堕天物語   作:EIMZ

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堕天使と魔王と七夕

梅雨が開けて、夏を迎えた沼津は今まで過ごしてきたところとは違い、海未が近いのでまだ涼しい風が吹き抜けていた。今日は7月7日、俗にいう七夕の日。織姫と彦星が1年に一度だけ会える日。短冊に自分の願いを書き笹の葉に飾るという古来から伝わる伝統行事。小学校の頃はクラスで短冊に願いを書くこともあったが中学生にもなれば家でも普通ならそんなことはしない。普通ならば。

 

「さあ、願い事を書くのよ!」

 

意気揚々を2枚の短冊を掲げた少女が夕食後のコーヒーを飲んでいる修斗の目の前に立った。

 

「・・・何その紙きれ。」

「フッ、愚かね。今日は7月7日よ。なんの日かしら。」

「えーと、・・・ポニーテールの日?」

「違うわよ!」

「・・・じゃあ、カルピスの日?」

「それも違う!」

「わかった、冷やし中華の日だな。」

「・・・わざと?」

「はいはい、七夕だろ。」

「わたってるなら最初から答えなさいよ!」

 

素直に答えろと言われても、大事な食後のコーヒーを邪魔したのだからそれ相応の対価を払ってもらっただけなのだがな。すねて頬を膨らました様子の堕天使様の姿は何とも言えぬ可愛さがあった。普段は堕天使だと言い放つ彼女だが、中二病には珍しく本性を見せやすい。だからこそその本性を引きずり出した時の表情は豊かで見る者の心を揺さぶらされる。そんな彼女のことで遊んでいいのは彼氏である僕の特権だ。もう一度言うが彼氏である僕の特権だ。などと心の中では思うも表情には出さない修斗であった。ヨハネはころころと表情を変えるのに対して、修斗とシェリアスはというと普段は笑っているころが多いが内心では色々考えているいわるゆポーカーフェイスを好んでしている。そんな彼も自分の彼女の前では自分も素を出すことが増えた。これは二人の関係が発展したという証拠なのだろうか。再びコーヒーを口に含むとヨハネの手に持たれた短冊に目をやった。

 

「で、何するんだ?」

「だから、この短冊に願い事を書くのよ。」

「書いてどうすんの?」

「願うのよ。」

「・・・」

 

自分の彼女のものすごく子供らしい一面を見た気がするな。

 

「・・・願うって織姫と彦星に?」

「それ以外誰がいるっていうのよ。」

「・・・ヨハネ、二人とされる星はベガとアルタイルって言うんだけど2つの星の間隔はざっと14~15光年はあるんだ。1年に一度だけ会うなんてありえないことなんだよ。そんな二人にどうやって願いをかなえてもらうというんだい?」

「そんなの、神様ならなんとななるに決まってるじゃない。」

「織姫と彦星は神様じゃないんだけどな・・・。」

「いいじゃない、別に。そんなにいうなら15年後にかなえてほしいことを書けばいいじゃない。」

「・・・光年はどこ行った。」

 

~*~

 

 修斗も妥協して、15年後にかなえてほしいことを短冊に書くことにした。しかし15年後と言っても何を書いたらいいのだろうか。15年後というと29歳か。中々の年齢だな。15年後になんて自分が何をしているかなんて予想をすることは容易くはない。そもそも将来自分がやりたいこと自体決まっていないのだから。それ以前に15年後にはこんなものを書いたこと自体忘れてしまっているのではないだろうか。ふとテーブルの向かい側で短冊に願い事を書いているヨハネに目をやった。ヨハネも自分で言ったまではよかったが何を書いたらいいのかは迷っているようだ。

 

「なあ、15年後の願いって何だと思う。」

「私に聞かないでよ。シェリアス、知り合いに20代の人とかいないの?」

「いなくもないけど・・・あの人変わってるからなあ・・・。」

 

ぶつぶつとつぶやく修斗だったが、その思い当たる人が欲しがりそうなものを一様考えてみたが、並の人間とは思考が違っているような人なので参考にはならないだろう。頭がいいのか、変人なのか、何年たってもあの人のことは理解できないな。

 

「それで、参考になりそうな人はいないの?」

「・・・いないな。」

「じゃあどうするのよ、このままじゃいつまでたっても埋まらないわよ。」

「君がいい出したことだろ。何か案はないのか?」

「あなた私より頭いいんだから自分で考えなさいよ。」

「・・・こういう時だけ、格上扱いですか。」

 

