垂れたマーガリンが服に染みついていた。この時はまだ私服に着替えていなかったのでそこまでひどい被害は出なかった。立ち上がり、マーガリンを持ち上げると、中身が全て個体のまま滑り落ちた。そしてマーガリンの中身はこれも空っぽになった。ティッシュを持ってきて落ちた個体のマーガリンを拾うと、もう一度キッチンに戻り、今度は冷蔵庫からイチゴジャムを取り出した。またキッチンから出るときは足元を見ながら出た。結果今度はつまずくことなくテーブルに向かえた。もうすぐでテーブルに着くというとこに来た時、歩きながら小さなため息をつくとジャムの蓋を開けた。その刹那、足の裏が何かよく滑るものを踏んでしまい。背中から床にこけた。しかし床に着く直前に受け身をとったためそこまで大きな痛みはなかった。そこまではよかったが次の瞬間、頭に何かドロッとしたものが落ちてきた。そのスライムのような物体からはイチゴの香りが漂ってきている。まさかと思い床に転がっているジャム瓶を見ると、先ほどよりも確かに中身が減っていた。頭の上の物体に指を伸ばすと、その物体に振れた指には赤いイチゴジャムがべっとりとついていた。
「くそったれがぁぁ!!」
急いでシャワーを浴び、髪の毛に着いたジャムと一つ一つ細かく取った。最後にシャワーで一気に流したが、まだかすかにイチゴの香りが付いている。洗面台の鏡で見たら、髪の毛に赤い色はついてはいないから染みついてしまったものだろう。この香りについては妥協せざる負えないことになってしまった。
シャワーから上がり、再びリビングに向かうと、トーストはすっかり冷めてしまい、時計も7時45分になっていた。残された時間は15分となっていた。いそいで着替え、朝食を食べると、最後にカバンをもって津島家に向かった。
家を出ると、隣りの家の前には既にヨハネが立っていた。
「ちょっと、遅いわよ!」
「ごめん。でも早くないか?さっき、時間見たら5分前だったはず・・・」
「べ、別に楽しみだから早く来てたとかじゃないんだからね!」
「あ、そう。」
「何よ、その反応。」
「いや、朝からいろんなことがあってね。」
「・・・そう、大変だったのね。」
ヨハネは何も言わずとも理解してくれたようで、それ以上は聞いてこなかった。
「君は大丈夫だった?」
「まあ、私も・・色々・・・」
「そうか・・・」
どうやらヨハネにも何かが起こったりしく、その目は疲れたと言っているようだった。よく見ると彼女の髪がはねていた跡があった。お互いに朝からしんどいことが起こったが、今日という日の時のが止まることはない。こうしている間にもどんどん今日は終わりに向かって進んでいる。こんなところでつまずいていたらデートどころではなくなってしまう。
「とりあえず、行く?」
「そうね、多分立ってるだけでも不運はかかるだろうし。」
「そんなマイナス思考になるなよ。」
「そうね・・・。で、今日はどこに行くの?」
「水族館なんてどうでしょうか?」
「いいわね、行きましょ。」
学校に向かう時のように一緒にエレベーターに向かった。この後はしばらく歩くことになる。今はできる限り体力は使わないようにしよう。
「そういえば、何だかイチゴのにおいがするような。」
「き、気のせいじゃないかな。」
~*~
家から最寄りの駅まで歩き、そこから電車に乗ること数十分。目的の場所に着いた。水族館は休日ということもあり家族連れが多く、他のカップルらしき人たちもたくさんいた。その人の数に圧倒されていると横にいるヨハネが心配そうに顔のぞき込んできた。
「どうしたのよ、立ち尽くして。」
「いや、実は水族館って始めてきた。」
「ええっ?!人生ぜ一度もないの?」
「うん、お恥ずかしいことに・・・」
今まで水族館なんて行ったことがないというよりも、家族でどこかに行くなんてことがそんなになかったのだ。そもそも家族といっしょにいること自体が少なかったのだから。父と母と一緒に行ったところなんて小さいころに遺跡調査に一緒に行ったくらいだ。そういえば、家族とじゃなくて親戚の人とその友達に連れられて動物園に行ったことがあったな。あれは何歳のことだったか。などと考えていると、ヨハネが発案してきた。
「じゃあ、今日は私が案内してあげる。ここには何度も来たことあるし。」
「悪いな、僕が先導しようとしたのに。」
「いいのよ。さあ、入り口に向かいましょ。」
そう言って人の流れが集中している正面入り口に歩いていくヨハネの後姿を見ながら修斗はぼそりと呟いた。
「・・・ゴスロリ少女に案内される少年、か。」
「何ぼさっとしてるのよ。さっさと行くわよ!」
「・・・ああ!」
ヨハネの後に続き、僕も正面入り口に足を運んだ。
チケットを購入し、中に入ると最初に目に入ってきたのは大きな水槽だった。その水槽の中にはたくさんの魚たちが悠々と泳いでいて、自分たちが海の中にいるように錯覚させた。この水槽には主に日本の海域に生息している魚が入っており、捌こうと思えば捌ける魚が泳いでいる。
「どう?大きいでしょ。」
横からヨハネが自慢げに言った。
「確かに大きいな。」
「でしょ?ここは最初にこの水槽で圧倒してくるのよ。でもこれで驚いていてはまだまだよ。さあ、次に行くわよ。」
そのまま人込みに紛れ込もうとしたヨハネの姿を見ると、段々意識が遠くなった。この感覚は今まで何度も経験している。シェリアスが出てこようとしている。今回のデートはシェリアスのお陰で成り立ったようなものだし、彼も自分だから問題はないだろう。そう思って主導権をシェリアスに戻ると、感覚が戻ってきた。しかしさっきまでとは違うものを感じた。するとシェリアスは薄く笑いながら言った。
「サンキュ。」
短く言葉を終えたシェリアスは人込みに進んでいくヨハネの右腕をつかんだ。何事かと振り返ったヨハネは自分の腕をつかんでいるシェリアスの顔を見ると自分の顔が赤く染まった。
「なっ、何してるのよ?!」
「今日は休日だから人が多い。もしかしたら離れてしまうかもしれないから、こうしてよう。」
そういってシェリアスはヨハネの右手を握った。そして右手を握られたヨハネの顔は益々赤くなった。しかし嫌がる様子はなく、ただこの群衆の中、手をつなぐという行為が恥ずかしいようだ。ゴスロリはよくてこれがダメってどういう基準なのだろう。そんなヨハネの様子など気にせずにシェリアスはさらに言葉を付け足した。
「それに、君を誰にも渡したくないから僕のものだってマーキングしとかないとね、なんて。」
「・・・・もう!行くわよ!」
ヨハネは手を握ったまま後ろを振り向かずに次の場所へと向かった。それに引っ張られるように後を追っていった。しかし、二人の手はしっかりと繋がれたままだった。おかげで先先行ってしまうヨハネともはぐれずに済んだ。
~*~
大水槽を後にしたシェリアスたちは様々な魚を見て回った。フグ、クマノミ、アナゴ、ハゼ、エイ、タイ、カワハギ、タコ、等々、他にも色々な魚がいた。そんな魚たちを見てふと、こいつら全部料理したら一体何人分の魚料理ができるのだろうと考えたが口には出さなかった。そして次にクラゲコーナーというところに入った。ここは名前の通りクラゲ専門の水槽がたくさん集まっていた。小さくふよふよと泳ぐクラゲや赤く光るクラゲ、毒を持つクラゲ、中華料理に使われるクラゲなど、色とりどりだった。その中でムラサキクラゲという種類を見ていると、隣りではヨハネがぼっーとクラゲたちを見ていた。
「いつ見ても飽きないわね。」
「そう?」
ヨハネの目線の先のクラゲを同じように見て見るが、特に何も感じない。
「このクラゲたち、まるで、空を漂う星みたいじゃない?」
「そういわれれば見えなくもないような気がするな。」
すると、水槽に取り付けられたライトが白色から青色に変わった。それと同時にクラゲたちの色も変わった。
「光によって変わるその姿、凍える世界に舞う氷雪が鏡のごとく紅蓮の輝きを白光に変化させたようだわ。」
「いや、何かと言うと、冥界を漂い続ける亡き人間たちの魂の光にも見えるけど。」
「その解釈の仕方、中々いいわね。」
「君の表現も幻想的でいいと思うよ。」