その会話を最後に二人は再び何を書こうかと悩み始めた。しかし相変わらず何を書いたらいいのか、答えは出てこない。15年後ともなれば社会人になっているだろうからやっぱり金銭的なことだろうか。しかしそれを書くと何か性に合わないような気がする。もし他に願いが見つからなかったら最終的にこれを書くか。そのまま考えること数分、ふとリビングから外に見える夏の夜空を見上げた。そこには満点とまではいかないがいくつか星が輝いていた。今日の夜空は雲が少なく、都会にしてはなかなかの数の星が見えた。きっと今は見えないが天の川もあそこに存在しているのだろう。そしてここから見えている星々の光は何光年も前に輝いた光なのだ。時代を超えてきたあの光は自分たちの前に現れたのだ。この広い空の下で暮らしている人々に存在を示すように輝いているのだ。この星はもしかしたらもう消滅しているかもしれないし、まだ健在しているかもしれない。逆にあの星から時間を無視して地球を見たら恐竜がうろうろしている地球が見えるのだろう。時間を無視できる力があればそんなことも可能だろう。そんなことをずっと昔に両親が言っていたような気がするな。あの時はまだ幼稚園くらいだったか。あの頃はまだ両親も一緒に暮らしていて普通な家庭だっただのに、いつからか両親は何かにとりつかれたかのように研究に取り組むようになった。あの研究はいつになったら終わりを告げるのだろう。もし終わってしまったら今のように津島家に入る機会も少なくなるのだろうか。なんだか嬉しいような、悲しいような。今の日常の形が楽しくないわけではない、むしろここ6年近くで一番楽しい日々になっている。しかしあの親子で過ごした日々は決して忘れられないほどの日々だった。きっとあれが普段あるべき家族の姿なのだと思う。あの日々に戻れるときは来るのだろうか。15年後にはその研究も終わっているのだろうか。もしも15年後に願いが叶うのなら、一瞬だけでもいいからもう一度あの暮らしをしたいな。

 

~*~

 

 結局短冊にはヨハネは『魔の力が暴発しませんように』と書き、修斗は『普通の家庭になっていますように』とかいた。修斗は適当に短冊を見えずらいところに飾ると、カバンをもって家に帰っていった。修斗の姿が完全に見えなくなったことを確認するとヨハネはリビングに飾ってある修斗が書いていた短冊を手に取った。そこには修斗が15年後にかなってほしい願いが書かれている。

 

「さて、あいつはなんて書いたのかしら?」

 

ヨハネはそっと飾られている短冊を取ると、その短冊に書かれている文を読み始めた。そこに書かれていたことを読み終えるとヨハネはだんだんと顔が赤くなっていった。自分の読み間違いではないかと疑い始め、もう一度読み直したが、どこにも読み間違いはなかった。そこに書かれていたのは最初から最後までシェリアスの書いた字で間違いはなかった。

 

「な、何書いてるのよあいつ。か、家庭って・・・」

 

か、家庭ってまさか自分で作るのかしら。もしかしてその相手は、私?ま、まあいま私たちは付き合ってるはずだし、そんな可能性がないってわけじゃないし、でもそれだと相手の家にこの短冊を置いて帰るなんて、そんなこと、そんなこと・・・・。思考回路がそれ以上考えることをやめようとするも、先々の未来を見通すかのように脳裏に映像が浮かんでくる。オーバーヒートしたヨハネはすぐに自室のベッドに向かい悶え始めた。

 次の日、ヨハネの目元にクマが出来ていた。しかし修斗はヨハネのクマの原因を知る由はなかった。

 

 




 今回何だか短い気がするなぁ。受験前なので大目に見てください。
恋愛って何なんですかね。この前友達が女子に告白すると言ってある作業を手伝わされまして、友達の男子とLIP×LIPさんの『ノンファンタジー』を一緒に歌わされまして『好きだよ』という部分で自分の後ろでその友達が女子に手を伸ばして告白するというイベントがありました。はあ、身体精神ともに疲れた。受験生が何をしているのだ。
ただ、彼らを見ていたら普通にオリジナルの恋愛小説書けるのではないかと思い浮かびました。もしかしたらそのうち何か書くかもしれないし、書かないかも。

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを

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