二人がお互いを表現方法を褒め合うと、目が合って同時に笑ってしまった。似た思考を持つ人がいるといろんなことが楽しいく感じる。この後も他のクラゲをお互いに中二表現はどんなものがいいかと語り合った。しかし結局、どれがいいかなんてものなく、まとめると、『クラゲは現世と冥界を行き来できる生物で、その輝きは船乗りたちを困惑させ、海に沈没させるという恐ろしい邪神の使徒』ということになった。ではなぜ、そんなクラゲを人間風情が飼いならし、喰らうのかという問題も出たが、そのことには触れないようにするという約束ができた。
~*~
クラゲコーナーを後にしたシェリアスたちは別館にある深海館というところに来ていた。ここには深海の生物が暮らしており、全体的に照明も暗く、さっきまでも本館にいた魚たちとは違い独特の進化を遂げた深海の生き物が水槽に入っていた。試しに水槽に触れてみると、水温が低いためかひんやりとしていた。その為か水槽の横には小さなタオルが置かれていた。水槽に水蒸気が付着して見づらかったらこれを使えということなのだろう。シェリアスの後に入って中に入ったヨハネは最初の水槽の前に来る少し前で立ち止まり、片目を手で覆った。
「クックック、絶対零度の闇を司る魔獣たちよ、堕天使ヨハネの名のもとにその姿を現世に表すがいい。」
「ヨハネ、後ろから人来るぞ。」
「うそっ?!」
驚いて後ろを振り浮いたヨハネだが、彼女の後ろには誰もいなかった。
「アハハ、冗談だよ。」
「もー!!堕天使ヨハネをだますとは、自分がどれほどの重罪を犯したか思い知った方がいいようね。」
「なんだ、やるのか。この僕に牙をむくか。フッ、愚かだな。」
などと言い合っていると本当にヨハネの後ろから他の客が入ってきてしまい。二人して恥ずかしい目にあった。他の客が少しずつ入ってきたので、しばらくは大人しくし深海生物を見ていた。魔王と堕天使の戦闘は第三者である人間によって沈められた。そのなかで二人が大人しくしていたら、ヨハネの目にまたもクラゲが入ってきた。
「シェリアス、見てこの子。」
「どれ? シンカイウリクラゲ?」
「そう。きれいじゃない。虹色に光って。」
「確かにそうだね。」
このクラゲの水槽の下の置かれた説明文には自らで発光しているのではなく、繊毛が光に当たって光っているように見えると書いてあった。光が当たって光っているように見えるか。
「なんだか地球みたいだな。」
「えっ?地球?」
「ああ、自分自身が輝いてるわけじゃないけど、きれいに輝いて見える。それに周り暗くて宇宙みたいだし。」
「フフッ、変わった解釈ね。でも好きよそういうの。」
シンカイウリクラゲの水槽を後にすると、メンダコやダーリアイソギンチャク、ナツシマチョウゲンゲ、チヒロダコ、キホウボウ、ヒラアシクモガ二、センジュエビなど多種多様な深海生物を見て回った。その後にはホテイウオやエビスダイなど、食べられる魚が入っている水槽があった。何となくその二匹を見ていると、隣りから同じ水槽を見ていたヨハネから『ハンターの目』などと言われてしまった。そしてそんな深海館の最後には王道ともいえるクリオネことハダカカメガイが大量に入った水槽があった。この水槽は他のものとは違い立方体ではなく円柱型をしていた。その中にできた流れに流されるようにクリオネが泳いでいた。その姿はまさに天使のようで、そんな流され続ける天使を見て、うっとりとした堕天使の横顔に吸い込まれそうになる魔王であった。ここまで連鎖反応が起こるとは恐るべしクリオネ。
~*~
深海間を途中で出ると、次にサメ館というところにやってきた。ここはヨハネのオススメらしく、この水族館一の見どころらしい。ネットにはさっきの深海館のほうが目玉らしく、続きにはもっと珍しい深海生物がいるらしい。なんでも生きたオウムガイがいるとか。しかしこのサメ館というところもヨハネが言う通り、なかなかの人気らしい。今は一回目のイルカショーをやっている時間のため人は少なかった。だからこそ今の時間に来たのかもしれない。サメ館には世界中のサメが集められており、入ってすぐの入り口には人食いざめのミイラまで置かれていた。ヨハネはミイラザメに一礼をした。なぜ?
「ほら、シェリアスもしなさいよ。」
「えっ、なんで?」
「何でって、相手は海の王様よ、海皇よ。」
「は、はあ・・・」
よく理解はできなかったが、とりあえず一礼をした。ヨハネは宗教に入っていたのだろうか。ヨハネはそのまま中に入ると、次々に水槽を見て回った。今までのどの水槽よりも目が生き生きしている。
「サメ、好きなの?」
「ええ、カッコいいじゃない。」
サメがカッコいいか、あまり考えたことなったな。サメなんてフカヒレくらいのイメージしかなったな。後は人食いの映画。それくらいのイメージしかないシェリアスに変わりヨハネはサメについて様こと様々なことを語っている。
「それでね、こっちのサメはヒョウザメって言って、身体中が動物のヒョウみたいにしろと黒色で、黒い点々がいくつもあって、細長いところが特徴で、それからこっちは・・・」
自分が好きなことに関しては楽しそうに話し出すな。できるだけ聞いておこうと努力はしたが内容が頭に入ってこず、聞いているふりをして受け流していた。ただ、彼女の顔を見ていると、これからは料理にフカヒレ使わないようにしようと思った。
「・・・という訳でね、サメには鮫肌が付いているらしいの、聞いてた?」
「もちろんだ!」
「・・・ほんとに?」
疑い目で見られたが、何とかごまかせたようで、ヨハネは再び水槽に目をやった。
「そういえば、この水族館にヨハネのお気に入りのサメはいるの?」
「ええ、ここじゃないけど。ネコザメっていうサメがいるの。あとで紹介してあげるわ。」
ネコザメか、それなら聞いたことがあるな。たしか日本の近海にいる奴だったよな。あと、和歌山の方で食べられている奴だ。これを言ったらヨハネにぶたれそうだな。などと考えながらもヨハネはそのお気に入りのネコザメについて話している。
「その子と初めて会ったのは小学校くらいだったわ。小さい私がその子の入った水槽を見ていたら、あの子も私を見つめ返してくれたの。それでね私が移動したら私についてくるみたいに泳いですっごく可愛いの。あれ以来私はあのネコザメをシュレーディンガーと呼んでいるわ。」
シュレーディンガーって、シュレーディンガーの猫のやつですか。そんな名前が付くと会ってみるまで生きているかわからないみたいな意味になってしまうのでは、いつ死ぬのかわからいのでは。という考えが頭によぎったがこれはヨハネに悪いと思いすぐに頭から消した。
「そっか、会ってみたいなそいつに。」
「楽しみにしていなさい。きっとあなたもとりこになるわよ。」
~*~
サメ館を出ると、時刻は丁度12時になっていた。
「そろそろお昼ね。売店に行く?」
「そうしようか。」
お昼ごろの売店は当たり前だが混雑していた。家族連れは先にテーブルを確保していて、座れそうにない。するとヨハネからある提案が出た。
「ねえ、シェリアス。お昼はここで買って、少し歩いたところで食べない?そうしたらシュレーディンガーの水槽にも近くなるし。」
「ああ、いいよ。」
ヨハネの提案通りにするため、売店で買い食べ歩きをするため二人はタコ焼きとタイ焼きを注文した。注文した品ができるまで、レジから少し離れたところで待っていると、ふとヨハネが口を開いた。
「サメって、どうしてライオンに負けるのかしら。」
ヨハネの目線の先にはライオンが描かれた服を着た小さな子供が母親とともに歩いていた。そのことから何かを思い出したのか、それとも思いついたのかはわからないがヨハネは遠い目をしていた。
「サメとライオン?」
「ええ、どうしてライオンの方が人気があるのかなって考えちゃって。」
「・・・どうしてだろうね。」
「ライオンって鬣があって、百獣の王って呼ばれて、主人公みたいなイメージがあるのに、どうしてサメにはないのかしら。どっちもやってることは同じなのに。」
「確かにどっちも他の生き物の肉を食べて生きてるな。」
「でしょ、ならどうしてサメは悪者みたいになってるのかしら。」
ヨハネはどうしてここまでサメが好きなのかは置いておいてどうやら本気で悩んでいるようだ。ここは真面目に回答した方がよさそうだな。
「・・・確か何かのサイトで見たんだけど、年間で人を襲う例が高いのはサメよりもライオンなんだよね。あ、ちなみに一位は果蚊だった。多分このことから人間を襲うかどうかが関係ないとしたら、後は手なずけられたかどうかとかじゃないかな。ライオンだったらさ、サーカスとかで人間の命令で火の輪をくぐったりするけど、サメは今までそういう例ないし、多分そういうのじゃないかな。」
「ふーん・・・」
「この答えでは満足できない様で?」
「当然よ、それにしたって私はライオンよりもサメの方が好きなんだから。」
「だったら別にいいじゃないか。君みたいにサメの方が好きと言ってくれる人がいる限りはあいつらも生きている意味があるんだから。」
「そういうものかしら・・・」
その時レジにシェリアスたちが注文した品ができたみたいで、持っていた番号札に書かれた数字が呼ばれた。ヨハネはレジから二人分の品が入ったレジ袋を受け取ると、財布を取り出そうとしたが、先にシェリアスが二人分の代金を払った。
「ちょっと、おごってもらう覚えはないわよ。」
「いいだろ。今日ぐらい彼氏面させろ。」
「もうっ・・・」
そういったヨハネだが後で袋の中からシェリアスの分を取り出し、渡すときに今日一番の笑顔で感謝の言葉と告げた。
「ありがとね。」
~*~
シェリアスたちはシュレーディンガーという名前のネコザメの入った水槽に向かいながら、タコ焼きを食べていた。するとシェリアスは言った。
「なんだか、変な気分だな。」
「何がよ?」
「ここには魚たちを見に来てるのに、その仲間のタコを食べてることが不思議だな、と。」
「確かに、そう考えるとここで食べることに罪悪感が生まれてくるわね。」
シェリアスはタコ焼きからはみ出したたこ足を爪楊枝でつつきながらさらに言った。
「浦島太郎のこんな気持ちだったのかな。」
「浦島太郎?」
「ああ、竜宮城での宴会は魚料理が出たんだろうから周りに魚がうようよいる中食べるのは気まずいだろうな。」
「・・・そう考えると、なんだかかわいそうね。」
「ああ、それに帰ったらおじいさんになってしまうしな。」
「じゃあ、もしかしたらあなたもおじいさんになるかもね。」
ヨハネが笑いながら冗談を言った。そしてそれ言答えるようにシェリアスも口を開いた。
「玉手箱を開けなきゃいいんだろ、乙姫様。」
自分が言った一言とさっきまでの話が絡み合い、シェリアスの頭に一つの神話を思い出した。
「そうだ。面白い話があった。」
「何よ、いきなり。」
「古事記に乗ってる、浦島太郎のもとになった話なんだけど、浦島太郎のモデルのなった人と、乙姫様のモデルになった人がお互いに一目ぼれをしました。しかし、浦島役は帰ってしまいました。なぜでしょう?」
「・・・どうして?」
「乙姫様のモデルの人の正体がサメだったかららしいよ。」
「へー。そんな話があるのね。」
シェリアスが珍しくまともな話をしたみたいな顔で見てきたが、この話をしたシェリアスもどこか自慢げだった。
「どうしてそんなこと知ってるのよ。」
「両親が置いていった本の中に古事記の本があって、それに乗ってあった。」
「へー、よっぽど暇なのね。」
「両親と一緒に出掛けるなんてこと早々なかったからさよく家で本を読んでたんだ。そうしたら覚えた。」
「そうだったの・・・」
「だからさ、今日みたいに出かける日はすっごく楽しいんだ。一緒に来てくれてありがとな。」
「べ、別に彼女だからこれくらい当り前よ!」
「そっかじゃあ、またどこかに一緒に行きたいな、なんて。」
「フン、付き合ってあげなくもないわよ。」
そういうヨハネもどこか嬉しそうに見えた。するとヨハネは手に持っていた荷物を反対側に持ち帰ると、上目遣いで聞いてきた。
「ねえ、もう一回、手、つながない?」
「ああ、いいよ。」
再び手をつないだ二人の肩の間隔はさっきよりも狭まっていて、足取りもさっきまでとは比べ物にならないほど楽しそうに浮かれていた。
~*~
再び本館に入ると、二人は水槽が置かれている場所の最上階である4階に向かった。ここにはふれあいコナーも置いてあり、小さな子供たちがナマコやヒトデを触っていた。そのタッチスペースから反対側には図書室が置かれてあり、魚に関するあらゆる本やこの水族館での研究資料などが置かれていた。その図書室とタッチスペースの間にはいくつか水槽が置いてあった。きっとここのどれかにネコザメが入っているのだろう。そう思って全ての水槽を見たがどこにもネコザメの姿はなかった。代わりにからの水槽が一つあった。ヨハネは祖のからの水槽の前で立ち尽くしている。そのとき丁度後ろを飼育委員の人が通りかかった。水槽を見たままのヨハネの代わりにシェリアスが訪ねた。
「あの、ここの水槽にいたはずのネコザメはどうなったんですか。」
「・・・そこのネコザメは病気で亡くなりました。」
「?!」
後ろで立っていたヨハネが驚きで顔を上げた。
「そ、それいつの話ですか?」
「えーと、1か月ほど前だと思います。」
「そ、そんな・・・・」
「申し訳ございません。しかしここの特別水槽はもともと病気やケガをした魚を入れておく水槽でして、どこよりも一番なくなる可能性が高い魚たちなんです。」
そういった、飼育委員は一礼して自分の職務に戻っていった。そして残されたのは立ち尽くす二人。ヨハネはさっきまであんなにも楽しそうだったのに今では自分の周りから黒いオーラを放っている。後で聞いた話だが、ヨハネはことある音にこの水族館に行きたがり、来るたびにこの水槽に来ていたらしい。そしてシュレーディンガーと名付けられたネコザメは公式に異名がシュレーディンガーとされていて、生まれた頃から思い病にかかっていて、ここまで長生きしたことも珍しいらしい。つまり、真の意味でこの水槽で確認するまで生きているかわからなかったようだ。そしてヨハネはそのことを知らなかったのだろう。ただこのネコザメを見ることが楽しかっただけでのようだ。シェリアスもそんなヨハネにどうしたらいいのかわからず、言葉に悩んでいた。
「ヨハネ・・・帰ろうか。」
色々悩んだ末に出てきた言葉はこれだった。自分には生き物の生死に関するものはどうすることもできない。今はこれ以上心が痛まないように家に帰りそっとしておくことが一番いいだろう。
「・・・そうね。」
ヨハネもシェリアスの提案を受け入れた。二人は朝とは全く違う気分で水族館を後にした。
~*~
帰りの電車の駅で降りると、沼津には雨が降っていた。さらに雨だけでは飽き足らず強風まで吹いていた。駅からでて、持ってきていた折り畳み傘を開こうとすると、いきなりの強風で片方の傘のが折れてしまった。この雨は僕たちのために泣いているのか、それともの僕たちをあざ笑っているのか、どちらにせよここにきて本領を発揮してきた呪いに人生で一番腹が立っていた。ヨハネはと言うと、もうすべてがどうでもいいというかのように目が死んでいた。
マンションに着いた頃には二人とも全身雨に打たれてビショビショになっていた。マンションのエレベーターに入ると、ヨハネの目に少し光が戻ったように見えた。しかしその光は弱弱しく、今までもものとは比べ物にならないほどのものだった。それでもヨハネは自分の服のポケットから家の鍵を取り出した。
自分たちの家の前に来るとヨハネは無言で家の鍵を開けた。今日はこのままそっとしておいた方がいいだろうと思い自分も帰ろうとした瞬間、ヨハネに服をつかまれて津島家に入ってしまった。しかし目の前のヨハネは終始無言のままで、動く様子は見当たらない。すると次の瞬間ヨハネは重心を前に傾けてシェリアスに倒れてきた。最初は雨に打たれて風邪でも引いたのかと考えたが、その考えはすぐに否定された。ヨハネはもたれかかったままポツポツと雫が垂れだした。この雫は雨のものではない。彼女の目から出ている。つまり涙だ。
「ヨハネ?」
シェリアスの問いかけに少し間があったが、詰まりそうになる声を必死にこらえながら答えが返ってきた。
「おねがい・・・しばらく、このままでいさせて。」
本当は雨でぬれたままこんなところにいたら風邪をひいてしまうと言いたかったが、さすがに今のヨハネに言えるような言葉ではないので、口には出さず、せめてもの対処法としてお互いの体温で暖を取ろうとという意味と、ただ単に悲しんでいる彼女を慰めようとして、ヨハネの体に手を回し自分に引き寄せた。彼女の着ているゴスロリ服は予想以上に雨に濡れていて、冷え切っていた。しかし今の彼女にはそんな言葉届かないだろう。ヨハネは俯いたまま静かに涙を流していた。シェリアスはそんなヨハネに何と言葉をかければいいのか少し迷ったが、一つの言葉を見つけ出した。
「大丈夫、僕は君から離れたりしない。君とともにいる。ここに誓うよ。」
それはシェリアスと修斗の心の底から出た言葉だった。
~*~
やっとヨハネも落ち着いたらしく、顔を上げてくれた。しかしまだ二人の体はくっついたままで津島家の玄関にいる。
「ごめんなさい、シェリアス。楽しくなかったでしょ?」
ヨハネは申し訳なさそうな顔で言ってきた。
「そんなことないよ。とても楽しかった。」
「ほんと?」
「ああ、それにあそこは近いからまたいつでも行けばいいじゃないか。」
「そうね、その時はもっと、色々しましょ。」
「そうだね。思い返せばイルカショーもまだ見てないし。」
「フフッ、今度はちゃんと見ましょ。」
「ああまた今度。・・・だけど今はお風呂に入ってきなよ。体が冷えてる。」
「そうさせてもらうわ。」
そういうと二人は離れた、そしてシェリアスがヨハネも落ち着いたようだし帰ろうと思いドアノブに手をかけた。しかしそこでもう一度服をヨハネにつかまれた。
「おねがい、もう少し一緒にいましょ?」
そういうヨハネの目にはまだ涙が浮かんでいるようで完全にシュレーディンガーのことで立ち直っていないようだ。シェリアスも修斗もヨハネが泣いている姿は見たくないという意見は一致したので首を縦に振った。
「ああ、君の心がすむまでいっしょにいるよ。」
今回二人が行った水族館は空想のもので、色んなところと、自分の記憶と、兄の部屋に置いてある魚図鑑を参考にしました。実際には水族館ってあんまり行ったことないんですよね。人込み嫌いだし、外出たくない。ああ、誰か私を外の世界に連れ出してくれないかしら、なんて、お姫様はやめておきましょう。クリスマスが過ぎればもうすぐ新年。さて今年はいくらお年玉がもらえるかな? えっ、来年から高校生だからお年玉はいらないだろ・・・?
読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを